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カナタの新シリーズ「トライアングル」いしいのりえ×岩田光央 特別インタビュー【前編】

多様化する人間の愛し方に愛交物語を大幅リニューアル――いしいのりえさん・岩田光央さんが“大人の女性の恋愛”をテーマに活動するカナタ、11年目の新シリーズ「トライアングル」特別インタビュー【前編】

「あぶな絵、あぶり声」シリーズから「トライアングル」にリニューアルした理由

――10年でリニューアルをすることは、かねてから考えていたのでしょうか?

いしい:考えていたのかなぁ?

岩田:考えてたっけ?

――過去のインタビューで「カナタは10年続けたい」とおっしゃっていましたが、それ以降については語っていなかったと思います。

岩田:10年続けたいとは考えていました。5年とか10年って節目なので、作品を振り返るいいタイミングじゃないですか? カナタは10年で記念公演を開催して、作品を振り返りました。

あの「10th Anniversary あぶな絵あぶり声~祭~」公演ですが、本当は2020年4月に行う予定だったんです。でも、結局はコロナ渦で延長せざるを得なくなって、2020年9~10月に奇跡的に開催できました。

――公演延期はカナタに限ったことではありません。このタイミングだと仕方ないと思います。

岩田:10周年公演の準備は2019年の春頃からスタートしていたんです。それから僕らは、ずーーーっと10周年公演に集中してきたんです。公演が半年延びたから、1年以上も準備をしていたことになります。

――準備期間1年間は、とても長いですね

岩田:そうなんです。だから……正直に言うと「飽きた!」って気持ちもあるかもしれませんね!(笑)

いしい:あるかもしれませんね(笑)。

――いやいやいや、「飽きた」とは言い過ぎでは?(笑)

岩田:あはははは! 半分冗談ですけど(笑)。しかも10周年のゲストの人数が大勢で、みなさんお忙しい方ばかり。予定していた4月なら出演できたメンバーが、延期したせいで2~3人出られなくなってしまいました。

そういった調整もあるので、1年くらいずっと記念公演の準備をしていたんです。だから僕らのなかで飽和状態になっていました。「あぶな絵、あぶり声」シリーズと向き合いすぎていたのかもしれません。

いしい:1年間、ずっとそればかり考えていましたからね。でも、その長い期間「あぶな絵、あぶり声」シリーズに向き合ってきたからこそ、「次はこういうスタイルにしよう!」と、自然に出てきたのかもしれません。

――影響は大きかったのですね。

岩田:影響が大きいなんてものじゃありません! 僕の2020年は、2~3ヶ月まったく仕事がない時間が続きました。本当に恐ろしい時間でした。ですが、いまポジティブに考えたら、いい時間の使い方ができたのかなと思っています。

おかげさまで、過去の作品と真正面から向き合って、いろいろ考えることができました。僕がちゃんとクリエイター・表現者でいられて、「なにくそ!」と思える自分がいられました。

――時間がとれたことをポジティブに受け入れる姿勢は、かっこいいと思います。

岩田:コロナ渦のおかげで、10年かけて作ってきた作品と強制的に向き合えました。のりえちゃんも同じです。既存の20話以上のすべての作品に、手を加えてブラッシュアップしてくれました。

――リライトする必要はあったのですか?

岩田:セックス描写を外して、それで物語が成立するように書き直してもらったんです。

いしい:それもコロナ禍がきっかけでした。「10th Anniversary」は劇場公演だけでなく、時代に合わせて動画配信も行ったんです。もしかしたら、ご家族で観劇してくださる方もいるかもしれない。そうすると“セックス描写”があると、お茶の間が気まずくなってしまいますから。

――それはもっともな意見ですね。

岩田:それまでのカナタの公演は「18歳以上の女性」に限定してきました。ですが、前回の動画配信に関しては、18歳未満でも、男性でも見られるようにしたんです。

――劇場ならともかく、配信で制限をかけるのは難しいです。

岩田:そういった事情があったから、僕らにとって「配信」はいいきっかけになりました。もしかしたら、いままで僕らは「お客さんは18歳以上の女性限定」というところに甘えていたのかもしれない。“ポリシーと誇り”と思ってシバリをつけていましたけど、それは甘えだったのかもしれない。

――甘えですか?

岩田:年齢と性別を問わずに見てもらえる可能性のある「配信」は、どういう意味か? を考えるきっかけになりました。何度もミーティングを繰り返している最中に、のりえちゃんが「老若男女が見られる公演なのに、このままではまずいのではないか?」と問題提起してくれたんです。

――誰でも見られる作品にすべきと?

岩田:当たり前ですけど、作品と一番向き合ってくれたのは作家としての「いしいのりえ」です。

コロナの影響で初めての動画配信舞台を配信するときに注意したこととは!?

――「10th Anniversary あぶな絵、あぶり声~祭~」公演を、カナタとして初めて配信をしてみた感想は?

いしい:私はそれまで、配信に対してあまりいいイメージを持っていませんでした。ですが今回カメラワークを担当してくれたスタッフの2人が、すごく絶妙な臨場感溢れるカメラワークをしてくれたので印象が変わりました。イラストと語り手を絶妙なバランスで映してくれて、とてもいい演出をしてくれたと思いました。

岩田:そう言ってもらえると、本当に嬉しいです。実は僕ものりえちゃんと同じで、配信に関しては否定的でした。カナタでは演出家をしていますが、根底にある舞台役者の自分もいるので……。

――岩田さんは役者歴が長いですから特にそうだと思います。

岩田:僕に限らず、役者と演出家は“劇場”という箱のなかで、どれだけ多くのお客さんの気持ちを集中させて支配できるのか、ということに神経を尖らせています。それが舞台の醍醐味なんです。

それこそ役者の吐息や視線など、些細な動きひとつで場内の空気が一変するような瞬間が、たまらないんです。それが楽しくて、ずっと舞台をやっていました。なのに、映像配信になるとそれが半減してしまいます。

――いくら配信をライブで見ていても、現場の空気感は伝わってきませんからね。

岩田:これは僕自身の経験からですが、分が実際に現場で見た舞台を、後日映像で見ても感情移入しにくいんですよね。やっぱり舞台の空気感をモニター越しに届けるのは難しい。

――役者さんだったら、その想いはなおさらでしょう。

岩田:でも、いまはコロナ禍! 否定していてもしょうがない。だったら僕なりに配信をどう捉えるか? と考えました。それに、コロナ以前から大勢の舞台関係者が、配信や映像化にチャレンジしてきています。いい機会だからやってみようと踏み切りました。

――配信の演出の答えは、すぐに見つかりましたか?

岩田:とても難しかったですね。先人たちが行ってきた配信をいくつも見て研究しました。なかには舞台をテレビ番組のように届ける作品もありました。客席を外してしまい、「生ドラマ」のように見せる手法です。そういった見せ方があるのは否定しませんが、僕が目指しているのは違うと思いました。それはドラマなので、舞台の臨場感がなくなってしまいます。僕は「舞台の中継」にこだわりたかったんです。

――舞台の中継ですか。

岩田:なので、カナタの舞台配信はいくつかのルールを決めました。ひとつめは「いきなり本番を始めない」です。公演が始める前から、会場のノイズを配信してほしいと要望を出しました。スタッフさんには、開演10分くらい前に会場で流れる影ナレ(注意事項を伝えるアナウンス)も、そのまま流してほしいとも伝えました。

――それは嬉しいですね。あの影ナレを聞くと、開演が迫っているようでソワソワします。

岩田:もうひとつが、絶対にワイプを使わないでほしい。ワイプが出てしまうと、まるでバラエティー番組のように見えてしまうからです。

――ワイプは便利なので使いがちだと思います。

岩田:僕らの肝は、イラストを背負った役者が、ピアノの演奏と共に魅せる舞台です。なのでバラエティー番組とは違うんです。実際に舞台で観劇してくださった経験がある方なら理解できると思いますが、客席ではワイプのような見え方はしません。

なので、劇場の臨場感をお茶の間に伝えるにはどうしたらよいかを、映像班と話し合いました。そうしたら優秀な映像班は上手くイラストと演者を重ねてくれて、僕らが伝えたいメッセージを画角の中で表現してくれたんです。あの映像を見たとき、僕は「勝ったな」と思いました。

――そこに至るまで、何度も試行錯誤をしたのでしょうか?

岩田:しましたね。ドラマにはせずに、「これは舞台の中継なんだ」と思ってもらえるような演出を試行錯誤しながら作りました。カメラワークにも気を使っています。あの公演の配信は、役者のアップ映像がないんです。

その理由は、劇場に足を運んでくれたお客さんは、誰もそんな光景を見られないから。演者にズームする映像の目安は、最前列に座っているお客さんの視野と同じ程度にしました。

――それはいいですね! 配信を見てくれた人がいつか舞台に来てくれたとき、同じ画角で見られると。

岩田:そうです。

いしい:岩田さんの演出意図を聞いて動いてくれた女性スタッフのふたりが、とても勘がよくて助かりました。

岩田:彼女たちはまだ20代前半で若いのに、一生懸命やってくれましたね。

いしい:21、22歳くらいだっけ? 彼女たちは配信に慣れている世代なので、こっちが言おうとしていることをすぐに汲んでくれるんです。勘が鋭いんだなと思いました。

岩田:僕は今回、配信について短期間で集中的に学ばせていただきました。通常は何公演もかけて学んでいくことを、一気に学ばせていただいたのでありがたかったと思っています。

――いくつになっても勉強ですね!

岩田:そうですね。年をとってからも勉強できるのは、本当に楽しいです。

――まさか岩田さん自身が「配信」の勉強をするなんて考えていましたか?

岩田:これっぽっちも思っていませんでしたよ! まさか「画角はこうして……」とか考えるなんて(笑)。僕はドラマにも映画にも出てきた人間なので、それぞれのフィールドの良さを理解していました。だから、ドラマと舞台を一緒にしてはよくない、ちゃんと切り離して考えなければと思えました。

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