参加理由は『電脳コイル』が面白かったことに尽きる。オリジナルアニメ『地球外少年少女』吉田健一氏(キャラクターデザイン)✕井上俊之氏(メインアニメーター) インタビュー
インターネットもコンビニもある2045年。商業宇宙ステーション「あんしん」に訪れた少年少女たちは大きな災害に見舞われるーー。
2022年1月28日前編、2月11日後編 各2週限定劇場上映が決定し、劇場公開限定版Blu-ray&DVDが2月11日に発売、Netflixにて世界同時配信される、『電脳コイル』の磯光雄監督最新作『地球外少年少女』。キャラクターデザインに吉田健一氏(『交響詩篇エウレカセブン』『ガンダム Gのレコンギスタ』など)、メインアニメーターに井上俊之氏(『電脳コイル』『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』)を迎えて送る、磯光雄原作・脚本・監督によるオリジナルアニメだ。
本作の作品クリエイターやキャストにインタビューを行った。今回は、吉田健一氏と井上俊之氏に、作品に参加した経緯からキャラクターの成り立ちや作画についてを語ってもらった。
何より『電脳コイル』をやって面白かった。それが作品に参加した理由です
ーー作品に参加することになった経緯をお聞かせください。
吉田健一氏(以下、吉田):磯光雄監督から誘いを受けて参加することになりました。いくつか企画を見させていただき、その中で僕が一番惹かれたのが『地球外少年少女』の企画だったんです。監督の絵と自分の絵をかけ合わせて化学変化が出れば面白いのかなぁと思って、参加を決めました。
ーー企画を選ぶところからの参加なのですね!
吉田:はい。僕自身が宇宙モノをやりたかったので、いくつかある企画の中からこれを選んだという感じになります。
井上俊之氏(以下、井上):実はツイッターをやっていて、監督とは相互フォローになっているのですが、ある時DMが来て、脚本が上がったので読んでほしいということだったんです。だから僕が参加したときは脚本ができたタイミングだったと思います。
『電脳コイル』から15年経つんですけど、あの頃はだいぶ苦労したし、力及ばなかったなぁという後悔もあり、磯監督ともう一度やるのはしんどいなと思っていた時期もあったんですよ(笑)。でも10年以上も経つと、あのときは面白かったな、またやるのもいいかもなと思い始めるものなので、またやってみようかなと。まぁ、しんどい目には遭うんだろうけど……。実際に『電脳コイル』は面白かったから、それが一番大きかったですかね。
ただ、僕がやるときは宇宙モノだと決まっていたので、無重力となると、アニメーターとして腕を振るう場面があるのかな?と。「俺でないといけないのかな? 俺じゃなくてもいいんじゃないかな」という迷いはありましたけど、蓋を開けてみると完全な無重力ではなく、重力があるシーンもあったので、それならばある程度は腕を振るう場所があるのかなと思い、参加を決めました。
ーー時が経つとツラい思い出が薄れて、楽しい思い出が残るんですかね。
井上:ツラい思い、苦しい思い、憎い思いを引きずる人もいるけど、僕は忘れちゃうタイプなんです(笑)。大変なことも、イヤなことも、仕事をすればあるもので。どんな人でも1年も2年も一緒に作品作りを続けると、イヤなところも見えたり、こだわっている部分の違いを痛感したりでしんどいものなんですけど、しばらくするときれいさっぱり忘れちゃうんです。磯くんはなかなかクセのある人なので付き合うのは難しいんですけど、僕は柔軟に対応できるタイプなので(笑)。でも何より『電脳コイル』が面白かったことに尽きるんですよね。
吉田:忘れちゃうのは、素晴らしいですね(笑)。
ーー井上さんは『AKIRA』『MEMORIES』『魔女の宅急便』『GHOST IN THE SHELL』などの名作に参加し、さまざまな名監督から大きな信頼を得ているアニメーターかと思いますが、その中でもクセのある監督なのですね。
井上:そうですね(笑)。彼は80~90年代を通じて“リアルアニメ”というものを牽引してきた存在ではあるんですけど、本人の中では、実はリアル一辺倒ではなく、画が動く面白さみたいなものを追求する部分があるんですよ。
僕自身がリアルアニメをやってきて、どうもそちらばかり突き詰めても楽しくはならない。描いているほうも見ているほうも楽しくならないと思っていた時期に『電脳コイル』に出会い、リアル一辺倒ではない、アニメならではの良さを再認識できたので、彼の作品であれば、またそれが体験できるのかなと思ったんです。
ーー吉田さんは磯監督に対して、どんな印象を持っているのでしょうか?
吉田:僕はアニメーターを始めた頃に知り合ったんです。だからまだ研修を受けているときに磯さんと知り合って、正直衝撃を受けました。これからのアニメはこういう表現の仕方になっていくんだなっていうのを見せてくれた人なので、俺もそっちに行きたい!と当時は思ったんですけど、そっちには全然行けなかったんですよね。
ーーそれはどうしてですか?
吉田:磯さんがやっていたようなアニメーションの動かし方をトレースして真似してみたりすることが僕のセンスではできなかったんですよ。だけどそこから10年以上別の仕事をやっていき、僕自身が選択をしてやっていったキャラクターデザインなどの仕事の先に、また磯さんがいたという感覚で、そういう意味では嬉しかったです。
ーー出会った頃目指せなかったものに、知らないうちに近づいていたということなんでしょうか?
吉田:というより違う形でまた出会ったような感じですかね。アニメの楽しさっていろいろあるんです。リアル一辺倒でもギャグ一辺倒でもない。アニメでやれることを僕らの先輩がいろいろ広げていった中で、アプローチの仕方もいっぱいあるんです。だから同じやり方をしなくても、違ったやり方でも目指すところや到達点は似ていたりするので、こうやってクロスオーバーする面白さがあるんですよ。
ーー先程企画の段階から参加という話でしたが、シナリオ会議の中でキャラクターを考えていった感じなのですか?
吉田:そうですね。キャラクターを描くにあたって、シナリオを作っていく過程から立ち会わせていただいたので、最初に描いたキャラクターがまったく違う役割になったりしたことはありました。完全にシナリオが決まっていなかったから、キャラクターもどんどん変わっていって困ったところはありますけど(笑)、面白いところから参加させていただいたなぁと思います。
ーー中でも大きく変わったキャラクターはいるのでしょうか?
吉田:登矢も紆余曲折あったけど、登矢以外は結構変わりましたね。中でも心葉は違うキャラクターになりました。最初は全然違う設定の時期もあって、そこから設定は変わったんですけど、風貌はそのときにできたものが残っているんです。あと、面白いのはオペレーターの伊佐子で、最初に描いた美衣奈なんですよ。
井上:そうなんだ! ルックスが? 随分お姉さんだったんだね。
吉田:14歳なんですけど、わざとそうは見えない方向で描いて出したんです。監督がイメージしている絵をそのまま出すのは面白くないので、監督に全く違うものを見せたりするんです(笑)。それをしたひとりが美衣奈で、最終的に今のデザインになり、元のデザインは浮いてしまったんですけど、オペレーターの女の子どうする?という話になって、これでいいじゃんということになりました。
ーー企画書には、監督がイメージしたキャラクターのデザインもありましたよね?
吉田:そうですね。元の企画書に、那沙や登矢はいたんです。デザインをしていく中で、那沙の赤い髪を変えようという話になったんですけど、そこは僕が残そうと言って残してもらいました。なのでちょっと違うキャラクターにはなりましたけど、ちゃんと監督が描いた那沙がベースにあるんです。
ーー最初にお話してくださったように、磯監督の絵と吉田さんの絵がミックスされた感じになっているなと思いました。
吉田:頑張ってそうしようとしました(笑)。
ーーということは、監督とも意見が合って?
吉田:いやいやいやいや!(笑) やっぱりどんな監督さんとも意見の食い違いはありますから、紆余曲折したほうだと思います。
井上:最終的にその紆余曲折はキャラクター表にも出ていて、決定稿になっていないものが結構あったんですよ。だから最後の最後まで迷っていたんだろうなって思いました。それは近年のアニメではかなり稀有なことだと思います。
吉田:『ガンダム Gのレコンギスタ』もそうでしたけどね……(笑)。
井上:そうなんだ!(笑)。
吉田:あの作品もだいぶ長かったので。最近時間が長くかかる作品に携わることが多くて……。
井上:それは吉田くんが関わるから長くなっていくんじゃないの? アイディアが豊富だから、オーダーすればいろいろな絵が出てくるっていうのも多分あるんじゃないかなぁ。
吉田:そうなんですかねぇ。それもあるかもしれないですけど、ハッと気づいたら年をとっている!っていう問題に直面してますけどね(笑)。ただ磯さんは画が本職だったりする方なので、富野由悠季さんや京田知己さんと比べると、アニメーションは当然うまいわけです。そういう人を相手にすることは初めてだったので、その苦労はありました。