ワンピース映画最新作『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー|「今はルフィの目線で見ている人たちが10年、20年経ってもう一度見た時に、今度はシャンクスの目線で見ることができる」【ネタバレ注意】
総合プロデューサー・尾田栄一郎先生、監督・谷口悟朗さん(『コードギアス』シリーズ)で贈るワンピース映画最新作『ONE PIECE FILM RED(ワンピース フィルムレッド)』。公開20日間で観客動員数720万人&興行収入100億円を突破し、シリーズ史上最高の興行収入&動員を記録した驚異の大ヒットとなっています。
本稿では映画公開大ヒット記念企画として、谷口悟朗監督にインタビューを実施! 1998年に発表された『ONE PIECE 倒せ!海賊ギャンザック』以来、24年ぶりの『ONE PIECE』となる谷口監督に『FILM RED』誕生のお話から制作秘話の裏話まで、たっぷりとお聞きしました。
『ONE PIECE(ワンピース)』は、尾田栄一郎先生による週刊少年ジャンプ(集英社)で連載中の国民的人気コミック。連載は1997年、TVアニメ放送は1999年にスタート。2021年、コミックス全世界累計発行部数は4億9000万部を超え、2022年7月で連載開始25周年に突入しました。
※本文に一部ネタバレもありますので、まだ作品を見ていない方はご注意ください。
<STORY>
世界で最も愛されている歌手、ウタ。素性を隠したまま発信するその歌声は“別次元”と評されていた。そんな彼女が初めて公の前に姿を現すライブが開催される。色めき立つ海賊たち、目を光らせる海軍、そして何も知らずにただ彼女の歌声を楽しみにきたルフィ率いる麦わらの一味たち、ありとあらゆるウタファンが会場を埋め尽くす中、今まさに全世界待望の歌声が響き渡ろうとしていた。物語は、彼女が“シャンクスの娘”という衝撃の事実から動き出す――。
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三度目のオファーを受け、引き受けた監督作品
――今作を監督することになった経緯を教えてください。
谷口悟朗監督(以下、谷口):私のところに『ONE PIECE』の監督のオファーが来たのは、今回で3回目なんですよ。これまでは私が『ONE PIECE』に入る理由が見出せずお断りしていました。三度目のオファーを受けたときに、プロデューサーと話をしていて、明確にプロジェクトとして、『ONE PIECE』をさらに前に進めるために「何かを壊し、何かを足す必要があるんだろうな」と思ったんです。そこで私の方から「ともかく原作者・尾田栄一郎さんの許可をもらってほしい」と告げ、確認してもらったところ、尾田さんからOKが出まして、特に問題もなくなったので引き受けることにしました。
――「何かを壊し、何かを足す」という言葉が出ましたが、具体的にはどのようなことでしょうか。
谷口: TVアニメ『ONE PIECE』の歴史があまりにも長いので、今関わっているスタッフというのは、最初から関わっているスタッフはほぼいないんですよ。途中参加している方がほとんどなので、とくに論理的裏付けもなく、いままでそうやってきているからという理由だけで慣習化されているルールみたいなものがあったりすると思うんです。
当時はそのルールに対して、明確な理由があったはずです。でも、それが今でも通用することかは分からない。それを壊す、もしくは疑うというのは、内部の人間にはなかなか難しいと思うんですよ。
そうした時に、「これおかしくない? これ変えちゃおうよ!」と気軽に言える外部の人間が必要なんです。そうすることによって、バージョンアップを図れないか、捉え方の変化を探れないか、ということを(本作の)プロデュースをする側の人間が考えていたのではないかと思います。
ただ、そこを変えたとしても変化するだけ、今現在のところをバージョンアップしただけになって、足すものが特にないのであれば、私が監督である必要はないわけです。バージョンアップしたうえで、「そこに何を足していけるか」というのが黒岩勉さんを交えた脚本やプロットの打ち合わせでの大きな議題でした。
そして結果的に、「ウタという女の子を中心とした歌」を大きな軸に持ってくることになったわけです。『ONE PIECE』の中で、今まで歌を歌うキャラクターというのはゼロではなかったので、中途半端にやっても被ってしまいます。「やるんだったら派手にドーンとやらないと」ということで今回の作品は歌をメインに制作することになりました。
――歌をメインにするというのは、監督の意向ですか。
谷口:私の方から「歌を使いましょうか」と提案しましたが、これは切り札に近かったんです。というのも、尾田さんが音楽が好きな方なので、こだわりたくなってしまうと聞いていたんですよね(笑)。
そこで黒岩さんと話をしながら、「トータルで何曲ぐらいの楽曲が必要になるのか、それは何分ごとで曲がくれば成立するのか」を決めていきました。黒岩さんはプロットを書きながら、私は黒岩さんのプロットを基にして、使う曲や曲のアレンジを同時並行で計算しながら作業していきましたね。
今作で登場するかもしれなかったキャラクター候補
――今作はシャンクスがキーマンとなっていますが、どういった経緯でシャンクスが登場することになったのでしょうか。
谷口:これはもう尾田さんのおかげです。
最初は「シャンクスを勝手に出したら、まずいだろう」と話していたんです。シャンクスを絡めた方がいいことは分かっているけれど、勝手に出すわけにもいかないので、「シャンクスは出てはこないんだけど、何となく影が見えるぐらいの落としどころでいくか? でもシャンクスをなんとか使えないか。」と会議の場で相談したところ、尾田さんが「出していいですよ」と言ってくださったんです。
シャンクスは扱いが本当に難しいキャラクターですけど、シャンクスが出ると、作品の厚みが変わってくるので、そこは許可をいただけてありがたいなと思いました。
――今作はシャンクスの登場で物語の原点に戻るという感じもしました。
谷口:そうですね。「『ONE PIECE』というのは、どういうお話なのか」ということをやりたいと伝えていたので、作品の中でも大事なキーマンであるシャンクスを映画に出せるか出せないかは大きな違いがありました。
――どのように違いがあると感じられていますか。
谷口:大人が感情移入できる目線を導入できたということですね。子どもや若い人は、ルフィたちの目線で見るんです。大人側の人たちが見る目線として、ゴードンというキャラクターを用意はしていました。ただ、彼は映画に登場する新キャラなので、お客さんたちになじみがあるわけではないんですよね。そういった時に、なじみのある大人のキャラを出すことで、大人側からの目線で見たい人に対してもフックができました。
また、今はルフィの目線で見ている人たちが10年、20年経って、この作品をもう一度見た時に、今度はシャンクスの目線で見ることができるという構造を含めたのは良かったと思っています。