
野上武志×むらかわみちお×吉田創によるガルパンコミック作家座談会【前編】 今回は作家目線で『ガールズ&パンツァー 最終章』第3話を語る!
2021年12月24日(金)にブルーレイ&DVDが発売された『ガールズ&パンツァー 最終章』第3話。
血沸き肉躍る大洗女子学園vs知波単学園戦、継続高校の新たなる凄腕スナイパーの登場、そして次回が気になりすぎる終わり方など、今回もとてつもないクオリティとなった第3話を、すでにご自宅で何度もお楽しみいただいていることでしょう。
そこで今回もガルパンコミック作家の先生方にお集まりいただき、作家目線で語っていただく座談会を開催! なお、原稿作業で非常にお忙しい方ばかりのため、今回は奇跡的にスケジュールが合った3名の先生で進めさせていただきます。
【前編】では、場面写真を見ながらガルパンコミック作家ならではの視点で第3話を語りまくり! とりわけ『樅の木と鉄の羽の魔女』にて、ガルパン世界の“魔女”を描いているむらかわみちお先生は、本編に“魔女”が登場した点に着目。興味深いコメントとなっています。
前回のガルパンコミック作家座談会の記事も参照しつつ、たっぷりとお楽しみください!
野上武志×才谷屋龍一×伊能高史×葉来緑×むらかわみちお×吉田創によるガルパンコミック作家座談会! まずは『ガールズ&パンツァー 最終章』第2話を語る!【前編】
野上武志×才谷屋龍一×伊能高史×葉来緑×むらかわみちお×吉田創によるガルパンコミック作家座談会! 作家の挑戦と作品の懐の深さで築かれた、これがガルパンコミック史!【中編】
野上武志×才谷屋龍一×伊能高史×葉来緑×むらかわみちお×吉田創によるガルパンコミック作家座談会! より強く作家性を発揮できるようになったガルパンコミックの最新事情!【後編】
画像左:野上武志(のがみ たけし)先生
『ガールズ&パンツァー リボンの武者』
画像中央:むらかわみちお先生
『ガールズ&パンツァー 樅の木と鉄の羽の魔女』
画像右:吉田創(よしだ はじめ)先生
『ガールズ&パンツァー プラウダ戦記』
知波単戦の最後のめまぐるしく展開が変わる数十秒は、ガルパンというアニメでやってきたことの集大成ですよ(野上)
――まずは第3話のイチ押しシーンからお聞かせください。
野上武志先生(以下、野上):やっぱりラストの長距離射撃ですね。「さぁこれからどうなるんだろう」感満載で。
むらかわみちお先生(以下、むらかわ):あれはいいですよね。要は知波単がやろうと思ったことを、いきなりやったわけで、唖然としました。
――続いてむらかわ先生、お願いします。
むらかわ:某ロボットアニメのお手伝いをしている漫画家のむらかわみちおです。某ロボットアニメのお手伝いをしているがために、連載を延び延びにしておりまして、大変深く反省をしております。
吉田創先生(以下、吉田):早く帰ってこーい!
むらかわ:というわけで、第3話は野上さんが言ったところもいいなと思っていたんですけど、自分的には「魔女なの!?」っていうところが一番ショッキングですね。
自分のマンガ『樅の木と鉄の羽の魔女』も“魔女”と付くように、魔女っ娘のお話ですので「おー、魔女っ娘出るやん」と思って。(映像作品には)魔女は出ないものだと思って、うちで引き受けてるのかなと思っていたから、はてさてこれはどうしたものかと。
ヨーロッパにおける魔女というものにはいろんな定義がありまして、そのどの筋道を採った魔女なんだろうというのが多分これから明らかになるだろうという意味でも、期待が高まるところです。
▲継続高校の「白い魔女」と呼ばれる狙撃手ヨウコ。ジャケットやキャップがムービックからさっそく商品化・発売されるなど、早くも人気爆発しそうな予感――それでは吉田先生、お願いします。
吉田:みんな長距離射撃のこと言ってるからなぁ。本当は最初のサンダースのフラッグ車狙撃のシーンがやっぱり度肝を抜かれたので、そこかなと思ったんですけど。まぁ、あえて2話から出しますけど、ラバさん(知波単学園の曲「知波単のラバさん」)ですかね。
あれは本当にガルパンらしいなと。あそこでシリアスになりきらずに、一旦ほっとさせるあの演出がガルパンらしいな、俺にはないやつだなと思ったので。俺だったらギューッとシリアスなほうに行っちゃうんですけど。
――最初にトーナメント表が提示された時に、どこが勝ち上がるか等、展開はある程度予想されたと思うんです。今のところ、100%読み通りに進んでいると思うのですが。
吉田:まぁベスト4は、いつもの4大勢力ですね。
むらかわ:オープニングの決めを見るとバレるみたいな。
吉田:プラウダ対黒森峰で、実質自分の決勝戦は終わったようなものなので。
野上・むらかわ:あっはっは!
吉田:プラウダが負けたので、今回は黒森峰でいいんじゃないですか。
むらかわ:強豪校が勝ち上がるパターンで、意外性がないといえばないんだけどね。ある意味、継続が伏兵なんだろうけど。
吉田:大洗対継続で、大洗が負けたらさすがにあれだろうけど、継続に勝つにしても、あんこうチーム抜きでどう勝つのか。
むらかわ:そこがたぶん、最初から仕掛けられている桃ちゃん先輩(河嶋桃)の話になってくるだろうとは思うけど。
吉田:そうでなければ桃ちゃんはちょっとだらしなさすぎる。今のところ。
むらかわ:流されているところがあるので、皮が剥けてキャラクターが磨かれてくると、お話としてもグイっと良くなるだろうから期待しています。
野上:水島監督や脚本の吉田玲子先生に対して、「あの人たちならこういうふうに考えるんだろうね」みたいな、そういうところからね。
むらかわ:我々の悪い癖ですね(笑)。
野上:邪道な見方だとは思いますが、どうしても作り手側なので。あとは、どの戦いが見たいかという話になってくるんじゃないかな。
むらかわ:一戦一戦の魅力というのがあって、キャラクタードラマと二本立てですからね。今回は学校が潰れるというようなアウトラインがなく、桃ちゃん先輩が進学できるのかどうかだけで。ただ、第2話、第3話ではそこにそれほど比重も置かれていないですし。
吉田:最初の動機なんか、観てる側からすれば飛んじゃってるから。みんな戦車戦が見たいだけなんで(笑)。
野上:自分の推しキャラがどんな活躍をするか。勝つか負けるかじゃなくて、どういうふうに活躍してくれるか。あとは、ほかのキャラとの絡みですよね。
むらかわ:パッパッと処理されてしまったところはもったいないと感じたかな。某イタリア先生(吉川和篤氏)なんか、アンツィオ高校をもっと見たかったんじゃないかとか。
――アンツィオは戦力の割には充分活躍したと思いますよ。
吉田:1本、専用のOVAまで作ってもらってるわけですから。扱いとしては破格ですよ。
むらかわ:じゃあ次はマジノ戦(『ガールズ&パンツァー 激闘!マジノ戦ですっ!!』よりマジノ女学院)だね(笑)。
野上:このあと楽しみにしているのは、準決勝や決勝戦で試合をしている人たちだけじゃなく、たまにカメラが映す、観ているギャラリー側なんですよ。
少年スポコンマンガには、ギャラリーが驚いたり、「ちくしょう! あいつらに勝つためには、こういうふうにしなきゃいけなかったのか!」みたいなシーンがあるじゃないですか。そういうのがこのあと増えてくれると、いちガルパンファンとしては嬉しいですね。
▲ギャラリーのワンカットにも情報が詰め込まれ、そこからキャラクターの個性を読み解くのもガルパンの楽しさ――トーナメント表の逆サイドから勝ち上がってくるのはどちらだと思いますか?
むらかわ:ああ、黒森峰か、聖グロリアーナか。聖グロリアーナかなと思うんですよね。オープニングを観ているとね。
吉田:まぁ、そうでしょうね。
むらかわ:最初の敵が最後の敵、みたいなことも意識している気がしますし。
――これで、大洗が勝つか負けるかなんですよ。どっちもアリだと思うので。
吉田:聖グロリアーナにだけは最後まで勝てなかったと。
――そうです。特に今回は、別に優勝しなくてもいいんですから。継続戦で桃ちゃんさえ活躍すれば、進学のフラグは立ちますし。
吉田:いまだに底を見せていないのはダージリンだけなので。ダージリンの本当のヤバさっていうのが、もしかしたら決勝で見られるかもしれない。
むらかわ:それはあるかもしれませんね。
吉田:常に余裕を持って、撃破される時ですら綺麗にやられて。勝つために必死になっているダージリンはどうなるのか。
▲また新たなデザインのティーカップを手にしたダージリン野上:私の贋作の『ガールズ&パンツァー』(リボンの武者)のほうでは、偽物のダージリン様でそこらへんの話を描いてみましたけど、あくまで別世界のダージリン様なので。『三国志演義』ではなく、正伝の『三国志』のほうの、本当のダージリン様がどういうふうな戦いをするのかというのは気になりますね。 ▲『ガールズ&パンツァー リボンの武者』第11巻より
吉田:マンガはどこまでやっても偽物なんですよ。水島監督の脳内を通過していないわけだから。
むらかわ:うまく繕おうが、結局はそこなんですよね。
吉田:『プラウダ戦記』のあとがきにも書いたんですけど、水島監督がやりそうなことを忖度して描いてもダメなんですよ。面白くならないんです。
むらかわ:そうそう!
野上:そこは水島監督にやってもらったほうが、絶対に面白いんだから。
吉田:偽物は偽物なりに、偽物的に面白くしないと。
野上:そうそう。贋作作家の矜持というやつですね。
吉田:あははっ!
――『最終章』に入ってからの大洗って、あまりにも強すぎて、なんだか『キャプテン翼』っぽいんですよね。絶対負けない大空翼に、相手校がどれだけがんばっても負けていく構図が同じというか。思わず対戦相手を応援したくなるような意図で描いている感じがするんですよ。
野上:そこは意図的にやっているでしょうね。
――BC自由学園戦のときの大洗って、怖かったですもん。
吉田:正直、孤軍奮闘してるマリー様を応援したくなりましたからね。
――知波単学園戦は、学校自体が旧日本陸軍をモチーフにしていることもあって戦車も弱いですから、日本人特有の判官贔屓が働いて、知波単側に感情移入するような作りになっている気がします。
吉田:恐ろしく強い大洗に挑戦する構図ですよね。
――そしてあんこうチーム撃破という大殊勲で喜ばせておきつつ、実は勝利条件は別で、結局負けてしまう残念さとか。
吉田:なんだかんだでみほの掌の上だったと。要は脇役がそれだけ魅力的に描かれたということでしょうね。ぽっと出の脇役ががんばっても、ファンがついてなかったら「なんだそれ?」で終わるから。
それぞれの学校にファンがついているからこそ、絶対王者大洗に挑戦するっていう構図が成り立つんでしょうね。
――それでは場面写真を見ながら第3話について振り返っていきましょう。
吉田:この場面はマリー様の脇の下に見えているのが、腕なのかどうなのかというのがちょっと話題になりましたね。
むらかわ:腕でしょう。マリー様はむっちりしているけどね。
吉田:わざわざ胸をバスタブの縁には乗っけないですよね。しかし、こんな長時間の試合、みんな観てるのかな。
むらかわ:しかも夜戦だもんね。
▲明らかに疲れが見える大洗の面々……吉田:こいつだけは元気(笑)。
――夜の麻子が描かれるのは珍しいですよね。
吉田:夜の麻子……魅力的なワードだ(笑)。
むらかわ:夜戦でジャングルで、あんな戦闘はできないだろって思うんだけど。ばんばん走るし凄かったよね。
吉田:あの背景はどうかしてますよ。今まではブックを少しずつずらして背景を動かすとか、質感を諦めて背景動画で描くとかやっていたんですけど、ゲームのアンリアルエンジンをアニメにも使えるようにコンバートして使っているらしいんですね。
だもんで、ゲーム画面を作るように、全部ポリゴンで作ってテクスチャーを貼っているから、葉っぱがちゃんと3Dで動いているんですよ。俺もちょっとはCGかじってるから、見てると「はぁぁ~」「はぁぁ!?」みたいな。ずーっとそんな感じです。
野上:それこそ日本有数のマシンパワーを持つCGスタジオが本気を見せたっていう感じですよね。
吉田:背景が動いているのがだんだん気にならなくなっていくのが怖いです。当たり前のように思えてくるんですけど、草を掻き分けながら戦車が突っ込んで、それをカメラがぐいんぐいん追いかけるって、とんでもないことだぞっていう。
ほかのスタジオではちょっと真似できないですよ。やろうとも思わないと思います。BC戦みたいな、昼間の建物が多い環境ならまだわかるんです。だけど、ジャングルはいろんな不規則な樹とか地形とかだらけで、本当によくやったなと思いますよ。
むらかわ:しかも戦車もアップダウンしているわけだし、凄いよね。舗装された道路とか野原じゃないから。
吉田:ガルパンは「どうだ、凄いだろ」って感じさせないような見せ方をしているんですけど、やっぱとんでもない。『劇場版』でも、ラストのⅣ号戦車の後ろをまほが撃って、バーンって行くやつがあるじゃないですか。あれも背景をギューンと引き延ばして、上から見ると有り得ないような形で動いていたりするので。
むらかわ:あれは嘘のつき方なんだよね。
吉田:本当に凄いですよ、ガルパンは。
むらかわ:でも、よくそういうコンテが切れたなと思うんだよね。そういう空間性を持ってコンテを切るというのは、ものすごく骨が折れるはずだから。それをCGとして動かすわけだし、CGを技術的に理解できていれば、もう少し切りやすいんだろうけど。
吉田:モビルスーツみたいに空を飛んじゃうならば、楽なんですよ。戦車は地面に接していて、履帯がそれに合わせて動いていて。凄いなと思いますよ。
吉田:車内で機銃を撃っているシーンって、あんまりないですよね。夜戦だから、照明代わりに使ったというのはあるんでしょうけど。これも本当は、もっと狭いんですよね。いくら女の子が小さいといっても。
むらかわ:こんな広くないっていうのは最初から言われていることであって。
吉田:外国で戦車の中を覗かせてもらったことがあるんですけど。
野上:ポーランドですか?
吉田:ポーランドと、ラスベガスにも行きました。シャーマンを動かしたりもしましたよ。
むらかわ:シャーマンもけっこうキツキツじゃないですか? アメリカ人サイズ?
吉田:シャーマンはほかの戦車と比べると、かなり余裕があります。ただ、覗くハッチからレバーまでが遠いんですよ。腕をこんなつっぱりながら動かしましたけど。
むらかわ:シャーマンはたくさん描いたけど、大きさがわからない。
野上:わからないですよね。
むらかわ:時々、才谷屋(龍一)先生から「大きさが違う」って指摘されるけど、見たこともないし、触ったこともないので。『フューリー』(2014年のアメリカの戦争映画)なんかを観ていると、けっこう小っちゃいのかなと思うんだけど、そうでもないんだ。
吉田:映像や写真が逆に参考にならないんですよ。男と女で体格が違うので。
むらかわ:しかも日本人で、女子高生なんていったらそんな大きくないですし。
吉田:写真を参考にして描くと、どうしてもキャラクターがデカくなっちゃうので。
むらかわ:180cm以上のアメリカ人と、150cm台の女の子じゃ、30cm違うからね。
吉田:横幅も全然違うんですよ。ハッチが男だとギリギリだけど、女性だと肩幅が狭いからすっと出れちゃうし。
▲ガルパンにおける戦車のハッチと女子高生の大きさ比率。けっこう余裕ありそう吉田:これ、ディテール凄いよね。
むらかわ:前より細かくなってますよね。TVシリーズの大雑把さが懐かしい(笑)。
吉田:資料が揃ってなかったんですよね。
むらかわ:どんどん揃ってきて、作画の負担もどんどん上がっていく。
吉田:こんなことやってるから時間がかかるんだ。適当でいいのに。
むらかわ:いやいや、うるさい人がいるから。某イタリアの人みたいに。何十回も観て、たくさんメモを取って、教えてくれるから。すべて善意でやってるのよ。
野上:あっはっは!
むらかわ:そういう熱い魂を持った方がたくさんいるから。「これが動くのが観たい!」ってみんな思っているんです。
むらかわ:背景いいなぁ。こういうのを見ると、わかってる人が描いてるなぁって。
吉田:これじゃあ時間もかかりますよ。これ、ぐるっと動くやつですよ。
むらかわ:明るい葉っぱが動いているやつでしょ。それにしてもキャラクターのドラマにちっとも触れない我々。
野上・吉田:あっはっは!
野上:さすがにこのシーンは、キャラクターのドラマとか、キャラクター同士の絡みとかもあまりなかったので。ほぼ戦闘じゃないですか。
むらかわ:知波単のドラマは第2話でほとんど終わっていますからね。フラグを回収していくだけなので。
吉田:知波単の内部の話は見たい気がしますけどね。
むらかわ:そこは掘り下げなかったね。
吉田:みんな一様に「突撃! 突撃!」みたいな性格で、真っ平に描かれちゃっているので。
――ビジュアルでは個性的な細見とかもいるのに、キャラクターの違いはあまり描かれていないという。
吉田:お洒落という設定もあるのに、お洒落な性格ではない(笑)。
むらかわ:「いたーだきーます!」とか、ドラマCD(『ガールズ&パンツァー 劇場版』ドラマCD5 新しい友達ができました!)のほうでは肉付けというか、キャラクターを盛ってる感じはあるけど、本編はみなさんあっさりしてますよね。
吉田:昔の日本軍がモチーフということで、そういうふうに振る舞うという教育をされた結果なのかもしれないですけどね。
むらかわ:そういう暗喩というか、カリカチュアはあるかもしれない。
吉田:特二式内火艇がこんなに活躍するとはなぁ。
野上:ぼく、パラオで見た!
吉田:俺はロシアで見た!
むらかわ:いいなぁ。みんな本物見られて。
――底面を見たというのはどこの話ですか?
吉田:それはロシアです。クビンカ戦車博物館ってところで、先生たちが騒いでいたんですよ。「うわ、特二式内火艇の底面が見れるぞ!」って。「やっぱ水抜き穴があるんだな」とか。
その頃は俺、まだあんまり詳しくなかったから「はぁ、そうなんすか~」みたいに見てたんですけど。詳しかったら一緒に騒げてたのに。
むらかわ:野上さんはスクラップを見たんでしたっけ?
野上:そう、スクラップです。パラオのコロール島っていうところに、当時の日本軍のものがまとめてスクラップみたいな感じで置いてあるんですよ。
ちょうどエンジンルームの上に、高射砲の砲塔か何かが突き刺さっていて、完全にゴミ扱い。
吉田:そのおかげで内部が見れたんですよね。
野上:そうですね。あともう1か所、司令部か何かの目の前にそのまま放っておいたのがあって。ただそれも2007、2008年頃の話なので、今はもう少し綺麗にしてあるらしいです。
むらかわ:朽ちてしまったんじゃなくて?
野上:それが観光資源になるらしいとわかったらしくて。
むらかわ:なるほど!
吉田:同じように見に行くミリオタがいっぱいいたんでしょうね(笑)。
むらかわ:パラオはスキューバダイビングもありますし。
野上:パラオはスキューバダイビングに行けば、いろんなものが沈んでいますので。B-17が海の中に、ほぼそのままの形で沈んでいるのがあって。私、ヘリコプターをチャーターして「あそこにB-17がいるよ!」「ほんとだ! 上からだと見える!」みたいな(笑)。
あと一式陸攻があって。あそこは200以上の島の中に、完全に立ち入り禁止になっている場所がありまして、不時着してぽっきり逝った一式陸攻がそのまんま残っているんです。
もっと恐ろしいのは、クラゲを見るツアーで浜辺に行って、「しばらく波と戯れていてください」って言われたんですけど、プロペラが砂浜から生えているんですよ。そこで我々が掘り出したら、プロペラの基部が見つかって、空冷の星型エンジンが出てきまして。「これは……火星エンジン!?」って。
吉田:なに発掘してるんですか(笑)。
野上:目の前のビキニのお姉さんたちには目もくれず。僕らはどこで人生を間違えたんだろう。
吉田:俺も、ポーランドでもロシアでも、街並みとかは全然見なかったな。
むらかわ:趣味人は違うな。
野上:そして人生を浪費するんですよ。浪費こそが趣味人の本懐ですよ!
吉田:特二式内火艇はほんと大活躍だったな。
――映像の歴史上でも、ここまで活躍した作品ってないですよね?
野上:ええ。本邦初ですよ。
吉田:水陸両用車がこんなに活躍するっていうのがそもそもないです。どんな映画でも、上陸してパーッと撃って終わりですよ。
むらかわ:CGだからブレが作れるんだな。これ、手で描いてたら大変ですよ。
吉田:この木も掻き分け掻き分け進みますからね。
吉田:IV号が特二式内火艇の上を通るところですね。おっそろしいなぁ。この重量のものが頭上を通過していくんだから。肝が据わってますよ。
むらかわ:よく沈まないなぁ。
吉田:沈むよ普通。そこまでの浮力はないと思うし。
吉田:かわいいやつだ(笑)。
むらかわ:これはなんだっけ?
吉田:外れた展望塔を回収してるんですよ。下から足が生えて、ちょこちょこって。
――『らぶらぶ作戦』にもシルエットで描かれていて、かわいかったです(『ガールズ&パンツァー もっとらぶらぶ作戦です!』第16巻147ページ あとがき参照)
吉田:ここのカメさんチームに対する絶大なる信頼感(笑)。「適当にやっとくから」の「適当」とは、「いいかげん」という意味ではなく、「適切に」みたいな。
――すごく丁寧にフラグを立てていますよね。みほが自分を囮にして相手を引き付け、フラッグ車を狙う意図とかも、目配せひとつで伝わるようにしていますし。
吉田:ちょうちんあんこう作戦ですね。
野上:もはやチャレンジャーではなく、完全にチャンピオンの手練手管ですよね。
――チームまるごと小っちゃい子というのは知波単くらいなんですかね?
吉田:右側の福田より小っちゃい子(平井花子)。『劇場版』で「押せー!」って言ってる福田の横に、福田より小っちゃい子がいて、今回ちゃんと名前がついたという。
幼稚園児並みの体型で、『劇場版』で出てきたときに「座敷童かなんかか?」って言ってたら、公式で座敷わらしって呼ばれるキャラクター(西原八十子、上西千代子)が後付けで出てきて、この福田より小っちゃい隊員は実在しないんじゃないかって(笑)。
――もはやこんな感じで砲弾を持てるんですね。
野上:抱き枕じゃないんだぞ(笑)。
むらかわ:このチームは鍛え過ぎちゃったからね。
吉田:ラスベガスでシャーマンの砲弾を持たせてもらったことがあるんですけど、想像通りの重さですよ。
むらかわ:何kgくらいあるんですか?
吉田:20kgはないと思うけど、これにみっちり火薬が詰まっていて、弾頭は金属の塊で。
むらかわ:重さって大事だなと思って。うちのマンガで履帯を修理する場面があったので、履帯を持たないと重さがわからないと思って、大洗で探したら、ちょうどお祭りのときで持ってきてないって。
しまったなと思ったら、(大洗磯前)神社のそばのホテルに置いてあって、持たせてもらったの。6~8kgくらいあったんじゃないかな。
吉田:知波単の小っちゃい戦車でもひとつのパーツでダンベルくらい。ティーガーのやつなら米袋くらいあるから、現実的に考えたら女の子が扱えるような重さじゃないですよ。鉄の塊だもの。
むらかわ:鋳物だもんね。けっこう重いぞっていうのがわかったので、良かったです。
吉田:この一年生チームのシリアスにならない感じもいいですよね。絶対にこいつらだけはシリアスにならないですから。
むらかわ:大洗って学年ごとに編成しているから、卒業したらノウハウが継承されないっていう恐ろしさがちょっとあるんだよ。
吉田:厄介な先輩みたいにちょくちょく来るんじゃないですか?
むらかわ:指導が入るんだ。「お前ら何しとんじゃ!」みたいな。
吉田:澤ちゃんがいつまで経っても隊長面できない(笑)。
野上:一番ウザいやつだ(笑)。
吉田:ここは福ちゃんの読み勝ちで、福ちゃんは名将に成り得る素養がありますね。
むらかわ:さおりんが機銃撃つのって滅多になかったですよね。ちょっと意外だったかも。いつもメモ取ってるか通信してるかって感じだったから。
吉田:そもそもⅣ号戦車が機銃を撃つことが滅多にないですね。
むらかわ:そういえば機銃があったんだと思ったもん。
吉田:操縦するゆかりん。楽しそうだなぁ。どのポジションも楽しいんでしょうね。
むらかわ:彼女はそうだね。全方位的に大好きだよね。
野上:ここの数十秒は、ガルパンというアニメでやってきたことの集大成ですよね。本当にめまぐるしく展開が変わっているから。
吉田:これだけいきなり見たら、ついて行けないでしょ。今まで観てきた人なら、この展開も理解できるけど。
野上:展開の速さに目が慣れてるから。
吉田:そうじゃないと、「あれ、どっちが勝ったの?」で終わっちゃうと思う。
吉田:「はえ?」って感じの顔がいいですよね。
――ここは観ている側として、「知波単良かったね」とも思いました。あんこうチームを撃破できたし、勝負には負けたけど満足感はあるみたいな。
吉田:それは非常にこう、日本軍の悪癖も表現している気がする(笑)。その場の戦術的勝利に固執して、戦略目標を見失ってしまう感じが、いかにも日本軍モチーフの学校という。
野上:我が国の縮図ですな。
吉田:4D上映の入場特典でこれ(知波単学園 福田の手紙)が来たときは笑いましたよ(笑)。
むらかわ:この万年筆も何かにこだわっているんじゃないかって、嫌な予感がするんだよな。文具マニアの人に聞いてみたくなりますね。
野上:どうやら万年筆にも“沼”があるそうですから。
吉田:いろんなとこにあるな(笑)。こだわって作るものには、何にでも“沼”が発生しますね。
吉田:ここの元ネタの大洗のドルフィンさん、行ってみたいんだけど、俺飲まないからなぁ。
むらかわ:僕は1回だけ行きましたよ。最初に行ったときは満員で入れなくて。2回目のトライで入れたときは、ステージでみなさん熱唱されていて。
野上:あれ、元々は地元向けのお店でしょ?
むらかわ:そうそう。地元のカラオケスナックです。ところがお祭りになると、ガルパンおじさんがたくさん行くからさ。
吉田:お祭りのときはしょうがない。