ドタバタアイドル憑依コメディ『神クズ☆アイドル』TVアニメ今夜放送! 原作 いそふらぼん肘樹先生×福岡大生監督 対談インタビュー|「隅々まで小ネタが仕込まれています。原作を読まれている方は、見比べてみるのも面白いかもしれません」【連載 第1回】
シリアスな話を描くのは得意ではない?
――そもそもなぜ、いそふらぼん先生はクズのアイドルを描こうと思ったのでしょう?
いそふらぼん:「お金をもらったときだけ元気になる」といったアイドルをひとりで妄想していたのがベースですね。極端な人間のほうが動かしやすいんです。やる気に溢れた人間と、やる気のない人間がタッグを組んだほうが面白いなって。
――いそふらぼん先生もシリアスさ、キャッチーさというバランス感は作品を書く上で意識されているところなのでしょうか。
いそふらぼん:そうですね。そもそも、私はシリアスな話を描くのが得意な人間じゃないんです。
福岡:ええ!? そうなんです?
いそふらぼん:はい。なんというか、照れてしまうんですよ(笑)。放っておいたらずっとギャグ漫画を描いてしまう人間なんです。歯を食いしばりながらシリアスな場面を描いてます(笑)。でもあんまりシリアスな話を続けると読者が飽きてしまうだろうなと思ってて。だからシリアスな展開中にも仁淀がしょうもない聞き間違いをするとか、アサヒちゃんが意外と気にしてないとか、そういうギャグを差し込むことでバランスを取るようにしていますね。
福岡:さっきも言いましたけど、そのバランス感ってアニメにするには難しいんですよね。でも『友奈』でめちゃくちゃシリアスな中にギャグをぶっこんでいるので、慣れてたと言えば慣れてたんですけど……アニメ的には急にシリアスなところから、ギャグにいって、またシリアスに戻るってなかなか技量がいるんです。
いそふらぼん:確かにアニメだと難しいですよね……。
福岡:でも大丈夫です!(笑) そこは安心してください!
――そういう意味で、難しかったキャラクターというと……。
福岡:1話には登場しないんですが、今後登場する瀬戸内くんを描くのはちょっと難しかった(笑)。(瀬戸内役の)寺島拓篤さんには話したんですが、瀬戸内の場合、三重人格というか……アイドルの瀬戸内くん、オタクの瀬戸内くん、そしてその後ろに、中学時代の素の瀬戸内くんがチラチラと見え隠れする。その全部を把握した上で別々に演出しなければいけないということに苦労しました。
いそふらぼん:瀬戸内に苦しまれていたんですね(笑)。私も瀬戸内編は苦労しました。
福岡:でも自分がというより、シリーズ構成・脚本の(蒼樹)靖子さんが苦しまれていましたね(笑)。
――逆に仁淀くんは描きやすかったのではないでしょうか。
福岡:仁淀くんは書きやすかったです。クズに書けばいいですし、目をTの字で描けば仁淀くんになってしまう(笑)。逆にイケメン顔以外のときに作画を整えすぎると、仁淀くんのクズさが薄れてしまうので、ちょっとユルいくらいのほうが良いのかなと思っていました。
いそふらぼん:仁淀は全コマ真面目に描いてしまうと、仁淀にはならないんですよね(笑)。
福岡:その代わり、キメ顔のときはエフェクトがめちゃくちゃ乗ってます(笑)。アサヒちゃんが入ったときは目の輝きが全然違うので。実は原作の表紙のアサヒちゃんの目の色と同じハイライトを仁淀くんの目に入れているんです。
いそふらぼん:そうなんですか! オシャレ!
福岡:そうそう。だから神仁淀(アサヒが憑依している時の仁淀)のときの目には単なる白じゃなくて、薄い緑が入っているんです。原作の3巻の表紙を拡大したところ、神仁淀の目にそういう色が入ってたので……。
いそふらぼん:えっそうでしたっけ!?(3巻の表紙を急いで確認して)……入れてる(笑)。
福岡:それで“アサヒハイライト”を入れましょうと。
――素敵なお話です。視聴者も分かりやすいですね。
いそふらぼん:ですね。良い演出。……誰が考えたんだろう?
福岡:いや、先生が考えたんでしょう!(笑)キャラクターの色を作るときはカラー原稿を全部もらって配色などの参考にするんです。そういう意味で、アサヒちゃんの髪の毛の色は少し迷いました。最新のカラー原稿の、ちょっとオレンジっぽい色に寄せたんですけど、分かりやすくするためにアニメでは少し赤が多少入っています。仁淀くんの髪の毛の色はカラー原稿に寄せて飴色を混ぜています。最近って黒をあまり使わないんですよね。でも逆にタイトルでは黒を使っています。
――あのタイトルの黒がカッコいいですよね。
1話の見どころは「吉野くんの可愛さ」
――「STAGE.1」は監督自ら絵コンテも演出も手がけられていますよね。
福岡:そうですね。先輩たちには「監督は演出はやらないほうがいい」と言われているんです。なんでかっていうと……単純に仕事量が多いので(笑)。
いそふらぼん:あははは。そりゃそうですよね。
福岡:特に1話は大変なんです。キャラクターデザイン・総作画監督の細田沙織さんは、キャラデザを手がけられるのは初めてということもあって、キャラづけや方向性、動きなどを意識しながら作っていきました。他にも後半のほうでも演出をやっています。ところで、先生の中で1話の見どころってどうです?
いそふらぼん:難しいなあ(笑)。これは1話に限らずなんですが……悪い意味ではないんですが、キャラクターを動いているのを見るのが恥ずかしいんです(笑)。動くと思って描いてないので「え、なんか喋ってるし、動いてるんだけど!」ってずっとびっくりしている感じです。あと、ずっと思っていたのが、吉野くんが可愛いってことなんですよねえ(笑)。1話ではアサヒと仁淀の出会いも描かれているのですが、そんなことより、「吉野くんが可愛くない!?」って。
福岡:あっははは。吉野くんは可愛く描きました。
いそふらぼん:読者の方が自分の想像以上に吉野くんのことを好きでいてくださっていて。自分的にも「吉野くんの可愛さナメてたな」って反省することが多いんです。でもアニメで改めて吉野くんを見て「まだナメてた! 申し訳ない!」って思いました(笑)。もう仁淀と組むのやめなよ! 仁淀のことなんて忘れなよ!って本当に思いましたよ。
福岡:それだとZINGSの物語が終わってしまう……!(笑)また、堀江(瞬)くんの声がマッチしてるんですよね。
いそふらぼん:そうなんですよね! 吉野くんの健気さを表現してくれていて。だから本当に仁淀のことが許せなくなってくる(笑)。アニメの中に「ちょっとスタッフさんに話を聞いてくるからね」とか、新たなセリフを差し込んでくれてるんですけど、「そんなことしてあげる必要ないよ!」って(笑)
福岡:あはははは、吉野くんってあがり症以外、スペックめちゃくちゃ高いですよね。
自分の役を好きになってくれる人たちを選びたい
――さきほど堀江さんの声がマッチしているというお話がありましたが、すごく良い配役ですよね。
いそふらぼん:ですよね。それはすごく感じています。
福岡:今回オーディションをやらせてもらったのですが……だいぶ苦労しました。皆さんとても良い声だったので。
――その中で、どのようにキャスティングを決められたのでしょうか。
福岡:東山奈央さんはすぐに決まったんです。スタッフからも「アサヒは東山さんが良い」という声が上がっていて。ZINGSに関しては歌のうまさも考慮しつつ、若手で主役ははじめてだけど、仁淀くんに似合うかなと思ったのが今井文也くん。そして、吉野くん役には、今井くんより経験値があって、その上でフォローできるであろう堀江くんを選ばせてもらいました。
――いそふらぼん先生は、キャスティングを見たときにどのような印象がありましたか?
いそふらぼん:私、あまり声優さんに詳しくなくて。かつ、キャラクターに対して「こういう声です」というイメージが一切なかったんですよ。だからキャスティングを見たときは「分からないけど、きっと仁淀たちの声になるんだろうな」と思っていました。実際監督が「今井くんは仁淀を好きになってくれる人だと思うから」とおっしゃっていて。それがすごく印象に残っています。
福岡:そうですね。「自分の役を好きになってくれる人たちを(選びたい)」という気持ちがありました。原作者からしたら、自分の作ってくれたキャラクターを好きになってくれた人が配役されたほうがご納得できると思うんです。
いそふらぼん:仁淀って一言で表すならクズではあるんですけど、「もうちょっと言うなら、仁淀は自分が苦労したくないからクズなだけであって、人に加害を加えるタイプではないんだよ!」って説明したくなってしまうようなキャラクターなんですよね。そこを汲み取って、仁淀ってクズだけど良いところはあるんだよね、って思ってくれる人であればいいなと。
福岡:うんうん。自分は仁淀くんをクズというより「今どきの子」というイメージで捉えていました。自分の周りの若いスタッフの間でも「気持ち分かるよ」って声が多くて。そういう意味でも、若い声優さんのほうが良いのかなと。