マーベル映画最新作『シャン・チー/テン・リングスの伝説』日本版声優 細谷佳正さん&内田真礼さんが作品の魅力をご紹介!「マーベル・スタジオ作品のファンは絶対見た方がいい! 最後の最後まで席を立てない。劇場を後にできない展開になっています!」
吹替の醍醐味~頭の中で考えるよりも、台本を読んだ時に出てくる音がある
――シャン・チー役を演じたシム・リウという俳優について、どのような印象を持ちましたか?
細谷:アフレコした時に、シム・リウという俳優は「とても軽やかで、知性的で、理性的で、たぶん頭の回転がとても早い方なんだろうな」という印象を受けました。彼はひとつの感情にずっと留まり続けることをしない。例えば悲しみという感情があっても、それを引きずらず新しい表情を見せてくれます。その切り替えが早いから、観客を飽きさせない俳優だなと思いました。感情を長く引きずる方が『上手い俳優』には見えやすいと思うんですけど、それをしないところが素敵だなと。
過去の重い出来事を他人に伝える時に、当時感じた感情を思い出して、それをダイレクトに他人に伝えるのではなくて、自分の中で一度消化してから表現したりするんですよね。水辺で親友のケイティ(演:オークワフィナ)と話すシーンも見ていると、すごく親しみがわきました。自分が比較して良いようなレベルの俳優ではありませんけど、『その方法』は日本人の僕にも身に覚えがあるというか。
これは差別的な意味ではないんですけど、例えばアメリカ人やイギリス人といったアングロサクソン系の俳優の方とアジア圏の俳優の方というのがいて、ハリウッド映画となると、アングロサクソン系の方が多いと思うんです。その俳優たちのパフォーマンスも素晴らしいんですけど、シム・リウさんのパフォーマンスは『何かわかるな』と感じるんですよね。
――細谷さんのコメントで、「まっすぐで情熱的なシム・リウの表現に親しみを感じ、一部共通理解のようなものを得られた気がします」と発表されていますね。
細谷:僕は彼の演技を見ていて、「あぁ、こういうふうにやりたいんだ」とか「あぁ、こうしたいんだな」というのが何となくわかったんです。もちろんアフレコする人間だから、わかったのかもしれないし、演者としてのレベルは全然僕の方が低いですけど、彼のやりたいことや考えや感覚がちょっと似ているような気がして、アフレコしていて楽しかったです。
シム・リウさんの演技を見ていると、日本人と同じような精神経路を通って、感情を出しているような気がしました。それがとても魅力的に感じました。
これまで映画を見ていてアジア人俳優がアメリカの文化の中でお芝居するとなると、僕はオーバーアクトに見えることが多くて、アジア圏の俳優がハリウッドへ行くのは大変なんだなと思っていたんです。その中で頑張っているなと感じていたんですけど、シム・リウさんは頑張っている感がなくて、すごく自然に見えました。そこがすごいなと感じましたし、とても頭の良い方なんだなと感じましたね。
――内田さんのコメントで「シャーリンは、アクションシーンもたくさんあるのですが、彼女の凛とした佇まいや、強さはとてもかっこいいです」とコメントされていますね。
内田:シャーリンは女性らしさも持っていますし、自立して組織で強く生きなくてはいけないと決心したところに、男性らしさも感じました。
彼女はカッコいいんです。アクションもできて、戦えるし、凛としているんですけど、そこに行くまでにいろいろあったんだろうなというのが時々透けて見える気がするんです。その過程を出す瞬間は少なかったので、メンガー・チャンさんの芝居から、どのように役を演じていこうかなと思った時に、台本に書かれている語尾やセリフや中国語の部分を意識しました。
中国語には吹き替えはしていないのですが、中国語の箇所をたくさん聞いて、近い音を出せたらと思い演じさせていただきました。
今回の作品は中国語の部分が比較的多くあります。他の作品だと、中国語とか英語以外の言語が出てくると、日本語に吹き替えているセリフが多いのですが、今回の作品は中国語のままで流れるので、そこが違和感なく聞こえていたらいいなと思います。
――今作で演じられているシャーリンの声は、内田さんの中でも低めの声のトーンだと感じたんですが、あの役作りはどのようにされたんですか?
内田:オーディションがあって、その時に役者さんの声を聞かせていただいて、そこに近づけていくという役作りをしました。自分で芝居をする時に、頭の中でこの音を出そうと考えるよりも、(細谷に向かって)台本を読んだ時に自然と出てくる音がありませんか?
細谷:そうですね。見たら分かるというか、見たらその声になってしまいますよね。
内田:例えば、今回は吹替なので映像と台本があってという中で、音も一緒に流れてくるのですが、できあがっている音楽とともにそこにいると、不思議なんですけどその場でしか出ない音になるという……。なので、今(インタビュー中に)演じてほしいと言われても、思い出せないんです(笑)
細谷:それ、めちゃくちゃわかります!
内田:わかります?!
細谷:無理なんですよね(笑) アニメとは違っていて、例えば、インタビューで「演じる時に意識することは何ですか?」と聞かれて、僕らはその感覚を言語化できる範囲でー生懸命伝えようと思うんですけど、究極的に言えば『意識している事』はないんです。もう見れば、(その役に)なっちゃうところがあるんです。
内田:そうなんです!
細谷:アニメ作品は(収録時に)画が生きてないじゃないですか。でも(吹替作品は)生きた人を目の当たりにした時に、「あぁ~、なるほど」とできちゃうんです。
内田:そう、引っ張られますよね!
細谷:そうそうそう! それをあえて言語化すると、こうなるよということですよね。
内田:そうそう! 紐でつながっている感じというか……。だから、私たちが一番いい状態なのは、みんなで収録する時なんです。相手の息遣いもこちらの息遣いも合う時に、「ワッ!」となります。これは吹替の醍醐味でもあるかなと思います。
細谷:うんうん。
――アニメ作品とは違うものなんですか?
内田:アニメ作品は、こちらが主導権を持っている気がします。吹替は逆に引っ張られていく感じがします。
細谷:自然にそうさせられている気がします。
――それは役者の声が低い声を出しているから、こちらも声を低くしようということではないということですよね?
細谷:ないです。雰囲気だと思います。もちろん声も似せてはいるんでしょうけど、自分のセリフをアフレコしながら、もうひとりの自分が「あぁ~、合ってるね。良い感じだね。もうちょっと上来れる?」みたいなことをやっていると思います。
内田:ほとんどの役者はそうかもしれないですけど、吹替って面白いなと思う瞬間ですね。技術職でもあると思います。
細谷:そうですね。技術職。 左にハンドルを限界まで切っているんですけど、同時に右にもハンドルを限界まで切って進んでいるんです。そんなことは物理的に不可能じゃないですか。でもたぶんそれに似た事をやっているんですよね。