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『スター・ウォーズ:ビジョンズ』「村の花嫁」レビュー【全作レビュー連載第5回】

『スター・ウォーズ:ビジョンズ』「村の花嫁」レビュー|ハイクオリティなアニメ表現と実力派声優でSW初心者~上級者まで楽しめる!“結婚式”を起点に描いた希望の物語【全作レビュー連載第5回】

17分間の中に潜む『スター・ウォーズ』名セリフに注目

『スター・ウォーズ』の初心者向けとお話しましたが、『スター・ウォーズ』ファンもしっかり楽しめる要素が満載です。

あることがキッカケで逃亡中の主人公エフ(声:瀬戸麻沙美さん)が古くからの知人であるヴァン(声:上川隆也さん/英吹替名:ヴァルコ)に呼ばれ、アウターリムの惑星・キーリアの村の結婚式に出くわします。喜ばしい場であるはずなのに、村からは悲壮感が漂い、新郎新婦や村の人たちはどこか浮かない顔です。その理由は結婚式の翌日、花嫁のハル(声:潘めぐみさん)が村の仇である組織の人質になると決まっていたからなのでした。そんな結婚式を前に、ハルの妹であるサク(声:伊瀬茉莉也さん)は「笑顔で祝えない結婚式なんて…」と吐き捨て退場してしまいます。

『スター・ウォーズ』作品における“結婚式”といえば、「これから悪いことが起こる前触れ」をイメージしてしまう人も多いのではないでしょうか。というのも『スター・ウォーズ エピソード 2/クローンの攻撃』で描かれるアナキン・スカイウォーカーとパドメ・アミダラの結婚式を思い浮かべるからです。この結婚式は「祝福されない結婚式」であると同時に、アナキンがダークサイドへ落ち、ダース・ベイダーと化してしまうキッカケでもあるからです。

しかし、『村の花嫁』はネガティブなイメージだった『スター・ウォーズ』の“結婚式”をポジティブに変換させてくれる物語だと感じました。垪和監督自身「アナキンとパドメの結婚式は印象に残っているエピソード」とコメントをしており、本作のテーマの起点となっていることがうかがえます。この「祝われない結婚式」を起点に、「希望や救いの物語」へと変えてくれたのが『村の花嫁』なのです。

「アナキンとパドメの結婚式」を知っていればより楽しめる内容であるように、『スター・ウォーズ』の知識がある人ほど、より「あっ!」と思う要素が詰め込まれています。

主人公・エフとヴァンは和装にマントの出で立ちであることから、パッと見た瞬間「ジェダイ」であることが分かります。クライマックスでイフが「フォース」や「ライトセイバー」を使い、敵と戦うシーンには胸が高鳴ります(ちなみに「ライトセイバー」が刀に見えるので注目して見てほしいです)。

また「プローブ・ドロイド」らしきドロイドや、「B1バトル・ドロイド」など馴染みのあるドロイドも登場。本作の敵であるイズマ(声:下山吉光さん)の乗る宇宙船はハン・ソロが乗っていた飛行船「ミレニアム・ファルコン」を連想させるデザインとなっています。

極めつけは、『スター・ウォーズ』シリーズで発せられる名セリフの数々です。17分という短い時間の中に名セリフが散りばめられているのは、個人的にテンションの上がるポイントでした。一番有名なセリフ「フォースと共にあらんことを」や「嫌な予感がする……」はもちろんのこと、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』でオビ=ワン・ケノービが放った「地の利を得たぞ!」という名言(迷言?)を彷彿とさせるセリフも。私が気づいていないだけで、ほかにも『スター・ウォーズ』シリーズに登場する名セリフがある可能性大! 何回も繰り返し見ながら名セリフを探すのも楽しそう。

垪和監督は公開当時『スター・ウォーズ エピソード 4/新たなる希望』を見て「物語の展開にいたく感動した」と話しています。そんな思い入れの強さやリスペクトが込められた本作は、昔からの『スター・ウォーズ』ファンでも見ごたえのある作品なのは間違いないでしょう。

キャラクターを声で支える声優陣のたしかな実力

最後にお伝えしたいのが、声優陣の魅力です。主人公エフを演じる瀬戸麻沙美さんは『呪術廻戦』(釘崎野薔薇役)や『文豪ストレイドッグス』(樋口一葉役)など数多くの人気作品に出演し、キネマシトラス作品では『盾の勇者の成り上がり』のメインヒロイン・ラフタリア役を演じています。

カッコいいキャラクターから可愛らしいキャラクターまで演じ分けられる瀬戸さんですが、本作のエフは少し影のあるクールなキャラクターです。口元にあるマスクと表情の乏しさが相まって、一見喜怒哀楽が感じられません。

しかし、声の抑揚や語気、息遣いで微妙な心の揺らぎに気づくことができます。冒頭からクライマックスにかけて成長していくエフの内面が表される声にも注目していただきたいです。最後に発せられる瀬戸さんボイスの「フォースと共にあらんことを」は必聴ですよ!

そして、ヴァン役(英吹替名:ヴァルコ)には俳優の上川隆也さんが起用されています。数多くのドラマ・映画・舞台に出演されている人気の俳優さんですが、最近は「アニメオタクとして」バラエティ番組へ出演しているのをよく見かけます。

実は学生時代はアニメーター志望でアニメ研究部に入部し自主アニメを制作していた過去がある上川さん。さらに本作の垪和監督とは当時一緒にアニメを作っていた仲なのだとか。垪和監督自身「いつか(上川さんに)自分の監督作に出てもらうことが目標の一つでした」と語っていました。

 
アニメ声優としては『グレンラガン』のラスボス・アンチ=スパイラルの印象が強いのですが、本作で演じるのはイケオジ(イケてるおじさま)です。最初にヴァンのキャラデザを見た際、上川さんの声だと若すぎるような……?と思ったのですが、実際に聴いてみるとハマるのなんの。上川さんの声に含まれる優しさと力強さの成分が見事にキャラクター性とマッチしているのです。ヴァンから感じるさまざまな経験を積み重ねてきたであろう雰囲気やどっしりと構えた安定感のある性格は、声による相乗効果で深みを増しています。

ほかにも、ハル役の潘めぐみさん、アス役の内田雄馬さん、サク役の伊瀬茉莉也さんなど、アニメ好きなら知っている声優さんが勢ぞろい。一声優ファンとしても楽しめます。また、英語吹き替え版のエフは、アメリカの俳優・福原かれんさんが演じています。福原さんは国籍はアメリカですが両親が日本人のため母語は日本語、日本語学校に通っていた経歴を持ちます。海外で活躍している日本人の俳優さんが日本アニメで英語の吹き替えをしているのも個人的な聴きどころの一つ(大好きな映画『スーサイド・スクワッド』やAmazonオリジナルドラマ『ザ・ボーイズ』に福原さんが出演されているというのも注目したポイントですが……)。

『村の花嫁』には日本人ならではの情緒をセリフの中に取り入れていることもあり、垪和監督も「日本語を理解する方に吹き替えをしていただけることに感謝」とコメントをしています。

「アニメ好き」「『スター・ウォーズ』好き」「声優好き」幅広い方たちにオススメできるのが『村の花嫁』です。本作をキッカケに、普段アニメを見ない『スター・ウォーズ』ファンが日本アニメへ、『スター・ウォーズ』に触れてこなかったアニメファンが『スター・ウォーズ』へ興味を持ちそうな予感も。それぞれの知識が深まる分だけ楽しめるポイントが増えていく作品でもあると思うので、『村の花嫁』を入り口にコンテンツへの興味の幅を広げてみてはいかがでしょうか。

[文/阿部裕華]

 

アニメ・音楽・映画・漫画・商業BLを愛するインタビューライター。Webメディアのディレクター・編集を経て、フリーライターとしてエンタメ・ビジネス領域で活動。共著「BL塾 ボーイズラブのこと、もっと知ってみませんか?」発売中。

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阿部裕華
アニメ・音楽・映画・漫画・商業BLを愛するインタビューライター

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『スター・ウォーズ:ビジョンズ』とは

ディズニープラスにて独占配信

ジョージ・ルーカスが黒澤明作品や日本文化から多大な影響を受け制作した「スター・ウォーズ」の創造のルーツとも言える日本へルーカスフィルムが強いリスペクトを込めた「スター・ウォーズ」史上初の一大アニメプロジェクト。「スター・ウォーズ」の創造のルーツとなった“日本”、そしてその日本から新たに誕生する、「スター・ウォーズ」への期待が、世界的に高まっていく中で、エグゼクティブ・プロデューサーであるジェームズ・ウォーは「これは私たちが愛する“アニメ”という文化を生んだ日本へ贈るルーカスフィルムからのラブレターです。」と日本アニメに対する熱い想いを語る。参加したクリエイターたちが、<スター・ウォーズ>そして<日本のアニメ>への熱い情熱を持って創り上げる、独自のビジョンで描いた9つの「スター・ウォーズ」は9月22日(水)16時よりディズニープラスにて全9話一斉に日米同時配信される。

◆ディズニープラス公式サイト

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