劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』幾原邦彦監督、武内宣之副監督インタビュー|スタッフがみんな『ピングドラム』を大好きなんです【連載9回】
2011年に放送されたTVアニメ『輪るピングドラム』が劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』として待望の映画化! 4月29日(金)に前編『君の列車は生存戦略』が公開され、7月22日(金)より後編『僕は君を愛してる』が全国の映画館で上映スタートです。
10年という時を経て劇場版が制作されることになった『輪るピングドラム』ですが、幾原邦彦監督による独特な世界観も相まって、多くのファンを生み出し、今なお語り継がれる名作となっています。
なぜ、人々はこれほどまでも『輪るピングドラム』に魅了されてしまうのでしょうか。
アニメイトタイムズでは、『輪るピングドラム』に関わるスタッフや声優陣にインタビューを行った長期連載を通して、この答えの一端に迫ってみようと思います。
第9回となる今回は、幾原邦彦監督、武内宣之副監督の2人が登場です。
旧知の仲だからこそ語られる劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』の秘密とは?
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とにかく僕たちの打ち合わせが長かった
ーー武内さんは劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』で主要スタッフとして、中央図書館そらの孔分室のシーンを中心に担当しました。幾原監督とは『少女革命ウテナ』が初仕事になります。
武内:そうですね。ただ、それ以前に、僕の知り合いが『劇場版 美少女戦士セーラームーン』を見て、タキシード仮面の登場がすごいんだ! と力説していたんですよ、紳士服の看板の中からタキシード仮面が出てくるところがすごいんだと、半端ない熱量で語っていて。
幾原:あれは結構、場内爆笑だった(笑)。
武内:そうだと思います(笑)。それで、真面目な監督だとやらないようなことをする人だという印象は持っていました。あ、真面目じゃないって言ってるわけじゃないですよ。
幾原:まあ、実相寺(昭雄)監督が、『ウルトラマン』でシリアスな作品を撮る一方で、ハヤタ隊員が間違ってスプーンで変身しようとするというギャグをやるようなものだってことだよね。
武内:そうです、そうです。
ーーでは『ウテナ』で仕事をして印象は変わりましたか?
武内:いや、その時に感じたのは雑誌で見た通りの人だな、と。当時幾原さんは、アニメ雑誌とかにバッチリ決めた写真で載っていたので、その印象通りだなと思いました。自分よりちょっと年上ぐらいの世代で、ファッションにも気を使ってメディアに出る人はあまりいなかったし、当時の印象は今でもあまり変わらないんですよ。
というのも、それは表面的なことというより、「やるなら面白いことをしたい」「こうすれば面白いでしょ」ということを自分を使ってプレゼンテーションをしている姿勢というか、そういうところが変わっていないからだと思います。
……あと当時の印象でいうと、原画に誘われて一度、断った時のことは覚えています。「僕、エフェクトとか全然できないアニメーターなのでダメなんです」って言って断ったんですけど、そうしたら「エフェクトないんで、『ウテナ』は」って。そんなわけないだろうって、すごく驚きましたけど、その印象は強く残ってますね。
幾原:(笑)
ーー幾原監督自身は、そういう「やるなら面白いことを」という精神について当時と変化した部分はありますか?
幾原:まあ、メディアに出る出方については、時代とともに変わったと思います。かつてはメディアに出ること自体がおもしろいというか、アニメ雑誌とかに載っている写真が、記者がその場でパッと撮ったようものだったことに苛立ちがあったんです。
というのも、学生時代に、寺山修司さんたち文化人が、高度成長の中でメディアを作っていく様子を知ったからです。彼らは雑誌とかに出る時も、メディアそのものを作るという意識を持っていたから、かっこいい写真がいっぱいあるわけです。だから僕が『ウテナ』のころにああいうことをしていたのは、そのマネなんですよ。
でも、もうデジタルネイティブな世代が増えてきて、いろいろ感覚が変わっていると思うんです。そことはもうズレているだろうと思うので、最近はもう出るのはやめようかなと思ってます(笑)。
ーーTVシリーズの『輪るピングドラム』で武内さんと改めて一緒にお仕事をしていかがでしたか。
幾原:『輪るピングラドラム』の第9話では、アニメーターもやってもらったけど、絵コンテ・演出で内容により深く入る立場で入ってもらいました。当時の関係者の中で語り草になっているのは、とにかく僕たちの打ち合わせが長かったことですね。
武内:ああー(苦笑)。
幾原:昼に始まって、終わったのが次の日の朝だったり。
武内:それが珍しいって聞いて、後で結構、凹んだんですよ。「みんな、こんなんじゃないの?」「なにげに俺のせいになってる?」みたいに考え込んでしまって。でも楽しかったんですけどね。
幾原:すごいノリましたよね。
武内:うん、雑談がね(笑)。
幾原:そういう時って大抵、雑談なんですよ。あと昔話とか。
武内:でも、そういうところにヒントが転がっていたりするんですよね。
幾原:武内さんが「すごいなぁ」って思ったのは、後で作ったものを見ると、雑談とか無駄話にみえたものを結構拾っているんですよ。
武内:単純にいろんなことをよく知らないんで、興味があって聞いているうちに長くなったりもするんですよ。当時は幾原さんが持ってきてくれた建築のDVD(「LANDSCAPE OF ARCHITECTURES」)を見たり、「天使/L’ANGE」という実験映画を見せてくれたりして。
そういう自分が知らないことに触れられるのは楽しかったんですね。例えば、『そらの孔分室』に行くのにエレベーターを使うとなると、それをどういうふうに見せるかを考えながら、みんなでいろいろ話しをするんですよ。
第9話の時は数人で打ち合わせしていたと思うんですけど、僕は、そういういろんな話を聞きながら「それは実際にやるとなると大変だなー」と思っているという。でもそういう雑談の中からヒントを得ているんですけど。
幾原:(笑)。でも第9話のエレベーターの底はすごかったよね。
武内:あれは……あれは自分でもよく思いついたな、あの時の自分は偉かったなって思いますね(笑)。
ーーどういうアイデアだったんですか?
武内:エレベーターの籠の下面に、かき氷機についてるクルクル回る部分のギミックをくっつけたんです。あれは唯一、自分を褒めてあげたかったアイデアですね(笑)。
ーー『ピングドラム』にはそういうギミックが要所で出てきますが、視覚的なおもしろさが重要なのでしょうか。
武内:そうですね。要は“(そのカットの)秒数だけ持てばいい”という考え方が前提にあります。
例えば『ウテナ』の時に、深刻なシーンなのにチュチュ(マスコットのサル)が変なことをやっていたりするのと同じで、一瞬「えっ!?」って思わせられれば“勝ち”というか。漫画だったらずっとそのコマを見ることもできますけど、アニメは強制的にそのカットが変わっていくので、「あれ?」とちょっと変な気分になったところで、すっと次のカットにいけるところがいいなと。
とにかく、お客さんが飽きちゃうのが怖いので、それまでなんとか視覚的に印象の強いものでつなぎとめたい、と。