3DCGで描かれた『聖闘士星矢:Knights of the Zodiac バトル・サンクチュアリ』芦野芳晴監督とキャラクターデザイン西位輝実さんが語る本作の魅力とは? お二人だからこそ話せる制作舞台裏に注目!
2023年1月1日から配信されるフル3DCGアニメ『聖闘士星矢:Knights of the Zodiac バトル・サンクチュアリ』。
本作は『聖闘士星矢:Knights of the Zodiac』のセカンドシーズンで、すでに海外では配信が開始されており、高い人気を誇っています。
セカンドシーズンの物語は、原作で人気の高い「聖域(サンクチュアリ)十二宮編」が舞台。ファーストシーズン以上の激しいバトルシーンが最大の魅力です。
今回は日本国内での配信を記念して、作品を手掛けた芦野芳晴監督と、キャラクターデザインの西位輝実さんにインタビューを実施。すでに配信されている海外から届いた声や、3DCG作品ならではの苦労話をたっぷりと伺いました。
先行配信されている海外からの声
──『聖闘士星矢:Knights of the Zodiac』はどのような作品ですか?
芦野芳晴監督(以下、芦野):東映が手掛ける『聖闘士星矢』の映像化の企画のひとつです。このプロジェクトは、手描きのアニメと3DCGアニメ、ライブアクションの3つのラインが存在します。
『聖闘士星矢:Knights of the Zodiac』は、このなかの「3DCGアニメ」です。2023年1月1日、元日から配信されます。
──本作は日本より早く海外で配信されていると伺いました。
芦野:はい。海外では2022年7月31日から先行配信されています。実はこの作品、日本語版よりも先に英語版を制作しているんです。
──日本語版より先に英語版を制作するのは、珍しいですね。
芦野:プレスコで英語のセリフを収録して、それに合わせてCGを作りました。というのも、普通のアニメーションは絵が先で、それにアフレコして制作します。
ですがCGの場合は声を先に収録しないと作りにくいんです。なので、先に英語のセリフをもとに映像を作って、後から日本語版とスペイン語版、ポルトガル語版を作りました。
──プレスコで制作するのは、一般の作画アニメとは異なりますね。
芦野:一般的なアニメは秒間8コマとか12コマで作ることが多いですが、『聖闘士星矢:Knights of the Zodiac』は秒間24コマで作っています。なので、クチの動きがなめらかでリアルに見えます。よく見ると、クチの形が英語の発音の形になっています。
──日本語版はどのように作られたのでしょうか?
芦野:英語版としてできあがった映像に、声優さんがアフレコをしています。本作の音響スタッフはとても優秀で、声優さんの技術もとても高いです。やはり日本の声優さんはすごいな、と。
──外国映画の吹き替えのようですね。
芦野:まさにその通りで、音響監督は普段から外画の吹き替えの仕事をなさっている方を選びました。
プロデューサーや秋田書店の編集さんと共に、原作のセリフをいかに上手く英語の口パクに入れるかを考えながら、時間をかけて台本を作りました。おかげで違和感のない日本語版ができました。
──すでに配信されている海外から、反響は届いていますか?
芦野:いろいろな国のファンが、僕のSNSに情報を送ってきてくれます。彼らのメッセージを読むと、反響はシーズン1よりもはるかに大きいです。特に熱いのは南米です。
熱量の順で言うと、南米と中米、次にフランスです。あとは中国ですね。北米向けに作った作品なのに、アメリカは他のエリアに比べると落ち着いている印象があります。アメリカでも話題になってくれたら、言うことなしなんですけどね(笑)。
──それは中南米とフランスが熱すぎるから、そう感じるのでは?(笑)
芦野:(笑)。聞くところによると、『聖闘士星矢』は配信されるたびにアクセス数のトップ争いをしているそうです。見てくださるファンの方々には感謝です。
CGアニメ制作は楽じゃない! 作画アニメとは違った苦労とは
──『聖闘士星矢:Knights of the Zodiac』はフル3DCGアニメですが、従来のアニメともっとも違うところは?
芦野:ワークフローがまったく異なります。3Dだから立体的でダイナミック、かつリアルな画面を作りやすいのが違いです。それと、カメラワークも自由です。ですが、これはすべてのCGアニメには当てはまりません。
──条件があるのですね。
芦野:作画のような見え方の、トゥーンシェイドを使った3DCGは当てはまりません。あの手法の作品は背景に手描きの絵が一枚置いてある場合が多いので、カメラワークは自由にはできません。カメラを自由に動かしたい場合は、我々のように背景まですべて3DCGで作る必要があります。
──『聖闘士星矢:Knights of the Zodiac』は、トゥーンシェイドのCGアニメにする予定は初めからなかったのですか?
芦野:いえ。初めはどちらにするか考えました。我々がフォトリアルな3Dを選択した理由は、東映の制作チームが得意だったからです。カメラワークが自由なだけでなく、光の表現などもリアルに再現できます。
なので、手描きのアニメでは作れない映像ができました。フォトリアルなCGは、光のエフェクトや光の反射などをリアルに表現できるので、『聖闘士星矢』にはぴったりでした。
──それでは反対に、フォトリアルCGのデメリットはありますか?
芦野:もちろんあります。ひとつ例を挙げると、背景や小物、キャラクターなど、すべてを3Dで作る必要があります。CGアニメの制作は、箱のなかに作ったジオラマでフィギュアを動かしているような作り方をするからです。
劇場版の作品なら予算を贅沢に使えるので、すべてのアセット(小物や背景、キャラクターなどのこと)を制作できると思います。しかし『聖闘士星矢:Knights of the Zodiac』はテレビシリーズなので予算が限られています。
なので、なるべく同じアセットを生かすことのできるシナリオを考えなきゃいけないんです。そこが従来の手描きアニメとは大きく違いますね。
──すべての小物類をCGで作るのは、予算がかかりそうです。
芦野:そうなんですよね(笑)。作画アニメなら1カットしか出てこない小物やモブがあっても、「描いちゃえばいいじゃん」で進められるんですけどね。CGはそうはいかないので、演出方法とシナリオをより考えなければならなかったです。
──ということは、絵コンテの作り方は従来のアニメと異なっていたり?
芦野:違いますね。絵のイメージが実写に近いフォトリアルCGを選択してしまったので、アニメによくある「止め絵」の演出ができません。
フォトリアルCGで同じことをやると、すごく変な画面になってしまうんです。簡単に言うと、実写の映像をリモコンで一時停止したようなイメージです。これでは事故のようにしか見えません。
なのでフォトリアルCGでは、画面内を常に動かしていなければなりません。キャラクターに待機モーションをつけるとか、工夫が必要です。
──いままで止め絵で演出してきたテクニックが使えないのですね。
芦野:そうですね。僕はかなり長い間この仕事をしていますが、これまでの作画アニメの経験が活かせませんでした(笑)。なにか別の考え方をしなければ絵コンテを作れませんでした。
──解決策は見つかりましたか?
芦野:絵を止めない!
一同:(笑)。
芦野:技術的な話をすると、12コマ以上は止めないようにしました。ですが、倒れて動かない人もいるので、そういうときはカメラワークで画面を動かします。そういう落とし所を探し出すのが大変でした。
──12コマ以上は止まっていないところに注意しながら見たら、別の楽しみ方ができそうです。
芦野:もうひとつのデメリットは、先ほどお話しした「小物や背景も必要」というところです。カメラでキャラクターしか映していない場合でも、カメラの後ろ側もしっかり作る必要があるんです。
──カメラの後ろ側もですか?
芦野:カメラに映っていない部分もしっかり作って、ジオラマの箱を閉じないとライティングが破綻するんです。フォトリアルCGの光はすべて計算でライティングされているので、カメラの裏側になにもない状態では正しく描画されません。
──我々視聴者は気づかない、制作者ならではの苦労話ですね……。
芦野:苦労話で言うと、絵コンテの枚数も従来のアニメより多かったです。通常、僕は絵コンテは150枚くらい描けば多い方でした。でも、『聖闘士星矢:Knights of the Zodiac』は300枚くらい描いています。そのくらい用意しないと指示できなかったからです。
──CGアニメだから楽、ということはないんですね。
芦野:う~ん……。CGだから楽というのは、ないですね。作画アニメとは別の苦労があります。
キャラクターもCGなので、みなさんからは作画崩れがしないと思われがちですが、CGでも作画崩れはします。キャラクターのベースがあるのでキャラクター自体は崩れませんが、表情はしっかり作らないと崩れます。