夏アニメ『リコリス・リコイル』監督 足立慎吾さんインタビュー|千束とたきなの2人が少しずつ仲良くなっていく様を見てもらいたい【連載 第3回】
2022年7月2日より放送がスタートするオリジナルTVアニメ『リコリス・リコイル』。監督・足立慎吾さん(代表作『ソードアート・オンライン』)×ストーリー原案・アサウラさん(代表作『ベン・トー』)×キャラクターデザイン・いみぎむるさん(代表作『この美術部には問題がある!』)×制作・A-1 Pictures(代表作『かぐや様は告らせたい』)という、スタッフ陣を見るだけで、どんな物語が展開されるのか、ワクワクしていることだろう。
アニメイトタイムズでは、作品誕生の経緯や声優陣の演じるキャラクターに対する想いに迫る放送開始直前の連載インタビュー(全4回)を実施している。第3回は、監督・足立慎吾さんに、本作を作り上げるうえでのこだわりを中心に伺った。
キャラクターデザイナーがいみぎむるさんになったのは直感!?
――1~3話上映会の反応やキャストの作品を語るときの熱さ、個人的にもたくさんの人におすすめしたくなる作品でした。ただ、足立さんと言えばキャラクターデザインのイメージを持っている方が多いと思うのですが、なぜ監督をすることになったのでしょうか?
足立慎吾さん(以下、足立):柏田さんから企画書を見せられて、「監督でどうですか?」って言われたのが最初だったと思います。アサウラ企画って書いてありましたよ(笑)。
とりあえず、アサウラさんと言う方に会って話をしてみようかな…と思って、アニプレックスに話を聞きに行ったのが始まりなんです。そこで「すぐに引き受けます!」というつもりでもなくって、まずはどんな企画なのかを聞きに行った感じでした。
内容について色々と質問したり私見を述べたりしている間に、なし崩し的にという感じなんですよ(笑)。「監督を拝命いたします!」、みたいな厳かな宣言は結局しなかったと思います(笑)。
――ストーリー原案のアサウラさんが先にプロジェクトに参加されていたと思いますが、足立さんが加わったことによって、本格的に動き出したそうですね。
足立:僕が入ったときは、まだほとんど何も決まっていなかったんですよ。ただ、5人のキャラクターと名前は決まっていて、それは残っています。カフェをターミナルにして、女の子が銃を持って戦うことだけが決まっていて、短い小説もあったんですけど、全体的にシリアスな内容だったんです。なので、それ以外のところは自分が入ってから作っていった感じでした。
――足立さんが入って、物語が明るい空気になったそうですね。
足立:アニメを見て暗い気分になったりするのは、今はあんまり求められていない気がするかなって…。自分はDVD買うくらい『GUNSLINGER GIRL』が好きなだけに、そのフィールドでは勝てないと思いましたし、ポイントをずらしたほうがいいんじゃないですかねっていう話は初日にしたと思います。
――そうだったんですね。
足立:美少女が銃を持って戦う作品ならば、真下耕一さんも繰り返し作っていますし、既に良質な作品もある。その上で『今』作るとしたら何なのか……。まずどこへ向けて、どんな作品を作るのか。視聴者にどう思ってもらいたいのか。大きく考えれば、泣いてもらいたいのか笑ってもらいたいのか。さらに、これを見て視聴者に何を感じてもらいたいのか?つまり、テーマが決まっていなかったから、それをまず決めましょうよ…と。
――監督の中でテーマが定まったから、どんどん形が作られていった?
足立:そうですね。こういう感じはどうですか?という提案を自分のほうからしていく感じで、少しずつ種を植えて、それをアサウラさんに育ててもらうという形で進んでいきました。
――足立さんがやりたかったことを、種として撒いていった感じだったのでしょうか?
足立:自分がやりたいことというより、アサウラさんと言う作家の魅力をアニプレックスがターゲットとするアニメ視聴者にどの方法を採れば届けられるかを考えてました。テーマは当然なければいけないのですが、難題だったのは子供が銃を持って人を撃つような物語をどうポジティブな形で届けるか?でしたね。
その結果、ミリタリー好きに向けて作品を作るよりも、むしろ千束とたきなというタイプが違う女の子2人が少しずつ仲良くなっていく過程を視聴者には楽しんでもらうほうに力点を置いた作品にしようと考えました。
――完成した作品を見ても、2人の関係性は大きな軸としてありました。ただ、DAという謎の組織が、犯罪を力で抑止しているというのも軸として描かれていますよね。
足立:子供が銃を持って仕事をしているってことは、誰か大人に強いられているということになるでしょ?きっと悪い大人が、騙してるんだろう。「君たちは良いことをしてるんだぞっ」ってね。DAがしていることの是非は視聴者に考えてもらいたいところですね。
――それが第1話の冒頭で紹介されているわけですが、この世界の仕組み的なところは、とても面白い発想だと思いました。
足立:確かな事実として、日本は世界の中でも極めて治安が良く平和で、その自認もありますよね。でもそれを支えているのが、全然知られていない闇の組織で、社会性の無い人を何千年も前から秘密裏に殺してきたから、規範意識の高い人しか子孫を残せなかった。だから日本人全体がだんだんそうなっていったんだ、みたいな設定はどうだろうかという提案をしたんです。監視社会に対するアイロニーもあるかな?
要するに、みんなが知っている事実を、大きな“ウソ”が支えていたという構造にしようと思って、DAがどんな組織なのかをアサウラさんに考えてもらったという感じですね。
――組織のバックボーンは決めているけど、本編はそこがメインではないというバランスも良くて、映像では、すごく魅力的なキャラクターが活き活きしているのが一番印象的でした。
足立:そう言ってもらえると嬉しいです。千束はそんな事より、今日面白い事があるかどうかの方が大事な人ですからね(笑) 。必ずしも本筋に関係ない小さなシーンの面白さを積む事を重視したいなと。こんなこと言われたら、この人はどう返すかな?と考えるのはとても楽しかった。ヨゴレが多くて、みんな口が悪いですからね。おもしろいですよ(笑)。
いみぎさんのキャラを得てからはより、千束もたきなもイメージしやすくなりました。テキストベースの作業中でも、なんだかんだで絵は重要だなと思いました。
――冬コミで偶然出会ったというお話は聞いています。
足立:お互いの作品が好きなある人物が居て。プロファンみたいな人です(笑)。彼を冬コミで、偶然見かけて声を掛けたら隣にいみぎさんが居たって感じです。好きな漫画家さんだったので普通にテンション上がりましたよ(笑)。熱量のあるキャラデザイナーを探していたから、それでダメ元で聞いてみようかなーって…連絡先を。
――その場の直感だったんですか! ということは、いみぎさんからはキャラクターデザインに対する熱が感じられたということですよね?
足立:いみぎさんは漫画家さんで、一度アニメ化はされているけど、オリジナル作品をイチからデザインできるっていうのは、アニメーターよりもチャンスがないと思うんです。自分が彼の立場だったら、一生に一度あるかないかのチャンスだと思うはずだ!な〜んて思ったんで、ダメもとで…(笑)。
実際にかなり熱を感じました。デザインラフをいただく時に、こちらがお願いしていない軽い落書きが描いてあったり、生活をしている雰囲気のラフがあったり、作品イメージを膨らませていただいてめちゃくちゃ嬉しかったです。そのくらいの熱量を持ってくれる人でないと、オリジナルのキャラクターデザインは難しいというのが自分の経験でも感じていましたし、とにかくデザイン作業を一緒に楽しんでくれる人が欲しかったんですよね。