この記事をかいた人
- 阿部裕華
- アニメ・音楽・映画・漫画・商業BLを愛するインタビューライター
阿部:今日の講義はいかがでしたか?
石橋:僕が話す隙がないくらい、みなさんの熱量がハンパなかったです(笑)。本当に好きで作品をつくられているんだなと感じました。特に統括の鹿さんのイズムがみなさんに継承されているんだと思うほど、鹿さんのパワーがすごかった!
今回の講義の中で鹿さんは何度も「偶然」「ミラクル」と仰っていたんですよ。決め過ぎずにつくり手たちが起こす奇跡を信じているから、結果的に凄まじい化学反応の起こる作品が生まれるのだろうなと。コストの制限内の中でギリギリ頑張って自由にアイデアで攻めていこうという姿勢、自分の好きを発信していく姿勢、そんな風通しの良さが魅力的な作品を生んでいるんだなぁと思いましたね。
阿部:強制ではなく、あくまでも個人のこだわりに任せているところがポイントですよね。
石橋:そうそう。自分が思う良さはこうだけど、あなたが思っている良さもいいね!みたいな感じで、BLというジャンルの中で多様性を認めている。だから魅力的な作品が多い理由なんでしょうね。
阿部:一方で、とらわれていないからこそヒットを出すのってすごく難しいと思うんですよ。それなのに、これだけいろんな作品でヒットを出しているのは、編集者さん・作家さん・デザイナーさん関係者すべての信頼関係が構築されている証拠じゃないですか。何よりみなさんは「読者を喜ばせる」という一つのゴールに向かって突き進んでいる。いい関係性の中で一緒にゴールへ向かっているから、素晴らしい作品を生み出せるのだろうなと感じました。
あと、私自身BLの好みが偏っているので、もう少しいろいろ読まないとなと思っていたのですが、今回お話を聞いていて突き詰めるのも悪くないんだ!とも思いました。たくさん刺激を受けた講義でした!
石橋:本当に刺激的だった! ちなみに今回の宿題は「on BLUE」「from RED」から気になる作品を選んでレビューを書きますね!
阿部:楽しみにしています〜!
実際の漫画編集をされているみなさんの紹介とあって、作品を見る視点も専門的だし、チョイスも絶妙だし、何よりお話が面白すぎました!「BL塾」では毎回の連載で石橋のレビューを最後にお届けしていますが、今回ばかしはレビューする作品を選ぶのが難しいところ……。
みなさんのお話を何度も思い出しながら、あーでもないこーでもないと頭を抱えながら、嬉しい悲鳴をあげながら、なんとか4つの作品をチョイスしました! まず先に言っておくと、どれもめっちゃ面白いですよぉ……! みなさんもレビューを参考に「on BLUE」「from RED」の魅力に触れてみてくださいね。
BL×ファンタジーってどうなるの? と思っていましたが、これは……アリです。
とある島を舞台に描かれる不思議な物語。主人公の少年アルトが住む島の住人は、一見普通の牧歌的で平和な生活を営んでいます。
しかし、その生活の裏には文字通り“闇”が潜んでいました。夜な夜な海が黒く染まり、そこから謎の影たちが押し寄せ、人間を海に引きずり込んでいくのです。
その影から島民を守っているのが“覡(かんなぎ)”と呼ばれる者たち。彼らは額に謎の文様が浮かび上がり、髪は白、そして年を取ることはありませんが、影を倒せば倒すほど墨痣(ぼくし)で体が黒く染まっていき、やがて死を迎えます。その異様な姿から島民たちに恐れられながらも、ひっそりと暮らしながら夜になれば島民たちのために暗い海辺に繰り出していくのです。
なんたる壮絶なストーリー……。現代を描いた作品ばかり読んでいた僕からすると、「ほんとにこれがBLになるのか……?」と思うくらいに重厚なストーリーです。でもみなさん、安心してください。これもBLなんすわぁ……!
覡のエルヴァは、覡という謎のしきたりに疑問を持ちながらも戦いに明け暮れる日々。絶望しかない日々で、あるとき、少年・アルトと出会うことになります。
アルトは持ち前の無邪気さや好奇心もあって周囲の人間が寄り付かないエルヴァに懐き、やがてエルヴァを支えるため、共同生活を送ることに。そして、物語が動き出すのは、ふたりが出会って8年が過ぎたときです。
なんと数年の命のはずだったエルヴァはまだ生きており、アルトは立派な青年に。どうやらエルヴァの体中を覆っていた墨痣は、アルトと一緒にいると拡がりが抑えられるようなのです。
なんたるファンタジーBL……! 設定とBLが上手く噛み合った瞬間を垣間見た僕は、「ははーん! なるほどね!」とガッテンしました。
しかもアルトは献身的なワンコ攻めで、エルヴァはクールだけどどこかアルトに依存しているようにも見える受けというカップリング。この組み合わせがたまらないったらありゃしない。
アルトはエルヴァのことが好き好き〜! という感じで一緒にいるのですが、エルヴァはそんなアルトに対していろいろな複雑な感情を持っています。墨痣を解消してくれる存在でもあり、一緒にいて楽しいが自分は年をとらない。
そう、普通の人間と覡という、存在自体が違う者どうしでの感情のギャップがあるのです。このすれ違いがなんとももどかしい……! 早くくっついてほしいけど、世界の在り方がふたりの関係を邪魔しているのです。辛い。辛すぎます……! でもストーリーが面白すぎる!
しかも本作は、まだまだ絶賛連載中でして、今回ご紹介した内容も1巻の前半部分でしかありません。この先はいったいどうなっちゃうの〜〜〜〜〜! 続きが気になる方はぜひ単行本&「from RED」本誌をチェック!
かっこよくて、不器用で、時にはずるいほどの強引さを見せる。そんな大人の恋愛がここにありました。
続いてご紹介する『悪人の躾け方』は、こちらも初めて読んだ攻め×攻めという個人的新ジャンル! 攻めが受けになるってどういうこと……? と思いましたが読んで納得です。
大手不動産会社の社長である雨津木正継(うつぎまさつぐ)は富も名声も手に入れた、まさに絵に描いたような典型的なスパダリ系の攻め(バリタチ)。愛人の若い男との不倫が発覚し、妻との離婚に至るほどお盛んなようで(妻との関係も冷え切っていた様子?)、離婚してもなんのそのといった様子です。
しかし、そんな雨津木にも弱点がありました。それが雨津木のビルで働く清掃員である針間一郎(はりまいちろう)です。
いつものように男を引っ掛けに行った雨津木は、従順そうな針間に声をかけ、ホテルに連れ込みます。ルーチンワークのように攻めようとしたその時、針間から衝撃的な一言が。
「当然自分が犯す側だって思ってるんですね」
そうしてすっかり犯されてしまった雨津木は、文句を言いながらも体が針間を求めてしまう受けになってしまったのです……! 針間、恐ろしい子……!
雨津木はあの手この手で針間から距離を取ろうとしますが、針間がそのさらなる上の行動力でいつも現れ、そして最終的には抱かれてしまうというほだされっぷり!「やっぱりこいつに抱かれるのは最低最悪だ」と思いながらも体は正直なのです。
そんな感じで終始、雨津木と針間の攻防戦が繰り広げられる本作。ふたりのいたちごっこも十分に面白いのですが、個人的に推したいのは攻めの針間です。
表面上は嫌がる雨津木を強引に丸め込み、すぐに入れてしまう針間。空気の読めない快楽主義なのかなと思わせつつ、その後のフォローがイケメンすぎるのです……! 雨津木が起きたら朝ごはんを
作ってくれていたり、部屋が片付けてあったり、体調が悪くなったら家まで送ってくれたり……。献身的すぎてダメンズ製造機になりそうなくらいの尽くしっぷりです。でもかっこいいからヨシ!
ちなみに本作は前日譚となる『ロンリープレイグラウンド』のスピンオフ作品となっています。『ロンリープレイグラウンド』では、バリタチ時代の雨津木と不倫相手の関係性も描かれているそう……! ぜひこちらもチェックを〜!
実写化も行われ話題になっていた『ポルノグラファー』。しかも黒髪メガネ受けということもあってこれは読まざるを得ません!
自転車事故を起こしてしまい、男性の腕を骨折させてしまった大学生・久住(攻め)。木島(受け)と名乗る男性は、骨折のために小説家の仕事ができないとあって、久住に代筆の手伝いを頼みます。久住は慰謝料を払えるお金もなく、願ってもない申し入れ。
申し訳ない気持ちと小説家の仕事の手伝いができるという稀有な体験に浮足立ちながら木島の家に行くことになった久住ですが、そこで衝撃を受けるのでした。
「光彦の唾液と自らの分泌物でぐっしょりとなった秘所に指をあてがい、見せつけるように割り開いた」
なんと木島は小説家ではありますが、官能小説家だったのです! 艶めかしく、生生しい表現で小説の内容を朗読していく木島の姿に久住は気づけば悶々としてしまっていたのでした。しかし、仕事が進むにつれ、徐々に木島に興味を持った久住は、木島の作品を借りてみることに。そして、徐々に木島の作品にハマっていき、ついには木島のエロい妄想まで思い浮かぶようになってしまいます。
そんな不思議なお手伝いの日々が続いたある日、いつものように仕事の手伝いをしていると、木島の作品を読んでいたこともあってか、いつも以上に妄想がはかどってしまう久住。気づけば机の下は完勃ち状態。
「ねぇ 勃ってるよ」
ハッと我に返り木島の顔を見る久住。しかし、それは久住に向けられた言葉ではなく、小説の登場人物の台詞だったのです。ここからふたりの関係がエスカレートしていき……。
といった具合に、『ポルノグラファー』自体も官能小説のようなノリで物語が進んでいきます。なんて破廉恥なんでしょう……! 僕は、中学生男子のころ、父親の本棚の奥に隠されていた官能小説を読んだことを思い出してしまいました。
この木島という男がなんともずるい&魅力的なキャラクターで、大人の余裕さを巧みに使い、久住を誘惑していきます。こんな人がいたら性癖が歪んじゃう……! でもそれは甘美な誘惑なのです。抗いようなんてあるわけない!
しかし、この木島にはいろいろと秘密が隠されており、その秘密が明らかになっていくと物語が急加速していきます。物語の終盤は手に汗握ること間違いなし! こんな二面性を持った男なんて、好きになっちゃうじゃないか!
いろんな意味でこれまで体験したことがなく、新しい開けてはならない大人の扉を開けたような、それもまた楽しめちゃうような、ビター&スイートな作品でした。これはおすすめです!
これまた異色のBLです! 邪馬台国の卑弥呼が男だったら……? というなんと歴史if系BLということで、まったく内容の想像がつきません。いったい、どんなお話なのでしょうか。
時は邪馬台国が存在していた古代日本。邪馬台国を統べる女王・卑弥呼の元には1000人の侍女がいましたが、宮中にただひとりの男性従者がいました。その名をヤマト。
もともとヤマトは幼少時代、仲の良かった幼馴染・シキが儀式の生贄になったことで自暴自棄になっており生きる気力を失っていた少年でした。
その儀式から10年後。偶然にも森の中で再会したのはなんとシキ。しかし、そのシキこそが邪馬台国の女王である卑弥呼だと彼は話します。混乱するヤマトは「村に戻ってこい!」と説得しますが、シキは「二度と俺の前に現れるな」と忠告するのでした。
ヤマトはシキと卑弥呼の真実を確かめるために行動をはじめます。努力が実りやっとのことで卑弥呼との謁見に成功することができたヤマトですが、そこには衝撃的な事実が待ち受けているのでした……。
おいおいおい、大河ドラマか、これ?と思った方も少なくないでしょう。僕もそう思いました。設定や世界観がとんでもなく練られており、物語として十分すぎるほどに面白すぎます! 歴史ものの作品が好きな人にはたまらない内容で、本書の最後に設定資料が少し載っているのですが、細かいところまでしっかりと描かれていて隅々まで楽しめてしまいます。
歴史の授業で教わったような魏志倭人伝のエピソードや当時の人々の暮らしぶり、衣服や食べ物に至るまで、当時の様子を物語に落とし込んでいるからこそ、僕たちが受け取る感動がよりリアルになるような気がしています。
なにより、絵が大変素晴らしく、ヤマトはイケメン、シキは美しく描かれているので眼福眼福……。ふたりがまぐわうシーンももちろん描かれていて、ピュアピュアな感じがたまりません。美しい感じのエロ。拝みたくなる美しさです。卑弥呼ということもあって、気高い系の受けが好きな方は間違いなくハマることでしょう。
シキがまた、ツンだったのに徐々にヤマトのことを我慢できなくなるのもエッチくて素敵。体が反応しちゃうのはBLおなじみの良さなのかもしれませんね。体の描き方もエロい。ただただエロい。
あまり話しすぎるとネタバレになりそうなのでここまで! あまりないジャンルの作品だからこそ読んでいない方もいらっしゃるかもしれませんが、これは騙されたと思って読んでみてください! ぜったい後悔はさせません!
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アニメ・音楽・映画・漫画・商業BLを愛するインタビューライター。Webメディアのディレクター・編集を経て、フリーライターとしてエンタメ・ビジネス領域で活動。共著「BL塾 ボーイズラブのこと、もっと知ってみませんか?」発売中。