50年次元大介役を演じてきた小林清志さんからバトンを受け取る葛藤と決意――夏アニメ『ルパン三世 PART6』大塚明夫さんインタビュー│「次元と言えば小林清志さん。僕自身の新しい次元を作ろうとは思ってない。それは自分自身が許せない」
「ルパンは俺にとって一生ものの仕事であった。命をかけてきた」。
「次元はそんじょそこらの悪党とは違うぞ。江戸のイキというもんだ。変な話だが、次元は江戸っ子だ。明夫ちゃん、これは難しいぞ。雰囲気はJAZZにも似ているんだ」「ルパン。俺はそろそろずらかるぜ。あばよ」。
9月7日に発表された、小林 清志さんの手紙の一部である。痺れるような、雄々しい言葉が並ぶ。1971年のアニメシリーズから唯一、初代として次元大介に命を吹き込み続けてきた小林清志さんが勇退。“次元大介役”のバトンを受け取ったのは、ルパンファミリー初参加となる大塚明夫さんである。
アニメ化50周年の節目となる10月9日スタートの日本テレビ系『ルパン三世 PART6』では初回放送で小林さんが声優を務める『EPISODE 0 ―時代―』を放送。その後の放送から大塚さん演じる次元となる。
「未だ試行錯誤の只中ですが、やがては次元大介の名に恥じぬ芝居をしたいと思っています」とTwitterで決意を語られていた大塚さん。その胸中を語ってもらった。
「でも僕が嫌と言ったら……」次元役が決まったときの複雑な胸中
──9月7日(火)に小林さんからバトンを受け取り、大塚さんが次元大介役を演じられることが発表になりました。たくさんの反響が寄せられていましたが、大塚さんの周囲の方の反応はいかがでしたか?
次元大介役・大塚明夫さん(以下、大塚):何年も会ってない友だちから「おめでとう」という連絡がきました。世の中がこんなにもザワザワするんだなってちょっとビックリしましたね。それだけ『ルパン三世』の次元大介という役は大きいものなんだなとひしひしと感じて慄きました。
──どういった経緯で、次元大介を演じられることになったのでしょうか。
大塚:事務所から「次元をやってください」と言われて。まず考えたのが「清志さんの身に何かがあったのかな」と。その時はまだプレッシャーはなくて、清志さんの身に何かあったという心配がありました。その後すぐ「そういうことではない」と聞いてホッとしたことを覚えています。
──すぐに返事をされたんですか?
大塚:そうですね。というか「嫌です」とは言えないです(笑)。僕自身がリアルタイムで『ルパン三世』の大ファンだったので、次元大介のビジュアルから清志さん以外の声が聞こえるのは、僕自身が納得しかねる。かと言って、僕が断ってしまえば誰かがやる。
それとどっちが嫌かなって比べたときに、僕がやれば……人がやってるのを見て寂しい気持ちになるよりかは、自分が叩かれれば済むかなって。自分が叩かれる分には自分のせいですから、受け止めるしかないので。そのほうがまだ納得がいくかなと思って。
それで「喜んでやらせていただきます」と返事しました。でも複雑です。嬉しい思いと嫌だなという気持ちとでせめぎ合いました。だって初代が良いに決まってるんですから。しかも50年ですからね。
──本当にすごいことです。小林清志さんからは何か話はあったんでしょうか?
大塚:普段はめったに会えないんです。清志さんと何かを話したわけではなく、そのまま収録がはじまりまして。先日発表になったコメント(※9月7日公開)を読んで、「それだけの想いで50年やっていたのか」と。
・9/7公開:大塚明夫『ルパン三世』次元大介に決定! 小林清志さんから大塚明夫さんへ交代!
TV第1シリーズ(1971年)からリアルタイムで『ルパン三世』を観て育っているので、清志さんの言葉が50年の重みを持って圧し掛かってきました。清志さんの言葉を見た上で、僕にも「コメントをください」ということだったんですが、困ったなと(苦笑)。本当は清志さんのところに挨拶に行きたかったんですけど、「来られてもどうなんだろうな」という思いもありました。
それで清志さんの元に行けないまま動き出してしまったんですが、お手紙でヒントをいただいて、霧が晴れたような思いでした。地獄にいたら蜘蛛の糸が垂れてきた、というような救いを感じましたね。
──では少し気持ちが楽に?
大塚:発表になってホッとした部分はあります。「次元は江戸っ子」「雰囲気はJAZZにも似ている」というヒントをいただいたことで、この先の道が見えました。
「90歳までやっていたかった」とおっしゃっているということは、清志さんが喜んで「明夫ちゃんに」と役を渡したわけでは決してないわけで。その上でヒントをくれたのかなと思うと、ありがたいですし……涙が出そうになりました。
──時系列としてはオファーがあって、その後アフレコが始まって、アフレコの途中で清志さんのコメントを見た……ということでしょうか。
大塚:いや、1クール目のアフレコが終わったところだったんです。あのお手紙を見た上で、「もう1回やりたい」と思いましたけど、そういうわけにはいかないので(笑)。
──大塚さんが次元を演じられることが発表になった時、お父様・大塚周夫さんが初代五ェ門を務められていたことを触れているファンの方もいました。ご縁を感じるところもあったのでしょうか。
大塚:(周夫さんから役を引き継いだ)アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男をはじめ、他にも縁を感じる作品というのはあって。親父も長いことやって、いろいろと作ってきた人ですから。どこに行っても親父の足跡があるんだなという気がしています。
──ご自宅でお芝居のお話をすることはあまりなかったと、『声優魂』(星海社新書)には書かれていましたね。
大塚:そうですね。まして、『ルパン三世』の第1シリーズがはじまったころは僕は子どもでしたし、分からなかったですから。ただ、もちろん観てはいました。小学5、6年生のころだったと思います。それまで19時台までしかアニメーションはやってなかったんです。
でも『ルパン三世』は19:30からの放送。それまでにはない時間だったんです。アニメだから、少し時間が遅くてもやっぱり観たいじゃないですか。観たらカッコよくてカッコよくてね……痺れました。
──当時、お父様が演じられていた五ェ門はどのような印象でしたか。
大塚:カッコいいなと。次元もルパンも不二子もみんな泥棒じゃないですか。次元はちょっと違うけど。でも五ェ門は泥棒じゃない感じもするし、「悪さしてるのかな?」って感じはありました。「じゃあ人殺しなのかな?」とか、子ども心にいろいろと考えながら楽しんでいましたね。