アニメ『さんかく窓の外側は夜』冷川理人役・羽多野渉さんインタビュー|初めての試みで難しかった役、“芯があるセリフ”を全部捨てた冷川というキャラクター【連載02】
エンディング主題歌も合わさった1つ1つのエピソード
——先ほどお話に出てきましたが、羽多野さんはED主題歌も担当されます。「Breakers」という楽曲はどのように作られたのでしょうか?
羽多野:プロデューサーさんと重点的にお話をしたのが、オープニングではなくエンディング主題歌ということです。この『さんかく窓の外側は夜』は1クールを通して1つのストーリーになっていますが、1話ごとにもちゃんと完結してエピソードが分かれています。
その1つ1つのエピソードを観終わって最後に聴く歌という意識を、制作段階でも意識しました。でも、基本的には作品を創っているスタッフさんと音楽制作チームでしっかりと作ってくださっていたので、僕がそこに対して何かを言うというよりは真摯に音楽と向き合って作品の世界観を歌で表現することに注力しました。
いろいろなやり方や表現の仕方もたくさんありますが、今回はAメロの1番頭をファルセットにしていて。実はそういう出だしの歌はあまりないんです。
音的にはさほど高音で裏声じゃなきゃ出ないというわけではありませんが、あえてファルセットの不安定な音にすることで作品が持っている仄暗さや雰囲気を出せるんじゃないかなと思いました。
僕の声質はもともとがちょっと太いので普通にバンッと歌ってしまうと威勢がよくなっちゃう。ちょっとこう寄り添うような近くで歌っているような感覚にしたかったので、あえて表現を少しトライさせてもらいました。
2番のAメロの1番最初は地声で歌っているので、フルサイズで聴いていただくと違いが分かると思います。アニメで流れる部分はそこを裏声で歌っているので、その違いも楽しんでいただけたら嬉しいです。
——また、世界観を表している歌詞も本当に素敵ですね。
羽多野:歌詞を読んでいただくとわかりますが、だんだんと時が経過していく様というか、この作品でいうと冷川と三角が出会うところから第1話が始まり、それから2人がどういう風に成長していくのか変わっていくのか、変化みたいなものもこの作品の魅力の1つだと思うので音楽の中にも入れさせてもらいました。
エンディングの部分も本当に素敵な画をスタッフさんが入れてくださったので、初めてエンディングムービーを見たときはすごく嬉しかったです。
冷川にとって三角は“救世主”
——本作は、三角と冷川の心霊探偵バディが見どころでもあります。二人の関係について、どのように解釈されましたか?
羽多野:同じように人が視えないものが視えていて、冷川からすると三角が視えているものに対して怖がっている感情がおそらく理解できていない。
だから「私といれば怖くなくなりますよ」というセリフは彼の本心なんですよね。計算して仲間に入れるために言った言葉ではなく、彼の中では“怖いものじゃない”意識があるので、それを三角に伝えたかったんだと思います。
人間としても特殊能力を持っているのも、すべてにおいて三角は冷川にとって必要な人物であることを冷川自身が本能のようなところで感じていて。
でも、それをコミュニケーションでうまく伝えることができない。本当に、冷川は巧みさがない子供のような人だと思います。日本語を使ってコミュニケーションができない、社会において立ち回ることができない人。そういう人間にとって三角はある意味、“救世主”のような存在です。
この作品は三角を中心にいろんな人物が登場して、それぞれが三角との関係性を作っていきますが、それが冷川的には気に入らないこともありますし、自分の独占欲が強くなることもあって、まるでおもちゃに執着する子供のよう。それが愛なのか友情なのか、それすらもたぶん分かっていないのが冷川です。
冷川を感じれば感じるほど、三角というキャラクターの魅力がすごく見えてきて、「めちゃめちゃ良い人だなぁ!」と(笑)。第1話の最後に三角がお母さんと喋っているシーンがありますが、そのシーンを見ていると「お母さんが良いお母さんだもん!」と真理みたいなものを感じました。
——確かに。三角が優しいのはお母さん譲りなんだな、と感じます。
羽多野:どういう環境で育ったのかって、すごく大事なことですよね。あれだけ特殊で個性的なキャラクターが出てくる中で、お母さんは真っ当な人。そんなお母さんを本田貴子さんが演じられていますが、もう信長くんが幸せそうに会話しているんです。
“本田さん~!”と心の声が聞こえてくるほど、尻尾を全力で振る可愛い犬のようでした(笑)。本田さんとの掛け合いを楽しそうに演じているのを見て、なるほどなぁ~と。
この作品は家族に関してもいろいろなことを考えさせられるシーンが多いです。
——そうですね。人間の本質や繋がりみたいなものを強く感じる作品だと思います。
羽多野:人間というものの本質を突きつけられるような感じがありますけど、それを受け入れた先にある“光”のようなものもしっかりと描かれています。なので、1話だけ見てやめないでほしい……!
最後まで見ていただけると、仄暗さから光に向かっていくストーリーになっているので、全話を通して見ていただきたいです。
本当によくできた構成になっていて、1話ごとに楽しめる内容にはなっていますが、1クールを通して綺麗な起承転結になっているので、最後までお付き合いいただきたい作品です。
——第1話が放送されましたが、この回で1番印象に残っているシーンはありましたか?
羽多野:「三角くんを僕にください」と店長に向かって冷川が言うセリフです。実はこのシーン、収録現場で信長くんから「やっぱり冷川さんって羽多野さんですね」と言われたシーンなんです。
収録のとき、ファーストテイクでものすごい大きな声を出しちゃったシーンで、それまで普通に喋っていたのに、そのセリフだけ店長に向かって声を張ってしまったんです。それに信長が素でびっくりしていて(笑)。監督さんからも「そこまで声を張らなくて大丈夫なんで(汗)」と言われました(笑)。
アニメで放送されたテイクは、その後にリテイクしたものなんです。1番最初に急に声を張って「何この人!?」と感じた信長の感情が、まさに初めて冷川に会ったときの三角と同じで、「やっぱり冷川さんは羽多野さんですね」と言ってくれて。僕もなんでそう表現したのか自分でも覚えていないんです(笑)。
——咄嗟に出てしまった表現だったのでしょうか。
羽多野:とにかくパニック状態で、いろいろと自分で考えて家で作ってきたものを全部壊して出てきたものだったので自分でも驚きました。でも、そういう何が出てくるのか分からないことに関しては、冷川と同じなのかもしれません。
冷川の行動って最初はすごく不可解なことが多くて、大切だって言いながら平気で傷つけるようなことをしたり……そういう彼の行動をある種、無心になって演じていました。
——確かに、原作を知らない方からすると第1話を見て「この人何!?」と感じますよね。
羽多野:ちょっと気持ち悪い感じがしますよね。三角が嫌だって言っているのに「大丈夫、大丈夫」という(笑)。除霊シーンも1人だけものすごい快感を味わっていますし、あのシーンはすごく怖いですよね(笑)。
——除霊シーンは本当に魅惑的でした。
羽多野:セクシーで蠱惑的な感覚というのを除霊のシーンに持ってくるところは、ヤマシタ先生のセンスなのかなと思います。あらゆる作品で幽霊を退治するシーンはカッコいいシーンが多かったんですけど、そこに人間の本能の欲みたいなものがブワッと漂ってくる独特な表現だなと。
原作を読んだときもびっくりしましたし、それをアニメで自分で表現しなきゃいけないとなったときはドキドキしましたけど、回を重ねるごとにだんたんとシームレスに除霊ができるようになりました(笑)。
男性同士の絆というお話は、この作品以外にもたくさんやらせていただいてきたので、そういう自分の中にある経験値みたいなものも1つぐらいは生かせたのかなと思うとありがたいです。
——いやもう、羽多野さんが冷川を演じてくださって本当にありがたい気持ちでいっぱいです!
羽多野:ありがとうございます。本当にこの作品は独特で、人には視えない幽霊が視えるという能力にプラスして、これから出てくる登場人物達もみんな特別な力を持っていてその力の使い方が全然違います。そこが、この作品の非常に面白いところです。
冷川は三角を通して霊を“投げる”という独特な除霊方法をしますから、原作を読んでいても最初は「ん?どういうことだ!?」と(笑)。映像では分かりやすく表現されているので、そこがアニメーションならではの良さだと感じます。