アニメ『陰の実力者になりたくて!』原作者 逢沢大介さんインタビュー|シドは自分の価値観を投影したキャラ、七陰を生み出したきっかけは?【連載04】
2022年10月からスタートした逢沢大介さんによる人気ライトノベルが原作のTVアニメ『陰の実力者になりたくて!』も後半戦に突入! 11話で「女神の試練」に参戦したシドは、対戦相手となったアウロラと再会し、戦闘中のアルファと合流。ますます目が離せません!
アニメイトタイムズではアニメ『陰の実力者になりたくて!』にまつわるキャストやスタッフなどへのインタビュー連載をお届けしてきましたが、第4回は『陰実』の生みの親、原作著者の逢沢大介さんが登場! 編集担当の清水さんと共に、『陰実』を発想したきっかけと、シドや七陰をなどのキャラクターが生まれた背景、アニメのお気に入りエピソードを語っていただきつつ、12月28日に発売された原作小説5巻の見どころもご紹介いただきました。
シドは自分の価値観を投影したキャラ。七陰を生み出したきっかけは?
――まず『陰の実力者になりたくて!』はどのように発想されたのでしょうか?
原作者 逢沢大介さん(以下、逢沢):最初は小説投稿サイトの『小説家になろう』で発表しました。当時は、長く人気ジャンルとして権勢を誇っている「異世界転生」を主題にした作品がサイト内で膨大な数、投稿されていました。そんな競合作品が多い中ではありましたが、あえて「異世界転生」もので何かを書いてみようと思ったのがスタートでした。探り探り『陰実』の2話くらいまで書いたところで、「すれ違いの要素を入れよう」という考えが思い浮かび、「これはイケるかも」と確信に近い感覚が湧き上がってきて。それまで書いたことがなかったし、自分に書けるのかもわからなかったけど、とりあえず面白くなりそうだからやってみようと。最初はそんな感じでした(笑)。
――転生した異世界では、新たに赤ん坊として生まれ変わって、シドが口にしたディアボロス教団が実際に存在していて、しかも大きな野望の元に行動する彼らとシド率いるシャドウガーデンが対峙するかなりスケールの大きなお話になっていますが、世界観はどのように構築されたのでしょうか?
逢沢:世界観については特に強い主張やこだわりはなくて、「こういう世界観であれば、ストーリーやキャラクターを面白く動かしていきやすいかな?」というような考えのもとで、いろいろなものを足していったという感じでした。
――序盤からシドや七陰の圧倒的な強さにも驚きました。
逢沢:僕自身、俺TUEEE系の爽快さが大好きなので! 読者の方にも楽しんでいただけたら嬉しいです。
――主人公のシドは強さを追求する中二病だけど、表ではなく陰で支配したいという野望や、いわゆるモブキャラに憧れる不思議なキャラですが、どのように作られたのでしょうか?
逢沢:シドについては本質的な部分は最初から決まっていました。それは僕自身の価値観の体現のようなものです。僕が作品で書きたいもののひとつに、今までの人生で得た自分の価値観を表現したい、というものがあります。その際、作品の「ガワ」は何でもよくて。たとえば「異世界転生」じゃなくて、「少年マンガ」みたいなものでも。自分がこの世界で、自分の視点で何を大切にして、何を捨てるのかという取捨選択を中学生の頃からしてきましたが、それが段々言語化できるようになったのと共に深堀りできるようになりました。
中学の時は考えも浅くて、本当に中二病みたいな感じだったけど、大人になると視野が広がっていろいろな視点や角度から見えるようになってきて。そろそろ「僕はこう考えています」というものを表現してもいいんじゃないかなと思って。だから僕の作品の主人公は、みんなこんな感じです(笑)。今回シドが大切にしているのは「陰の実力者」で、僕はそんな気持ちはないんですけど(笑)、そこは作品に合わせて作っていきました。
担当編集 清水さん(以下、清水):TVアニメの9話のルスランとの会話では「僕は自分にとって大切なものと、そうでないものを明確に分けてる」と、11話のアレクシアと温泉に入るシーンでは「『どうでもいい好きなもの』『どうでもいい嫌いなもの』と分別している」と、それぞれシドが言っていましたが、そういう「取捨選択をすること」ですよね?
逢沢:そうですね(笑)。
――なるほど。でも先生が陰の支配者を狙うような野心家じゃなくて良かったです(笑)。この連載の第2回に登場していただいたOP曲「HIGHEST」を担当されているOxTのオーイシマサヨシさんが「小中学生の頃に思い描いていた中二感を主人公が拾ってくれている感じが、僕らの傷痕を優しくなでている感じがしてありがたかった」とおっしゃっていましたが、これだけ中二病を理解されているということは先生も?
逢沢:それは大いにあると思います。中学、高校の時はかなりの中二病でしたから(笑)。
――中二病のキャラは妄想力が強いのが特徴ですが、現実世界でも自身を極限まで追い込んで強くなろうとするシドの執念はすさまじいなと。
逢沢:どこかでコンプレックスや満ち足りていないものと結びついている気がするので、僕も当時、力を欲していたんでしょうか?(笑) 僕も中学生の頃はまだ不安定で、現実を現実として受け止めることができなくて、いろいろな局面で現実にウソをつき続けてきたのかも。シドにもちょっとウソが混じっている気がするので……。
――そしてシドを支える七陰の存在も作品の大きな魅力の1つですね。
逢沢:「七」という部分には深い意味はなくて。人間が瞬間的に記憶できる数は「7」プラスマイナス数個までという説もあるし、ラッキーセブンだから覚えやすいかなと。個々のキャラクターについてはその瞬間その瞬間に、必要なキャラを作っていったようなイメージです。だから事前に綿密なキャラ設定を作ったわけではなく、たまたま生まれたのが彼女たちで、後から少しずつ詳細が固まっていった感じです。
清水:シドが主導となって動いていく物語の展開の中で、「こういう子がいてくれるとストーリーが動きやすいな」という視点でキャラクターが作られていっています。ただ、設定を詰め込み過ぎても物語の展開において動きづらくなっていくので、振り幅を持たせて、その瞬間瞬間でおもしろいほうに進んでいけるようにある程度余白を残してキャラを作っているんだなという印象があります。
逢沢:そうですね。もちろん東西さんに小説のイラストを描いていただく際に、ビジュアル的に決めておかないといけないこともたくさんあるので、相談しながら作っていきました。