アニメ『うる星やつら』諸星あたる役・神谷浩史さんインタビュー|僕が子供の頃に楽しみにしていたように、みんなを毎週楽しい気持ちにさせる30分間がやってきます
『めぞん一刻』『らんま1/2』『犬夜叉』ほか、数多くの作品を世に送り出してきた漫画家・高橋留美子先生。その代表作のひとつである『うる星やつら』の新作アニメが、2022年10月13日(木)よりフジテレビ“ノイタミナ”ほかにて放送開始となります。
アニメイトタイムズでは放送開始に際し、諸星あたるを演じる声優の神谷浩史さんにインタビューを行いました。
原作の連載当時からこの作品を追いかけていた神谷さんの子供の頃の思い出や、あたる役への想い……そして、所属する事務所の大先輩であり初代のアニメで諸星あたる役を演じられていた古川登志夫さんへのリスペクトには注目です。
今回のアニメではじめて『うる星やつら』に触れる方も必見となっていますので、ぜひチェックしてみてください。ラム役の上坂すみれさんのインタビューも掲載中ですのでこちらもぜひご一読ください。
新たな『うる星やつら』は独自の感情表現に着目
――まずは新たなあたるを作っていくにあたり、どのような演技プランを考えたのかをお聞かせください。
諸星あたる役・神谷浩史さん(以下、神谷):そもそもは今できる最大限のものとして新しい『うる星やつら』を作っていこうというコンセプトだったので、前作は気にしないでくださいというオーダーがあった覚えがあります。
ですが、もはやあたるはこんな感じ、ラムならこんな感じというイメージが既に刷り込まれてしまっていて、自由に演じてくださいと言われて実際にやってみても、「これは違う」という拒否反応が出てしまうと思います。
特にラムの「ウチは〇〇だっちゃ」というあの喋り方。あの独特なアクセントは定着していて、僕もそういうものが刷り込まれているので、あたるなら古川登志夫さん、ラムだったら平野文さんの声が頭の中で鳴ってしまう。登場するすべてのキャラクターたちがそのように構成されてしまっているので、これを覆して新しいものを作っていくのは困難を極めました。
ですが今回のアニメでは、原作の中でも選りすぐりのエピソードをアニメとしてお届けしていくにあたり、初代のアニメでは原作とは異なる形で表現された部分でも、原作そのままの形でお届けすることを目標にしています。同じエピソードが3つ存在することになるのですが、そこで必要になったのが原作のニュアンスを今回のアニメのために変換する作業です。
以前のアニメでは別な形で成立させていた言い回しでも、今回のアニメに当てはめると齟齬が出てくる部分があって、基本的には僕らの中に刷り込まれているあたるやラムの話し方やテンションを、どうすれば今回のアニメで自然に成立させられるかを考えました。
それでも古川さんのリズムが僕の中から抜けないので、もちろんそこは大切にしました。でも物真似をするつもりは一切ないですし、できません。100%古川さんの声とお芝居を再現できるものならやりたいけれど、僕の体、僕の声を使ってはできないので、あくまで僕というフィルターを通した僕なりのあたる像を作らざるを得ませんでした。
その作業が新しいあたるに繋がっていくと僕自身思うし、僕が諸星あたる役を演じるその時点で別物、新しいものになると思って演じましたね。
――今回の取材に際し第1話のシナリオをチェックさせていただきました。特に気になったのがあたるがラムの電撃を食らったりするシーンだったのですが、演じる際はどのようなことを意識されたのでしょうか。
神谷:そこはとても難しい部分でした。あたるはどんなに酷い目にあっても次のコマではケロっとしているので、そのバイタリティや理不尽さを成立させるにあたり、避けて通れない要素でした。
今のマイクは非常に高性能なので、ボソボソ喋ってもワーッっと大きな声を出しても拾えてしまうので、お芝居として成立します。この幅を全部使うと生っぽいお芝居になるので、今のリアルなアニメには合致するんです。
ただ『うる星やつら』の世界観では、この幅を狭めて喜怒哀楽を表現したほうが、世界観にマッチすると感じられました。もちろん小さい声だろうと大きい声だろうと声量は出すのですが、この独自の喜怒哀楽の幅を超えてしまうと急に絵にあわなくなってしまうんです。
なので最初から、この範囲内でどういう風に痛いのかをキチンと考えコメディとして成立させるように演じないと、あの痛さを表現する音、殴られて飛んでいくときの声が成立させられないと着目していました。やっぱりアニメって記号なので、その表現が如何に優れているかを実感させられます。
絵が細かければ細かいほど絵が説明してくれるので、喜怒哀楽をハッキリさせるじゃないですけれど、どんな風に泣いているのか、どんな風に笑っているのかを説明する音が必要なんです。そういう複雑な音を、古川さんたちは様々なテクニックで表現されていました。その音が僕の中にも残っています。
リアルな悲鳴を上げてしまうと痛々しいだけで見ていられなくなってしまうので、その僕の中に残っている音を踏襲する形で、あくまで記号的に電撃を受けている、それに対してどういう感情なのかを表現することを目指しました。電撃オチみたいな展開は多いのですが、その都度試されるような気持ちで毎回演じています。
――今後どのキャラクターと絡むのが楽しみですか?
神谷:やっぱり面堂終太郎です。育ちと外見がいいだけで中身はあたると変わらない人物を宮野真守くんが演じるのですが、それがまた新しいアプローチなんです。僕とかラム役の上坂さんは古川さんや平野さんのあたる、ラムが頭から離れないんです。でも宮野くんの演じる面堂は力技で成立させてくるので宮野くんなんですよ。
前作では神谷明さんが演じられた役ですが、神谷さんの面堂も神谷さんで唯一無二した。ですが宮野くんは神谷さんとは違う声質を持った役者さんなので、神谷さんに寄せていくって困難だと思うんです。
とはいえ宮野くんもギャグとシリアスどちらも行ける実力ある役者さんですし、今の声優界における一流のひとりが面堂を演じたらこうなるというのをみせてくれます。そんな宮野くんと丁々発止するシーンがこれからたくさんあると思うので、今から楽しみにしています。
――これまでの収録で印象的なエピソードはありましたか?
神谷:初代のアニメでは永井一郎さんが演じられた錯乱坊ことチェリーでしょうか。その役を、今回のアニメでは高木渉さんが演じています。
高木さんも力技で演じるところがあってもう無茶苦茶だなと思いましたが、不思議と違和感は一切ありませんでした(笑)。当初は誰が演じるのか気になっていたくらいでしたが、高木さんが担当すると聞いて「ああ、なるほどな!」って納得したくらいです。
怪しさと説得力と、ギャグに振った時の瞬発力と突破力……それらすべてを要求されるってぶっちゃけ一番難関じゃないですか。単なるおじいちゃんでもないですし。その全てを兼ね備えた人物は誰なんだろうってなった時に、高木さんがいらっしゃった訳なんです。
初代のアニメではチェリーの一族はサクラ先生を除いてみんな同じ顔をしていましたが、サクラ先生の母みたいな人物は女性が演じられていました。でも今回は全てを高木さんが演じるので、無茶させるなと思いながらも登場する度に見ていて面白かったです。