声優・楠木ともり 3rdEP『narrow』インタビュー|これまでの楽曲の主人公が出会う?「narrow」の歌詞から生まれた、新たな流れ
声優、そしてソロアーティストとして活躍する楠木ともり。作詞・作曲をするというスタイルが定着しつつある彼女だが、2021年11月10日にリリースした3rdEP『narrow』も、すべて作詞・作曲を彼女自身が行っている。冬をテーマにしたという本作だが、彼女の歌の世界観がグッと広がる1枚となった。曲がどのように生まれていったのかをたっぷりと語ってもらった。
そして、メジャーデビュー以来、オンラインならではのライブを続けてきた彼女が、初の有観客となるライブKusunoki Tomori Birthday Live 2021『Reunion of Sparks』を、12月22日に豊洲PITで、24日にZepp Nambaで行う。メジャーデビュー前のライブの雰囲気を知っている人にとっても、はたまた初めて生でソロライブを見る人にとっても、新たな楠木ともりの姿をステージで見ることができそうだ。その意気込みも聞いた。
これまでの楽曲の主人公が出会う?「narrow」の歌詞から生まれた、新たな流れ
――3rdEPは冬をテーマにした作品になるそうですね。
楠木ともり(以下、楠木):3rdEPを作る段階で「冬をコンセプトにしよう」とテーマを決めていたので、今回はすべて書き下ろしになるんです。
――ただ、そこは楠木さんだけあって、ただの冬ソングでは終わらない感じはありました。たとえば、恋人たちがウキウキしているようなクリスマスソングなどではなかったので。
楠木:クリスマスソングにはならなかったですね(笑)。でもラブソング自体、まだほとんど書いたことがないんです。いつか恋愛系のEPもが出せたら良いなぁとは思っているんですけど。
――世の中に多くの曲はラブソングですし、いつかそういう物語の曲も聴いてみたいです。ただ、1曲目の「narrow」はちょっとそういう空気なのかな?とも感じつつ、幸せな感じの曲かと思ったら、最後にちょっと「あれ?」と思うところもあって……。この曲は路上ライブをしている子の話ですよね?
楠木:実は今回のEPから、これまで出てきた曲の登場人物たちを出会わせようという話になったんです。だから「narrow」に関しても「ロマンロン」の主人公のお話なんです。その路上ライブに「僕の見る世界、君の見る世界」(以下、「僕見る」)の主人公がたまたま居合わせて、曲を聴く日々を送っているときから、別れまでを描いた歌になっていて。
――やっぱり来なくなってしまったんですね。
楠木:「ロマンロン」の主人公って、自分の衝動に任せて曲を作る子だったんですけど、そこから誰かに歌を届けたいと思うまでの成長を描きたかったんです。
――路上ライブをしている姿と冬の景色が見えるような歌詞でしたが、特に〈イヤホン外す仕草〉というフレーズが、すごく路上ライブを象徴していますよね。
楠木:街を歩く人は、自分の好きな曲をイヤホンで聴いているじゃないですか。それでもあれ?と思ったときに、イヤホンを外す。
そこで、自分のお気に入りの曲ではなく、私が歌っている歌を聴いてくれているんだ!という喜びが出るのかなと思ったので、気に入っているフレーズです。
――せっかく人に届く歌を歌えていたのに、聴きに来てくれていた子が来なくなってしまったのはなぜなのかなと思って……。
楠木:「narrow」の中で主人公は、この人のために歌いたい!と思うようになるんですけど、そこに依存しちゃう部分も見えてしまったというか……。そこで「僕見る」の主人公が来なくなってしまったときに、自分がもっと成長して、その人がイヤホンで聴く音楽になりたいと考えるようになるんです。それもあって、〈何度も見せてくれた イヤホン外す仕草 もう見なくていいように〉で締めくくっているんです。
――なるほど。ちょっと鳥肌が立ちました。この子はここでもう一段階成長するんですね。
楠木:あえて切ないワードを選んで書いたので、完全にお別れエンドだと思って聴く人が多い気はしますけど、実は、そういう意味を込めているので、いつかイヤホン越しに出会いたい!ということでした。
――また「僕見る」の子もどこか旅をしているのかもしれないし。
楠木:来なくなってしまった理由もちゃんと考えているんですけど、そこは「僕見る」を聴いてもらえば、少し読み取れるかもしれないです(笑)。
――改めて歌詞をじっくり見ながら聴きたくなりますね(笑)。
楠木:だからこれをきっかけに、1stEPもまた聴いていただければ嬉しいです。
――そういう意味でも、ものすごく良いアイディアですね。歌の主人公同士が出会うだけでもワクワクしますし、いつまでも曲が色褪せないですし。
楠木:そもそもこれはレーベルの方からご提案いただいたことなんですよ。リリックビデオで、ひとりひとりのキャラクターデザインもしっかりあったし歌詞にもストーリー性があるから、そこを繋げていったり、一人をもっと広げていったりしたらどうですか?と。
私もだんだん自分の考えだけで曲を書くのに限界ではないけど、内容がかぶってきてしまうなと思い始めていたので、それはいいアイディアだと思いました。
――確かに自分の内面だけ描いても、考え方って、実はそこまで大きく変わらないものですからね。
楠木:筆が乗らなかったりもしてしまうけど、よく漫画家さんがキャラが勝手に動くんですって言うじゃないですか。それと同じで、キャラクターが頭にいると勝手に映像が浮かぶし、そこから曲も作れるので、新たなやり方として「良いな!」と思いました。
――そこに自分の思いやメッセージを少し乗せていけばいいですし、物語もどんどん広がっていくのですごく楽しいです。アレンジが重永亮介さんというのも繋がりがありますね。
楠木:そうですね。「ロマンロン」「僕見る」の編曲をしていただいているので、重永さんにお願いさせていただきたいと思いました。ですので実際に繋がりを感じる要素も入れてもらっています。
それと、クリスマスソングまでは行きたくないけど、冬のサウンド感や切なさ、それとちょっと風が吹いている感じや温度感がわかるようなアレンジにしてほしい……でも私らしさも失いたくないんです!と、難しいお願いをしたんですけど(笑)。重永さんなら、楠木ともりらしさを作り上げてくれるんじゃないかと思いました。
――クリスマスソングまでは行きたくないというところも、若干楠木さんらしさな気はしますが、本当にクリスマスまで行かない、ちょうどいい12月感があるんですよね。
楠木:クリスマスまでいくとハッピーすぎる感じがしたので、今回のテーマには合わない気がしたんです。
――確かに。イントロでうっすらシャンシャン鳴っているくらいが丁度いい。
楠木:私、自分の誕生日があるからというのもあって、クリスマスの直前が好きなんですよ。みんなが浮足立っているけど、まだ年末の忙しさもあるから浮かれきれていない、あのちょっと切ない空気感が好きで、それをそのまま曲に表現して頂きました。
――見事に要望に沿ったアレンジだったと思うのですが、リテイクなどのやり取りもあったのですか?
楠木:最初はもう少し展開が多くて、それこそ楠木ともりらしさというか、複雑な感じにしていただいていたんです。ただ今回は、表題曲を作る気持ちで曲を書いていたので、キャッチーというか、今まで以上にいろいろな人に聴いてもらえる曲にしたいと思って、「もう少しシンプルでいいかもしれないです」というお話をしました。
――MVも見させていただきましたが、楠木さんはソファでよく歌っていますね(笑)。
楠木:確かに!ソファでどう歌うかは分かってきました(笑)。今回は部屋で主人公を演じているわけではないんですけど、象徴するような形で部屋の中と外で歌いました。
――空が狭い街っていうと新宿か下北沢あたりなのかな?と思ったのですが。
楠木:頭に浮かんでいたのはバスタ新宿前あたりの道だったので、MVも実際に新宿で撮っています。監督にも具体的にイメージしている場所があるのかを質問されたので「新宿です」と答えました。