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- 阿部裕華
- アニメ・音楽・映画・漫画・商業BLを愛するインタビューライター
ーー押井さんのつくった構成・脚本はいかがでしたか?
西村:いつも通り「あとはよろしく」ってやつです(笑)。いわゆる日本のTVアニメのシナリオとは全く違う、演劇のシナリオに近いつくりになっています。舞台設定、登場人物、セリフが並んでいる。途中で重要なことが書いてあったりするけど、下手するとその3要素だけで終わるシーンもあったんじゃないかな。「立ち上がって、どこどこに行って、窓の外を見て」と事細かに行動を書くのではなく、「何かを取り出してそれを見ながらしゃべる」くらい。「怒って」「不信がって」など行動に対する心理もほとんど書かれていない。舞台のシナリオも同じでほとんど材料がないんですよ。それ以降のことを演出が考える。だから細部は全部自分で書くことになっちゃった(笑)。
特に面倒だったのが犬ですね。
――『火狩りの王』では主要人物が自分の犬を引き連れていますよね。
西村:灯子の横にはかなたという犬が常にそばにいる。本作の世界観を語る上で非常に重要な役割を果たすキャラクターですが、「炎魔と戦う」など具体的な行動を取る時以外は犬の描写がシナリオにほとんど書かれていないんですよ。でも映像的には、常に灯子の横で犬が芝居をしていないといけない。
犬ってすごく面倒くさいんですよ(笑)。人間よりも先にいろんなことに気づくから。背後から迫る敵に最初に気づくのは灯子ではなくかなたである。そうでないと「あの犬はどうした?」と思いますよね。何も意識していなくても、犬はそういうものだと普通は思う。私だってそう思います。だから犬が人間より先んじて何かに気づいたり行動したりさせる必要がある。
――たしかに人間より犬の方が様々な五感が優れています。
西村:そう。先に気づくというのは、寝ていても気づくんだよね。夜中にかなたが寝ていて灯子が起きて何かするシーンの場合、かすかな物音がして何も気にしない犬になったらダメなんですよ。だから一度起きて確認して問題ないか判断するという1カットを入れる必要がある。すごく面倒くさいけど、その1カットが入ることではるかに臨場感が増す。だから犬の存在はめちゃくちゃありがたいけど、めちゃくちゃ大変。
そして、それらはシナリオに全く書かれていないから、シナリオをコンテにする時に入れ込まないといけない。「全部俺が考えるんかい!」と思いましたよ(笑)。
――ははは(笑)。
西村:でも逆に押井さんに細部まで詰められると、それはそれで困る。犬好きな押井さんが「リアルの犬はこう動くんだ!」とシナリオにみっちり犬の動きを書いたら、「そんなの再現できませんよ!」と突っ返すしかない。私が書いても押井さんが書いても転んでも痛いけど、最終的に押井さんが書かず私がコンテ上で動きをつけていく形になりました。まあ大変でした(笑)。
ーー押井さんとは『うる星やつら』からのお付き合いかと思いますが、お二人で仕事をする際はそういった“阿吽の呼吸”が多いんですか?
西村:多いですね。とはいえ、私が監督で押井さんが脚本という形で仕事をしたのは『ぶらどらぶ』と本作だけですけれど。ずっと前に監督をした『風神物語』も押井さんが監修でしたけど、直接的に作品づくりを一緒にしたわけではないですし。さらに前の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』は押井さんが監督・脚本で明確にやりたいことがあって、私はその材料を揃えて現場を処理するような関係だったから、それも今回とはスタイルが違う。
こと『ぶらどらぶ』の時は押井さんが総監督(原作・構成・脚本)で私が監督だったのですが、例によって長セリフがあって。押井さんからコンテを渡されて見てみると、一番上のコマにバストアップのキャラが描いてあるんだけど、それ以降は真っ白。セリフ欄には2ページにわたるセリフがびっしり書かれている。そして、ト書きに「小芝居よろしく」と書いてあるんですよ(笑)。それを見た現場の演出が泣きそうな目で私を見てくるので、「分かったよ。私がやるよ」と小芝居を考えていました(笑)。
――今回も同じようなパターンですね(笑)。
西村:ははは(笑)。一定の信頼を置いてくれているんだとは思います。普通なら怖くてやれないですよ。本作は膨大な原作を30分枠話に落とし込む構成作業もしてくれているんだけど、それは制作においてかなり重要な部分を占めています。中でも押井さんは「どのセリフをどの話数のどのシーンにはめ込むか」とセリフに重点を置いていた。裏を返すと「それ以外はよろしくね」ということなんですよ(笑)。そういう役割分担は最初から予想していたし、特別驚きはしなかったけど……まあ驚きましたけど、驚きませんでした(笑)。
ーー西村さんはTVアニメ『今日からマ王!』シリーズの監督もされていましたが、今流行りの“異世界転生もの”の先駆けとなる作品でしたよね。
西村:そうですね。『火狩りの王』とはだいぶ毛色が違いますけど、そう考えると数年間ファンタジー作品に携わってきましたね。
余談ですが、『今日からマ王!』は自分の中で「原作のブロマンス的な位置づけから外れることなく、アニオタの女の子がお母さんと一緒に朝ごはんを食べながら見られる作品をつくる」というテーマを課せていたんですよ(笑)。それで視聴者からの感想メールに「朝ごはんを食べながらお母さんと一緒に楽しく見ています。お母さんも大好きです」と書いてあって、めちゃくちゃ嬉しかった覚えがあります。
――素敵なウラ話……! 今また異世界転生ものを含めたファンタジー作品が流行っている理由をどう考えられているのか、西村さんの考えをお聞きしたいです。
西村:いわゆる“なろう系”と呼ばれる作品が流行っているのは知っているけど、正直よく分からない(笑)。ただ一時期“お料理もの”や“日常系”がすっごく流行っていた時期があったから、そういう波の一つかなとは思っています。
流行っている理由は分からないけど、「もうそれ以上の新しいテーマや違うストーリーはないだろう」というところからすっごく面白いコンテンツが出てくるじゃないですか。今なら「異世界転生ものはもう底をついて何も出てこないよ」という中で、綺羅星が出てくる可能性もある。そういう状況は嫌いじゃない。むしろすごく好きなんですよね(笑)。異世界料理系の作品とかすごいよ。どうやったらあんな発想ができるのか。異世界転生ものとしても成立しているし、料理ものとしてもイケている。ああいう面白いことがまだまだ起こっているから、私は異世界転生ものが溢れている現状も悪くないなと思っています。
そういう意味で『火狩りの王』は異世界転生もののファンタジーとは違う立ち位置だけど、これはこれでリアリティを楽しめるものになっているから、また違った楽しさがあるんじゃないかと思いますね。
[インタビュー/阿部裕華 写真/MoA]
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アニメ・音楽・映画・漫画・商業BLを愛するインタビューライター。Webメディアのディレクター・編集を経て、フリーライターとしてエンタメ・ビジネス領域で活動。共著「BL塾 ボーイズラブのこと、もっと知ってみませんか?」発売中。
放送・配信日:2023年1月14日(土)午後10時30分より放送・配信スタート(第1話無料放送)
人類最終戦争後の世界。
大地は炎魔が闊歩する黒い森におおわれ、人々は結界に守られた土地で細々と暮らしていた。
最終戦争前に開発・使用された人体発火病原体によって、この時代の人間は、傍で天然の火が燃焼すると、内側から発火して燃え上がってしまう。
この世界で人が安全に使用できる唯一の<火>は、森に棲む炎魔から採れる。
火を狩ることを生業とする火狩りたちの間で、あるうわさがささやかれていた。
「最終戦争前に打ち上げられ、永らく虚空を彷徨っていた人工の星、<揺るる火>が、帰ってくるー」と。
“千年彗星<揺るる火>を狩った火狩りは、<火狩りの王>と呼ばれるだろう”
紙漉きの村に生まれ、禁じられた森に入って炎魔に襲われたところを、火狩りに助けられた灯子。
首都に生まれ、母を工場毒で失い、幼い妹を抱えた煌四は“燠火の家”に身を寄せることを決意する。
灯子と煌四、二人の生き様が交差するとき、あらたな運命が動きだすー
原作:日向理恵子(「火狩りの王」ほるぷ出版 刊)
キャラクター原案:山田章博
監督:西村純二
構成/脚本:押井守
キャラクターデザイン:齋藤卓也
総作画監督:齋藤卓也・黄瀬和哉・海谷敏久
エフェクト作画監督:小澤和則
イメージイラスト/プロップデザイン:岩畑剛一
美術設定:中島美佳
メカニックデザイン:神菊薫
クリーチャーデザイン:松原朋広
美術監督:小倉宏昌
色彩設計:渡辺陽子
筆文字:勝又まゆみ
劇中画:水野歌
CG監督:西牟田祐禎
CG制作:レイルズ
タイトルデザイン/2Dワークス:山崎真紀子
特殊効果:櫻井英朗
撮影監督:荒井栄児
編集:植松淳一
監督助手:菅野幸子
音楽:川井憲次
音楽制作:フライングドッグ
音響監督:若林和弘
音響制作:プロダクション I.G
アニメーション制作:シグナル・エムディ
灯子:久野美咲
煌四:石毛翔弥
明楽:坂本真綾
炉六:細谷佳正
綺羅:早見沙織
緋名子:山口愛
クン:國立幸
照三:小林千晃
火穂:小市眞琴
油百七:三宅健太
火華:名塚佳織
焚三:宮野真守
灰十:三木眞一郎
紅緒:原優子
ほたる:宮本侑芽
炸六:真木駿一
炎千:上田燿司
火十:綿貫竜之介
ヤナギ:大原さやか
キリ:嶋村侑
ひばり:石田彰
ナレーション:榊原良子
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