映画『その声のあなたへ』公開記念 柴田秀勝さん × 浪川大輔さん × 三間雅文さん鼎談|同世代・後輩・音響監督から見た内海賢二さんの姿とはーー“声優”という言葉がなかった時代の逸話や『ハガレン』『北斗の拳』に関わるエピソードも
柴田さんを変えた大塚周夫さんの“言葉”
ーー後輩役者の浪川さんから見た、内海さんはどのように感じられましたか?
浪川:内海さんの姿を見て、僕もなるべく頑張ろうと心がけているのが、後輩からも先輩からも好かれる存在でいるということです。誰に対しても同じように接する方で、それはなかなかできないことだと思います。
秀勝さんも僕らに対して普通に話しかけてくださいますが、やっぱり怖い先輩が多かったというか。ちょっと話しかけるだけで怒られるんじゃないかという空気を持っている方が多かったので、その壁が全然なかった内海さんは、ある意味、道を切り拓いていった方なのかなと。僕自身もああいう風になれたら良いなと思っています。
あと、すごく華がある方なんですよね。声優はマイク前でお芝居をするので、作品の前には出ない職業です。でも、内海さんは場の空気の作り方も含めて、パフォーマー、役者さんなんだなと感じることが多かったです。
映画でも話していますけど、僕の役を現場で「やりたい」と言って演じていらっしゃいましたから。でも、その一言で現場の空気が一気に和やかになったんです。
たぶん、僕が緊張していた様子を感じていたんでしょうね。そのおかげでリラックスして演じることができました。
三間:柴田さんは現場では喋らないですし、見るからに怖い。だから近づけないですけど、内海さんはペチャクチャお喋りでのムード作り(笑)。
一同:(笑)。
三間:『ハガレン』でも柴田さんがずっと台本を読んでいる一方で内海さんはベラベラ喋っているんです。なので、僕は「はいはい、始めますよ~!」と、柴田さんは「ケン坊はうるさいんだよ」と毎回そのやり取りがある現場でした(笑)。
柴田さんと内海さんはどちらもベテランですし低い声をしているので、何かオーラがあるんです。なので、若い声優さんたちもどう話していいのかわからないところはあったと思います。
浪川:でも、話しかけるとすごく優しいんです。
三間:そうそう。すごく優しい。
浪川:ただ、話さないときのオーラはめちゃくちゃ怖い(笑)。
柴田:今の若い方々にとっては仕事ですが、僕らの時代の声優さんってみんな、仕事という感じで現場に行っていませんからね。「僕たちがやるのは仕事じゃない。演じに行くんだ」と。これは若いときから先輩に教えられたことです。
浪川:なるほど……。
柴田:演じに行くという覚悟を持って現場に行ってますから、それだけ真剣になります。“演じること”を忘れていないんですよね。
三間:そうですよね。スポーツと一緒で、演じているときはアドレナリンが出ちゃってる。だから、ベテランの方々は収録後の飲み方がすごいのかも(笑)。
浪川:確かに、先輩たちの代はみんな飲み方が個性強すぎです。
柴田:その話で思い出深いエピソードがあるんですけど、黒沢良さんと『FBIアメリカ連邦警察』の吹き替えをやっていたときの話です。銀座で1時間ほど一緒に飲んでいたとき、先に僕が帰ることになってタクシーに乗ろうとしたら、お店の人から「これ黒澤さんからです」と水割りが入っているグラスをもらったんです。
三間:え、どういうことですか?
浪川:それを飲んで帰れってことですか?
柴田:そうそう。そういう意味。ちなみに、グラスには「黒沢良」と書いてありました。
浪川:すごい!
柴田:そういう先輩方がたくさんいた時代だったんです。あと、僕が『水戸黄門』のナレーションをやらせてもらったとき、大塚周夫さんから「水戸黄門いいね。ただ、ターゲットが広すぎる。もうちょっと狭めろ」と言われて意味がわかりませんでした。
そしたら「いいか。テレビの向こうは1人だ。お前は大勢の人に聞かせようと思っていないか?」「テレビの向こうは1人だと思え」と。
それまで、僕はテレビの向こう側は1人だなんて、まったく考えたことがありませんでした。でも、その言葉をいただいてから変わったんです。
それからアニメーションをやっているときも、外画の吹き替えをやっているときも、その言葉が頭の隅にこびりついています。セリフにしてもナレーションにしても、「テレビの向こうの“あなた”に話しかける」と。
先輩から習うこと、学ぶことが今の人たちはなかなか機会がないと思うんですよね。ましてはコロナ禍でいつもの収録形式とは違いますから。
浪川:そうですね。聞く耳というか、先輩たちから生の声を聞きたいですよね。
三間:やっぱり、飲み会とか打ち上げとかがないとこういう話って聞けないからね。
柴田:最近は、ついこの間までメインキャストをやっていた人は今どうしてるの? というケースが多いような気がします。その出演をきっかけにどんどん活躍するケースが少なくなってきていますよね。