WOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』監督 西村純二さんインタビュー|ファンタジーでありながら、意識したのはハードボイルド作品の演出だった【連載4回】
WOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』が2023年1月14日(土)から放送・配信スタートします。日向理恵子氏による“火”をテーマにした長編ファンタジー小説をアニメ化した本作。人類最終戦争後の世界を舞台に、多くの困難に直面しながらも懸命に生きる子どもたちの姿を描いた物語です。
独創性あふれるファンタジーと深いテーマ性に多くの読者が心打たれた作品のアニメ化に期待が高まる中、アニメイトタイムズでは『火狩りの王』スタッフ・キャストのインタビュー連載をお届けします。
第4回となる今回は、監督を務めた西村純二さんが登場。
構成・脚本の押井守さんからのオファーで監督を務めることになった西村さん。アニメの制作についてはもちろん、『うる星やつら』からの付き合いである押井さんとの関係性、昨今のファンタジー作品に対する印象も語ってもらいました。
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“監督”としての腕の見せどころ
ーー押井さんがアニメ『火狩りの王』の監督に西村さんをオファーしたと伺いました。「今や信頼できるアニメ監督は西村純二しか残っていない」ともおっしゃっていました。
西村純二(以下、西村):そんなヨイショなこと言ってた?(笑)
押井さんから「来年暇だよね?」と連絡が来て、「来年は空いています。よろしくお願いします」と返した、という流れです。詳しく話しを聞いてみると「諸事情あって監督を探している」と。私が監督になる時は昔からいつもそんな感じですよ(笑)。
ーーいつも、ですか?
西村:ええ(笑)。
こうして作品に携わってきたわけだけど、ある意味で肩の力を抜いてできるし、職人としての力量も発揮できる。私はすごく良い形で作品に携わっているなと思っています。
――それをマイナスに捉えることはなかったのでしょうか?
西村:私はこの仕事の仕方が好きでしたね。大好きな監督たちも同じことをしていましたから。世の中の“巨匠”と呼ばれる人たちは自分の頭の中に詰まっているテーマで自分のモチベーションを保ちながら映画をつくるけど、そこに至らない監督たちは一定の枷の中で仕事が始まる。
例えば、昔は映画館のプログラムを埋めるために映画を量産する「プログラム・ピクチャー」というものがあったんですよ。特撮や時代劇などいろんなジャンルの作品を監督たちは映画配給会社から請け負ってつくっていました。自分のモチベーションとは関係なく、一定の枷の中で好きなようにつくったり自分流に料理したりするわけです。その中で傑作をつくる人もいた。私はそれが、ある種の腕の見せどころだなと思っていたんですよ。
なので、本作のオファーが来た時は「いつもと同じ感じだな」と(笑)。ただ、詳しい企画を聞くと「ちょっといつもと違うな」と思いました。
――どういったところに違いを感じたのでしょう。
西村:まず、原作の物量から違っていました。「これが原作だから読んでおいてね」と分厚い本が4冊も送られてきて、「えぇ!」となりましたよ(笑)。しかも内容的には、昨今よく見かける美少女キャラもの的な話ではなくて、一定の思いやテーマ性を持った原作者の思いが詰まった作品。さらにアニメ化するにあたり、予算もそれなりにはある、と。いろんなことが想像とは違っていて、驚きました。
「世界観」「キャラクター」「カメラワーク」で勝負した
――「物量の違いを感じた」とのことですが、改めて『火狩りの王』の原作を読まれた時の印象をお聞かせいただけますか。
西村:「これをアニメ化するのは大変だろう」と思いました。それはいくつかの要素に分けられます。まず一つ大きな理由として、原作そのものの物語は面白いけどアニメ化した際に物語が地味であるということ。TVアニメシリーズという連続ものを映像化するにあたって、お客さんがモチベーションを保ちながら見られるように毎回「次回どうなるんだろう」と思える作り方がスタンダードです。その目線で考えた時に地味なんですよね。それと近い部分でもう一つ、アニメ的に分かりやすい美男美女キャラクターが登場しない。「このキャラクターがこういうことをすれば視聴者が食いつくだろう」というフリをつくるのも難しそうだ。アニメ的に何を押し出すのかを考えなければいけない。
さらに、原作の情報量は大量なのに原作から読み取ることのできる絵的な情報が挿絵しかないから映像的な情報は1からつくる必要がある。『火狩りの王』は日本が舞台になってはいますけど、現代にある物はほとんど使えない。つまり美術、建物、小物、服装などかなりの物量の設定資料をつくらないといけない。ファンタジーならではのすごく大変な作業です。
これらの要素を目の前にして、“雇われ監督”として思うことは「どう料理しようか」でした。どこで勝負できるかをまず考えましたね。
――西村さん的に、「勝負できる」と感じた要素とは?
西村:物語が繰り広げられる場所(世界観)と物語を繰り広げるキャラクターにどれだけの説得力を持たせられるかが勝負の鍵だと考えました。まず一つ目の物語が繰り広げられる場所については、ジュブナイルファンタジー(少年少女の冒険、SF作品)の世界観を現実味あふれる形で画面に出すということ。美術の設定を考える際にどれだけ細かく用意できるか、ですね。
次に物語を繰り広げるキャラクターについては、スーパーアニメーターの齋藤(卓也)さんが出現してキャラクターデザインを担当してくれたので、「これでいける!」と早々に心配事から外れました(笑)。
――「アニメの映像的に物語が地味」という要素については、どう向き合ったのでしょうか?
西村:そこについてはさらに地味を狙っています。全体を通していろんなところでボカンボカンとイベントが起きる物語じゃない。「主人公の灯子が自分をかばって命を落とした火狩りの形見を家族に届けるために首都へ向かう」という一見何の変哲もないエピソードだけど、灯子個人に焦点を当てるとすごく重要なことをしている。そして彼女にとっては次々といろんなことが起こるんですよ。もう一人の主人公である煌四も同じくね。それをカメラが追うことで物語の起伏が大きくなるし、上手くいけばお客さんの作品に対する気持ちの入れ方も高まるのではないかと考えました。ということで、そういうカメラワークや演出に仕上げています。
要するに主人公たちの目線をすごく限定的にしているんですよ。例えるならハードボイルド作品のカメラワークですね。
――ファンタジーなのにハードボイルド作品のカメラワーク……?
西村:ハードボイルド作品の最大の特徴は、“一人称”であること。探偵がいて、探偵の行く先々で事件が起こる。それ以外の場所では何も起こりません。あるいは探偵のいない場所にカメラを向けない。ずっと探偵目線でお話を続けるから、お客さんは探偵が知り得たことしか知り得ないようなつくりになっています。これがハードボイルド作品の一番のカッコよさだし、面白さだと思っているんですけど。
本作も押井さんにはそういうシナリオをつくってもらいました。灯子、煌四、そして明楽という主人公たちが見聞きした情報以外は画面上に登場しない。お客さんは、灯子と共に情報を得ていく。煌四が驚いたことに一緒に驚く。そういうつくりにしていきました。