劇場版『Gのレコンギスタ』第4部&第5部公開記念! 富野由悠季総監督インタビュー|「いつまでも『ガンダム』なんか見ているんじゃない」 『G-レコ』を通して未来の子供たちに伝えたい事とは
自分の中にある劣等感を認めて足場にする
――富野監督の新しいものを生み出そうとするモチベーションの源泉はどこにあるのでしょうか?
富野:そんなものはありません。とりあえず死にたくない。死ぬのなら前に向かって倒れたい。その心配をしているだけ。だからチャレンジしているに過ぎません。
そのためには、生きている時に自分の足できちんと立っていなくちゃなりません。アニメが職業として認められ、名前を遺せるとわかったのなら、作品作りをするしかないでしょう。
漫画家だった手塚先生が作家だったと言われるようになった事実が存在していて、僕も先人たちを見て、そういう時代の感覚もわかるようになってきました。だからアニメであることを言い訳に、この程度しかできないという物の考え方を絶対にするなと思うようになりました。
将来、政治家や実業家になる子供たちのためになる気概を持ち、子供たちに舐められない作品を作るためにどうしたらいいか考えた時に、自分に才能がないことを自覚する。それは謙虚でいいことだと一見すると思えるのですが、それを認めてしまうと努力をしなくなります。
どれほど勉強ができなかったのか、学ぶことを怠っていたのか、それに気づいたのは60歳を過ぎてからでした。ですが、残念なことに僕はそのような人間なので、学力は望めません。だから欠点を埋める方法を考えた時に、アニメは良かったと考えています。
なぜならアニメというレベルでは、学力をひけらかす必要はなく、少しだけ自分の知っている事を作品に付け加えれば、多くの人に見てもらえると考えられたからです。自分はこんなものだから、これでいいなんていじけている暇はないんです。
アニメの仕事をやることで犯罪者にならずに済んだと思っているのは間違いありませんが、人殺しの疑似体験みたいなことをアニメの演出でやっているんですよ。キャラクターの戦死は、かなり意識的に描いています。そこで人殺し論に触るんです。ただ単にキャラクターが戦死するシーンが必要だからと描いているつもりはありません。
ひょっとしたらセクハラもそうかもしれません。それがどういう事かというと、アニメをアニメとして見るのではなく、自分の生活と感覚の延長線上にあるものとしてみているんです。だから物語の都合や予定でキャラクターを動かすことはしません。
そこに気を付けるとひとりひとりのキャラクターに人格が見えてきます。そしてそういうキャラクターが作れると、セクハラをしている暇なんてありません。その子を気に入って気持ちよくなれてしまうから。僕がオリジナルでその感覚を持ったのはセイラ・マスでした。
セイラの次にマチルダ・アジャンというキャラクターを生み出せた時は、身震いしたものです。アニメだと思って舐めないで良かった。けれどアニメだから、漫画絵だからと舐めている奴がスタッフの中にかなりいて、そういう奴とそうじゃないやつの違いは正直かなりあります。なぜなら、正気になったとしても、そのキャラクターを好きでいられる、こいつなら寝ただろうと本気で信じられる存在はいるからです。
その実在感や肉体感みたいなことが持てないと地獄が生まれます。『G-レコ』にもそういうキャラクターがひとりいます。僕はアイーダのことがまったくわからなかった。だからああなってしまったんです。
アニメのキャラクターだからこんなもんだよね、じゃないんです。声優さんが上手くハマった時は本心からキャラクターの声だと思える瞬間があります。今『G-レコ』でいうと僕は、チッカラ・デュアルとクン・スーンは本当に好きです。
――最後の質問です。今回お話を聞かせていただくにあたり、学ぶことを怠った後悔をはじめ、富野監督は劣等感から作品を作っていると思えるところがありました。それはなぜなのでしょうか?
富野:基本は劣等感ですが、飲み込んで自分の中に容認する、武器にする。これを足場にすることを僕はやりました。
やっぱりキャラクターを描くことで現実の体験に近いことをしたとか、この女とだったら寝たと信じられるところまで作りこめたら、もうマスターベーションなんです。その感覚を持てないとキャラクターを作れません。
だから昨今の作品の女の子たちを見ていると、作り手は本当にこの子たちを好きなのか? という疑念を覚えます。この髪型をこの子は好きでしているのか? 髪の感触はどんなものなのか? スカートの下を見たいと思えるのか? と次々と疑いが湧いてきます。
キャラクターが絵のままでいることが僕は耐えられないんですね。だから、自分が生み出したキャラクターはこれこれこういう子で、だから好きなんですと、パッと説明してくる作り手がいたら、僕はそれを信用します。
アニメ程度とよく言われますが、音声があって動いてくれると程度ではなくなるのです。僕があるキャラクターを見て違和感を覚えたのは、ギミックとしてのキャラクターでしかないと考えたからで、けれど生き残れないと思っていたのに、10年もするとキャラクターとして成立していたりします。固有名詞は想像して下さい。
これを支持している人や制作した人は何を考えていたのか気になっています。デジタル屋が勝手に動かしている感触が拭えなくて、好きになれないんですよ。
――あれはひとりの愛ではなく、ファンの愛の集合体のような存在ですよね。
富野:愛の集合体と聞くと良いことのように思えるけれど、それはポピュリズムでしかない。これは重大な問題です。キャラクターには個性が欲しいんです。また色々と言いたくなるんだけれど、今必死で我慢しています。
[インタビュー/胃の上心臓 石橋悠]
劇場版『G のレコンギスタ IV』「激闘に叫ぶ愛」、劇場版『G のレコンギスタ V』「死線を越えて」情報
第4部:2022年7月22日(金)公開
第5部:2022年8月5日(金)公開
イントロダクション
さらなる進化を経て、IV、V、2部作連続公開でついに完結!
富野由悠季が原作・脚本・総監督を務め、2019年に全5部作として始動した『Gのレコンギスタ』の劇場映画化が、ついに最終局面に突入!
物語も折り返しを過ぎ、クライマックスへと突入していく第4部「激闘に叫ぶ愛」、第5部「死線を越えて」の2部作が、この夏、連続公開されることが決定した。
テレビシリーズの素材をベースに、ハイクオリティ化を図る形で進められてきた劇場映画化だが、第4部と第5部では、完全新規カットの量が大幅にアップ。その結果、物語自体もテレビシリーズをアップデートした形へと進化。富野由悠季総監督が新たに目指す、劇場版『Gのレコンギスタ』の最終局面はどのように描かれるのか?
人類の未来を見据える壮大なスケールの物語の決着がついに訪れる。
メインスタッフ
総監督・脚本:富野由悠季
原作:矢立肇、富野由悠季
演出:吉沢俊一(IV、V)、進藤陽平(IV)
キャラクターデザイン:吉田健一
メカニカルデザイン:安田朗、形部一平、山根公利
デザインワークス:コヤマシゲト、西村キヌ、剛田チーズ、内田パブロ、沙倉拓実、倉島亜由美、桑名郁朗、中谷誠一
美術監督:岡田有章、佐藤歩
色彩設計:水田信子
ディスプレイデザイン:青木隆
CG ディレクター:藤江智洋
撮影監督:脇顯太朗
編集:今井大介
音楽:菅野祐悟
音響監督:木村絵理子
企画・制作:サンライズ
製作・配給:バンダイナムコフィルムワークス
劇場版『Gのレコンギスタ』テーマソングアーティスト:DREAMS COME TRUE
エンディングテーマ:ハセガワダイスケ「カラーリング バイ G-レコ」
メインキャスト
ベルリ・ゼナム:石井マーク
アイーダ・スルガン:嶋村侑
ノレド・ナグ:寿美菜子
マスク:佐藤拓也
クリム・ニック:逢坂良太
マニィ・アンバサダ:高垣彩陽
ラライヤ・マンディ:福井裕佳梨
ミック・ジャック:鶏冠井美智子
バララ・ペオール:中原麻衣
キア・ムベッキ:中井和哉(IV)
クン・スーン:小清水亜美(IV、V)
ラ・グー:子安武人(IV)
公式サイト
公式Twitter