「フォークダンスDE成子坂」の名作コントを3DCGでリメイクした『其れ、則ちスケッチ。』、4月からテレビ放送開始! 石ダテコー太郎監督ロングインタビュー【前編】
かつて一斉を風靡したお笑い芸人「フォークダンスDE成子坂」のコントを題材にした3DCG動画作品『其れ、則ちスケッチ。』(略称、それすけ)。もともとはクラウドファンディングの企画としてスタートしたプロジェクトだが、なんと2022年4月からテレビ放送が始まる。
作品の監督を務めるのは『gdgd妖精s』や『直球表題ロボットアニメ』、『てさぐれ!部活もの』などを手掛けてきた石ダテコー太郎監督で、キャラクターデザインや世界観の構築は吉崎観音さんが担当する。
今回は『それすけ』のプロジェクトを立ち上げたきっかけや、作品の内容、フォークダンスDE成子坂さんとの想い出などを石ダテコー太郎監督に伺った。『それすけ』だけでなく、石ダテ監督作品の笑いの秘密についても、たっぷり語っていただいた。ロングインタビューの前編をどうぞ!
監督がお笑い芸人時代にお世話になった師匠のコントを後世に残すプロジェクト
――『其れ、則ちスケッチ。』はどのような作品ですか?
石ダテコー太郎監督(以下、石ダテ):『それすけ』は20年以上前に活動していたお笑い芸人「フォークダンスDE成子坂」さんのコントを、3DCGの女の子でリメイクした映像作品です。YouTubeチャンネルを中心に動画を公開しています。
――オリジナル作品ではなく、名作コントの映像作品を作ろうと思った理由をお聞かせください。
石ダテ:『それすけ』を作った理由はただひとつ、フォークダンスDE成子坂さんの名作コントを世の中の人に知ってもらいたかったからです。僕はかつてお笑い芸人をしていたのですが、当時もっともお世話になった先輩であり師匠がフォークダンスDE成子坂の桶田敬太郎さんと、村田渚さんだからです。
――石ダテ監督は後輩だったのですか!?
石ダテ:そうなんです。僕はもともとお笑いが好きで、なかでもフォークダンスDE成子坂さんとダウンタウンさんに憧れていました。なので芸人を目指そうと決めたとき、フォークダンスDE成子坂さんが所属していた事務所に入りました。彼らの年齢は僕より3~4歳上ですが、芸歴は6年も上の大先輩でした。
――同じ事務所に所属していたとは驚きです。フォークダンスDE成子坂さんは、近しい関係だったのですね。
石ダテ:はい。ありがたいことに、とてもかわいがっていただきました。それこそ、なにかあったらすぐに声をかけていただけたし、同じ舞台にも立たせてもらいました。彼らの弟子として、たくさん学ばせていただきました。僕に「お笑いのいろは」を教えてくれた師匠が、フォークダンスDE成子坂さんです。
――石ダテ監督の笑いの原点?
石ダテ:そうです。ですが、しばらくして彼らは解散してしまい、さらにおふたりとも亡くなってしまいました。そしていまから2年ほど前に、生前親しかった仲間で桶田敬太郎さんをしのぶ会を行ったのですが、そこに集まったメンバーで話したときに『其れ、則ちスケッチ。』の元となるアイデアが生まれたんです。
――どのようなお話があったのでしょうか?
石ダテ:そのとき話をしたのは、僕をいれて3人でした。『それすけ』でプロデューサーを担当している岩濱正人さんは、ご自身の会社「5次元」でゲームやVtuberなどを作っている方です。もうひとりは構成作家の中村周史さんです。3人でいろいろ話をしていたら、「この3人で力を合わせれば、成子坂さんのネタを後世に残せるコンテンツを作れるのではないか」という話になったんです。しかし大変残念なことに、中村周史さんもその後亡くなってしまいました。
――そうだったんですね。クリエイターが揃っていたら、話が早そうです。
石ダテ:そこに、桶田さんが最終的に所属していたプロダクションの代表だった小栗弘さんにも参加していただきました。小栗さんは当時、名古屋ローカルでフォークダンスDE成子坂の冠番組のプロデューサーを務めていた方です。
僕らの目的は「フォークダンスDE成子坂さんが残したネタを後世に残したい」という想いだけだったので、アニメではなくてキャラクターを使った「Vtuber芸人」のような完成形をイメージしていました。
――お笑いのネタの権利関係は、どのようになっているのでしょうか? ライトノベルやマンガ原作のアニメのような感じですか?
石ダテ:芸人のコントの権利ってグレーなんです。権利者が本人なのか事務所なのか、はたまたご遺族なのか不透明です。なので、僕たちは『それすけ』を作り始める前に、可能性のあるところはすべて話を通しました。まず、フォークダンスDE成子坂さんが所属していた事務所のホリプロに仁義を通して、さらにご遺族の方々にもお話を聞いていただきました。ご遺族の方々からは、「ぜひやってください」とありがたい声をいただけました。
――それは心強いですね。
石ダテ:桶田敬太郎さんは生前、「芸人のネタは、なんで古典落語のように定番にならないんだ?」と言っていたんです。僕らはそれを覚えていたから、『それすけ』の企画を始めようと思ったのかもしれません。落語は同じネタをいろいろな落語家さんがやります。ですが、コントはそうなっていません。
――なるほど!
石ダテ:音楽についても同じことをおっしゃっていました。桶田さんは音楽も好きで、ミュージシャンとしても活動していました。音楽はどんなに古い曲でも名曲は誰かがカバーして受け継がれていますよね? 音楽のカバーは喜ばれるのに、コントのネタはそうなっていません。なので、僕らが後世に伝えたいと考えたのです。
いままでの石ダテ監督作品とはガラリと違う石ダテカラーを殺した異例の映像作品
――『それすけ』のキャラクターは吉崎観音さんですが、起用した理由は?
石ダテ:フォークダンスDE成子坂さんは女性のファンがとても多かったので、もしかしたら当時の女性ファンが見てくれるかもしれない。なので、キャラクターデザインは女性にも受け入れられやすいデザインにしたいと考えたからです。女性から嫌われない女の子キャラクターを描ける人で、さらにギャグに精通している人。欲を言えば3DCGキャラクターの造形を理解していると嬉しい……。そう考えたときに、吉崎観音さんが適任だと思って声をかけさせていただきました。お忙しい方なので心配でしたが、快く引き受けてくださいました。
――すべての条件にマッチしていて、さらに人気作家さんなので最適です。
石ダテ:しかも吉崎さんからは、「ただコントをやるだけではなくて、世界観や物語を構築したほうがいい」と素晴らしいアイデアを出していただきました。コントの魅力を伝えるだけでなく、『それすけ』に作品性を持たせるべきと、提案してくださったんです。
――『それすけ』はハジメとチヅルのふたりの女の子がコントをする作品ですが、フォークダンスDE成子坂さんは男性です。キャラクターの性別を変えた理由は?
石ダテ:男性ふたり組のキャラクターがコントをしていたら、どうしてもフォークダンスDE成子坂さんと比べられてしまうから女性キャラクターにしました。いくら3DCGで丁寧に再現しても、本人を超えられるわけがありません。リメイク作品だとわかっていただけるように、本人たちのイメージから離したキャラクターにする必要があったのです。
――言われてみれば、そうですね。
石ダテ:今回はアニメっぽいふたりの女の子にしましたが、企画当初は宇宙人にするアイデアやマスコット的な動物にするアイデアもありました。ですが、そこまでかけ離れてしまうと、元のコントのおもしろさを表現しきれない可能性がある。そう思ったので人間の女の子にしました。
――コントの内容は、オリジナルを踏襲しているのでしょうか?
石ダテ:ネタはほぼ同じですが、性別を女の子にしたことで言葉が変わっていたり、時代を考えて現代風にアレンジしたりしています。それ以外は原作コントに忠実です。
――『それすけ』はフォークダンスDE成子坂さんのコントを忠実に再現したアニメ作品なのですね。
石ダテ:「アニメ」と名乗るのはおこがましいので、「連続コント動画作品」と謳っています。「連続テレビ小説」みたいに聞こえて、上品なイメージにならないかなぁと思ってます(笑)。
――「Vtuber」を名乗ってもよさそうだと感じました。
石ダテ:それはちょっと違うんです。と言うのも、Vtuberは中の人の魅力で見せていくコンテンツ。いわゆるアバターアイドルビジネスです。今の『それすけ』はそうではありません。ゆくゆく生配信などもしていけたら良いとは思っていますが、まずはあくまでもコント作品として見せていきたいんです。
――いままでの石ダテ監督作品とは系統が違うように感じます。
石ダテ:そうですね。まったく異なります。今回はお世話になった先輩のフォークダンスDE成子坂さんの作品なので、なるべく「石ダテ色」を出さないように気をつけて作りました。作品を作る理由は、彼らの名作コントを知ってほしいだけです。だから配信はYouTubeを選びましたし、英語字幕もつけています。bilibiliにも公開しています。フォークダンスDE成子坂さんのおもしろいコントを、ひとりでも多くの人に知ってほしいんです。
――石ダテ監督の作品は、石ダテ監督が声優として登場することもありました。ですが『それすけ』では一切登場していません。
石ダテ:それも予算がなかったから仕方なくでしたが。そうですね。プレスコ&アドリブ作品は舞台のようにナマモノなので、僕はその場の思いつきでいつもつい悪ふざけをしたくなってしまうのですが、今回はそういうモノは余計です。リアルにハジメとチヅルがこの世界で生活している雰囲気が出るように注意して作っています。コント以外に入れているものは、コントを楽しむための前菜としての物語だけです。それ以外は必要ないんです。
――無人島の女の子ふたりのお話ですが、どうやって物語を決めたのでしょうか?
石ダテ:時間が有り余っている状態で、なおかつ不安を抱えている状況はなにか? を考えました。『それすけ』はハジメとチヅルは無人島に遭難して、その不安な気持ちを払拭するために、大好きな楽しいコントをやってみるお話です。このお話の流れは吉崎観音さんにアイデアをいただきました。
――ふさぎ込んでいても仕方がないから、コントでもやって楽しもうというお話ですね。
石ダテ:無人島を舞台にすると、きれいな景色を背景にコントができます。「絶景×コント」ってミスマッチで、意外とおもしろい映像になるんじゃないかと思ったんです。
――誰もいない屋外でコントをしている映像はシュールでおもしろいです。
石ダテ:ありがとうございます。というように、『それすけ』ではフォークダンスDE成子坂さんのネタがよく見えるように、少しでも敷居を下げて楽しめるようにと、とにかく自分のカラーを殺すように作っています。その反動というわけではありませんが、音泉とYouTubeで配信しているラジオ番組『其れ、則ちラジオ』では自分の色が全開になっちゃっています。全く意図していたわけではないのですが、本編とかけ離れた完全に別コンテンツになってしまった……。そこはちょっと悩みです(笑)。