『DUNE/デューン 砂の惑星』日本語吹替版の主人公ポール・アトレイデス役・入野自由さんインタビュー|吹き替えの現場で大事にしていることとは? 声優ファンもハマる“体験型”の超大作!
入野さんが吹き替えで大事にしていること
——吹き替えの現場では原音を聴きながらアフレコをされると思いますが、収録はいかがでしたか?
入野:音楽も含めて映像を見ながら収録しました。英語と日本語で強調する部分が違うので、これがとっても難しい。日本語だとここを強く言いたいけど映像ではそのように表現されていない、そこをどうやってバランスを取るのかが吹き替えの難しさでもあります。
——吹き替えとアニメの現場で、違いはあるのでしょうか。
入野:なんでしょう……。吹き替えは完成している映像に声をあてるので、ある意味、監督が求めている“正解”が全部詰め込まれているものに対して日本語でどうアプローチするかが大事なんです。
できる限り、役者の口の形、息づかいというものは自分から出たものだけで表現するのではなく、いかに原音を聞いて同じものを拾っていく作業がプラスされるので、個人的にはあまりアニメと吹き替えが違うとは思っていませんが、どちらかというとアニメのほうが自由度が高い気がします。
あと、僕の場合はアニメよりも吹き替えのほうがチェックに時間がかかりますね。
今回は日本語吹替版のディレクターの方からパートごとに細かくディレクションをいただきながら擦り合わせていって。コロナ禍ということもあって全員で録ることはできませんでしたが、ポールのお母さんであるレベッカ役の皆川さんと一緒に収録しました。
——皆川さんと一緒に収録されたのですね。
入野:はい。1人で録ったりすることが多い中で、相手役の声を聴きながら収録できたのはすごく大きかったです。やっぱりお芝居は人とやるものなので、原音に合わせていく作業がメインになるとはいえ、それだけになってしまうと分離してしまう。あくまで日本語吹替のチームで作っているので、どんな声なのかどんな喋り口調なのかというところを一緒にできたのは大きかったです。
他の現場でご一緒したことがある方々もたくさん参加されていたので、“この人の声はきっとこんな感じかな”と想像しながら収録できました。
——吹替版の声優陣、すごく豪華ですよね。特に、低音ボイスで魅了する方々が数多く参加されていて耳が幸せでした。
入野:良い声の方たちばかりですよね!日本語吹替版は声優ファンの方でも楽しめる作品だと思います。
——また、今回の現場ではどのようなディレクションがありましたか?
入野:作品と向き合うことはすごく集中力のいることで、特に、吹き替えは音を聞きながら合わせるだけでなく、日本語としてのニュアンスを入れながら……というとことをディレクターの方と相談しながら収録しました。
さらに、今回の作品は“声”というものが重要になってくるシーンがあるので、その収録でもどのような声や音にするのか、すごく考えられたと思います。
作品の中でのリアリティって何なのか
——演じる上で印象に残っているシーンがあれば教えてください。
入野:ポールが教母ガイウス・ヘレネ・モヒアムと対峙するシーンです。この教母からポールは“痛み”を感じさせられることになるんですが、その痛みがどのくらいなのか、ティモシー自身も想像してやっていたシーンだと思いますが、僕も彼に合わせていく作業をしました。
どこで声が出ているのか、どんな声なのかというところを原音のニュアンスを大切にしながら演じました。映像を見るだけでも「めちゃくちゃ痛そうだな……」と。そのシーンは演じる上ですごく印象的でした。
息づかいはすごく難しくて、セリフだと気持ちの流れがあるので演じやすいですが、リアクションや息の部分は吹き替えならではの難しさを感じます。本当に日々勉強です。
——すごく考えてアフレコされているんだなと思いましたが、感覚的なものもあるのでしょうか?
入野:僕の場合、最終的には感覚的な面が強いのかもしれません。というのも、合わせることだけに意識したり、正解の音を探し続けたりすると大事なところが抜け落ちてしまうような気がして。
なので、事前にできる限りのチェックをして準備し、収録現場でテストをしてもう1回チェックをして、真っさらな状態にして出たものを大切にしたいというか。合わせることと感覚、双方のバランスを大切にしています。
これは自分が演劇・舞台で培ってきたものなんじゃないかなと。長い時間をかけて稽古をし、そのときの感情というものが自然と出てくるようにして。本番ではまっさらな状態で立とう、そういう思いでやっています。
——何だか、すごく難しそうです……。
入野:本当にお芝居は難しいと感じます。特に、この『DUNE/デューン 砂の惑星』は超大作で砂漠でのロケなど、どう想像するかが課題でした。ポールの気持ちにどれだけ寄り添えたのか、どれだけリアルさに近づけることができるのかを気にしながら収録していました。
現場でいろいろな人と話すんですけど、最近は“作品の中でのリアリティって何なのか“を考えるべきだなと思っています。今インタビューでお話しているトーンが生きている中でのリアリティではありますが、そのまま映画や芝居の中で喋るとそれはリアリティとはまた違うもので。
吹き替えで喋っているトーンや喋り方は、ある意味リアリティとちょっと外れているかもしれませんが、きっと他の声優さんたちも、この作品の中でのリアリティとは何なのかを探りながらアフレコされているんじゃないかな、と思います。