音楽
声優・アーティスト 羽多野渉 音楽活動10周年記念インタビュー【第2回】

アーティストではなく、職人になりたかった。今でも「勘違いしないように」を心がけて――羽多野渉さん音楽活動10周年記念連載企画『Wataru’s Music Cafe』Part,2「Artist Road」編

「ハートシグナル」ではアコースティックライブで新たな発見も

――他にターニングポイントになった曲はありますか?

羽多野:あと「ハートシグナル」(TVアニメ『ひとりじめマイヒーロー』OP曲)は「You Only Live Once」で、彦田さんと出会っていなければ生まれていない曲ですし、皆さんに愛していただいている楽曲の1つです。

今年の3月に行われた『Wataru Hatano Live 2021 -Thanks-』という初めてのアコースティックライブでは、アコースティックバージョンの「ハートシグナル」を歌わせていただきました。リズミカルな楽曲なので、今までは踊りながら歌っていましたが、しっとりじっくり歌う「ハートシグナル」も気持ちよくて。クラブサウンドっぽい楽曲をアコースティックアレンジにするとこういう味わいが出るんだという発見がありました。

「はじまりの日に」と「流星飛行」のMVの爆笑エピソードとは?

――リリースのたびにMVが制作されていますが、特に印象に残っているMVも教えてください。

羽多野:毎回、挑戦しているし、何かが起きるので、どれも思い出に残っているんですけど、一番挑戦したり、対峙したりすることが多かったのは「寒さ」かな。

――そういえばなぜか冬のリリースが多いですよね。Mr.Winterの称号を授けたいです(笑)。

羽多野:だから必然的に寒い時に撮影することになるんですよね。唯一のサマーチューン「Never End!Summer!」は『おれサマー』出演のために特別に作った曲で、配信は秋でしたが、CDは冬にリリースしたし(笑)。

デビュー曲の「はじまりの日に」も冬撮影で、映画の予告編のようなショートムービー風のMVにしようという試みでしたが、撮影の前日まで、『神☆ヴォイス』という声優をテーマにした実写映画の撮影をしていて、ハードスケジュールだったことを覚えています。早朝に公園のジャングルジムの上で、僕は生死を超越した存在として、天使の羽を背負って立つシーンを撮影していたら、犬の散歩をしていたおじいちゃんが遠くですごくビックリした顔をしていたのが忘れられなくて。目線もバッチリあってしまいました。

――あんなに泣けるMVなのに?(笑)

羽多野:MVを見てくれた声優仲間からは「このMVはつらすぎるだろう?」と言われました。デビュー曲のMVなのにすごく悲しいストーリーで(笑)。でもこういうお芝居感を最初に入れていただいたことで、その後のいろいろな撮影でも自分がおもしろいと思えるところを入れていただけるようになりました。

「流星飛行」では、当時の声優アーティストのMVでは珍しい入浴シーンがあったり、屋根の上で歌ったり、軽トラックの荷台でリップシンクを撮影したり。撮影クルーの方からは「私もスタッフ歴は長いんですけど、軽トラの上でリップシンクは初めてですね」と言われたことを覚えています。

個人的に印象深いのは、MV撮影の裏側を撮影するスタッフさんが軽トラックの急発進にあわてたのか、全速力で軽トラを追いかけたら転んでしまって、一眼レフカメラがぐちゃぐちゃになって。まだ1枚も撮影していないのに。それを目の当たりにしながらリップシンクしなければいけなかったので、心配だけどリアクションもとれないし。そのまま田んぼのあぜ道の中で「流星飛行」を歌っていました(笑)。

「君は僕の帰る場所」や「Never be too late」では事務所の後輩たちとの共演も

――さわやかで郷愁を誘う映像の裏ではそんなことが(笑)。

羽多野:現場でしか起こらないことが楽しくて楽しくて。「君は僕の帰る場所」は、「はじまりの日に」と地続きのストーリーになっていますが、当時まだデビューしたての斉藤壮馬くんや西山宏太朗くん、米内佑希くん、上田麗奈さん、田中あいみさんなどがMV撮影の現場に応援に来てくれて、通行人役をしてくれたりして。81プロデュースの養成所にいる時でも先輩の仕事に参加できるチャンスがあると知ってもらえたことは大きかったし、出演してくれたみんながそれぞれ、音楽活動したり、自由に表現をしていることやその時の昔話をしても覚えてくれていることも嬉しいです。

「Never be too late」(ミニアルバム『キャラバンはフィリアを奏でる』収録曲、MVは『Wataru Hatano Music Clips 2011-2016』に収録)でも事務所の新人や養成所から50人近くが来てくれて一緒に踊ってくれて。その後の現場で、初めましてのつもりであいさつをした子が「昔、MVに出させていただいて、それ以来なのでお会いできて嬉しいです」と言ってくれたりして。MV撮影から事務所の後輩との縁が生まれたり、再会できて素敵なことだなと思います。

「Hikari」のMV撮影では「おじバン」が誕生!?  「You Only Live Once」はトラブルが奇跡的な映像美に!?

――MV撮影で大変だった想い出は?

羽多野:「Hikari」は大変でしたね。今ではドローン撮影は珍しくないけど、当時のドローンは大きくて、プロペラも大きかったので、倉庫内の砂ぼこりや塵が舞い上がって。その中でバンドさんたちとパフォマンスシーンを撮影したので、かなり迫力がある映像になりました。また自分が歌っていない間奏中にヘッドバンギングをしていますが、ロックにはヘドバンという文化があると知って、前日にヘドバンの動画を検索してから臨みました。自分では「これがヘドバンだ!」と誇らしげにやっていたら、映像を見るとどう見てもおじぎにしか見えなくて、羽多野のヘドバンは「おじバン」だと。「何であんなに直角になるの?」と大いにイジられました。たまたま見たバンドの映像がそうだったからマネしただけなのに。

――「覚醒のAir」ではゴシックなセットで、映像の中で『Dance with Devils』で演じていたリンドに扮したシーンもありましたよね。あと「You Only Live Once」もパーカーを着た無表情の羽多野さんがストリートっぽい街中を歩きつつ、女性のアイススケーターが映ったり、未来っぽい情景が出てきたり、不思議な映像でした。

羽多野:このMVからずっと同じ監督に撮影していただいて、大きな出会いの1つです。あと「You Only Live Once」ではいろいろなトラブルが起きました(笑)。開放的なシーンを撮影するはずが土砂降りの雨が降ってきて、別日に変更もできず、急きょ高架下に移動したらできていた水たまりがすごく美して、その水たまり越しに僕を撮影してくれました。

また今は再開発されてガラりと姿を変えてしまった渋谷の宮下公園がまだ昔のままの時に歩きながらリップシンクをしていて。壁の落書きや石の階段を見ると懐かしさを感じたり。ピンチをチャンスに変えて、その瞬間にしかできない映像にしていただいて思い出深いです。

でもどのMVも撮影が順調だったり、楽だったことは一度もないし、裏話はたくさんあって。「ナニイロ」のMVもつい先日撮影したので、夜中まで話せますよ。ちょうど季節の移り変わりで、前日まで暖かかったのにこの日から急に寒くなって。少し遠出をしたら自然の猛威に……。

――「ナニイロ」のMVの話はまた後日に(笑)。

羽多野:わかりました(笑)。毎回、その作品に出会わなければできない経験をさせていただいています。

アーティスト活動での幸せは一番最初のリスナーになれること!?

――改めてアーティスト活動のおもろしさや難しさとは?

羽多野:おもしろさと難しさは表裏一体ですが、制作過程では難しさを感じることや苦しむことは多いですね。レコーディングではいかに楽曲を表現しようかとギリギリまで考えるし。でもレコーディング後、トラックダウンの作業にも毎回立ち合わせていただきますが、トラックダウン後の音楽データをいただいて、家の音響システムで1回通して聴くところまでがいつもの儀式で、一番最初のリスナーというぜいたくな時間を過ごしています。

完成した瞬間はいろいろな感謝の想いや音楽の楽しさを実感できる幸せな時間かもしれません。でもリリースされる前となると、例えば「Breakers」は発売よりもかなり前にレコーディングしているので、「大丈夫かな? 受け入れてもらえるかな?」と心配で。アニメの収録自体が放送の1年くらい前で、その時にレコーディングしていたので、だいぶ時差があるからドキドキしたし、怖くなってしまって。でも、ありがたいことに、温かいコメントが多くて、原作ファンやアニメをご覧になっていただいている方に喜んでいただけたようで良かったです。

あえて作詞や作曲をしないのは役者と同じように楽曲に向き合うため

――お話をうかがって、羽多野さんにとって、音楽活動もアニメと同じように、たくさんの方と1つの作品を作り上げていく感覚なんだなと思いました。

羽多野:そう思ってもらえたら幸せですね。今、アーティスト活動をしている声優さんは自分で作詞や作曲をされる方も多いんですけど、僕は作詞や作曲はやっていなくて。その理由は、僕たち役者は基本的に台本を書かないし、自分が演じたい役を演じることがないように、どんな楽曲やジャンルでも立ち向かっていきたい、表現したいんです。その楽しさはもし自分で作ってしまったら味わえないし、自分が得意なほうに寄せていったり、どこかで甘えも出てしまうかもしれない。

全然得意ではない、むしろ苦手な楽曲も今までありましたが、レコーディングして音のプロたちに仕上げていただいて、トラックダウンが終わった曲を聴くと「僕もこんな楽曲を歌えたんだ」と感動するし、毎回、新たな自分に出会わせてもらえたことへの感謝もあります。

――アーティスト活動の中での今後の目標はありますか?

羽多野:その質問にはいつも「次のシングルです」とお答えしていますが、「Breakers」の時は、「ナニイロ」の間隔が短すぎて、そうは言えなくて(笑)。大きな目標を立てるのではなく、1枚完成したら次の1枚ですね。それ以外の目標は長生きくらいしかありません(笑)。でも前にアルバムを出したのが2018年(2ndアルバム『Futuristic』)なので、そろそろアルバムも作れたらいいですね。『Futuristic』からここまでやってきて、この先への架け橋になるようなそんなアルバムができたら。特にこの間、コロナ渦をまたいでいるので、世界中の人の状況や考え方も変わってきたし、今立っている場所から見える景色やこれからの未来に関してのCDが作れたらいいなと思っています。それがアルバムならいいですね。その前に、まずは次の「ナニイロ」をお届けします。

(Part.3へ続く)

あなたにとって、歌、そして歌うこととは?

音楽情報

羽多野 渉「Breakers」

発売中
発売:エイベックス・ピクチャーズ

★アニメイト特典:アーティストブロマイド
※特典は無くなり次第、終了とさせて頂きます。ご了承下さい。

【アーティスト盤(CD+BD) 2,530円(税込)】

 

【アニメ盤(CD) 1,320円(税込)】

 

ライブ情報

『Wataru Hatano LIVE 2022 -colors-』

2022年3月13日(日)中野サンプラザ
14:00開場/14:45開演 
18:00開場/18:45開演
全席指定9,800円(税込)

◆チケット先行販売中!詳しくは公式サイトをチェック!

羽多野 渉アーティスト公式サイト
羽多野 渉アーティスト公式Twitter

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