劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』幾原邦彦監督、武内宣之副監督インタビュー|スタッフがみんな『ピングドラム』を大好きなんです【連載9回】
「愛してる」という言葉に込めた意味
ーー武内さんは劇場版の企画を聞いたとき、どう思いましたか?
武内:その時は具体的なことはなにも知らないので「どうなるんだろう」なんて思いつつ、「了解! 了解!」みたいな調子で引き受けました。。
幾原:武内さんがやってくれたTVシリーズ『輪るピングドラム』第9話は、すごく印象的な話数になったと思うんです。特にビジュアルのインパクトが大きくて、あれに驚いたアニメ業界の人は多かったと思います。だから劇場版では、武内さんが参加できなくても図書館『そらの孔分室』のビジュアルは使わせてもらおうと思ってました。
でも武内さんが参加してくださることが決まったので、劇場版はぐっと図書館推しの作品になったんです。
武内:前編に第9話をヒントにした展開が多かったので、改めて10年前の自分の仕事を向かい合う形になりました。すっかり忘れているので、当時の素材を見ながら、真面目に演出してたなぁと思いました(笑)。
でも自分だけじゃなくて、断られてもしょうがないようなすごいカット数を引き受けてくれた美術さんとか、あるいは音響さんや撮影さんとか、そういう沢山のスタッフの方のおかげで出来上がった作品だったなということも改めて思いました。
ーー幾原監督は今回『輪るピングドラム』を作り直してみて、“10年後”の作品になったという感覚はありますか?
幾原:うーん、そこはわからない。わからないけど、自覚無自覚に関わらず、その時代に作ったということは絶対反映されてしまうものだと思います。あと自分に関していえば、その時々に感じたこと、目にしたことを作品に反映させるべきだと思っているので、劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』も自然と今の映画になっているとは思います。
ーー総集編とはいいながら、新作も多いですし、単なるダイジェストにならないよう、かなり複雑な編集になっています。
幾原:特に前編は、いちおう構成はあるものの、編集しながらお話を作っていったので、一体どうなるかわかりませんでしたね。それに対して後編は使うべきデティール、エピソードはわかっていたので、前編ほどの迷いはなかったです。
武内:前編はそんなにわからなかったですか?
幾原:わからなかった。再編集しながら、ああでもない、こうでもないとやりましたね。
ーー全編完成して『輪るピングドラム』という作品を再発見したような感触はあるのでしょうか。
幾原:うーん、そこはわからないです。まだちょっと距離が近すぎて、まだ客観的に見られないなぁという感じです。
武内:僕も全然わからない(笑)。ネットで考察している人の意見とかを読んで、そうなのかと思っているんで。幾原さんとか脚本の伊神(貴世)さんの中にはちゃんとしたなにかがあるんだと思うんです。でも僕は、そこから出てきた文章に対して演出をしているだけなので。ただ、改めて当時の映像を見ると、10年前に高校生にスマホを使わせていてそこは素直に驚きました。
幾原:そうそう。僕がスマホを使い始めた時期だったんだけれど、その時に直感で「これはもう全部スマホになる」って思ったんだよね。TVシリーズ制作中は、「高校生でスマホを持っている人はまだあまりいない」って言われたんだけど、「いや、3年後に見たら普通になってるから」と主張してね。
武内:あれがガラケーだったら、今回劇場版を作る時に絶対、「どうする? 全部修正する?」っていう話になったと思うんですよ。
幾原:(笑)。
武内:でも、デザインこそちょっと違うけど、今の道具として違和感なく見られるように使っているから、そこは幾原さんの先見の明でやってもらえて、よかったなぁと思います。
ーー武内さんはTVシリーズの時と劇場版で、制作する上での姿勢は変わったのでしょうか。
武内:そうですね……。第9話の時は、冠葉と晶馬の前にいる陽毬と、たった一人で『そらの孔分室』にいる陽毬の差を描こうとしていました。だから、ちょっと斜に構えるというか、素直じゃない描き方をしてます。それに対して劇場版のほうは、子供の冠葉と晶馬なので、子供っぽさを素直に出すことは意識しました。それが前向きに見られるような雰囲気に繋がったかなと。
幾原:作っている時はわからなかったんだけれど、TVシリーズを編集した部分と、武内さんたちが担当してくれた新作パート、田島(太雄)さんの実写パートを組み合わせた瞬間に、「いやー、こうなったのかー」という新鮮な発見はありましたね。決して予想通りとか計算通りとかそういう感じではないですね。
ーー「こうなったのか」という驚きは、作品作り上げた時にいつも感じるところだったりするのでしょうか。
幾原:ありますね、それは! 僕はたぶんそういうことが好きで。これも僕のキャリアの初めに寺山(修司)さんがあったからだと思います。これまで、自分自身が寺山さんから影響を受けたことと、自分が作っているものの間には、そこまで関係はないというふうに考えていたんです。実際、世の中には僕よりも寺山さんぽい作品を作っている人が大勢いるじゃないですか。
でも、この年齢になって、改めて顧みてみると、「自分の感性、それでいいんだ」という姿勢を含め、予想以上に自分と作品の関係の中に影響が現れていることを自覚しましたね。
武内:え、寺山さんのようにやっていないようなつもりだったんですか?
幾原:いや、『ウテナ』の時はもちろん意識はしてたよ。でも『ピングドラム』に関してはそういうところから離れたいと思っていたので。
武内:ああ、確かに。
幾原:ずっと離れたいと思っていたし、作っているものも違うと思っていたし。でも結論をいうと、ああ、そうかなにか似てるのかも……というのが劇場版を終えた今の感想ですね。
ーーこれから後編『僕は君を愛してる』を見る観客の方に、注目してほしいところはありますか?
武内:スタッフがみんな『輪るピングドラム』を大好きなんです。それでめちゃめちゃ頑張って作りました。しかもTVシリーズの映像もいいんですよ。TVシリーズの西位輝実さん、中村章子さん、柴田勝紀さんほかスタッフの仕事がとても素敵で。僕はアニメーター出なのでやはり作画に目がいってしまうのですよ。だから大きいスクリーンで見てもらえるとうれしいですね。劇場版ということで音響も、幾原さんがこだわっていたポイントなので、そこも楽しんでもらえればうれしいです。
幾原:今回、後編のサブタイトルに「愛してる」という言葉を選んだんですが、そこにいろんな意味を込めたつもりです。この言葉を通じて、僕も、お客様もみんな、「今この時代で生きてる」っていうことが共有出来ればなと思っています。
[インタビュー・文/藤津亮太]
連載バックナンバーはこちら!
『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM』作品情報
公開日:[後編] 2022年7月22日(金)
STORY
これは、ある兄弟妹と、突然やってきたペンギンと、この世界の過去と未来についての物語であるーーー。
病気の妹・陽毬の命を救うため、謎のペンギン帽の命令により「ピングドラム」を探す高倉家の双子の兄弟・冠葉と晶馬。自身の運命を信じて日記に書かれた出来事を実現しつづける荻野目苹果。新たな運命を導くため萃果の日記を手に入れようとする夏芽真砂子。大切な運命の人を取り戻すために目的を果たそうとする多蕗桂樹と時籠ゆり。
彼らはそれぞれの運命と大切な人の為に「ピングドラム」を追い続けたのだった。
あれから10年ーーかつて運命を変える列車に乗り込んだ冠葉と晶馬が、運命の至る場所からひととき戻ってきた・・・。
『輪るピングドラム』とは?
2011年7月にテレビ放送されたオリジナルアニメ『輪るピングドラム』。星野リリィ原案による個性的なキャラクターたちや、「ピングドラム」とは何なのか?という謎が謎を呼ぶ展開、クリスタルワールドなどの独特のビジュアルを使用した世界観で、放送当時大きな話題を集めた。
やくしまるえつこメトロオーケストラとCoaltar of the deepersによる主題歌をはじめ、劇中キャラクターのTRIPLE HによるARBのカバー曲など、音楽面でも高い評価を得ており、今でも多くのアニメファンの間で語り継がれている。
STAFF
監督:幾原邦彦
副監督:武内宣之
原作:イクニチャウダー
キャラクター原案:星野リリィ
脚本:幾原邦彦・伊神貴世
キャラクターデザイン:西位輝実・川妻智美
色彩設計:辻田邦夫
美術:中村千恵子(スタジオ心)
アイコンデザイン:越阪部ワタル
CGディレクター: 越田祐史(スタジオポメロ)
VFX:田島太雄
撮影監督:荻原猛夫(グラフィニカ)
編集:黒澤雅之
音響監督:幾原邦彦・山田 陽
音響効果:三井友和
音楽:橋本由香利
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:ラパントラック
製作:ピングローブユニオン
配給:ムービック
CAST
高倉冠葉:木村昴
高倉晶馬:木村良平
高倉陽毬:荒川美穂
荻野目苹果:三宅麻理恵
多蕗桂樹:石田彰
時籠ゆり:能登麻美子
夏芽真砂子:堀江由衣
渡瀬眞悧:小泉豊
荻野目桃果:豊崎愛生
プリンチュペンギン:上坂すみれ
10周年特設サイト公式サイト
アニメ公式ツイッター(@penguindrum)
幾原邦彦監督公式ツイッター(@ikuni_noise)
アニメ公式Instagram