これまでの10年とこれから──アニメーションレーベル「TOHO animation」山中一孝さん(製作プロデューサー)&下山 亮さん(宣伝プロデューサー)インタビュー|「TOHO animation 10周年プロジェクト」に込めた想いとは?
TOHO animationの強み・色
──TOHO animationさんが最初に作られたのが『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』というオリジナル作品です。素人目では、最初からオリジナル作品をやるのってリスクじゃないのかなという印象ですが、そこについていかがでしたか?
山中:右も左もよくわからなかったっていうのはあるんですけど。
下山:たしかに(笑)。
山中:実はその当時、企画をずっと仕込んでいたプロデューサーが東宝に入社してきてくれまして。それもあって、じゃあやってみようと。
そのプロデューサーが東宝にいなかったときを含めて長い時間をかけて、一生懸命仕込んでくれていたところが大きくあって、チャレンジしてみようとなりました。
下山:すごく印象深いんですけど当時『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』が放送された時って、しばらくロボットアニメがなかった時期があったと思うんですね。
じゃあ4月にやりましょうってことでいろいろ仕込んでいくなかで、情報解禁くらいのタイミングで『革命機ヴァルヴレイヴ』、『翠星のガルガンティア』っていうアニプレックスさん、バンダイさんのロボットアニメも実は同じクールでありますと(苦笑)。ということがあってすごく印象的に残っていて。これは大変かもしれないぞって。
ただ、オリジナルっていう部分の強みは三者三様にあったと思うんですよね。かつ、うちとしても面白い作品になると自信を持っていて。もちろん世に出るまではわからなかったんですけれど。
結果『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』としては、すごくファンの皆さんに受け入れられたというか、本当に独自の色を出せたロボットアニメになりました。
第一作目として荷が重かったかもしれませんけれど、本当にたくさんの人に楽しんでいただいて、多くの人の印象に残ったんだろうなと感じています。また、3作品がロボットアニメとしてそのクールを相乗効果で盛り上げたのかなという気もしています。
──これまでの10年間でTOHO animationの功績として、大きく貢献した作品についてもお聞きできればと思います。先程お話のあった『僕のヒーローアカデミア』以外にありますか?
山中:全部です。血となり肉となりなので、選ぶのは非常に難しいです。でも『弱虫ペダル』も割と最初期からシリーズ化が実現できた作品ですし『PSYCHO-PASS』も、いまでも何かしら展開ができる長期シリーズになっています。あとは『ハイキュー!!』もそうですよね。
逆に言うと『未確認で進行形』みたいな日常系の1クールものなんですけれど、スマッシュヒットしたような作品も、我々の毛色の中だと珍しい作品ですね。ほかにも『血界戦線』とかもありましたし。『宝石の国』もフルCGのアニメーションでオレンジさんと作っていったりとか。
下山:大きく貢献したっていうとなかなか難しいんですけれど、挙げ始めたらキリがなくて。僕ら、本当にいろんなジャンルというか、いろんなアニメをやってきているので。
それぞれの製作プロデューサーだったり宣伝プロデューサーだったりの想いもありますけれど、挙げたらどんどん出てきちゃいますね。本当に。
──TOHO animationさんの強み・色は、多種多様な作品群ということでしょうか。
山中:そうですね。そうあってほしいなと思っていますね。
下山:弊社の配給する映画というとすごくジャンルに富んでいると思うんですよね。それがいろんなファンの方とかお客さんを楽しませている一つの理由だとは思うんです。
TOHO animationに関しては、特にそこも近いとは思います。実際、僕らもいろんなジャンルがあるなっていうのは宣伝しながら本当に思います(笑)。
どこかに一点集中、特化するレーベルさん、スタジオさんもあると思うんですけれど、うちとしては言ってもまだ10年なので。まだチャレンジをしなければいけないというか、新しいことだったり勉強しなければいけないことが多い。
いろんなジャンルだったり作品を手掛けることによって、どんどんノウハウを蓄積していくということも含めて。これはもう僕らの中の話になるかもしれませんけれど(笑)。
結果、それがいろんなファンの皆さんに楽しんでもらえてることにつながってるのかなとは思います。
変革のあった10年間
──アニメ業界としては変革のあった10年間だと思いますが、どういったところに変化を感じますか。
山中:まず、ビジネスモデルが大きく変容しています。中身が全然違う状態になっているのと、お客さんの裾野の広さというか、一般化みたいなところは、すごく変わったなという印象があります。
おかげさまで、東宝として行ってきたこれまでのエンターテイメント、映画だったり演劇の事業と、アニメーションのお客さんが近づいてきたのかなとは思います。
──それは、劇場アニメや2.5次元のステージなどのヒットを受けてですか?
山中:そうですね。そこは大きいかなあと思います。なので来年『SPY×FAMILY』のステージを帝劇(帝国劇場)で行うことも、10年かけてここまで来たんだなという感覚です。
下山:僕の場合宣伝なので、ファンをはじめ視聴者のみなさんの声から変化だったりを感じますね。SNSなどのネットはもちろん、それこそリアルなイベントだったりとか、いろいろと読んだり聞いたりしています。
大きく変化を感じたのは、アニメのことをいろんな人が話すようになったところ。いま見てるアニメだったり、好きなアニメだったり、劇中の何気ないセリフだったり。
10年前、20年前に比べたら、深夜アニメを集中的に見る方々だけではなくなったというか、本当にファンの裾野が広くなっていったなと思います。
──裾野の広がりによって、作るアニメーションも徐々に変化しているのでしょうか。
山中:変わってきている部分はあると思います。
一例ですけれど、いわゆる日常系みたいなジャンルって、映像商品も含めて一定の人気が見込めたタイプの作品だったんです。なので、その当時1クール3~4本は必ずレギュラーであったんですけれど、たぶん今はそこまでないと思います。
それは、海外セールスがなかなか難しいタイプなので、数が少なくなってきてると思うんです。じゃあ今後もそうなのかというのは、また時代が変わるとわからないですが。
どっちかというと、お客さんの趣味趣向っていうよりはビジネスの要件によって、少しジャンルの偏りのようなものは出ているかもしれないですよね。
例えば異世界とかって、海外でも売れるからいっぱいある、みたいなこととか。そういうところはある気がします。
ただ、我々としてはそこで選り好みをするということもなく、どこかのジャンルに特化することもなくやっております。
下山:例えば異世界転生系って、以前は数としてはここまでなかった気がします。弊社はそんなにやっているわけではないんですけれど、他のメーカーさん、レーベルさんだったりスタジオさんがやっていたりとか。
いま、日常系の話もありましたけれど、やっぱり時代によってトレンドっていうのはあると思うんですよね。
ただ、さっきの『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』の話でもありましたけれど、ロボットアニメがなかった時に、ロボットアニメを差し込んでみるというようなチャレンジも面白いかもしれないですし。
企画に関しては、本当にその企画の面白さとか作品の面白さが大切ですが、もちろんビジネスなので、その広がりを見越したうえでの企画、宣伝にはなっていくと思います。
──動画配信は国内だけでなく世界への発信が切っても切り離せないと思うのですが、その点について考えていらっしゃることなどありますか?
山中:ここ2~3年ですかね。表現としては難しいんですけれど、ある種全世界にボーダーレスでコンテンツを届けることが可能になった分、各地域の地域性だったりとか考え方だったりみたいなものを、ある程度我々作り手が尊重をしなきゃいけない状態も生まれました。
日本で大丈夫なものが、外国にいくとダメだったりする。ローカライズをこれまでも丁寧にやっていたけれど、タイムラグなく“どうお客さんに届けるか”が大事な配信などでは、そこの精査を最初の段階でしないといけなくなってきています。
その辺りの難しさというのは、このタイミングだからこそ出始めているんだなっていう気はします。
下山:12話ないし24話で放送されるいわゆるテレビアニメだけではなく、配信限定というアニメも出てきましたし、やっぱりそのあたりの状況というのは変わってきてるとは思います。
それに合わせて僕らとしても、何かしらツールを増やしてみようとか、配信をメインとするのであればタッチポイントをここに増やしてみようとか。そのあたりを考えながら宣伝はしていくべきかなと思っています。
ただ、山中が言った通り、言語や文化の違いを含めて、日本のことだけ考えていればいい、海外は気にせずでいいよ、というわけにはいかない時代になっていると思います。その作品の良さを国内外により正確に伝えるにはどうすればいいか、というのも重要なポイントだと思いますので。
あと、例えば全12話を一斉配信するのと、1話ずつ放送ないし配信していくのとでは手法が変わってくるところもありますし、受け取る側としても見方が変わってきます。
その作品が、どういった形で世に出ていくのかに合わせた考え方とかも、やっぱり配信が広がってきた分いろいろ考えないといけないかなとは思います。