劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』荻野目苹果役・三宅麻理恵さんインタビュー|初心の自分に振り返るときに『輪るピングドラム』を再び見る【連載第3回】
2011年に放送されたTVアニメ『輪るピングドラム』が劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』として待望の映画化! 4月29日(金)より全国の映画館で上映中です。
10年という時を経て劇場版が制作されることになった『輪るピングドラム』ですが、幾原邦彦監督による独特な世界観も相まって、多くのファンを生み出し、今なお語り継がれる名作となっています。
その人気は本作の10周年記念プロジェクトとして行われたクラウドファンディングの総額を見れば明らかです。目標金額の1000万円はわずか150秒で達成し、終了してみればまさかの1億円超え(105,192,960円)。
なぜ、人々はこれほどまでも『輪るピングドラム』に魅了されてしまうのでしょうか。
アニメイトタイムズでは、『輪るピングドラム』に関わるスタッフや声優陣にインタビューを行った長期連載を通して、この答えの一端に迫ってみようと思います。
第3回となる今回は、荻野目苹果役の三宅麻理恵さんが登場です。
当時、新人声優だった三宅さんにとって、荻野目苹果という役は大きな存在であったようです。
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自分の「初心」を思い出す『輪るピングドラム』という作品
ーーTVシリーズの『輪るピングドラム』は、三宅さんにとってどのような思い出のある作品でしたか?
三宅麻理恵さん(以下三宅):10年前、まだ新人の時期だった私にとって、苹果は自分にとっての初めての大きい役でした。アニメ作品でこんなにセリフを喋ったことも初めてで、本当に無鉄砲だったなあと思うくらい、収録時になんでもかんでも聞いていました(笑)。
そんな自分の「初心」を思い出したいとき、自分の仕事の姿勢を振り返りたいときに、折にふれて『輪るピングドラム』を見返していました。
ーー特に見返す話数などはありますか?
三宅:苹果が本格的に登場する2話ですね。2話を見ると、役が決まったときの気持ちや、台本をもらってから読み込んだことや、アフレコのときの感情がよみがえってきますし、視聴者の方からの反響を感じたことも思い出すんです。
『ピングドラム』放送時は、SNSなどで視聴者の方のリアルタイムの感想を目にすることが多くて。好意的な感想はもちろんうれしかったですし、「こういうつもりでお芝居していたけど、完成したものはこういう形になったんだな」という、完成したアニメから視聴者の方がどんなふうに受け取るかもたくさん感じさせてもらいました。
ーーそんな『ピングドラム』が2022年に劇場版として制作・公開されました。久々に苹果を演じていかがでしたか。
三宅:10年ぶりに演じることで、「当時と同じように演じることができるだろうか」という不安とプレッシャーはありました!
収録の前に、幾原邦彦監督と荒川美穂さん(高倉陽毬役)と一緒に、キャラクターを確認する読み合わせテストをやったんです。2話の最初のセリフをはじめ、いろいろな苹果のセリフがピックアップされていて。声に出すまではドキドキしていたんですが、いざセリフを口にしてみると、当時の自分の感情や緊張感が一気によみがえってきました。
10年たって成長できた部分がありつつ、やっぱり荻野目苹果をやるうえで「ここはこうしたい」というのは10年経っても変わっていないんだな、新規収録の中でも「変わらないものがちゃんとあるんだな」と感じられたことは、自分の自信にもなりました。
ーーちょうど今、後編のアフレコを終えられたということで、アフレコ時のお話もお聞きしたいです!
三宅:いろいろなパターンでセリフを収録する録り方をしていて、10年前のことを思い出しました。アフレコの際によいと感じるテイクと、実際の編集の際に採用したいテイクが違うことがあるので、幾原監督が「NGというわけではないが違うパターンも録りましょう」と幾原監督がおっしゃっているのが懐かしくて。
10年前もそういう録り方をしていたんですけど、当時は何もわからなかったので、「本当はNGなんだけど、NGというともっとお芝居の質が落ちるから、こういう言い回しでフォローしてくれているんじゃないか」という気持ちになったことがあったんです(笑)。
この10年間でさまざまな現場に立たせていただく中で、そういう録り方があることも、実際にアフレコ時のOKテイクではないものが採用されている経験もあったので、今回は10年前のような不安はなかったですし、改めて「10年前のあの言葉はそういうことだったんだな」と感じることができました。
ーーアフレコ時、ほかにも幾原監督からどのような言葉があったのでしょうか。
三宅:後編についての話になるのですが、あるシーンで苹果のセリフが変更になっていたんです。それはTVシリーズではセリフがなくアドリブ的に言葉を入れる場面で、リハーサルの際に「ここはこういうセリフを言ってもいいですか?」と聞いたら、「セリフじゃないほうがいい」と監督にアドバイスされたところでした。
実際出来上がったものを放送で見て、「確かにセリフじゃないほうが胸に来るな、やっぱり監督はすごいな」と思っていたのですが、今回の劇場版後編の台本では、当時私が「言ってもいいですか?」と聞いたセリフになっていたんです。
ーー10年越しの採用……ということだったんでしょうか?
三宅:今回も採用というわけではなくて、テストとしての収録ではあるんですが、「10年前はセリフなしを採用したけど、いまもちょっと心に引っかかっているものがあるから、とりあえず録ってみよう」ということだったようです。
実際採用されるかはわかりませんが、10年前のテストのころのことを覚えてくださっていたのがとてもうれしくて。いろいろな可能性をとりあえず試してくれる幾原監督は素敵だなと思いました。
ーー監督の中でも大きな引っ掛かりというか、思うところがあったということなんですね。
三宅:劇場版の後編の収録まで、そういう提案をしたことは頭から追いやっていたんですけど、あの頃の「思ったものを全部言う」「とりあえずまずはやってみる」というのは大事だったんだなと。これからも、どこの現場でも、たくさんの可能性を考慮したうえで、いっぱい引き出しを持っていこうと改めて思いました。