アニメ『キングダム』-合従軍編- 音楽担当 澤野弘之さん&KOHTA YAMAMOTOさん対談|第3シリーズで音楽とハマったなと思ったシーンとは
第3シリーズでは全68曲を制作! 澤野さんからYAMAMOTOさんへのオーダーは?
――第3シリーズのために何曲制作されたのでしょうか?
YAMAMOTO:音楽オーダー表上はトータルで68曲になります。
澤野:これまでの音楽を一切使わず、新たに作るということで。僕自身は10曲ちょっとで、それ以外はほとんどKOHTA君に作ってもらいました。
YAMAMOTO:最初の音楽打ち合わせでお聞きした内容を元に、どちらがどの曲を作るかという割り振りを決めた後は自由に作らせていただきました。澤野さんはご一緒する時はいつも、「表現したい音楽世界を大切にしてください」とおっしゃってくださって。それは今回も同じスタンスで任せて頂けたので、打ち合わせを踏まえた上で自分なりにどうアプローチしようか、考えながら作っていきました。
――今回のサントラアルバムも3枚組という大ボリュームですね。
澤野:昔は2クール作品だとこれくらいの曲数を作ることがありましたが、今は僕の担当する作品ではあまりないかも。
――スケジュールは大丈夫でしたか?
YAMAMOTO:2019年の夏に打ち合わせをして、1回目に納品したのがその年の年末でした。納期的には3~4カ月あったので、そこまで厳しくはなかったです。
澤野:ただ僕がインフルエンザにかかってしまって。レコーディング中にご迷惑をおかけしたことはありましたけど(笑)。
原先生自ら参考音源として動画が送られてきた曲!?
――アニメの制作サイドからシーン指定以外のオーダーはありましたか?
澤野:舞台は中国だったので「中国を意識したような音楽で構成したほうがいいですか?」と尋ねたら、「そこまで意識されなくて大丈夫です。エンターテイメント作品なので盛り上げてもらえる音楽にしてもらえれば」と。中国や中華を意識した『ラストエンペラー』みたいなアプローチにする必要がなかったので、やりやすかったです。
YAMAMOTO:通称「汗明音頭」(「至強汗明」)の太鼓のリズムだけは原さんがスマホでマンガの該当シーンを映しながらリズムを口ずさんで録音した動画を送っていただきました。カットの中にも「ドドンドドンドン」と描いてありましたが、原さんが歌ってくださったものに基づいて作りました。
――オーケストレーションなどスケール感の大きなサウンドもありながら、民族音楽やロックチューンもあり、ジャンルも幅広いですね。
澤野:作品のエンターテイメント性を強調するという意味では、同じ曲調のものよりも場面場面で切り替わって、アクセントになるように模索していきました。その中でリズムを際立たせたり、エレキギターを入れてみたり、民族楽器を使ったりとおもしろいアプローチができればと思って制作していきました。
――あのスケール感は生ならではの迫力や臨場感なのかなと。
YAMAMOTO:民族楽器でいうと実際に生で演奏しているのは笛くらいでしょうか。
澤野:あとはオーソドックスにストリングスやホルンとか、バンドが入れられるところはドラムやエレキギターを録ったくらいかも。でも最近は音源が進化しているので、空間や迫力を補ってくれて、そこに生音とのバランスやエンジニアのMIX技術によって、そう感じていただけたのであれば嬉しいです。
YAMAMOTOさんが制作の中で苦労された点とは?
――制作曲を提出した後、新たにオーダーがあったり、修正されたことは?
YAMAMOTO:僕は何曲か作り直した曲がありました。中国らしさにこだわらないでいいと言いつつもちょっとブリティッシュっぽく聴こえてしまう曲があって。でも2曲くらいですね。
――作品の懐ろの広さが音楽の作りやすさにつながっている部分もあるのでは?
澤野:僕の音楽を理解した上でオファーをいただいていることもあるし、昨今、いろいろなアニメ作品で声をかけていただく時、いろいろな音楽でアクセントを付けたいというオーダーが主流で、『キングダム』もそうだったのでやりやすかったです。
――音楽を作るうえで苦労されたことは?
澤野:どのサントラを作る時もそんなに悩んだり苦労するタイプではないし、今回も作品の壮大な世界観にモチベーションを上げて作れたので、スムーズに制作できたと思います。
YAMAMOTO:トータルで60曲以上ある中で、内容がずっとピンチの連続なので危機や絶望など重かったり、暗いテーマの曲が多くて。他の劇伴の場合、同じくらいの曲数がある場合は明るい日常の曲やコミカルな曲があったり、バリエーションがあるのですが、今回は全体的に重いトーンのオーダーが多かったですね。最初は勢いよく作っていけたのですが、途中から段々と疲労感を感じるようになって(笑)。暗い雰囲気で違うバリエーションを出さないといけないし、ずっと緊張感がある曲を作っているので、自分もそれに引きずられる感覚がありました(笑)。
第3シリーズで音楽とハマったなと思ったシーンは?
――現在、アニメ第3シリーズが放送中ですが、ご覧になった印象をお聞かせください。
澤野:原作だから出せる迫力もありますが、アニメになったからこそ出せる動きや細かい描写があって、いいバランスで作られているなと。例えば武将のセリフ一つとっても表情の動きや声優さんのお芝居によって、よりそのキャラが掘り下げられたり、原作を読んでいる時には気付かなかったことを発見できたりして、そこがおもしろいなと思って、見ています。
YAMAMOTO:今回描かれている「合従軍編」は、同時並行的に各地で戦いが繰り広げられているので、戦場が切り替わり、目まぐるしく展開していく様子がおもしろいです。また原作のシーンがアニメになって、どう動くかなと楽しみにしていた部分も見ることができて。例えば、騰将軍が「ファルファル」って音を出しながら斬りつけていくシーンとか。実際にアニメで見るとイメージ通りでしたし、敵を圧倒して突き進んでいく様子も見られるのが楽しいです。
――第3シリーズの中で好きなシーンや音楽とハマったなと思ったシーンをお聞かせください。
澤野:メインテーマとして作った「KINGDOM-DUE」は、歌声もフィーチャーしているんですけど、まだアニメ本編では使われているシーンがなくて。でも第3シリーズのPVが公開された時にその曲が使われていたことで、「ああ、始まるんだな」という気持ちになれたので、曲と映像がハマった感覚もあって嬉しかったです。あと自分が作った曲ではないけど、原さんが動画で送ってくれた曲と映像がどうハマるのか楽しみでしたが、先日の13話で見られてよかったです。
YAMAMOTO:9話で15日目に李牧が合従軍に総攻撃を指示したシーンですね。ここで流れた曲「All Ablaze」は、戦場で戦いが始まることをテーマに作った曲なのですが、戦いが激化していく様子が、曲が加わることでより演出的にも盛り上がったかなと思えて、見ていてもテンションが上がったシーンでした。