音楽
羽多野 渉『オリエント』EDテーマ「ナニイロ」インタビュー

羽多野 渉さん TVアニメ『オリエント』EDテーマ インタビュー|「ナニイロ」を皆さんの生活のお供に。40歳の誕生日を皆さんと楽しく過ごせることを願って――

想像力をかきたてる山下節の良さを再確認!

――サウンドは、山下さんらしい美しいメロディラインとキャッチーさに加えて、作品にピッタリのハツラツさがあります。

羽多野:山下さんがピアノと弦楽器を使った時の飛翔感とさわやかな空気感がたまらなくて。実は以前、『不思議の海のナディア』のOP曲「ブルーウォーター」をカバーさせていただいた時(1stアルバム『W』収録)、アレンジを山下さんにやっていただきましたが、そのアレンジもバイオリンとピアノの音色がすごくきれいで。

海がテーマのアニメらしく、大海原が広がっていく上を滑空していく気持ちよさをアレンジの中で感じさせてくれましたが、今回は大草原が地平線まで広がる世界の中で風を感じるような。山下さんの作るメロディには想像力をかき立てる力があるなと改めて再確認しました。

――「はじまりの日に」だけではなく、壮大な世界観の「流転流浪」(ミニアルバム『キャラバンはフィリアを奏でる』収録)やさわやかなミディアム曲「Re Intro」(9thシングル「フワリ フワリ」C/W)などタイプは違うのに、「この曲、山下さんの作曲では?」となぜかわかるという。

羽多野:山下節がどこかに入っているんですよね。でも僕と山下さんがタッグを組んだ時にすぐにわかってもらえるとしたら嬉しいです。「はじまりの日に」では僕のデビューだけではなく、山下さんもプロの作曲家としてスタートしたタイミングでもあって、それから僕はいろいろなキャラクターとしてステージに立ったり、キャラクターソングのレコーディングを積み重ねてきたし、山下さんもいろいろなアーティストさんにたくさんの楽曲を提供されたり、ライブに参加されてきて。お互いが経験値を積んできたところのセーブポイントで合流して、一緒に作品を作れて幸せです。

――山下さんにとっては引き出しも増え、羽多野さんも経験値が上がったことで、要求するレベルも高くなることで、組むたびに新しい羽多野さんを見せてもらっている気がします。

羽多野:そうかもしれませんね。「はじまりの日に」の時には「こういう歌い方をするとこんな聴こえ方がするので、おしゃれだと思いますよ」というディレクションでしたが、「ナニイロ」と「雨空の先に」では、僕が考えてきた歌い方をしたファーストテイクをベースに一緒にブラッシュアップして完成までもっていく感じでした。

また今回のシングルに収録する2曲を作っていただいたことで、「ナニイロ」が疾走感のある、さわやかな曲なので、「雨空の先に」はしっとりした大人のバラードで、ささやくように、つぶやくように歌いたいと、雰囲気が違う2曲になって。レコーディングもやり方も変わったし、シングル1枚の構成を一緒に考えながら作れたことも嬉しかったです。

お気に入りは『オリエント』らしい2番のBメロ!

――お気に入りのフレーズを挙げるとすれば?

羽多野:どのフレーズも歌詞や言葉、メロディとして心地いい部分がありますが、強いて挙げるとすれば、アニメのEDでは流れない2番のBメロのフレーズの「諦めちゃ有限 諦めなきゃ無限 些細な分れ道が、続くto live」は『オリエント』らしくもあり、聴いてくださる方への力強いメッセージでもあるのかなって。

――この曲はBメロでギアが上がり、テンポアップして、さわやかにサビにつなげるのですごく印象的に聴こえます。

羽多野:山下さんの作る楽曲は古き良きJ-POPの方法論で制作しながらも、今の若い世代の方が新鮮に感じられるような工夫もあるんですよね。

2021年12月に行われた「『オリエント』出陣式」というイベントで、初めて皆さんの前で「ナニイロ」を歌わせていただいて、歌い終わった後に舞台袖にはけたら小次郎役の斉藤壮馬くんが「『ナニイロ』って難しい曲ですね」と言ってくれて。僕自身は難しいとは思っていませんでしたが、シンプルなものほど難しいというのは真理なのかなと。

山下さんの一見シンプルに聴こえるメロディにはいろいろな工夫が入っていて耳心地がいいけど、歌ってみると気を付けなきゃいけない点がたくさんあって。難しいと言われたら急に意識するようになって、今後いったいどうなるのかな?、と(笑)でも一筋縄ではいかないところが山下さんらしい、憎い演出だなといつも思います。

ミュージッククリップは広大な自然の中でカラフルな衣装を着た羽多野さんが熱唱!草木染めにも挑戦!

――ミュージッククリップはどんなコンセプトで、どんな撮影をされたのでしょうか?

羽多野:最初に監督と打ち合わせした時、「この曲は色がテーマになっているので、カラフルな映像にしたいです」とお話ししていたんです。僕らしい演出を考えている時にちょうどTVで草木染めのドキュメンタリー番組をやっていて。植物を使う染物は暗くなるイメージがあったんですけど、めちゃめちゃ鮮やかになることや奥深いジャンルと知って、「草木染めをした布たちと一緒に風を感じる場所でリップシンク(歌っているシーン)を撮影したいです」と提案したら、その希望を叶えてくれました。ただ季節が秋に入っていたので、命がけの撮影になってしまいましたが(笑)。

――そのリップシンクのシーンで羽多野さんが着ているカラフルなシャツが気になって。

羽多野:元々、夏くらいに別のお仕事でスタイリストさんが持ってきてくれていた衣装の中にあった1着だったんです。その時、既に「ナニイロ」の制作に入っていたので、「これは『ナニイロ』のミュージッククリップに使えるぞ」と思って、スタッフさんと相談してスタイリストさんにもお願いしたら、このためにキープしてくれてありがたかったです。

いざ撮影日に着てみたら、すごく寒くて。なんせ夏の衣装だったので(笑)。よくよく10年くらいさかのぼってみたら、「はじまりの日に」も「君はぼくが帰る場所」のミュージッククリップの撮影時も寒さと戦っていますが……シングルのリリースがほとんど冬で(配信を入れて13枚中10枚が11月から3月までのリリース)。「Never End! Summer!」でさえも発売は12月でしたし……(9月に先行配信、CDリリースは12月)。今回の撮影はここまでのトップ3に入るほどの寒さでした。

――寒そうだなとは思いましたが、そこまでの寒さだったとは。

羽多野:僕は暑さには強くて、どんなに暑くても顔には汗をかかない体質で、『アイドリッシュセブン』で2回、真夏にメットライフドームでライブをした時もメイクさんが「アンコールが終わってもメイクが汗で流れず、そのまま残っているんですね!?」と驚いていて(笑)。

撮影当日は、草原で風をさえぎるものがない場所に、体感的には裸で立っているような感じで。湯たんぽを撮影が始まる寸前まで抱きしめて、カメラが回ったらはずして、またカメラが止まったら湯たんぽを抱くという繰り返しでした。普通はカットを撮り終わるごとに映像を見てチェックしますが、この時はそんな余裕もなく、「早く次を撮りたいです!」とギリギリの状態だったので、どんな映像になっているのかわからなくて。だから完成した映像を見た時には嬉しかったです。

――草木染めをしているシーンもありますが、別日に撮影されたんですか?

羽多野:同日に、外での撮影が終わった後に撮影しています。だからちょっと抜け殻みたいな状態ですけど、命がけの撮影の後に室内の安全な空間になったら途端に元気を取り戻しました(笑)。草木染めの先生に教わりながら初めて挑戦させていただいて楽しかったですし、機会があればビビットな草木染めに挑戦してみたいです。

「雨空の先は」は自身の雨男ぶりが発端!? 効果音の雨音や靴音など細部にもこだわり

――カップリング曲「雨空の先は」を制作する際に、ご自身からオーダーされたことはありますか?

羽多野:「ナニイロ」とは別の色合いや温度感を楽しんでいただきたいと思って。まず僕は大切な時ほど雨が降る雨男ということがあって。最近では「Breakers」のMVを初公開する生放送の時、きれいな夜景が見えるスタジオを用意していただいたのに、MVを公開する直前にバックの夜景に雷が走って、どしゃぶりの雨になってしまうという(笑)。

世の中には、そんな雨男、雨女という方はたくさんいて、運やタイミングの悪さを残念に思っている人がいるかもしれないけど、そんな自分を愛してほしいし、個性やかわいらしさとして大切にしてほしいなというメッセージを、山下さんにおしゃれな歌詞にしていただきました。
 雨の中に傘を差さずに歩き出して、イントロが始まると足音が近づいてくる、自分を通りすぎるように、LからRへ音も動かしたりする演出もありながらも誰に対して歌っているわけでもなく、ささやくような、つぶやくような歌い方を心がけて、「ナニイロ」との対比を表現しています。

――雨音の効果音やミディアムな雰囲気はシティポップ感もありますね。

羽多野:そう言われればそうかも。ちなみにトラックダウンでこだわったのは最初の足音の部分で、まず雨音が天ぷらを揚げているように聴こえないように(笑)。

雨音の効果音はたくさんあるらしくて、ちゃんと雨音に聴こえるように、そして雨の中歩いているように、靴底がアスファルトを蹴っている音も靴の種類や一定のリズムの間隔のものを選んだり、そこに「ぴちょぴちょ」という水音を少しずつ足して、複合して作ってくださっているんです。僕と山下さんとミキサーさんの3人で配合を相談しながら効果音を作りましたが、ドラマCDの1シーンを再現しているような感覚で、歌声だけではなく、トータルして制作に関われたことも刺激的でしたし、楽しかったです。

――歌詞から、ちょっとイライラしている主人公が恋人とついケンカして、頭を冷やすために雨の街に出て、気持ちを立て直した、みたいなシーンを想像しました。

羽多野:山下さんの曲は歌詞とメロディから映像が浮かんでくるし、いろいろ想像させるところがおもしろいんですよね。

僕もトラックダウン(レコーディングした歌や音などを最後に編集・調整する最後の作業)の時に、「彼が雨の中に歩いている水たまりに映る色が、それまではセピアやモノトーンに見えたものが、花が咲くようにパッと明るくなって、歩くスピードも少し速くなり、前向きになっているように見えました」と曲から浮かんできた映像をお話ししたし、それを表現するために、自分の声で入れたコーラスラインも際立たせていただきました。

またサビが「ただいま」で終わっているのもいいなと思いました。

――今、お話を聞いていて、カラオケの映像にするのにピッタリの楽曲だなと思いました。

羽多野:作ったらおもしろいでしょうね(笑)。レコーディングで山下さんと盛り上がったのは、2番の「理想的ではない事 呪い頼みなトコ」で、ここでは「呪い(まじない)」と読みます。「呪い(のろい)」とは意味合いがまったく違って、「まじない」は「よくなりますように」などプラスのイメージがあり、「のろい」は攻撃的なニュアンスが強くて。同じ漢字で対照的な意味を持っていますが、結局は気の持ちようなのかなって。

雨男や雨女もプラスに考えるのもマイナスに捉えてしまうのも本人次第で、自分に悪い呪いをかけないことが大切という意味で使われている気がして。こういう発想が浮かぶのも山下さんのおもしろさですね。

このシングルの2曲は、構成という意味では共通点が多いんですよね。でも見えてくる映像や色合いが違うし、ギャップもあって、いいシングルになったかなと思います。

(C)大高忍・講談社/「オリエント」製作委員会
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