『火狩りの王』ワールドガイダンス|世界観、登場人物、用語などを徹底解説ーー火を失った時代に。少女と少年は運命と邂逅する。
毎週土曜午後10時30分より放送・配信中のWOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』。徹底的に作り込まれた本格ファンタジー巨編ということで、本作が気になっている方も多いことかと思います。
ファンタジー作品の醍醐味といえば、世界観や設定への理解を深めること。もちろん、『火狩りの王』でも十分に楽しめるあれこれが詰め込まれています。
今回はアニメ視聴の手引となるワールドガイドをご用意しました。アニメを見ながら気になった単語などはぜひ本稿を参考にしていただければと思います。
なお、今回のワールドガイドを担当したのは、『深淵』『信長の黒い城』『シャドウラン5th』『ザ・ループ』などの代表作を持つTRPGデザイナーでもあり、ファンタジー作品にも造詣が深い朱鷺田祐介さんです。
朱鷺田祐介
TRPGデザイナー。代表作としては、ダークファンタジー「深淵第二版」、戦国クトゥルフ「比叡山炎上」など。翻訳監修を担当したSF-RPG『エクリプス・フェイズ』が6月30日に発売。バンタン・ゲーム・アカデミーで非常勤講師として、「ライティング」「幻想世界論」「ゲーム研究」などを担当、ゲーム業界を目指す生徒に小説、コミック、アニメなどの作品解説を行うこともしばしば。
主要登場人物紹介
灯子(とうこ)
紙漉きの村に住む11歳の少女。人体発火現象で両親を失い、祖母とその面倒を見ている燈とその娘・燐と暮らす。優しい心を持つが、その気持を積極的に話すのが苦手。燈のために、薬草を探そうと、村の結界の外に出てしまい、炎魔に襲われ、救いに入った火狩りの灰十が死ぬ。残された鎌、守り石、狩り犬のかなたを首都にいる火狩りの遺族に届けるため、回収車に乗って村から旅立つ。
煌四(こうし)
首都に住む15歳の少年。火狩りの父、工場勤務の母の間に生まれ、将来は工場で働く予定だったが、学院の教師に技術の才能を見出され、特待生として学院に学ぶ。父が失踪し、母が工場の毒で死んだため、病気がちな妹・緋名子を養うため、工場経営者の燠火(おきび)家に身を寄せ、雷火の研究に取り組む。
明楽(あきら)
女だてらに炎魔を狩る流れ者の火狩り。狩り犬はてまり。自ら運命を切り開いていく強い意志と経験の持ち主である。兄が火狩りであったが、神族に関わって命を落とし、彼女は首都を出て流れ者になった。
それは始まり。
「かなた----
かなた、というんだ。こいつは」
暗い森の中、金色の体液を流す炎魔から少女を守った男は、そう言って死んだ。
「その夜。火狩りと呼ばれる男が、狩り犬と鎌を遺して死んだ……」
1/14よりWOWOWにてスタートした本格ファンタジー巨編『火狩りの王』は、灰十(はいじゅう)の死から始まる。主人公の少女・灯子(とうこ)を救おうとして、灰十は炎魔の牙に倒れたのだ。彼の残した火の鎌は、狩り犬のかなたによって、灯子に渡る。
シーンが変わり、村の共同墓地になる。それは一見、のどかな楓家に見える。『火狩りの王』は、暗い森の中に、炎魔と呼ばれる人食いの魔獣がいることをのぞけば、物語は、まるで、明治か大正の日本の田舎のような風景で進む。男の墓参りをする少女・灯子(とうこ)とそれに従う狩り犬のかなた。森の中の小さな村。木製の小屋で、盲目の祖母たちと暮らし、鍋の粥を食べる様子はノスタルジックですらある。
実は、この世界は、怪物退治を主眼にした和風ファンタジーなどではない。
文明社会が最終戦争で滅んだ後の世界なのだ。
最終戦争
「火狩りの王」の舞台は、最終戦争の後の世界だ。
最終戦争とは文字通り、人類が最後に行った大規模な戦争であり、これによって現代社会は滅びていく。このロシア・ウクライナ戦争が継続し、周辺各国が巻き込まれていくこの時代に、このような世界観が語られることはある意味、天啓かもしれない。
最終戦争という言葉から何をイメージするだろうか?
20世紀終盤までは、最終戦争というと、核戦争による人類の全滅というイメージがあった。米ソが持つ大量の核兵器の打ち合い、という相互確証破壊戦略の果てに放射能で汚染された荒野が想定されていた。『マッドマックス』や『北斗の拳』の世界がそうだった。
しかし、日向理恵子が『火狩りの王』で語ったのは、まったく異なる終わり、生物兵器によって人類が火を奪われた世界だった。