今年のBLは何があった?「BL定着期」の2021年を総まとめしてみた!の巻 【アニメイト編集部BL塾・応用編】
BLジャンルのさらなる可能性
阿部:そんな盛り上がりを見せているBLの中でも、さらに盛り上がりを見せていたと感じるジャンルについてお話していきます。
石橋:いろいろ気になるワードがありますね……。「ファンタジーBL」はアニメの話題が絶えないんですね!
阿部:王道の「学園BL」「大人BL」は引き続き人気なのですが、「ファンタジーBL」は今年よく見かけたなという印象があります。例えば、『魔王イブロギアに身を捧げよ(※3)』のアニメが7月に放送。マンガ『森のくまさん、冬眠中。(※4)』という「ケモミミファンタジーBL」のアニメ化も決定しています。
※3:魔王イブロギアに身を捧げよ
彗星社にて発売された梶原伊緒先生の漫画作品。社会のはぐれ者・牛頭利晃は撃ち殺され、ゲームの世界に転生してしまう。そこで憧れ続けていたゲームのラスボス・魔王イブロギアと出会う。
※4:森のくまさん、冬眠中。
彗星社にて発売されたハルチカ先生のマンガ作品。乳離れできないワンコのアイリと親バカなのんびりクマさんのノアのハートフルなケモミミBL。
石橋:ケモミミファンタジーBL!? 気になる……。ファンタジーBLはアニメ化しやすいんですか?
阿部:2作品とも同じ「スクリーモ(彗星社)」という電子書籍レーベルから出版されていて、書籍販売と同時にドラマCD化⇒アニメ制作という流れなんですよ。もしかしたらメディアミックス化しやすい設定でマンガをつくっているのかなと考えています。ちなみに、2020年に放送されたアニメ『巨人族の花嫁(※5)』もこちらのレーベルが出版しています。
※5:巨人族の花嫁
彗星社にて発売されたITKZ先生の漫画作品。自慰をしている最中、異世界に飛ばされた男子高校生の晃一。飛ばされたのは人間より遥かに大きい種族・巨人が住む国。そこで出会った巨人族の第一王子・カイウスから「我が花嫁となり、私の子を産んでほしい」とプロポーズされてしまう。
石橋:なるほどなぁ。異世界モノやファンタジーモノはBLに限らずアニメになっていますし、メディアミックス化しやすい傾向があるのかもしれませんね。
阿部:ストーリーの緩急も付けやすいですしね!
あとは、『魔道祖師(※6)』などの「中華BL」の流行も大きいかもしれません。ファンタジーBLに興味を持つ人が増えたり、各社が力を入れていたりする背景もあるのかなと思います。マンガより小説の方がファンタジーBLの先陣を切っているような気もしています。
※6:魔道祖師
中国のオンライン小説サイト「晋江文学城」にて連載されていた墨香銅臭さんの小説作品。妖魔、邪鬼などが登場する中国のファンタジー作品で、それらを退治する修行者の姿が描かれる。ドラマ、アニメ、ゲームと様々なメディアミックスも行っている。
石橋:前回のBL塾で今話題のファンタジーBL『夜明けの唄(※7)』を読みましたが、すごく面白くて。ファンタジーはお話や世界観に奥行きを持たせられますし、シリーズ化もしやすいんだろうなと感じました!
※7:夜明けの唄
シュークリームにて発売されたユノイチカ先生の漫画作品。健気に恋する忠犬ワンコと、無愛想な愛し下手の海の化け物と闘う巫女が紡ぐファンタジー・救済ロマンス。
阿部:それはすごくあると思います! これまでのBLは1冊完結ものの作品が多かったのですが、ファンタジーBLが増加することでシリーズものの作品も増える可能性はありそう。
石橋:「Dom/Sub ユニバース(※8)」は昨年の総まとめで「来年来る!」とお話していましたけど、やっぱり2021年は手探りながら作品が増えているんですね。
※8:Dom/Sub ユニバース
二次創作発祥の特殊設定。男女の性別以外に「Dom(支配欲の強い性)」「Sub(従属欲の強い性)」という第二の性があり、DomとSubがパートナー関係を結び「プレイ」という特殊なコミュニケーションを行うことで、さまざまな欲求を満たし合う。
阿部:単行本化されている作品は少ないのですが、電子書籍などで徐々に増えています。私もいくつか作品を読んでみたのですが、「オメガバース(※9)」同様に特殊設定ではあるもののSMに近しいジャンルなので、また違う楽しみ方ができるなという印象を受けました。
※9:オメガバース
二次創作発祥の特殊設定。男女の性別以外に「アルファ(α)」「ベータ(β)」「オメガ(Ω)」という第二の性を持つ。αとΩは「番」になることができ、Ωは「子を成す」ことが可能。
石橋:僕もセンセイから紹介された『プレイアフターコール(※10)』を読みましたが、すごく面白くて不思議な魅力がありました。オメガバースほど完全なファンタジーではない感じもしています。
※10:プレイアフターコール
一迅社にて刊行されたオオタコマメさんの漫画作品。第二の性にコンプレックスを抱く男子高生二人がひょんなことからパートナー関係を結ぶことに。パートナーと恋人の狭間で揺れる青春の「DomSubユニバース」作品。
阿部:オメガバースは身体的な差が描かれますけど、Dom/Subは身体的な差はなくメンタル面で差を描いているので、そこは大きく違いますよね。
石橋:たしかに! SMってニッチなジャンルではあるものの需要はかなりあるので、Dom/Subが流行るのも分かるなぁ……。
阿部:作者さんによってはガッツリSMに寄せる方もいれば、私が紹介した『プレイアフターコール』のようにライトな作品もあるので、ひとくくりにできない面白さがあります。引き続き注目していきたいと思います!
石橋:ですね!
そして、次のジャンルがすごく気になっていて……「ライトBL」って初めて聞きました。
阿部:今までも性描写のない作品はありましたが、最近は如実に性描写なし、あっても匂わせる程度、もしくはキスシーンなしの作品が増えていると感じます。
石橋:完全にストーリー重視ということですね。なぜ最近になって増えてきたのでしょうか?
阿部:個人的見解ですが一つ考えられるのは「実写BLドラマの流行」かなと。実写ドラマは基本的に性描写はありませんが、ここまでの人気が出ています。これまで性描写があってBLに手を出しづらいと思ってきた人がドラマにハマる傾向もありました。そういった人たちをターゲットにライトなコンテンツをつくっているのではないかと考えています。
石橋:なるほどな〜! 2020年はタイBLも日本の実写ドラマも本当に人気でしたし、その流れから来ているのは納得です。
阿部:そんな流れを受けてか、電子書籍でお馴染みの「BookLive」では2021年9月にブロマンス・ニアBL・ライトBLなどをテーマにした新雑誌『キミトワ』を創刊しました。
また、「ジーンピクシブシリーズ」「リラクトコミックス Hugピクシブシリーズ」などpixivを活用した女性向け電子レーベルで人気を集めている作品が多数あります。2022年にアニメ化が決定している『佐々木と宮野(※11)』もその一つです。
※11:佐々木と宮野
ジーンピクシブにて連載中の春園ショウ先生の漫画作品。女顔がコンプレックスな宮野と、少し不良な先輩の佐々木を中心に男子高校生の日常生活が描かれる。
石橋:『佐々木と宮野』はアニメ化がすごく話題になりましたよね! 「ファンタジーBL」「ライトBL」の流行を考えると、今年はストーリー重視の作品が人気だったんだなと思いました。
最後に「オンラインBL」なる新しいワードも……!
阿部:例えば、私が今年購入した作品だとエロ配信者のキャラクターが登場する『ひとりえっちオンライン(※12)』や自分の際どい写真をSNSに投稿する『やらしい裏アカくんはさみしがり(※13)』といった作品がありました。
※12:ひとりえっちオンライン
Jパブリッシングにて発売されためがね先生の漫画作品。明るく社交的なカフェ店員・桐谷隼人が見ていたエロ動画配信者が、実は同じカフェで働く年下の先輩・間宮律だったことから始まるラブエロコメディ。
※13:やらしい裏アカくんはさみしがり
KADOKAWAにて発売されたよした先生の漫画作品。裏アカに自分の際どい写真をアップしている地味な引きこもりのはじめ。裏アカで親しくなった人とオフで会うことになったのだが、待ち合わせ場所に来たのは超絶イケメンのアイドル・歩だった。
阿部:「オンラインBL」は私が勝手に名付けただけですが……(笑)。
石橋:ははは(笑)。でも説明を読んで、なるほど!と思いました。こういう設定が注目されるのは本当にイマドキ!
阿部:BLに限らず、TL系の作品でもこういった設定は増えてきている印象があります。流行を押さえることで読者の共感や理解も深まりますしね。
石橋:BLがキッカケでいろんなジャンルにハマれそうですね。いや〜、面白い!