『アキバ冥途戦争』は心の葛藤を呼び起こしてくれる、ハードな道徳の教科書――近藤玲奈さん、佐藤利奈さん、田中美海さん、黒沢ともよさん、ジェーニャさん、高垣彩陽さんが思いの丈を語る【連載第13回】
「考えれば考えるほど深い作品」
──近藤さんは第12話の台本を読まれたときはどんな印象がありました?
近藤:第11話の時点で「第12話はこんな感じになります」と聞いていたんです。事前の情報だけでも衝撃的で。でも台本を見るときは発売を楽しみにしていた漫画を読むような気持ちでした。ドキドキしながらページを開いて、かなりの時間をかけて読み込んで。「収録は大変だろうな」と思ったんですが……一見派手なシーンがあったものの、なごみの中には、メイドでいたいという気持ちが一貫していたので、それを私も貫こうと思っていました。
──連載インタビューの後、佐藤さんと一緒に最終回のダビングの様子を拝見して。佐藤さんは笑いながらも、少し涙ぐまれていましたが、あの時、佐藤さんはどのような気持ちで見られていたのでしょうか。
佐藤:いろいろな思いが溢れていました。皆さん言っていますけど、この作品のことは上手に話せないんです(苦笑)。だからその時の感情をうまく言葉にできるかは分からないのですが……『アキバ冥途戦争』はあくまでエンターテインメント作品で。激しい抗争が繰り広げられながらも「楽しむところはとことん楽しんでほしい」という制作の皆様の気概をずっと感じていました。
実際に仕掛けもたくさんありますし、貫いている芯がある。それは「生きるってそれ(楽しい)だけじゃない」ということなんじゃないかなって。フィクションの世界ですけど、自分たちが生きている世界の中の、辛いものにも繋がっているような気がして……言葉を選ばないで言うとしたら、現実と重ねることで“嫌な気持ち”を抱いてしまう可能性もあるんじゃないかなと思っていました。
私自身も作品を見ている中で、ふと我に返って泣きたくなることがありました。「よく分からないけど、この感情はなんだろう」って思うことが、ずっとある作品なんですよね。なごみちゃんのように未来を築いていける人たちがいる一方で、そこに留まることしかできない人もいる。変わっていかなければいけないと分かっているけど……人生ってどうしようもできないことの連続じゃないですか。その狭間で揺れているお話だと思っています。その塩梅が非常に絶妙だと改めて感じました。
──フィクションでもあり、リアルでもあり……人それぞれの心の痛い部分を時には刺激するかもしれないけど、同時に頑張ろうと思える作品でもあるというか。
佐藤:そうなんです。時には揺れることもあるけど、最後に立っていられるのも自分しかいないんだろうなと実感しました。メイドの信念が描かれた物語。それを笑いと現実の狭間で表現していくから、笑えるのになんだかモヤっとしたり、嫌な気持ちになってしまう。その全部を描いてくれたのが、すごい作品だなと。
ただ、第12話は序盤のなごみちゃんの姿が、嵐子を演じる身としては悲しくて。ねるらちゃんのことで辛い思いをしていた彼女に対して、「そういうものです」って嵐子が言ったんですが……また同じ気持ちにさせてしまった。しかも、なごみの側にいられない。「嵐子、どういうことなんだ!」って個人的には思いました(苦笑)。
近藤:でも嵐子さんが死ななければ、凪さんもあそこまで逆上しなかったんだろうなって。第11話でちょっと丸くなったけど、嵐子さんが死んだことでああなったということは……愛情ってどっちにも転ぶものなんだなと思いました。悪にも、正義にも。凪さんも人間の心を持っていたんだなと、考えれば考えるほど深いものがあります。
黒沢:確かに。
佐藤:その一方で、どこかカラッともしているんですよね。嵐子の遺影の前でチーンとしていて、野球の写真もあって(笑)。このバランスがたまらないと思うんですよ。「人はいつか死ぬけど、どう生きるかが大切なんだよね!」というメッセージも、この作品には込められているように思います。
高垣:当たり前だと思っている体制、変わらないと思っていることでも、見方や戦い方を変えたら形が変わっていくのかもしれないと思います。時代と共に変化していくことはあっても、誰かの純粋な思い、身を投げ出せるエネルギーがあることで、長いものに巻かれずにいられるのかなと。そこはハッとさせられました。
ただ、ピュアな思いだけでは変えられないものもある。私は任侠モノってこれまであまり見たことがなかったんです。義理と人情って分かるようで、イメージしかなくて。さっき、ともよちゃんも言っていましたけど、自分に置き換えて考えてみることで、感じ方も変わるのかなと思います。いろいろなことを考えられる作品だねって受け取ってもらえるんじゃないかなと。
黒沢:(座談会の前編で)美海ちゃんも言っていましたけど、最終回まで見てくれたなら、この作品について議論してほしいです。昨今、SNSでの発言が問題になりつつあるけど“話し合う”って大切なことだと思っていて。「面白かった!」と言って見れちゃう人もいるだろうし、「よくわからない」という人もいるだろうから、作品を見た人たち同士で話し合ってほしいですね。