50年次元大介役を演じてきた小林清志さんからバトンを受け取る葛藤と決意――夏アニメ『ルパン三世 PART6』大塚明夫さんインタビュー│「次元と言えば小林清志さん。僕自身の新しい次元を作ろうとは思ってない。それは自分自身が許せない」
最初のアフレコは「苦しかった」
──『ルパン三世 PART6』の、最初のアフレコはいかがでしたか?
大塚:もうヘトヘトになりました。自分の声を聞いて「これ次元じゃないじゃん」って。僕の中にも50年分の蓄積があるので、「違う」と分かってしまうものですから。すごく苦しかったです。
──どんなディレクションがあったのでしょうか。
大塚:次元大介がルパンたちと話しているときに……本当は嫌々ではないんだけど、「嫌々付き合ってやってる」感をもう少し出したほうが次元っぽいんじゃないか、というディレクションがありました。「なるほどな」と。そこも含めて改めてチャレンジしたいなと思いますが……。時間をかけて次元を落とし込んでいくので、どうかひとつ納得していただきたいなと。
──違和感なく次元の声としてスッと入ってきて、次元、小林さんに対するリスペクトも感じました。YouTubeに公開されたPVにも「違和感がない!」というコメントが溢れていましたね。
大塚:そういう声があることは届いています(笑)。ホッとしています。中には「自分の次元をやればいいのに」という声もありましたが、僕が50年、観て育ってきた次元大介でありたいなと。
──アフレコにあたり、ルパン役を引き継いで26年になる栗田貫一さんたちから何かお言葉はいただきましたか。
大塚:「自信を持ってやってください」ということだけです。栗田さんも(山田)康雄さんのルパンが大好きで、自分の中の『ルパン三世』像を崩したくないという思いでやってこられたはず。当時栗田さんが感じたことを僕がいま感じているんじゃないでしょうか。
しかも栗田さんの場合は、(当時、峰不二子役の)増山江威子さん、(当時、銭形警部役の)納谷悟朗さん、さらに清志さん。そういうメンツの中で頑張ったわけですから。それはさぞ大変だったと思います。僕は60歳を越え、顔見知りのメンツの中で演じられるわけですから……どれほどの思いをしたんだろうなと感じますね。
──皆さんのことを頼もしいなと感じた瞬間はありましたか?
大塚:栗田さんとはスペシャル版で2編ほどご一緒させてもらっています。他のメンバーは顔見知りで、息の分かっているメンバーなので、それが助かるなと。栗田さんの時と比べて考えたらなんて楽してるんだろうと思いました。
「愛を裏切れない」
──今作の新シリーズ『ルパン三世 PART6』は、テレビシリーズ 1 作目を彷彿させるエメラルドグリーンのジャケット。“原点回帰”を思わせるミステリー要素を多分に含んだ物語になるとうかがっています。また、大倉崇裕さんが描くメインストーリーと、ゲスト脚本家によるオムニバスエピソードで構成される予定とのこと(オムニバスエピソードには、押井守さん、辻真先さん、芦辺拓さん、樋口明雄さん、湊かなえさんが参加)。いちファンと公言される大塚さんから見て、お話の印象はいかがですか?
大塚:まあカッコいいです。収録の時点で音楽はまだ分からなかったんですけど、演出が素晴らしい。1話、2話は完パケの状態でのアフレコだったんです。だから「なんてカッコいいんだろう」ってドキドキしましたね。ワクワクしました。
──完パケだったんですね!
大塚:そうなんです。この世界観の中で次元大介をやれるって、それはそれは楽しいことで。でも楽しさと同じだけのプレッシャーはあるわけですけど(苦笑)。
──完成した画を見ながら演じるというのは、また違ったお気持ちになるような気がします。
大塚:そうなんです。「これだけ出来上がっているものを渡すので宜しくお願いしますね」という無言の脅迫じゃないですけど(笑)。そういうプレッシャーもかかりますよね。絵におんぶされてはいけないし……おんぶされようとはもちろん思ってないんですけど、これだけの絵を越えて行かなければいけない。
康雄さんは「絵が変なら帰っちゃうぞ」と言って、本当に帰ってしまったという逸話があります。今どきの事情を考えると、とうていそんなことはできないですよね(笑)。その今どきの事情の中で仕上げてくださるスタッフの皆さんの想い、そういうものをちゃんと受け止めなきゃいけないなと思っています。収録前に絵を見せてくれるというのは我々にとって刺激になりますね。
──スタッフの皆さん、役者の皆さんとの信頼関係も感じます。
大塚:そうですね。それを裏切れない……愛を裏切れないなって。
──新シリーズの中には、次元がフィーチャーされるお話もあるんでしょうか?
大塚:あります。
──どんな物語か教えていただくことは……。
大塚:(即答で)ダメです(笑)。ネタバレになってしまうので、お楽しみにしておいてください。でも、もう一回やりたいなあ……。今、次元大介を解明するヒントをどんどん見つけている最中なので、もう一度あの回を演じてみたい。