太宰治にとって織田作之助は“生きる意味”|映画『文豪ストレイドッグス BEAST』谷口賢志さん&田淵累生さんインタビュー
感情が入り乱れすぎた「ルパン」のシーン
ーー舞台を経ての映画化となりますが、今回新たにチャレンジしたことはありますか?
田淵:(満面の笑みで)すべてですよね!
谷口:うんうん(笑)
田淵:「DEAD APPLE」のときはミステリアスな一面が強くあったり明確な目的を持っていなかったりしていた太宰が、今回は“織田作之助を生きさせるためのifの世界線”ということもあって目的がハッキリしていました。
あと、僕自身、映像作品の経験がほとんどないので、そこも新たな挑戦でしたし、ポートマフィアの首領という立ち位置も本来は森(鴎外)さんのものだったこともあって、太宰自身が森さんを通して見てきた首領像がこの作品での太宰につながっていることを意識しました。
谷口:正直、僕はどこまで本当の人間にできるのかが勝負だと思っていて。舞台だと観ている人に想像力を使ってもらうために、キャラクターを少し上乗せしています。
アニメや漫画っぽさを残しつつ、本当に生きている人間が演じるからこその良さを舞台は求められますが、映像になると具現化されていることが多いのでより引き算のお芝居をしていかないと、ただアニメキャラクターっぽいことをやっている人が出てくるだけになるんです。
でも、それを引きすぎると“織田はこうじゃない”となってしまうので、本当に生きている織田にできるのか、そのリアリティーの線引きという意味での勝負がみんなにあったと思います。
そういう意味で、僕自身、地毛で織田を演じたいというこだわりがありました。織田そのままに髪を切ってもらったり赤味を入れたりしたので、ほかの舞台に出ているときはバレないようにずっと帽子を被ったり、外に出られませんでした(笑)
田淵:(笑)
谷口:自分としては地毛でやるというところも含め、ヨコハマで生きている人たちが本当にいるんだと思ってもらえるためにはどうすればいいのか常に考えて挑戦していましたし、祥平ともそういう話をしていました。
それにしても、あの髪型で普通にそこで生きていると思える祥平の演技は本当にすごいなと。累生も包帯ぐるぐる巻きなのに、生きているお芝居をしていてすごかったです。キャストはもちろん、監督自信も大きな挑戦だったんじゃないかなと思います。
ーーご自身、特に力を入れたシーンはどこでしょう?
田淵:僕はやっぱりルパンのシーンです。
谷口:そうだね~。あのシーンは特に時間がかかったからね。この言葉を使っていいかわからないけど、途中気が狂いそうになったもん。
田淵:わかります!
谷口:12時間ぐらいずっとルパンの中にいたよね?
田淵:そのくらいいました。
谷口:ずっと同じセリフを言い合って、最後には「俺何やってんだろう?」ってなったもん。
田淵:ルパンのシーンは感情が入り乱れすぎて、記憶が途切れ途切れになっていますよね。家に帰ってからも放心状態でずっとボーッとしていました。
谷口:僕もそうなってた。それだけ大切なシーンですし、あそこのシーンをやるためにみたいなところもあるから。
田淵:そうですね。本読みのときも“ここのシーンの出来によって、映画良し悪しが決まります”と言われました。
谷口:言われたね。プレッシャーをかけられていました(笑)
一同:(笑)
谷口:ひどいよねぇ~! 太宰になったばっかりなのにプレッシャーをかけられて(笑)「あっはい。お、お願いします……」ってなっていたもんなぁ。
田淵:すごいプレッシャーでしたね(笑)
谷口:今回はアクションも生身でやっていますが、正直、あんなに戦うとは思っていませんでした。現場に行ったら、その場でアクションをつけられてそのままやってくださいという勢いでやったのも挑戦でした。
ーー橋本さんと鳥越さんにインタビューさせていただいたときも、アクションが大変だったと同じことをおっしゃっていました。
谷口:やっぱりそうですよね。現場で「じゃあ谷口さん、とりあえずテーブルの上を飛んできて」と言われるんですよ? えっ僕、テーブルの上を飛ぶんですか!?って(笑)
田淵:(笑)
谷口:舞台は公演が続くので、できるだけケガをしないように作られる殺陣が多いですが、映画はその場の一発で終わりなので結構厳しいというか、ギリギリのところまでやるんですけど、それもすごく楽しかったです。
ーーお話を聞いていると、今このタイミングで、ifストーリーを映画として皆さんにお届けする意味があるんだと感じます。
谷口:そうですね。人生が変わる瞬間というものは、人間絶対あると思っていて、僕自身も「あの分岐点がなかったら役者になっていないな」と思うところがたくさんあります。その中でも、“小説”が僕の実生活の中でも大きな存在になっていて。
僕が役者を始めた頃、ずっと演技ができなくて怒られてばかりだったのが嫌だったんです。「どうしたら上手くなるんですか?」といろんな方に質問して「小説を読め」と言われて読み始めて。22歳の頃に初めて読んだ小説が「不夜城」でした。そこから小説が好きになっていろんな作品に出会い、考え方や人生が大きく変わりました。
特に、今回の「BEAST」は織田が小説を書けるために太宰が守り抜いてくれたifの世界。芥川が織田に、太宰が敦に出会っていたら……と人に出会うことで何かが変わるという意味では、物語の根底に小説が存在していることが面白いなと。
同時に、僕自身がそういう人生を歩んできたので、何で役者をやっているんだろう?と考えると、人の人生を変えたい、誰かに何かを繋げたいと30代後半から思うようになってきました。
織田作之助という役が大好きなのは、彼は自分の生き様をかけて太宰へと繋げているところなんです。「人は自分を救済する為に生きている。死ぬ間際に、それがわかるだろう」という言葉を残して死んでいく……僕の人生もそういう風に終われたら良いなという気持ちがあります。
だからこそ、今回の映画を観て人生が変わる人がいたら嬉しいです。今は2.5次元界や漫画・アニメの原作舞台が乱立していますが、その中でもここまで舞台を愛してくれて映画化まで広がっていくんだと。この業界自体をこの映画1本で変えたいとみんなで気合いを入れて作り上げたので、そういう思いが届いてくれたら……この「BEAST」で変わってくれたらなと図々しく思っています。
田淵:(聞き入っている様子で)……すごい。共感しかないです。
谷口:あはははは(笑)わかりみしかない?
田淵:それだけ1人1人が悩みを抱えつつも全力で生きているんだなと強く感じます。太宰でも人間味のある部分があったり、織田作之助のことがすごい大好きだったり、たとえ“if”だとしても、織田作之助が小説を書ける世界線を全力で作っているんだなと。
谷口:累生は舞台をやってからすぐの映画撮影だったからこそ、難しかったところがあると思います。あと、ファンの方もご存知の通り、多和田任益の太宰がめちゃくちゃ良かった。その後を引き継いだ累生のプレッシャーは半端じゃなかったと思うんです。
しかも「黒の時代」を経験していないのに、織田作之助とのifをやるという。映画を観てもらえればわかると思いますが、累生の太宰は大したものです。
ーー舞台上の太宰を演じる田淵さんに痺れましたが、今回の映画でもさらに心を動かされる太宰を魅せられました。
谷口:この前もこの話をしたんですけど、僕、元カノの話をする男が大嫌いで。(田淵さんの肩に手を置きながら)僕は“今の彼女”が最高だと思っていますし、累生と一緒に作り上げたifで良かったなと。
(どこか照れながらも嬉しそうな表情を見せる田淵さん)
谷口:もちろん、それぞれに良さはありますが、元カノの話ばかりする人たちを「どうだ!累生の太宰は最高だろ?」と今回は全員ギャフンと言わせたい気持ちがあります。そういう気概を入れて2人でやりました。