「自分らしく作れば自然と『ルパン三世』になる」│ルパンと次元の少年時代を描いたアニメ『LUPIN ZERO』監督・酒向大輔さん&シリーズ構成・大河内一楼さんインタビュー
畠中さんの演じるルパンと武内さんが演じる次元はピッタリ! ルパンの親や祖父役のキャスティングもポイント!
――大河内さんは思春期のルパンや次元のセリフをどのように書かれたのでしょうか? そして畠中さんと武内さんのお芝居を聴いた感想は?
大河内:僕が書かせていただいたのは「PART5」だけなのですが、今回は「PART5」のルパンの若い頃というわけではなく、他シリーズのルパンも含めての少年ルパンとして書いています。
酒向:ルパン役や次元役を決めるにあたってオーディションでお二人を選ばせていただきましたが、畠中さんは絶対に合うなと思って。畠中さんが演じられた他作品を見た時、畠中さんのお芝居はご自身からあふれ出てくるんですよね。ルパンはその時々で表情や感情がコロコロ変わるし、その気持ちも本当なのかわからない。シリアスな時にひょうきんなことを言ったり、コミカルなシーンでまじめなことを言ったり。それが畠中さんのお芝居にハマってくるんです。
それだけの幅をお持ちで、まだ底が見えなくて、こちらが用意した映像に対してどんどん出てきて、ルパンという器の中に入っていって、しかもあふれない。ルパンのモノマネではないけど、ルパンに見えるんです。大河内さんに書いてもらったルパンは少し甘ったれたおぼっちゃまで、畠中さん自身の少しおぼっちゃまな感じでちょっといたずらっぽさがすごくうまくハマったし、やってもらって良かったと思いました。
武内さんはすごくお上手な部分もありますが、今回見た印象はどんどん芸の幅を積み重ねていく感じで、今までやってきた武内さんのお芝居に、次元という芸がのっかったのではないかと。武内さんの持つ演技力や気持ちがのった次元になったと思います。
――今は分散収録が多い中で、畠中さんと武内さんは一緒に収録できたそうですね。
酒向:今回はルパンと次元が対話するシーンが多いので、コロナ禍で別収録が多い中、更にお忙しいお二人にお願いする際、日程はバラバラにはなりましたが、お二人が必ずセットになる形にしていただきました。良かったと思うのは別録りではできない“聴くお芝居”ができるんです。相手が何を言っているのかを聴いているのもお芝居の一部だと思うし、聴くことで次のセリフも気持ちも変わってくる。
――畠中さんと武内さん以外のキャスティングのポイントは?
酒向:ルパン二世は絶対、(古川)登志夫さんだと思っていました。初代ルパン三世を演じていた山田康雄さんの次にルパン三世を演じたのが登志夫さんで(劇場版『ルパン三世 風魔一族の陰謀』)。だからメタ構造的に二世は登志夫さんですし、『ルパン三世 風魔一族の陰謀』もテレコムさんの制作だったので。
そしてルパン一世はテアトル・エコーの方から選ぼうと思って、今回は(テアトル・エコーで)僕の一番好きな役者さんである安原義人さんにやってもらって。『ルパン』に関連するキャスティングになっています。今年は古川イヤーですね。ピッコロ、カイ・シデン、そしてルパンと。他のキャストさんは音響監督の丹下さんに相談しながら決めていきました。
『ルパン』というよりおもしろいアニメを作ろうと意識。高度成長期の日本を舞台にした理由とは?
――制作する上で意識したことや難しかった点はありますか?
酒向:意識したのはアニメーションとしておもしろいものにしようと。大河内さんにも「おもしろい脚本を書いてください」とムチャ振りさせていただいて。
大河内:いえいえ(笑)。
酒向:おもしろいものを書いてもらった後はいかにそのおもしろさが伝わるように作るかを心がけました。『ルパン』というより、あくまでおもしろいアニメを作るために意識したし、今回どこまでできたのかは視聴者の皆さんに判断していただくわけですが、今後もっと上、もっとおもしろいものを目指す上でも必要なことかなと思っています。
また畠中さんと武内さんに収録していく前に僕から伝えたことは「外堀はすべて『ルパン』で埋めたので安心してください。お二人は思うようにやってください」と。皆さんそれぞれに思い描くルパン像があるので、すべての人を満足させられるのかはわからないけど、最大公約数的に、例えば『ルパン』については名前を聞いたことがあるくらいのライトな方が見た時、「これが『ルパン』なんだ」と思ってもらえるようにはできたかなと。むしろ難しいのはおもしろいアニメを作ることだと思っています。
――今回時代や舞台設定が高度成長期の日本になっている理由は?
酒向:原作はありますが、今回はほぼ創作で、どこかのシリーズのルパンが若返ったというふうに想像してみたら、アニメーションからさかのぼっていくのが一番わかりやすいかなと。そして「これは『ルパン』シリーズの一部ですよ。想像上ですけどね」と思ってもらいたくて、だから「PART1」からさかのぼったデザインにしてくださいというオーダーはしました。
(「PART1」のキャラクターデザイン&作画監督の)大塚康生さんが描いたルパンが若かった時と逆算すると必然的に放送された1971年よりも前ということで、昭和30年代になりました。
大河内:昭和30年代という時代設定に関しては、時代考証の白土晴一さんという頼もしい方がいて、僕に30年代をレクチャーしてくれました。なので、時代設定に関して難しさはなく、割と自由に書けた気がします。中学生なのに次元が銃を持っていたり、ルパンがタバコを吸っていることは現代ではありえないけど、30年代では本作のように子供が車を運転することもありえたようですし。
――ザラつきがある映像は昭和時代の初期のアニメーションのような質感が感じられて、懐かしさが増幅しました。
酒向:ザラザラにしたのは撮影処理で、僕の個性であり、ああいうアニメが好きというのもありますが、そこから生まれた副産物もあって。線が太くてザラザラしていると、多少中割りが甘くてもごまかせるんです(笑)。
アニメーションを描く時はすべての絵に整合性があっていないと途中から絵が崩れてしまうんですけど、最初から線が太かったり、ザラザラしていると多少甘くても気にならないというのを「PART4」の時に学んで。「PART4」も線が太くて、ザラザラしていて、ルパンのもみあげの数が1枚目と2枚目で違っても映像では気にならなくて、こういうことなんだなと(笑)。
あといろいろな映像があってもいいと思っていて、CGを駆使した最新技術の映像もいいけど、再放送じゃないのに再放送っぽい映像があってもいいのではと思っています。
PART1の山下毅雄さんの音楽をリアレンジできるのは大友良英さんしかいない!
――『あまちゃん』などで知られる大友良英さんが、「PART1」で劇伴を手掛けた山下毅雄さんの音楽のリアレンジを含め、劇伴を担当されていますが決まった理由は?
酒向:「PART2」以降の音楽が使えないということで、ダメ元で「PART1」の音楽(スコア)を使えませんか?」とお願いしました。というのは「PART1」からさかのぼる設定が決まりかけていたので、山下さんの音楽スコアの使用許諾をお願いしたら、快諾していただいて。
そして山下さんの音楽を誰に委ねるのかと考えたら大友さんが浮かんで。世界で一番山下さんに詳しいのは大友さんだと勝手に思っているので打診したらここでも快諾をいただけました。それが経緯で、あと僕個人がサントラを欲しかったから(笑)。「PART1」のサントラはリレコーディングしたものしかなくて、しかも全曲収録されていないので。
――今回のエンディングも「PART1」のオマージュで、『ルパン』ファンには刺さるでしょうね。
酒向:僕は元旧『ルパン』(「PART1」)原理主義者ですから(笑)。「PART1」の前というコンセプトがあったので、エンディングもやっぱりアレじゃないとダメだろうと。エンディングテーマを七尾旅人さんが歌われていますが、ボーカルを選んだのは大友さんです。今の時代だったら七尾さんだろうと以前から考えていたそうです。