「自分らしく作れば自然と『ルパン三世』になる」│ルパンと次元の少年時代を描いたアニメ『LUPIN ZERO』監督・酒向大輔さん&シリーズ構成・大河内一楼さんインタビュー
今年アニメ化50周年を迎えた『ルパン三世』(モンキー・パンチさん原作)の新作スピンオフ『LUPIN ZERO』が2022年12月16日よりDMM TVにて独占配信中!
『LUPIN ZERO』は戦後の東京を舞台に、中学生のルパンと次元の出会いを描いたオリジナルストーリーの全6話のスピンオフシリーズになっています。
今回お話をうかがかったお二人ですが、酒向大輔監督はTVシリーズ「『ルパン三世 PART5」』(以下、「PART5」)で副監督を務め、今作『LUPIN ZERO』で初監督に、今回シリーズ構成を手掛ける大河内一楼さんは「PART5」でもシリーズ構成を担当しています。インタビュー中も過去作の話数がすっと答えられるほどの『ルパン三世』愛あふれるお二人がどんな想いで本作を作られたのか、たっぷり語っていただきました。
「自分らしさを入れないと『ルパン』にならない」と語る酒向監督のジャケットの色へのこだわり
――初めてアニメ『ルパン三世』を見た作品と、シリーズのなかでお気に入りのエピソードをお聞かせください。
酒向大輔監督(以下、酒向):初めて見たのは『ルパン三世 カリオストロの城』で、そこから他のシリーズや劇場版も見るようになりました。一番好きなエピソードを尋ねられた時は『ルパン三世 PART2』(以下、「PART2」)の143話「マイアミ銀行襲撃記念日」と、手前みそになりますが「PART5」(酒向さんが副監督を務めたシリーズ)の第6話「ルパン対天才金庫」(酒向さんが脚本と絵コンテを担当)。あとは気分次第で1つ挙げていますが(笑)、劇場版一作目の『ルパン三世 ルパンVS複製人間』でしょうか。
シリーズ構成 大河内一楼さん(以下、大河内):僕が好きだったのは「PART2」第145話「死の翼アルバトロス」です。アニメ誌で宮崎駿さんが特集されていて、その人が『ルパン』を作ったというので見たんですけど、展開が早くてめまぐるしくて、もちろんアクションも最高で。30分まったく退屈しなくてすごくおもしろくて。
酒向:そう意味では、僕も『ルパン三世』は宮崎アニメとして見ておもしろかったので、その後、世界観やキャラクターを深堀りするようになりました。
――長い歴史がある大きなタイトルで、酒向さんは監督を務めることでどう自分らしさを出そうと思われたのでしょうか?
酒向:『ルパン』として作っていくことが自分らしさだと思っています。僕がやりたいことと、『ルパン』にしていくことは一致しているので、自分らしさをあえて入れれば自然と『ルパン』になるという感じです。逆に言えば自分らしさを入れなければ『ルパン』にならないと。
僕はずっと『ルパン』を作りたかったし、『ルパン三世 カリオストロの城』から入りましたが、思春期の頃は“旧『ルパン』(「PART1」)原理主義者”で、「旧『ルパン』以外は認めない。それ以外はニセモノだ」という気持ちでした。でも作りたいと思ってから、いろいろな方のお話を聞いていると、“ルパンおたく”ではない人は『ルパン』の塗り絵で、ジャケットを赤く塗ることに気付いたんです。
「国民的な『ルパン』のジャケットのイメージは赤なんだ。だから赤ジャケの『ルパン』も好きにならなくてはいけない」と、この業界に入る前に思って、そこから許せるようになりました。それ以降、ピンクのジャケットなど他の『ルパン』にも良さがあり、共通しているものがあると、最大公約数的に好きになれるようになったし、今ではシリーズでどの色のジャケットが好きかと尋ねられたら、(「PART2」の)赤と答えますね。
大河内:(酒向さんが副監督を務めた)青(「PART5」)じゃないんですね?
酒向:青は「PART2」よりは大衆向けではないかなと。自分の好みと大衆の好みを一致させたので今は一番好きなシリーズは「PART2」です。だから監督をするにあたってジャケットの色を気にしたことはありませんでした。
大河内:僕は「PART5」でシリーズ構成をさせていただいて、今回のスタッフは、自分が「PART5」を作らせてもらった時と同じテレコム(・アニメーションフィルム)さんで、酒向さんもその時の副監督で一緒に作品を作った経験があったので、チームとしての不安はなかったです。それよりも、酒向さんがやりたい『ルパン』をどう実現するかが大切でした。
「断ってとんでもない作品になるなら自分がやらなきゃ」という想いから監督に
――『LUPIN ZERO』の制作が始まるまでの経緯と、制作に要した期間を教えてください。
酒向:僕のところには企画がある状態でお話が届きました。僕が断っても企画はなくならないですし、『ルパン』を見るのも好きなので、もし断ってとんでもない作品になったらどうしようと思って、「僕がやらなきゃ」と。制作時期はコロナ禍という状況もあり、大河内さんが加わってから約2年くらい、一番古い議事録が2019年の冬なので、約3年近くかかったことになります。
――制作チームはどのように決められたのでしょうか?
酒向:スタッフは脚本や音響は別として、基本的には僕一人で、あとはフリーの方と少しずつ少数で初めていった感じで。後から弊社のいくつかあるラインから手が空いた人が合流してくる形でした。途中から合流してくださった方に助けていただいた印象も強いです。例えば演出の米たに(ヨシトモ)さんが入ってくださって、すごい大先輩なので教わることも助けていただくことも多かったです。
またキャラクターデザインはコンペで決めましたがテレコム出身で今フリーのアニメーターの田口(麻美)さんは『ルパン三世 PART4』(以下、「PART4」)ではキャラクター補佐を担当されていましたが、動画で入りたてだったのにキャラクターデザインもやっていて、つまりはすごくうまいんです。
今回ちょうどタイミングが合って、描いてもらったものを見た時、内心これでイケるだろうと確信したほどで。特に今作では次元のキャラクターは彼女がすべて生み出したものなので、彼女の絵があることで作品が段々形作られていった部分があります。
――以前、ルパン役の畠中 祐さんや次元役の武内駿輔さんが監督やスタッフ陣の『ルパン』愛の深さについて語ってくださいました。
酒向:キャラクターに関していえば、田口さんは『ルパン』への愛というより、そこにいる人間に対する造形を落とし込むタイプで、どんな性格でどういう人生を歩んできたのかなど脚本にない部分まで想像して描いていて。
あと役者さんには、書いていただいたセリフやストーリーで好きになったり、楽しんでもらえたのかなと思っていて。畠中さんが収録後にいいと言っていたのが「俺はワクワクに従う」というセリフで、「僕も本当にそうなんです」と。ルパンが言っているセリフだけど、セリフ自体が持つ意味が畠中さんに共感を得てもらえたのではないかなと。
大河内さんに書いていただいたセリフは文学的で、僕には書けない文芸的なものが引き付けたんじゃないかなと思っています。だから結果的に『ルパン』愛につながったのかもしれないけど、『ルパン』だからではないと思います。