『すずめの戸締まり』新海誠監督インタビュー|神木隆之介さんへのオファーは一度断れながらも電話で直談判!? 10年たった今だからこそ描く東日本大震災への想い
また新海誠監督の最新作がやってきます。まるで4年に一度のオリンピックを楽しみにするように、3年に一度のお祭りのような感覚で新海監督の作品を心待ちにしている自分がいます。それは、読者のみなさんも同じではないでしょうか。
『すずめの戸締まり』はその期待を良い意味で裏切ってくれるはずです。だって、新海監督の作品ですから。
公式サイトやTwitterで事前にアナウンスされているように、本作『すずめの戸締まり』は、地震をモチーフにしている、花澤香菜さんや神木隆之介さんが出演する、監督史上最大規模の作品、といった気になる情報がいくつか散見されます。
新海監督はどういった経緯で『すずめの戸締まり』の制作に踏み切ったのでしょうか。
本稿では、映画公開を直前に控えた新海監督に行ったインタビューの模様をお届けします。監督の言葉の端々に隠されたヒントを読み解いていきましょう。
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ーー試写で作品を拝見させていただきました。待望の新作ということでワクワクしております。
新海誠監督(以下、新海):3年ぶりになってしまい申し訳ありません。観客のみなさんがどう思っているのか気になっています。
ーー新海監督の作品では珍しいロードムービー(旅などの途中で起きる出来事を描いた物語)になったと思います。この理由は?
新海:作品の出発点として「場所を悼む作品」にしたいと思ったんです。日本は過疎化してきて、人が減ってしまった地域も増えていますよね。廃墟であったり、廃屋が目につくようになっていて、それはみなさんも生活の中で実感することだと思います。
僕も実家に帰った時には、「昔は賑やかな場所だったのにな」と思うことがよくあります。だけど、人が亡くなった時はお葬式をするのに、人が消えて場所が廃れていく時には誰も何もしないんだな、と思ってたんです。
だから、そんな人のいなくなった場所を悼む旅の物語を作りたいな、というのが出発点になり、そこから必然的に場所をめぐるロードムービーの形になっていきました。
あとは、コロナ禍に制作していたのもあって、「自由に好きな場所に移動したいな」という願望のような気持ちも込められていると思います。
ーーなるほど。今作では「地震」が物語の中の重要なテーマの一つとなっていると思うのですが、題材的にもナイーブなものですよね。そこに踏み込んだ経緯はどのようなものだったんでしょうか。
新海:いろんな思いがあるんですけども、2011年の東日本大震災がモチーフの重要な要素にはなっています。あの当時生きていた、物心がついていた日本人にとっては、世界や自分自身までもが書き換えるような出来事だったと思うんです。あれによっていろんな事が変わったし、人々のマインドセットも変わったと思います。
僕自身にとっても、自分が直接被災したわけではないんですが、人生が書き換えられてしまった感覚があったんです。それまでは今自分が立っている地面が当たり前だと思っていたし、街や建物もずっと存在しているという気がしていたけれど、震災以降はその感覚が失われてしまった。
それ以降は、変わってしまった自分自身の気持ちや、見え方が変わった周りの風景の事を意識的にも、無意識にも、この10年間考え続けてきたと思います。だから、『君の名は。』の時も『天気の子』の時も、同じことを考えながら作っていたので、今回だけ別の事を描いているという感覚は実はなかったんです。ただ、直接的な出来事として東日本大震災を描こうと思ったのは、あれから10年以上が経って、当たり前ですが震災が誰もが体験した出来事じゃなくなっているじゃないですか。
ーーそうですね。
新海:僕の娘も12歳で、震災の時の記憶は全く無いし、教科書の中のような出来事なんですよね。僕の作品を見てくれる方も多くは10代の観客たちで、もしかしたら昔起こった出来事の一つとして捉えているかもしれない。
共通して一緒に感じられる世代がどんどん減っていくんだなと思い、それがなくなってしまう前に、今だからこそ作りたいと思いました。
『君の名は。』では千年に一度来訪する彗星を震災のメタファーとして描いたつもりでしたが、今回はそうではない。今だったら直接触れることができる、まだ共感してもらえるんじゃないかと思い、『すずめの戸締まり』という作品を作りました。