声優・石川由依さんソロ音楽朗読劇『UTA-KATA Vol.2~歌売りの少女~』東京公演レポート|歌の持つ不思議なチカラを全身で体感できる唯一無二のステージ
声優・石川由依さん初のソロ音楽朗読劇『UTA-KATA vol.1 ~夜明けの吟遊詩人~』から約2年。物語や歌も新たにした第2弾 ソロ音楽朗読劇『UTA-KATA Vol.2~歌売りの少女~』が、山梨公演(2022年9月10日(土)・11日(日))、東京公演(9月17日(土))、滋賀公演(9月25日(日))の全3都市開催された(大阪公演は台風のため公演中止)。
歌と語りは石川由依さん。ピアノを演奏するのは伊藤真澄さん。そして脚本は、作詞家でもある高瀬愛虹さんが手掛けた。
今回は、東京 ガルバホールにて行われた東京公演の模様をレポートする。
歌の持つ不思議なチカラに触れた夜
東京のガルバホールは、最後列からでも演者の表情や息遣いが感じられる会場だ。用意されていた座席がすべて埋まり、観客は静かに開演のときを待っている。
ステージに用意されているのはピアノと椅子と水を置く小さなテーブル。ピアノを演奏する伊藤真澄がスタンバイを済ませると、ゆっくりと石川由依が登場し、椅子に座る。拍手が鳴り止み、2人が音を生み出すとスクリーンも何もない会場に物語が広がっていく。
物語は、修道院に入った主人公アリアの元に、母のセレナが病気で亡くなったという知らせが届くところから始まる。2人のモノローグによるイントロダクション、そしてそのまま、この物語のテーマ曲とも思える「いのちの伝唱~Song To Pass On Life~」を歌っていく。
アリアが亡くなった母の故郷へ帰るべく、吹雪の中を進んでいくと「歌売りの少女」と出会い、そこから物語が動き出す。自らが苦しい状況に置かれていても人への優しさを失わないアリアの温かい声。寒さで体を壊してしまっている歌売りの少女のか細い声……。石川は、2人の声を使い分けながら物語を紡いでいく。1人で会話からモノローグまでを演じ分け、本当にそこにキャラクターがいるかのように感じる朗読なので、物語に没入することができた。
そして、弱った歌売りの少女のために、アリアは「希望の灯り~Light The Hope~」を唄う。力強く鍵盤を叩き奏でられた音に、まっすぐ想いを乗せた歌声。そこには心を奮い立たせるパワーがあった。
母の家に辿り着き、そこで出会ったのが家具屋のおじいさん。登場人物が増えても、よどみなく物語は進む。アリアが助けた少女は、自らを「不思議ちゃん」と名乗り、歌売りとして「シチューはいかが?」を唄う。先程とは全く違う、幼さの残る歌声は不思議ちゃんそのもので、鍵盤の軽やかな音色とともに、聴く人の心を晴れやかにする。
この時代の、そしてこの世界の歌売りの歌には不思議なチカラがある。アリアの母セレナは歌売りであり、不思議ちゃんは、アリアを歌売りへと導いていく。アリアは、そこから様々な人と出会い、家族や幸せの意味について考えたり、去りゆく人を見送ったりしながら、人に寄り添う歌を唄っていく……。
物語ではそのほかにも、セレナとアリア……母と子の互いを愛する想いなどが、ハッと驚く展開を交えつつ描かれていた。それを石川が丁寧に、そして時に感情的に朗読していくことで、登場人物たちの映像やそのときの心情が解像度高く浮かび上がり、感動を誘う。私含め、多くの人が涙をこらえながら物語を聞いていたのではないだろうか。実際に何度も鼻をすする音が聞こえてきていた。