『火狩りの王』ワールドガイダンス|世界観、登場人物、用語などを徹底解説ーー火を失った時代に。少女と少年は運命と邂逅する。
神族と首都
世界は滅びたが、人間以上の存在で、人類に加護を与えている神族が「首都」と呼ばれる海辺の街に住んでいる。彼らは旧世界から存在し、人にはない長寿と異能を持つ。宗家の姫神、手揺姫(たゆらひめ)を頂点にして、血筋ごとに異なる異能を持つ神族に分かれている。彼らは首都の、この国の支配者であり、丘の上の神宮に住んでいる。彼らがいるから、人類はまだ生き残っているのである。
首都へ向かう少女
墓参りから戻った灯子に、盲目の祖母がこの世界にかけられた呪いを語り、火狩りの遺品である、火の鎌、守り石、狩り犬のかなたを首都にいる火狩りの遺族まで届けよと言う。
「灯子が首都に」
驚き、ためらう灯子。それほどまでに、紙漉きの村と首都の距離は遠い。
紙漉きの村から首都までは遥かに遠いため、回収車に乗れという。
それぞれの村に特産品がある。灯子の生まれた村は紙漉きが仕事だった。神族に願いを届けるために用いられる最上級の無垢紙を漉いて作る。
回収車はそうした村の特産品を回収して回る装甲車両だ。炎魔の火を動力源として、頑丈な装甲をつけた車体で身を守って、暗い森を突破し、首都と村々の間をつなぐ。多少の木なら踏み倒して通ることも出来るので、半年に一度の来訪の経路が、そのまま道になっている。
多数の炎魔が徘徊する森は、この回収車に乗り、用心棒の火狩りを連れていても安全とは言えない場所だが、首都に行くには、これに乗るしかないのだ。
厄払いの花嫁
回収車に乗った灯子は、同じく乗客となっている若い女性たちと出会う。
彼女たちは花嫁、厄払いのために送り出された花嫁である。
深く暗い森の中にある村は隔絶しており、不作や飢饉など何か悪いことがあれば、その災いを背負わせて、別の村に嫁に出すというしきたりがある。それはまじないの類にすぎないが、村を維持するためには必要だった。たいていの場合は、木々人(きぎびと)と呼ばれる者に案内してもらって近隣の村に嫁ぐ。木々人はなかば植物のような姿をした人々で、その体臭を炎魔が嫌うため、森の中を旅するには彼らの助けを借りることが必要なのだ。
厄払いの花嫁は、村に降り掛かった災いが大きいほど、遠くの村に送られる。だが、木々人は住処からあまり離れられないため、今回の花嫁たちは、回収車に乗ってきた。彼女らの村では、そこの村が担当する主な産業が揺らぐほどの状況悪化が起こっていた。陶器(すえもの)作りの村では土の質が悪化し、竹細工の村では竹が枯れ果てた。灯子の村の周辺でも、炎魔の数が増えていた。
そのため、遥か遠くに花嫁を送るべく、回収車に乗せたのである。