10年前に「いつか一緒にアニソンを作りたい」と言っていた夢が叶いました――『転生王女と天才令嬢の魔法革命』の幕開けを爽やかに彩る「アルカンシェル」花たんさん、dorikoさん対談
ファンタジア文庫より刊行中、鴉ぴえろ先生による異世界魔法ファンタジー『転生王女と天才令嬢の魔法革命』がTVアニメ化。2023年1月より放送スタートしました。本作の幕開けを飾る「アルカンシェル」が2023年1月25日(水)にリリースされます。
疾走感あふれるオープニング「アルカンシェル」を歌唱しているのは、圧倒的な歌唱力に定評がある花たんさん。楽曲制作は「ロミオとシンデレラ」などで知られるdorikoさんが担っています。dorikoさんは花たんのメジャーデビューアルバム『FLOWER DROPS』(2013年リリース)や、昨年1月の花たんVtuberデビューCD『Flowers capsule』(2022年1月リリース)でも楽曲提供をしてきました。
黎明期のボーカロイドシーンを出自に、第一線で活躍しているおふたり。約10年前の出会いから『転生王女と天才令嬢の魔法革命』で再びタッグを組むまでをインタビューで振り返ってもらいました。意外にも初となる、おふたりの対談をお楽しみください。
「アルカンシェル」に至るまで
――おふたりにお話をおうかがいできることになってとてもうれしいです。意外にも、対談は初めてだとうかがいました。
花たんさん(以下、花たん):そうなんです! dorikoさんプロデュースでアルバム(2011年『FLOWER DROPS』)を出させていただいたのですが、その時も私だけ取材を受けていて。
dorikoさん(以下、doriko):だってメインは花たんだから(笑)。必要とあらば喋るけど、僕が出る場面ではないし。
花たん:(笑)。dorikoさんにはいつも歌いやすい曲をいただいています。今回もですが、私のキーのことをよく分かってくれているんです。ご一緒できたのは久しぶりなのでうれしかったですね。
doriko:こちらこそ。実はこれまで花たんに提供した曲は、自分としては反省点もあるんですよ(苦笑)。もちろん自信を持ってお渡ししているのですが「もっとああしておけばよかったのかな」と考えてしまうところがあって。だから今回は歌いやすければいいなと思っていました。
花たん:えっ、そうだったんですか?バッチリでした!
doriko:それはもう、花たんはどんな歌でも歌えちゃうから。
花たん:dorikoさんがハードルを上げていく……!(笑)
――dorikoさんがさきほどおっしゃってた、これまでの曲の反省点というのは例えばどんなところなんでしょうか?
doriko:実はそれが今作に至る経緯にも少し関係しているのですが……去年、ひさしぶりに話すようになったんですよね。
花たん:共通の知人を通じてひさしぶりに連絡を取ったんです。私が去年Vtuberデビューをするにあたって、デビューCDを作りたいなと考えていたときに「dorikoさんに作ってほしいな」と思っていたんです。でもそのときはまだLINEの連絡先を知らなかったんですよね。私は陰キャなのでなかなか「LINE教えて」とは言えないタイプで(笑)。その後無事交換できました。
doriko:それまでは個人で連絡を取らずとも会える機会が多かったんですよね。あと極端な話ですけど、花たんはいろいろな人に曲を書いてもらっていて。僕なんかが出る幕じゃないなと常日頃思っていて……
花たん:えーっ! そんなこと思ってたんですか!?
doriko:思ってたよ(笑)。だから花たんから「作って」と言われたときは意外と言えば意外だったんです。
花たん:今お話を聞いてびっくりしています(笑)。ずっとdorikoさんとまたご一緒したいなと思っていたので、勇気を出して連絡して良かったです。あのとき連絡できてなかったら今回のタッグも実現できなかったと思うので。
――今回はどのような経緯でおふたりがご一緒されることになったんです?
花たん:dorikoさんが仲介役になってくれて、ドワンゴさんと繋いでもらったんです。それで『転生王女と天才令嬢の魔法革命』のタイアップの話をいただいて。
doriko:ドワンゴさんと別件でお話していた時に「花たんと連絡を取りたいんですけど」というお話をもらったんです。それで「最近よく連絡を取ってますよ」とつなぎました。
花たん:お話をいただいた時は作曲される方が決まってなくて「もし希望の方がいたらお声かけてみますが」とおっしゃっていただいたので、dorikoさんでとお願いしました。
というのも、最初のメジャーアルバム(『FLOWER DROPS』)でプロデュースしていただいたときに「アニソンもいつか一緒にできたらいいなぁ」って話をしていて……。
doriko:してたねえ。10年前に(笑)。
花たん:してました。だから「絶対にdorikoさんが良い」と思って。でもお願いしたところ、ドワンゴさんから「一応声はかけてみますが、dorikoさん今ちょっと忙しいみたいです」って(笑)。
doriko:あはははは、裏話が(笑)。
花たん:「それはしょうがない」と思っていたんですが……dorikoさんに「もし何か聞かれたら、必ず“めちゃくちゃ暇です”と答えてください」とLINEを送っていて。
一同: (爆笑)
――裏で手を回されていたんですね(笑)。
doriko:でも、その前にさんざん言ってたんですよ。「忖度しなくて良いからね」って。
花たん:いやいや、忖度なんてなくて。dorikoさんが良い、というのが私のいちばんの希望でした。
doriko:そう言っていただけたので作らせてもらいました。さきほども言った通り、僕としてはこれまでの曲に反省点もあったので、花たんにぴったりの曲を作りたいなと思っていました。
花たん:ありがとうございます。
――花たんさんが連絡を取ったことが今回のお話にもつながっているとは。
花たん:そうなんです。本当に勇気を出して良かったです。今回の曲のやりとりは直接やりとりさせてもらっていて。あと、「言葉で書くと伝えにくいから通話で」と電話で話すこともありました。
doriko:時間取ってごめんね(笑)。特にカップリング「不夜城」に関しては「ここまでできたから送るね!」と、返信がないまま一方的にデータを送りまくってました。
花たん:dorikoさんは逐一曲を送ってくれるんです。私はLINEを開くのが遅い人なので迷惑をおかけしましたが、dorikoさんの曲がアップデートされて届くのが楽しみでした。
「ロミオとシンデレラ」をきっかけに
――少し話が遡るのですが、おふたりがそもそも知り合ったきっかけというのはなんだったんです?
花たん:もともとdorikoさんのボカロ曲を私が存じ上げていて、好きな曲もたくさんあったんです。「ロミオとシンデレラ」が投稿されたタイミングぐらいに、共通の友だちから「これを歌って欲しい」という連絡があって。
doriko:ああ、そうかあの時か。
花たん:それで私が「歌ってみた」を投稿したところ、dorikoさんが聴いてくださっていて。そのあとお互いにコンタクトは取っていなかったんです。当時mixiが大流行していた時期で、お互いに足あとだけが残っているっていう。
doriko:懐かしい(笑)。
花たん:でもちゃんとお話したのは……いつでしたっけ?
doriko:いつだっけねえ。あまりにも前でなかなか思い出せない(笑)。
花たん:確か……私が夏コミの同人アルバムを出すときに、dorikoさんに曲を書いて欲しいとお願いしたのがファーストコンタクトだったような気がします。
doriko:共通の友だちがいるんですよね。彼のおかげかもしれない。「ロミオとシンデレラ」も彼がミックスしていたんですよね。
花たん:湊貴大さんという方なんですが。
――湊貴大さんだったんですね!
doriko:そう、湊さんから「花たんという、めっちゃ歌がうまい子がいるから」って連絡があって。
花たん:そういうやりとりがあったんですか!? 知らなかった(笑)。それで湊さんがつないでくれて。だから私が今こうしていられるのは湊さんのおかげなんです。
――花たんさんから見て、当時dorikoさんの楽曲はどのようなイメージがあったのでしょうか?
花たん:繊細な楽曲を作られる印象がありました。その印象が変わったのが「モノクロアクト」(doriko feat.初音ミク名義)。「モノクロアクト」はロックでカッコいい曲で。バラードも好きなんですけど、ロックな曲も好きなので「こんなにもカッコいい曲を作られる方なんだ!」と思いました。実は「ロミオとシンデレラ」を歌う前に「モノクロアクト」の「歌ってみた」も投稿していて。だから初めてdorikoさんの曲を歌ったのは「モノクロアクト」だったんですよね。
doriko:ああ、そうだったか……。
花たん:「モノクロアクト」の歌ってみたを投稿した時はまだ無名だったのですが「ロミオとシンデレラ」を歌ってから、いろいろな方に聴いていただける機会が増えました。
――そして、今dorikoさんと曲を一緒に制作されていて。花たんさんの実力ありきではありますが、まさにシンデレラガールのよう。
花たん:私にとっては夢みたいな状況です。私はdorikoさんのめちゃくちゃファンなので。
doriko:そこまで言ってもらえるとは(笑)。でも僕としても同じ気持ちです。今はYouTubeやニコニコ動画に曲を投稿する方たちは、先々のビジョンを考えられていると思うんですよね。ただ、僕らの時代は……こういう言い方をすると語弊があるかもしれませんが、遊びの延長線上だったというか。実際僕自身、本当に普通の学生だったんです。正直に話してしまうと、就職活動をする傍らって感じで(苦笑)。当時はきっと、こういった商業的な活動をすることを視野に入れて活動されていた方は少なかったと思います。
花たん:分かります。私が歌い手を始めたときも、CDを作って、商業的な活動をして、ってことまではなかったんです。コミケなどで同人CDを出される方はいましたけども、私の知識の中では「どこかの事務所やレーベルに所属しないと、そこまではできないだろうな」と。うたを歌うことは好きだけど、今のような音楽活動ができるようになるとは思っていませんでした。
――黎明期ですものね。その道を切り開かれるというのは本当にすごいことだと思います。
doriko:おそらく僕らは第一世代にあたるんですよね。だから本気で音楽をやってきた方とはバックボーンが違いすぎて。いざ音楽活動をはじめてから……この10年はキツかったねぇ(苦笑)。
花たん:分かります(笑)。飛び込みのような感じでこの世界に入ったからこそ、自分の立ち位置や人とのやりとりとか、分かっていないことが多くて。若いころから事務所に入って、歌手になることを目指してやってきている方たちと比べると礼儀がなってないなって、この10年まさに感じてきて……。だからもしかしたら、人によっては生意気に見えていたかもしれません。
doriko:そんなことはないと思うけど、言いたいことはめちゃくちゃ分かるよ。
花たん:もちろん自分では軽んじているわけではなくて。
doriko:うんうん。でも……ちょっと話がそれてしまうけど、10年前くらいに花たんが言ってたことですごく印象に残ってることがあって。
花たん:えっなんですか!?
doriko:「周りから冷めた目線で見られていたとしても、ブースに入って、とにかく最高のうたを歌って、周りを納得させます!」って。
花たん:えーっ! そんなこと言ってました!?(笑) やんちゃ!
――めちゃくちゃカッコいい!
花たん:できてますかね、それ(笑)。恥ずかしい。
doriko:できてたと思う。だってね、当時はきっと「ネットの歌い手ってなんだよそれ」って感じだったと思いますから。一般的に認知されるまでは大変だったと思う。
花たん:そうですね、当時はそう見られていたと思います。
――さきほど花たんさんが、まずは「どこかの事務所やレーベルに所属しないと……」と話されていましたが、私も当時はまずはデモテープを事務所に送って……というところから本格的に活動されるものだと思っていたところがありました。でも今は投稿した上で「じゃあどうやって聴いてもらうか」というところからのスタートですよね。
doriko:まさにそうですね。時代が変わった。
花たん:今の若い子たちは最初の段階からインターフェースを使っていて、ミックスという技術もすでに持ってるんですよね。「信じられない!すごい!」と。私たちの世代はスカイプマイクで録っていましたから(笑)。