アニメ店長こと兄沢命斗はこうして生まれた! 今だから話せる裏話も飛び出す!?|知っているようで実は知らないアニメイト池袋本店の歴史【番外編】
2023年3月16日にアニメイト池袋本店がリニューアル&グランドオープン! アニメイトタイムズでは記念企画として、アニメイト池袋本店がどのような歴史を辿ってきたのかを追う「知っているようで実は知らないアニメイト池袋本店の歴史」を連載中です。
今回は番外編。アニメイトに欠かせないあのキャラクターの歴史を探っていこうかと思います。
それは、アニメイトの宣伝キャラクター『アニメ店長』こと“兄沢命斗”です。
『炎の転校生』や『逆境ナイン』で有名な漫画家・島本和彦先生が原作を務め、声優の関智一さんが声を務める『アニメ店長』。実は、アニメイト池袋本店の店長という設定があるのはみなさんもご存知ですよね? 店頭では、開店と閉店のアナウンスと歌が流れてたりもしています。
そんなアニメイト池袋本店と縁がある『アニメ店長』ですが、一体どのように生まれたのでしょうか?
『アニメ店長』の企画・プロデューサーを手掛けるムービックの萩原大輔さんにお話をお聞きしました。萩原さんは『アニメ店長』の生みの親でもあり、作品中には“ハギー”という名前のキャラクターのモデルにもなっています。
アニメを愛する熱い男・兄沢命斗の活躍を振り返っていきましょう!
連載バックナンバーはこちら!
目次
- 島本先生はアニメイトが苦手だった!?
- コンセプトはアニメイトの闇を暴く!?
- 庵野秀明さんが作ったTVCMが存在!?
- 関さんが武道館で放送禁止用語を叫ぶ!
- 兄沢命斗はヒーローである!
- この記事をかいた人
- 担当記事
島本先生はアニメイトが苦手だった!?
ーー本日はよろしくお願いいたします。そもそも『アニメ店長』を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
萩原:『アニメ店長』をやる前の私は、ムービックでキャラクターグッズの制作を担当していました。来る日も来る日も下敷とテレカとラミカを作り続ける日々でして。
たまに作品ならではのネタアイテムなども作っていたのですが、当時のキャラグッズの宣伝ってかなりイケてなかったんです(笑)。
アニメ雑誌の広告には商品名と値段が書いてあるだけのリストのみのものがざらでした。「アニメイトは知る人ぞ知るお店」っていう感じで、その頃はお店も商品もあまり宣伝に力を入れていませんでした。
でもグッズを作っている側からすると、自分の作ったものを見てほしいし、宣伝してほしいっていうモヤモヤがずっとあって……。
当時、私は若造ではありましたが、アニメイトの偉い方がいらっしゃる会議にも参加させてもらったりしていて、その時にアニメイトでも「宣伝キャラクター」があると良いよねという話題が挙がってたんです。ゲーマーズのデ・ジ・キャラットが盛り上がってきたタイミングでもありましたから。
ーーデ・ジ・キャラットの盛り上がりはすごかった印象です。
萩原:そうなんです。最初は別の偉い方がやることになっていたミッションだったのですが、当時、私の部署の後輩だった金月龍之介(現在はアニメのシリーズ構成なども多く手掛ける脚本家)と「俺たちでやるんだったらこういうのがやりたいよね」ってくらいのテンションで話していたのが今の「アニメ店長」の原型となりました。
ーーまさかそんなところからのスタートだったんですね。
萩原:ええ、二人の地元のドトー〇コーヒーでお茶しながら(笑)。
でもとめどなくアイデアが浮かんで、最初から『アニメ店長』や『兄沢命斗』の名前などは出ていました(当時の資料を見せる萩原さん)。
ーータイトルがそのままになっているし、兄沢命斗もそのままですね。
萩原:そんな勢いのまま、企画書をまとめて、そのままその偉い方々の会議でプレゼンをしてしまったのですが、出席していたお店の店長の全員から猛反対をいただいてしまいまして……。「何だこれは、意味がわからない!」って。
ーーえ~!
萩原:もともとのスタートは「デ・ジ・キャラットがほしい」ですからね……(笑)。
ーーそれなのに熱血キャラを出してしまったと。
萩原:はい。それこそ漫画にも出てきた理論武装3人組のリロンメタボやリロンノッポ、タケムラなどの現役店長たちに、めちゃくちゃ反対されたのを覚えています。
ーーそれなのに熱血キャラを出してしまったと。そこまでしてなぜ島本先生に白羽の矢をたてたんでしょうか?
萩原:僕と金月は島本和彦先生と仕事がしたかったんです(笑)。
まあそれが一番だったのですが、なにより島本先生にはアンチがいないという印象がありまして。お客様はもちろん、アニメ業界内でも先生のファンが多いと聞き及んでいたので、宣伝キャラクターの原作には最適ではないかと。
知名度においても、当時は島本先生が参加した『機動武闘伝Gガンダム』や『疾風!アイアンリーガー』なども人気で、漫画界だけではなく、アニメの業界でも先生の名前をお見かけするようになっていたので、それも推薦させていただく動機に拍車を掛けました。
また俯瞰でアニメイトを見たときに、そのあたりの時期から女性のお客さんが急激に増えてきたタイミングだったので、男性向けや女性向けというどっちかに偏った観点ではないほうが宣伝キャラクターとして向いているのではないかと考えていました。
漫画の展開以外に、声の展開も考えていました。島本先生のみのお力ですと、たしかに男性寄りになってしまうかもしれなかったのですが、そこに女性に人気の声優さんのお力添えをお願いしたいと。かなり最初の段階から、主人公の声は関 智一さんにお願いしたいと思ってました。『機動武闘伝Gガンダム』で主役のドモン・カッシュを演じていたこともあって、島本先生との親和性も高いなと。
そして、この企画の骨子が出来上がったんですが……。
ーー猛反対をくらってしまったと。
萩原:ええ。ですがそんな中、反対しなかった方が二人いたんです。それが当時の髙橋豊社長(現アニメイトグループ代表)と安田正樹部長(後のムービック二代目社長)だったんです。
ーーなんと!
萩原:社長も部長も「内容はよくわからん」と(笑)。ですが髙橋社長は、「でも萩原が面白いって言うんだったら任せて良いんじゃないのか?」と言ってくださって。そのお言葉がなかったら、本当に今この世に『アニメ店長』は無かったです。本当に感謝しております。
ーー神の一声だったと。
萩原:まさしく。社長の慧眼ってすごいな、と。そして紆余曲折はありましたが、社内的な了承は得られまして、そこから島本先生にアポを取りに行くことになりました。
でも連絡先がわからず、島本先生と一度だけ仕事をしたことがある先輩から連絡先を聞くというすっごい細い線でメールさせていただきました。
島本先生からはすぐに返事が来て、「一回お会いしましょう」っていう話になり、北海道に住んでいらっしゃるので「今度コミケで東京に行くから、そのときに」と言っていただきました。
そして初めてご挨拶させていただき、早速企画のプレゼンをしたのですが、島本先生からはすぐにお断りされてしまいまして……。「結局なんだかよくわからない」と(笑)。
ーー熱血の宣伝キャラクターというのはイメージが付きづらいのかもしれません(笑)。
萩原:島本先生の熱血キャラクターが、ただ単に「このグッズが良い」とか「お店が良い」という話をしてもつまらないんじゃないか? と。
そして、あまり世に出ていない断られた理由がもう一個あって……。それが「お前のお店はあまり好きじゃない」って(笑)。
ーーえー!!
萩原:「アニメイトをご存知ですか?」って聞くと札幌にも店舗があったので、もちろん知ってると。「でも好きじゃないんだよね」って言われて。
それで島本先生から逆提案していただいたのが、お店や会社のダメな所を敢えてネタにする自虐とか、組織の腐敗を正すとか、そういうのを暴く方向性だったら面白く描けると!
ああ、終わった、と思いました(笑)。さすがにこれは私の一存ではご返答できないので、一旦持ち帰らせていただきました。
不安になりながら髙橋社長にご相談したところ、「アリだ」と。
ーー(笑)。
萩原:「むしろ俺たちは晒されてはいけないことをしているつもりはない」「先生が探って(問題や腐敗が)出てきたのなら、それを改善すれば良いことなんだ」と社長がおっしゃったんです。カッコよすぎですよね。
それを島本先生にご報告したら、納得してくださって。ご承諾をいただきました。
ですがここでまたハプニングが。先生が改めてアニメイトを取材していただくことになったのですが、私の都合があわず、札幌店の店長とスタッフさんにアテンドをお願いしていました。
そうしたら取材の後に島本先生から連絡が来て「萩原くん、話が違う」と(笑)。
ーー順調だったのにどうしたんですか?(笑)
萩原:「アニメイトって店じゃないのか!」っておっしゃられていて。
なんと先生が好きじゃないと言っていたのは、アニメイトじゃなくて別のお店のことだったんです(笑)。
ーー(笑)。
萩原:「アニメイト、いい店じゃないか!」と仰っていただき。まあ、そこはホッとしたんですが、逆に「アニメイトの悪いところはどこだ?!」と聞かれる始末に(笑)。
誤解が解けてからはアニメ店長のネタの為に、「粗探し」が必要になってしまいました。