劇場版『Gのレコンギスタ』第4部&第5部公開記念! 富野由悠季総監督インタビュー|「いつまでも『ガンダム』なんか見ているんじゃない」 『G-レコ』を通して未来の子供たちに伝えたい事とは
「いつまでも『ガンダム』なんか見ているんじゃない」
――富野さんのアニメ監督としてのキャリアが始まった年にサンライズも設立されました。制作スタジオとしてのサンライズへの想いはありますか?
富野:あるわけないですね。足を引っ張られているだけの存在だったので。
それと同時に、これだけ長い間仕事ができた事実があるので、サンライズだから作らせてもらえたとも思っています。僕にとってサンライズはそういう存在です。スタジオジブリの前身となるトップクラフトみたいな付き合いもあったけれど、そこで仕事をしていたらこうはならなかったでしょうね。
そうなっていたらなっていたで世界名作劇場の巨匠になっていた線もありますが、高畑勲さんという壁を如何に超えるかが大きな課題になったことでしょう。その機会は、今でも手にしたいと思っています。
サンライズは僕の気性にあっていたのでしょうね。おもちゃ屋と結託する巨大ロボット物のプロダクションですから、理工系のセンスがないといけません。これはアニメ関係者が意外と忘れてしまっていることだけれど。
僕は元々機械工学系の高校を受験していて、飛行機や船を造る仕事をやりたかった。そういう気質が残っていたので、巨大ロボット物に抵抗感がなかったのです。当時はアニメの仕事に就く人も少なかったですし、人物を描く技術や文芸的な資質が求められていましたから。結果的に長きにわたってサンライズで仕事をしてきたわけです。
――昨今では巨大ロボット物のアニメも少なくなりつつありますが、第一人者である富野監督は現状をどう見られていますか?
富野:何も思いません。時代は移ろっていくものなので、残ったものがいつまでも続いている方がおかしい。それは当然のこと。作り手は人に求められるものを作って見せるという立場ですから、僕から言うことは何もありません。
――監督の代表作である『機動戦士ガンダム』も43周年を迎え、50周年も見えてきました。長い間ガンダムを愛してきたファンのみなさんへ一言お願いできますか?
富野:「いつまでも『ガンダム』なんか見ているんじゃない」です。
何故なら機械的なものが好きな人、メカ好きな人は物を考える幅が物凄く狭いからです。社会性がないと言い換えることができます。趣味の世界で済ませているなら構わないのですが、もう少し人生全般に広げて考えることを知って欲しいのです。
自分が機械科・工学系を志望していた過去があるので、彼らが性格的に生真面目で繊細なところまで精密に見る、作るという才能があることは理解しています。けれど社会的な視界は本当に狭く、そんな状態で成功できる人間は一握りです。すると結局は機械のメンテナンスなどに回されてしまいます。
それでは職業人としてとても狭い範囲の仕事しかできなくなるので、社会性を持つ必要があります。だから若い時に自分がメカ好きだったとか、そういう感覚があるのならもっと別の事をやる努力をして欲しいですね。
――その別の事、というのは具体的には何を指しているのですか?
富野:農業や漁業です。人間は海のものや陸のものを食べて生活し、その上でメカ好きになったりする。身の回りの全てが繋がっているからこそ、得意だから苦手だからとジャンル分けをして済ませてしまうのは愚かなことです。自分の得意なものはあくまで全体の一部でしかありません。
一番わかりやすい例を挙げると、原子爆弾のような兵器を作るためには国家予算レベルのお金が必要になります。けれど、それを発明する人間たちはその責任を持とうとしません。作ったものがどのように利用されるかまで考えて欲しいんです。
誰かの意見に従順に、状況に流されるまま日々を過ごすのではなく、自ら考えて大きな目標にチャレンジする。これは生きていく上で絶対に必要なこと。周囲の優しさに甘えて与えられる答えを待つのではなく、自ら考えて行動してほしいですね。