アニメ『うる星やつら』諸星あたる役・神谷浩史さんインタビュー|僕が子供の頃に楽しみにしていたように、みんなを毎週楽しい気持ちにさせる30分間がやってきます
『うる星やつら』&諸星あたるにかける神谷さんの熱意
――ラム役の上坂さんとの掛け合いについてはいかがでしたか?
神谷:実のところ、女優としての上坂さんの印象はあまりありませんでした。でも今回声を聴いたらラム以外の何者でもないんですよね。だからビックリしちゃって。
発表時にあたるとラムが互いを呼び合うだけのティザー映像があったと思うのですが、実はあれだけのために声を録っていまして。そちらは「お醤油を取って」「なんでここにいるんだ」みたいなシチュエーションごとにお互いの名前を呼ぶみたいなコンセプトだったのですが、それ以前に僕らのオーディション時の声を流用した試験的なPVがあったんです。
その映像ではあれ以外のセリフも聞けたのですが、僕については僕が演じるあたるとして喋っていました。でも上坂さん演じるラムが喋った瞬間に、これはラムだなって納得させられました。だからオーディションの段階から上坂さんのラムはラムだったんです。
そんな上坂さん演じるラムがいてくれたからこそ、同じ映像の中でしゃべっていた僕はあたるになれていたと思っています。だから隣のマイクで演技している時はラムとしてしか認識していないです。それ以外のところで挨拶している時は上坂さんですけれども。
彼女がラムを演じる様子を後ろで見学することもあったのですが、とても不思議な感覚です。本当に期待してくださっていいと思います。
――オーディション時の印象的なエピソードについても教えていただけますか?
神谷:最初に噂で『うる星やつら』のアニメをまた作るらしいと聞いたときは、そんなことはやめろという気持ちでした。生半可な気持ちでやれるものではないし、上手く行く訳がないとも思っていましたね。僕は原理主義者ではないけれど、原作や初代のアニメを大切にしている世代なので、新しいものに「それは違う」と言い出すめんどくさい大人に近いのかもしれません。
そんな僕だけれど、じゃあ『うる星やつら』のオーディションを受けてくださいと言われたら、話が違ってくるんです。なぜならもし関われるのならやりたいですし、青二プロダクションの大先輩である古川登志夫さんが演じられた役だと考えると、絶対に他の人には渡したくなかったんです。
実は僕、あたるだけでなく面堂役のオーディションも受けていまして。もちろん面堂役でも嬉しいと思ったのは間違いないのですが、それでもやっぱり、面堂ではなくあたるを演じたいんだという意気込みが強かったです。
オーディションは、テープオーディションを一次として、そこで受かるとスタッフのみなさんの前で演技ができる二次オーディションに進める形でした。僕は大体一次で落ちてしまうので、通った時は嬉しかったですね。とはいえそれで受かった訳ではないので、ぬか喜びにならないよう気を引き締め、これから『うる星やつら』を再び作ろうというスタッフのみなさんに自分の声をいただけるチャンスを得られたと考えました。
その現場では、一度自由に演じてみたところ、もう少し若めにお願いしますというオーダーがありました。それを受け声質ではなく喋り方で若さを出すアプローチを取ったのですが、多くの人の中に『うる星やつら』のキャラクターはこういう風に喋るというイメージがあって、それに僕の肉体を使ってどうしたら近づけるのかという作業がひたすら楽しかった。気が付いたら汗だくになっていましたが、それくらいの意気込みで臨んだんです。
また、この時にはじめてキャラ表を拝見しました。それまでは原作のコピーやそこから起こしたシナリオしかなかったのですが、これが新しいあたる、ラムなのかと驚きを隠せませんでしたね。それを手掛けたのが『おそ松さん』のキャラクターデザインを手がけた浅野直之さんだと知った時は、このスタッフさんたちは本気なんだと改めて実感しました。
なぜなら浅野さんは天才と言って差し支えのない人物で、宇宙人や人間、人間以外の生物に至るまで何を描かせても表現できてしまう。新しく『うる星やつら』の世界を作りあげるためには、この人をおいて他にないと思ったんです。
この時にこれは凄いことが起きるかもしれない、だからこそ絶対にやりたいと思いました。キャラ表にはあたるやラムのありとあらゆる喜怒哀楽の表情が描かれていたのですが、この絵で動くのなら絶対に面白いぞとも思いましたね。
それもあって、あたる役に決まったとマネージャーから連絡を受けた時は本当に嬉しかったです。自分が声優になる前から大好きだった作品に、この歳になってから関われる……そんなチャンスが巡ってくるとは思わなかったところもあります。
新人の頃はそういう期待があったのですが、叶ったことがこれまであまりなかったので、自分の周囲でそういう夢を叶えている仲間たちを見て挫折感を味わうこともありましたが、本当にここまで声優を続けてきて良かったと思えた瞬間でした。
――発表された際に「『うる星やつら』は僕の一部なんだと思います。」とコメントされていました。連載・放送当時、作品にはじめて触れた時はどのような衝撃を受けたのでしょうか。
神谷:原作もアニメも当時から楽しんでいましたが、アニメは僕がチャンネル権を持っていない時間帯に放送されていたので、『Dr.スランプ』までしかみられなかったんです。
なのでリアルタイムで毎週追いかけていた訳ではなく、しかもウチの親からしてみれば常に半裸みたいなラムちゃんの恰好からエッチなアニメだという印象があったので、見せたくなかったみたいでした。だから、親がお風呂に入っている間にこっそりみたいな状況だったんです。それでも強く印象に残っていたので、相当好きだったんだと思います。
もちろんその後は折に触れてアニメは全て視聴できましたが、お小遣いの範囲で購入したり、友達の家で読んだ原作が『うる星やつら』との最初の出会いだったと思います。やっぱり親の目を気にせず自由に作品に触れられたので。
その時に感じたのが、毎回この作品では何か楽しいことが起きているということでした。連載当時、理髪店などに置いている週刊少年サンデーでコミックスに収録されていないエピソードをチェックすることもあったのですが、まだ見たことのないキャラクターが登場していても面白いし楽しいと思ったんです。
どうやらその見たことのないキャラクターが登場したエピソードを見落としてしまっていたようなのですが、それでも1エピソードだけでこのキャラクターはラムの友達で、このキャラクターはあたるのライバル……みたいな関係性が瞬間的に理解できる作りになっていたんです。
どのエピソードをいつどんなタイミングで読んでも毎回楽しい時間を提供してくれる、まるでおもちゃ箱のような作品だと思っていました。