終着駅を決めるのは、自分次第。たとえそこが終着駅だったとしても、別の駅に向かって旅をすることもできる──工藤晴香さんの1stフルアルバム『流星列車』のテーマは「列車、乗客、人生、旅」
工藤晴香さんの1stフルアルバム『流星列車』がリリースされました。
2020年、3月25日、ミニアルバム「KDHR」で日本クラウンよりソロアーティストとしてメジャーデビューした工藤晴香さん。ここに至るまで、ミニアルバム2枚、シングル、リミックス作品と、色とりどりの作品をリリースし、さまざまな景色を見せてきました。そして、待望の1stフルアルバム『流星列車』に到着。
本作にはこれまでの作品に引き続き、全曲、作詞:工藤晴香・作編曲:平地孝次のタッグで制作された12曲が収められています。昨年7月にシングルとしてリリースした「Under the Sun」、既にライブで披露され音源化が熱望されていた新曲「Cry for the Moon」、「Supernatural」のほか、ミドルバラードの「HOPE」「家路」など、ラウドなだけではなく、深く、壮大な“くどはるワールド”が展開。
本作に込めた思い、『流星列車』から見えた景色を工藤さんにおうかがいしました。“くどはるワールド”の深層に、いざ出発進行──。
乗りたい号車にどうぞ
──Twitterにも書かれていましたが「これが最初で最後かもしれないという思いで制作に」挑んだという本作。制作が決まったときのお気持ちを教えて下さい。
工藤晴香さん(以下、工藤):「ついにきたか!」という気持ちでした。ゆくゆくはやりたいなといった気持ちはあったんですが、まだまだ先かなと思っていたんです。でも気づいたらデビューから2年経っていて(取材日の段階では)明日で3年目に突入。
「フルアルバムってめちゃくちゃ大変なんだよ」っていう都市伝説的な噂をよく聞いていて(笑)。でも逃げたくもないし、やるからには妥協せずにやりたいという思いがあったので、気合いを入れるためにも「最初で最後の気持ちでやるぞ!」と。
──くどはるさんの場合は、少し変わった順番でのリリースでしたし、アルバムとなると気合いも入るでしょうね。
工藤:そうですね。ミニアルバムが続いたあとに、2年目でシングルを出して、今年に入ってリミックスを出して、という(笑)。
──待望のアルバムのタイトルは『流星列車』。「列車、乗客、人生、旅」をテーマにされていますが、このコンセプトにした理由を教えて下さい。
工藤:アルバムを作るにあたってテーマをちゃんと決めたいという思いがあったのですが、テーマがずっと決まらないまま、ライブで初披露した楽曲(「Cry for the Moon」「Supernatural」)だけ先行で制作が進んでいました。バラード、ミドルバラードなど、徐々にデモで届き始めたときに、そろそろテーマを決めないとこの子たちの歌詞が書けない!と。そんな中で、1号車の「旅立ち」の歌詞を書いたところ、私がすごく気に入ってしまって。この「旅立ち」をベースに、アルバムを進めていこう!と固めてから「列車、乗客、人生、旅」を全体テーマにすることが決まりました。
──曲数を号車に例えているのも特徴的ですよね。「1駅目、2駅目…」だと想像がつくんですが、車両にしたのは何か理由が?
工藤:タイトルや曲が出来ていない段階で、先にジャケットのデザイン会議があったんです。そこでテーマを伝えて、「1号車、2号車……って形にしてほしい、とお伝えしていました。実は駅も考えていたんですが、駅にしてしまうと「降りちゃってる! そこで完結しちゃう!」と思って。ずっと乗っていてほしいなという思いがあったので、それであれば車両にしようかなと。「乗りたい号車にどうぞ」って。
──いろいろな号車があって、それぞれラッピングも全然違うというか。
工藤:そうですね(笑)。いろいろな号車があるなというのは、自分でも思いました。
──平地孝次さんとはどのようなやりとりをされましたか?
工藤:もうずっと一緒にやってきているので、そんなに細かいことはやりとりしていないんです。信頼していることもあって、平地さんならすごいものがくるはずって思っていましたし……びっくり箱でもあるんですよね。「あ、そうきたか!」っていう。
それを私は楽しんでいて「頼んでたのと違うじゃん!」じゃなく「おおおお……! こういうオファーをしたら、こういうものになるんだ!」って。だから細かくオファーはしていないんですけど、バラードに関しては日本語で歌詞を書きたいので、洋楽っぽくしないでほしいですとお伝えしました。
やっぱり裏のリズムの曲が多いので、日本語だとうまくハマらないんです。無理やりはめてしまうとノリが悪くなってしまうんですよね。それで英語とまぜこぜにしてやっているんです。
──やはりグルーブというのは、くどはるさんの中で大切にしているものですか?
工藤:そうですね。これだけテンポが独特で激しい曲なので、歌だけ置きにいってるっていうのはちょっと違うなと。フロウしたいなとは思っています。
答えなんてないよ。
──最初に1号車の「旅立ち」ができたとのこと。「旅立ち」は始発駅など電車にまつわるワードが出てきて、人生になぞったかのような歌詞ですが、それは自然と出てきたものだったんですか?
工藤:そうですね。自分の中から自然と出てきました。
──くどはるさんが気に入ったポイントはどのあたりだったのでしょう?
工藤:旅立ちではあるんですけど、歌の中で終着駅にはついているんです。でも歌詞の最後に<答えなんてないよ>って。例えそこが表面上は終着駅だったとしても、それを決めるのは自分自身だし、そこから別の駅に向かって旅をはじめることもできるので、自分次第なんじゃないかなって。そういう意味も込めて、はじまりの曲であり、象徴する楽曲であるなって。
──それが最初に出来たというのがすごいですね。
工藤:ラッキーですね(笑)。この曲が最初にできてよかった!って。この曲ができてなかったら全然違う内容になってたと思います。それはそれで少し見てみたかったですけど(笑)。
──以前お話をうかがったときに「詞を書いていると、今の自分の身近にあるもの、周りにあるもの、最近感じたことが反映されちゃうんです」とおっしゃっていました。改めて、「旅立ち」はどういうきっかけで生まれた曲だったんでしょう。
工藤:この曲を書いた時期、確かTシャツを着ていました(笑)。だからめちゃくちゃ前で。秋だったような気がします。すごく初期に出来た曲なので記憶を思い出しますね……(長考して)書いたとき、ずっとどっか行きたいなと思っていて。旅行などではなくて、いますぐこの場所からどこか遠くに行きたいなと思っていて、せめて歌詞の中だけでもどこかに行かせてあげたいという思いがありました。
でも単純にどこかに抜け出して、楽しい、ハッピーじゃなく、出会いとか別れのような旅ならではの切なさを出したいなと。また、行きに見た景色を帰りに見ると違って見えることがあるので、そういった違いも描きたいなと思っていました。目的地についても、乗ってる人がいる場合があるじゃないですか。時々、私が見られない景色をこの人たちはまだ見られるんだなって思うことがあって。
──電車に乗っているといろいろな家も見えるじゃないですか。そこではどういった人生が送られているんだろうって思うことがあります。
工藤:それはありますね。私も「自分がこの街で生活してたら今どういう生活を送ってるのかな」って妄想することがあります。それと、もう戻れない場所……というんですかね。そういった切なさを書きたかったという思いがありました。