「ルパン三世のテーマ」生みの親・大野雄二 ×『ルパン三世 PART6』新EDテーマ歌唱・藤原さくらロングインタビュー│曲作りは「良い曲ができただけじゃ駄目。無難じゃなく、尖ってて、棘があるものが良い」
1月からスタートする『ルパン三世 PART6』2クール目は、さらなる“謎”の物語。舞台は英国から飛び立ち全世界へ。本作のキーワードは、<女>。ルパンの目の前に次々と現れる魔性の女たち。抱える秘密と嘘は、怪盗紳士ルパン三世の、とある謎へと繋がっていく……。
ミステリアスなヴェールに包まれた2クール目。音楽はもちろん、40年以上にわたりルパン音楽を作り続けている大野雄二が担当。劇伴・エンディングも新たに書き下ろされている。
新エンディングテーマ「BITTER RAIN」のゲストボーカルに招かれたのは、シンガーソングライター・藤原さくら。藤原さんが『ルパン三世』の作品に関わるのは初となる。
2021年1月26日(水)には、サウンドトラック『LUPIN THE THIRD PART6~LONDON』に続き、第2弾『LUPIN THE THIRD PART6~WOMAN』が発売される。メインテーマ「THEME FROM LUPIN III 2021」に加え、新エンディングテーマなど全26曲を収録。Yuji Ohno & Lupintic Sixを中心にした演奏により、新たなルパンの世界を楽しむことができる極上のサウンドトラックだ。
本作の発売を記念して、アニメイトタイムズでは大野雄二、藤原さくらの対談を公開。インタビュー中、大野さんの雄々しい姿勢、緻密な曲作りに、終始目を輝かせていた藤原さんの姿が印象的であった。
記者も同じく圧倒されるばかり──『ルパン三世』音楽の貴重なエピソードをぜひご覧いただきたい。
「大野さんは私にとってレジェンド」
──今日はお二人の対談とのことで楽しみにしてきました。藤原さんにとって大野さんは憧れの方だと思うのですが、一緒にお仕事をされる前はどのような印象がありましたか?
藤原さくらさん(以下、藤原):私にとってレジェンドですね。『ルパン三世』の音楽はアニメはもちろん、テレビの色々な番組で流れて耳にする印象があり、みんなの日常に根付いていて。私自身は小さい頃から、父の影響でアニメ『ルパン三世』や映画『ルパン三世 カリオストロの城』を何度も観てきました。大野さんは雲の上の存在というイメージだったので、あまり現実味がなかったというか(笑)。「一体、どんな人がこの曲を作ったんだろう?」と思っていました。
──大野さんは藤原さんの歌声をどのように捉えられているのでしょうか。
大野雄二さん(以下、大野):声質がすごく良いよね。ガーンと伸びがあるとか、そういうタイプとまた違って。声に憂いがあって、強さもあり。“ほど”が良いよね。
藤原:本当ですか? 嬉しいです。
大野:どっちかにいっちゃう人が多いのよ。力強く歌ったり、ハスキーになったり。藤原さんは、カヒミ・カリィって知ってる?
藤原:もちろん知っています。
──私ももちろん存じ上げています。大野雄二 feat. カヒミ・カリィ名義でルパン三世の『ルパン三世 お宝返却大作戦!!』のエンディングテーマや、コラボレーション曲も発表されていますよね。
大野:彼女の声ってレコーディングでは(小さくて)あまり聴こえないの。でも、それが個性的で良いの。すごく不思議な人。変な話、普通になっちゃったらつまらないからね。
藤原:独特な声が個性につながるんですね。
大野:そう。彼女に歌ってもらった曲は全部フランス語だったから、歌詞の意味を理解している人はそう多くないんじゃないかな。でもあのひとは独特の世界観の人だからさ。(藤原さんは)その世界の人とはまた違うけど、すごくいい声だと思う。
藤原:そう言っていただけるとすごく嬉しいです。
──藤原さんは『ルパン三世 PART6』新エンディングテーマのお話をいただいたときは、どのようなお気持ちでしたか。
藤原:まさかご一緒できる日がくるとは思ってなかったのですごく嬉しかったです。「どんな曲調なのかな?」と気になりました。ビッグバンドなのか、しっとりしているのか未知だったので、楽しみだなって。
──大野さんとしては『ルパン三世 PART6』の放送が決まったときはいかがでしたか。
大野:これだけやってるので、「またやるんだな」と思ったよ(笑)。
──大野さんは「ルパン三世」は僕の人生だとよくおっしゃられていますよね。作曲時間も膨大だと伺いました。
大野:忙しいときは一日15時間とかルパンの曲を書いてるから。ある意味、僕が自慢できる唯一の点は「続けて書けること」だね。15時間、20時間、書ける人なんていくらでもいるんだけど、それを3ヶ月毎日続けられるかっていう。
藤原:すごいです……!
大野:自分でもよく飽きずにいられるなぁって。だってさあ、もう嫌になるよ(笑)。
藤原:嫌になってはいるんですか?
大野:あのね、仕事って面白いんだけど……。(仕事のオファーを)引き受けますよ。でね、その後に「なんで引き受けちゃったんだろう」って思うの。
藤原:(笑)。すごく分かります。打ち合わせのときは「できます!」って言っちゃうんですけど、帰ってから「あれ、どうすればいいんだろう」って。
大野:うん、モノを作る人は分かるよね。
──大野さんでもそのように思われるのですね(笑)。おこがましくも、私もお気持ちは分かります。
大野:「あーなんてことを引き受けてしまったんだろう」って思うのよ(笑)。でも不思議なもので、やってるうちに毎回楽しくなるの。
藤原:分かります。
大野:楽しくなかったら50年もやってないから。でもね、最初はすぐに手をつけない。頭の片隅にいつも残っているから自然と気にはなってるんだけどね。それで4、5日経って、「だめだ、もうやらなきゃ!」ってなったときからエンジンかかってなんとかなるかな。
藤原:大野さんがそういう状態になるって聞くと、なんだかホッとしますね(笑)。
大野:おんなじだよ、みんなおんなじ。俺なんかはいざ集中するぞって時、儀式みたいに五線紙を目の前の机に置くの。五線紙と言えば、最近は目が悪くなってきて細い五線の間に音符が書き切れなくてさ。だから用紙の方が大きくなってきて。いま使ってる譜面は片面がA3サイズだもん。
藤原:へええ〜! 紙が大きいと書くのも大変そうですね。
大野:例えばトランペットが4人いるとするじゃない?そこで1人一段使っちゃったらトランペットだけで四段使うことになる。だけどスコア用紙は二十段しかないから。できれば一段にまとめて書きたいくらいなんだけど、一段に4人分書くのは無理なんだ。で、二段使う。一段に2人分ってことだね。トロンボーンが3人の時なんかは一段で書いちゃうけど、4人になったらやっぱり二段いるんだよ。まぁトランペットも3人の時は一段で済ませることもあるけど。ちょっと大変なんだよね。スコア用紙には他にも色々な楽器が入るからね。最近は上の部、下の部と用紙を倍使って合計四十段で譜面を書いてるんだ。こうするとだいぶ楽だけど、指揮者の人が見るときにやたら縦長になるから、それがまた大変なんだ(笑)。
藤原:すべての楽器の、すべてのメロを作るって本当にすごいことですよね。
大野:トランペットを書いてトロンボーンを書いて、さらにフレンチホルンも入ってくるとなるとね……もうね、ブラスセクションを書くだけで大変なの。
藤原:全部の楽器の特性をどのように理解されていったんですか? 例えば、楽器を吹くところから始めたとか……。
大野:いや、まったく吹けないね。書けるだけ。昔に楽器図鑑とか買って色々調べたからね。
藤原:書けることがすごい。想像できるってことですもんね。
──全部の楽器を把握してないといけないですもんね。
大野:いちばん難しいのはサックスなの。例えばアルト、アルト、テナー、テナー、バリトンって5人編成の場合、アルトはE♭管なの。テナーになるとB♭管だから、ここでまた切り替えなきゃいけない。で、バリトンはE♭管なんだよ。
だからサックスの譜面を5人書くだけでヘトヘトになっちゃう。ストリングスだけならまだいいんだけど。でも全楽器「これ以上は音が出ません」ってところを知らないと演奏家にも失礼だからね。全部分かるようにしておかないと。
藤原:そうですよね。打ち込みで入っている音をドラムの方が再現しようとすると「これは手が5本ないとできないよ!」ということがありますけど、それと一緒ですよね。
大野:そうそう。他にもね、いろいろあるんだけど。フレンチホルンに至っては音が通常より5度上になるし。
藤原:えっそれは……複雑ですね!(笑)
大野:嫌でしょ(笑)。
藤原:最近はピアノで弾いたものを譜面にするアプリもあるじゃないですか。
大野:そうみたいだね。でも俺はそういうのは使ってない。そして譜面にものすごく文字でイメージを書き込むタイプなの。演る人から見ると字がいちばんわかりやすいんじゃないかって思うんだ。
藤原:確かに文字で書かれているほうがわかりやすいかもしれないです。
大野:手書きの譜面を写譜屋さん(※)が最終的にまた譜面に写すんだけど……写譜屋さんがすごいのは、字もそのまま書くから。「こんなこと書かなくてもいいのに」ってこともちゃんと書かれてる(笑)。絶対に全部正確に写すのが写譜屋さんの役目なんだよね。
藤原:すごいなぁ。
※編曲家が書いた楽譜や、オーケストラの指揮者が使うスコアをそれぞれの楽器別パートに書き写す仕事
(C)モンキー・パンチ/TMS・NTV