WOWOWオリジナル長編アニメ『永遠の831』両アーティストが解いた神山健治監督のメッセージとは? 主題歌担当・angela、OP曲担当・カノエラナさんの座談会をお届け!
カノエラナさんが歌うOP曲「キンギョバチ」は、怒りやもやもやした感情を攻撃的なサウンドとトガったボーカルで表現
――では、OP曲の「キンギョバチ」についても、カノエさんから制作イメージや歌詞の世界観、サウンド感などのご紹介をお願いします。
カノエ:私は歌詞と曲が同時進行で生まれるタイプなので、脚本を読みながら、ここが重要になりそうだなと思う、主人公たちの過去のこととか、そのキャラクターにとっての分岐点になりそうなところを付せんをつけてチェックしていきました。
また制作前、スタッフさんに「等身大で、登場人物の誰に気持ちを入れるとどういうものが書けるのか、好きに想像していいよ」と言っていただいたので、皮肉っぽい表現や比ゆなどの言葉遊びも含めて、楽しめるところがいろいろあるなと思って、パズルみたいに曲を作っていきました。
またスズシロウくんに一番共感できて、怒りの感情が強いなと思ったので、どう曲に落とし込もうか考えた時、攻撃的なサウンドがいいのかなと。ボーカルもトゲトゲしくしたり、少しかすれさせてみたり、いつもと雰囲気を変えてみました。私の曲は、ふざけた曲が結構多いんですけど(笑)、めちゃめちゃ真剣に、「これは誰に対して問題提起してるんだ!」という怒りをひたすら込めて作りました。とにかく言葉で戦う、みたいな。
タイトルの候補案は6~7個出しましたが、一番わかりやすくて、しっくりときたのが「キンギョバチ」でした。8月や夏から連想されるものをいくつか考えていくうちに、ふと夏休みによく金魚すくいをしたことをふと思い出して。「あの時の金魚ってどうしたのかな?」から、金魚って忘れられがちかもしれないと。すごくきれいで、すくっている時は楽しいのに、すくった後に忘れてしまうのは自分の人生と重ね合わせられる気がしたし、脚本にも「透明な壁」や「見えないものとひたすら戦う」描写があって。透明なキンギョバチの中で、金魚が揺らめいていたり、もがいている姿ともリンクしているように思えて、「タイトルは『キンギョバチ』しかない!」と。
――「金魚鉢」の内側と外側どちらから見た視点でしょうか?
カノエ:この曲は「青年 ああ君はいったいどこに向かっているんだい」から始まりますが、私の立ち位置的には遠くから見ている感覚で、歌詞の中で描いているのは青年の持つイライラやもやもや感なので、どんな立ち位置からも聴いていただけると思うし、どんな方にも共感していただけるのではないかなと思います。
――歌詞の「ニクを斬らせて死を愛でる」という歌詞が印象的でした。「肉を斬らせて骨を断つ」ではないんですね?
カノエ:そうですね。サビ中のフレーズですが、「肉」ではなく、「ニク」と表現しているのは上下逆転すると「クニ」になるみたいな言葉遊びで。この作品の中では「死」というワードが結構出てくるし、死を予感する瞬間って誰でもあると思ったので、キーワードとして入れたくなって、インパクトが一番強いサビに入れました。
また「ニクを斬らせて死を愛でる」には、人を救うために自分の身がボロボロになった時、自分の死を誰が愛でてくれるんだろう? 誰かに助けてほしいという気持ちも込めています。
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――未完成の状態の映像をご覧になったそうですが、感想をお聞かせください。
カノエ:まだ骨組みだけで、背景も透けているような状態でしたが、それでも主人公たちの言いたいことが伝わってきました。また音楽も入っていないことで生じた間があって、そこで「次に何を言うんだろう?」とかいろいろ考えたり、想像を巡らせました。脚本を読んでいるので内容は知っているのに、「ここでリアルにどんな言葉を発するんだろう?」というドキドキも感じて。元々、アニメを見るのが好きなので、すごく没頭して、その中でangelaさんの曲も聴かせていただいて、鳥肌が立ちました。
atsuko:シナリオで話は知っていても、アフレコした声優さんたちの声が入っているので、キャラクターの心情が声で表現されていたり、演技されているので、伝わってくるものが全然違って。まだ制作途中の段階の映像なのに、物語に入れました。
またカノエさんの曲は事前に聴かせていただいていましたが、OP映像に入っていた曲を聴いて、改めてエモーショナルでトガっている楽曲が入っているのがいいなと思いました。しかもただトガっているだけでもなく、自分の怒りをぶちまけるのでもなく、しっかり考えられた感情がきれいに、リズムとメロディと言葉がハマっていて素晴らしいなと。
KATSU:今現在起こっていることをテーマにしている分、例えば(現実の世界では)コロナ禍で抱えたストレスを選挙にぶつけているような面がありましたが、そんな今の日本の現実の描き方もしっかり組み上がっているし、スズシロウというキャラクターの描き方もとても丁寧だなと感じました。
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――今作では「失われた30年」がテーマの1つになっているようにも感じますが、angelaのお二人はこの30年をどのように感じられているのか? カノエさんはこの時代をどのように思われますか?
カノエ:携帯電話でいえば、私はガラケーもスマホも体験しているし、ネットで検索するようになったのも小学生5年生からで。私たちの世代は「ゆとり世代」と称されて、大人たちからよく「君たち、若者は」と言われてきましたが、その「ゆとり世代」を作ったのは誰なんだろう?という疑問がずっとありました。スズシロウくんと同じように、「何に対して怒りをぶつけたらいいのか」も「どこに道を定めて進んだらいいのだろう?」もわからない、そんな世代なのかなと思います。
atsuko:私は約30年前に高校を卒業して上京してきたので、スズシロウくんと同じ立場であり、KATSUさんとangelaを始めてからもう29年になりました。カノエさんが生まれる前からangelaをやっていたわけで、「カノエさんからはどう思われているのかな?」とちょっと気になります(笑)。
そんな私も歌手を目指して上京してきたけど、すぐにデビューできるわけもなく、アルバイトで生計を立てていました。今、疑問に思うのは、私が20歳の頃にアルバイトをしていた時の時給と、現在の時給がほとんど変わらないんですよね。それがすごくショックで。時給をもっと上げたほうがいいと思うし。日本は他の国に比べて物価が安いけど、ガソリンや小麦などの生活必需品は高い状況で。でも時給はこの30年間ほとんど変わらなくて、今の若者もこの時給では楽しく生きられないと思うし、「車がほしい」とか「海外旅行に行きたい」という夢が描きにくい世の中になっているんじゃないかなと思います。
KATSU:次の選挙に立候補するの?(笑)
atsuko:そんなことはないけど、公約は時給を上げることになるでしょうね(笑)。
KATSU:30年前は元号も平成で、振り返ってみるとあまり象徴的な文化は多くないのかなって。2ちゃんねるやニコニコ動画が世に出てきた時は一生残るものになると思っていたし、電話を持ち歩ける未来も来ないと思っていました。『こち亀(『こちら葛飾区亀有公園前派出所』)』にも未来の話があって、電話をしながら駅からみんなゾロゾロ出てくるシーンで両津勘吉が「日本はこんな未来が来る」と説明していましたが、それさえも信じていなかったけど、現実になっていて。でもブームになったものは長くは続いていないので、今度はこのブームがどうなっていくのかなと思いながら楽しんでいます。
あとカノエさんが話された「ゆとり世代」についてですが、なぜそう言われているのか、わからないし、違和感を感じますよね。むしろ風評被害みたいもので。その辺の解決もatsuko都知事お願いします。迷惑している若者がいっぱいいるので。
カノエ:私からもよろしくお願いします(笑)。
atsuko:授業は(ゆとりではなく)詰め込みましょう。
一同:(笑)