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アニメ映画『BLUE GIANT』立川 譲監督インタビュー

アニメ映画『BLUE GIANT』立川 譲監督インタビュー|試行錯誤が生んだ汗だくの“JASS”の演奏! 一流奏者とディスカッションしてできた成長するライブシーンの制作過程秘話とは?

 

「小賢しい感じで!」「本気出してない感じで!」

──本作の要でもあるジャズですが、どのような経緯でピアノの上原ひろみさんが参加され、音楽を担当すると決まったのでしょうか?

立川:上原さんはおまけ漫画に登場していて、石塚先生のお知り合いでした。すでにJASSをイメージした曲の音源があったので、映画化のお話をいただいた時には上原さんが音楽担当と決まっていました。

上原さんがオファーをしてドラムが石若 駿さんに決まりましたが、当時は他の演奏者は決まっていませんでしたね。

──サックスの馬場智章さんはオーディションにて決定されたんですよね。

立川:実は紆余曲折あって、一番難しいオーディションでした(笑)。初めは海外へ行ってバークリー(アメリカの音楽大学)でオーディションしようかとも考えていましたが、コロナで行けなくなってしまい……。リモートでオーディションしました。

しかし、ピッタリな方が見つからず……。日本人の少年がジャズプレイヤーを目指すお話なので、「やっぱり日本人のサックスも聞いてみたい」と思い、オーディションで馬場さんに決定しました。

馬場さんにお願いできて良かったです。演奏技術はもちろん、物語ともリンクしていますし、サックスの演奏シーンなどの撮影協力もしてもらえたので。ちなみに、馬場さんと石若さんは北海道の幼馴染だそうです。

──おふたりは現実でも大と玉田の関係性なんですね!

立川:出演が決まってからわかったことなんですよ。仙台ではないですが、北海道の昔からの知り合いで驚きました。
 

──話が進むごとに音も成長していきますが、演奏にも演技を加えているのでしょうか。

立川:石若さんはプロでとても上手過ぎるので、初期の玉田の演奏はかなり下手に叩いてもらってます。だから最後のシーンは石若さんのドラムになっているので、玉田が一番急成長しちゃってます(笑)。

雪祈も平さんに指摘されるまで鼻につくプレイをしているのに合わせて、上原さんにも「もっと鼻につく演奏で!」、「小賢しい感じで!」、「本気出してない感じで!」と抽象的なお願いをしました。 

3人とも原作を読んでいてキャラクター性などは理解していただいてますが、私が一般目線で注文していました。石若さんが下手に叩いても、上手に聞こえてしまって……。初心者の自分ならもっと何もできないなと(笑)。

なので、一流の奏者に失礼なことを言ってしまっていますね(笑)。けれど、皆さんが期待に応えてくれたおかげで、音楽の魅力が増していると思います。

 

 

──石塚先生の理想通り、映画館で聞くべき音楽になっているなと感じます。

立川:ぜひ、「Dolby Atmos(前後左右、天井に備え付けられたスピーカーで臨場感のある音を楽しめる映画館)」で聞いていただきたいですね。ドラムの振動も肌に伝わる感覚が味わえます。

制作を始める前に、実際にブルーノート(東京の南青山にある名門ジャズクラブ)の最前列で聞いて、生の音を間近で体感しました。その時に感じた熱くて激しいジャズを目指して表現しています。

──元々、ジャズをどのような音楽だと捉えられていましたか?

立川:元は喫茶店などで流れているムーディーで安らぐのがジャズのイメージでした。もちろん穏やかなジャズもありますが、本作のように激しいジャズも広まってほしいなと思います。その場にしかないジャズがあるので、生のライブを聞いてみてほしいですね。

──映画では生のライブのように、楽器を吹くために空気を吸うブレス音まで入っていますよね。

立川:はい。上級者なら、空気を8割くらいで止めて音の色気に神経を注ぐのですが、大は口の中の空気を全部サックスに入れる吹き方をしています。パワー系の大は、バーッと拭いた後、スゥーッとたくさん息を吸ってほしくて。

馬場さんだとそんなに吸い込まないんですが、山田(大役・山田裕貴)さんに色々なパターンで息継ぎをしてもらいました。

──息継ぎは山田さんの声なんですね!

立川:そう、山田さんなんですよ。

──演奏者の馬場さんと山田さんの繋ぎが自然で、気がつきませんでした。

立川:大が吹いた後に話す時に、息切れしている声などを山田さんが意識してくれているからですね。

あと一度、馬場さんと山田さんには会ってもらいました。実際に山田さんがサックスを吹いて、大がどれだけ空気を入れているのかを体験して。なんと、山田さんは才能があって吹けるようになっちゃったんですよ!

──たった一回で!?(驚)

立川:そうなんですよ。私もサックスのレッスンを1年間くらい受けましたが……(苦笑)。山田さんはちょっと吹いたら良い音を出していました。

──サックスは木管楽器の中でもかなり難しいイメージなのですが。

立川:馬場さんも「才能あるよ」って驚いていましたね(笑)。

 

汗だくのジャズとお洒落なカット割りは試行錯誤の賜物

──ライブシーンは迫力があり、見応えのある映像となっていました。中でも、楽器の細部を流れるように映すカメラワークが印象的でしたが、どのようなことを意識しながら制作されましたか?

立川:本編の約4分の1を占めるので、キャラクターたちの成長も含まれていて、ドラマとも連動しています。話とリンクするように、似たようなライブ映像にならないように、色やテンポ、カット割りなどに変化をつけました。

最後のライブが集大成となるので、カットや映像を前半と後半で入れ替えたり。全体のバランスを取るのが難しくて時間がかかりましたね。

初めのライブも地味ではなく、描くべきものがあるので。玉田の心が折れたり、大は突き進んでいたり……。各ライブでポイントを絞って描くことと、見ていて飽きない演出をするのを念頭に置きながら全体のバランスを調整しました。

──氷にキャラクターが映し出されたり、サックスの中に入り込むようなカメラワークなど、どんどん変化していきますよね。そういったアイディアはどこから生まれるのでしょうか?

立川:サックスは、穴が空いているのでカメラを通してみようかと。サックスを習いに行った時に楽器の構造を見て、サックスの形状が汽車の下の方みたいで格好良いじゃないですか。

──複雑そうな感じがかっこいいポイントですね。

立川:そこが男心を擽るフォルムなので、アップで見せて舐めるようなカメラワークにしましたね。

 

 

──サックスは小さい中に格好良さが詰まっていますが、対して大きいピアノやドラムは周りをグルッと回るような演出ですね。

立川:そうでしたね。鍵盤のアップやハンマー部分はCGで作っているので見せるカットも、アップで短く使うとドキドキするカット割りにできるので加えました。

回り込むシーンは、演奏している人の心情を表現しました。ゾーンに入って遠くへ行っているような。自身を置き去りにして、演奏している意識に集中しきっているような。

──ジャズのお洒落さだけではなく、努力する泥臭さも感じる情熱的な二面性を作画ではどのように表現されていますか?

立川:演奏シーンの作画はかなり大変でした。特にサックスを描くのは労力が必要でして。形状も構造も理解しないとアニメーターの方は描き進められないので、とても苦労されたと思います。

口元や顔のアップでもサックスが映りますが、複雑な2番管(手元となるボディ部分)は避けるようにしました。結構パーツを限定しながら見せています。

あと、汗の表現を多めに入れました。実際に見た演奏者の方も汗をかいていましたが、大たちはより一層汗だくに(笑)。ジャズは汗をかくイメージがないのかなと思いますが。

──優雅で大人な時間を過ごすようなイメージがありますよね。

立川:そういったイメージではなく、足もダンダンと踏み鳴らしたり、声を出して汗だくになるのを描きたかったんです。なので、全てのライブシーンに入れましたね。

──力強く踏み込む足元も熱くて印象的でした。

立川:対して、雪祈と演奏したレジェンドプレイヤーのサックス奏者は、ゆったりとした動きにしました。大との対比ができれば良いかなと。

実際に私が見たライブの奏者の方はゆったりと構えて吹いていました。けれど、漫画の大もかなり激しく動いているイメージだったので、モーションキャプチャーを撮る際に大胆に動くようにお願いしました。

──制作過程をたくさんお話いただきありがとうございます。ジャズを知っている方はもちろん、知らない方もぜひ見てジャズの世界へ入ってみてほしいなと思う作品でした。これからご覧になる方たちへメッセージをお願いします。

立川:ジャズというと尻込みしがちですが、ロックにも近いくらい激しい作品です。『BLUE GIANT』が描いている核は音楽ではなく、生き方や考え方など普遍的なものだと感じています。

何かを始める時に迷いますが、前へ進みたい方の背中を押せる映画になっていると思います。音楽・成長系作品としてもですが、男3人の熱い掛け合いもあるので! あと、激しいライブシーンはアクション映画としても楽しめるのではないかと思います。

アフレコに来た時に、40代〜60代の方が「若い頃を思い出してアフレコのムービー見ているだけで泣ける」と言ってくれたのが印象的でした。若い方だけでなく高い年齢層の方にも見ていただきたく思います。おじいちゃんとかを誘ってもらって(笑)。

──青春の熱い物語なので、家族を誘って見に行きたくなりました。

立川:一見、家族ムービーではないですけど、家族で行けばそれぞれの視点で楽しめると思います。

──ありがとうございました!

 

 
[取材・文・撮影/杉村美奈]

 

アニメ映画『BLUE GIANT』作品情報

公開情報

2023年2月17日(金)全国公開

イントロダクション

石塚真一×立川譲×上原ひろみ

熱くて 激しい 青春が スクリーンで鳴り響く

2013年に石塚真一が「ビッグコミック」(小学館)で連載を開始した漫画「BLUE GIANT」(シリーズ累計:890万部超)。その圧倒的表現力は多くの読者を魅了し、“漫画から音が聞こえてくる”とも評され、現実のジャズシーンにも影響を与えている。

その「BLUE GIANT」が、「最大の音量、最高の音質で、本物のジャズを届けたい」という想いから、映画化される。監督は、「モブサイコ100」シリーズや劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』(18)で注目の立川譲。脚本は、連載開始前からの担当編集者で、現在はstory directorとして作品に名を連ねるNUMBER 8。アニメーション制作は「幼女戦記」(17)などで注目のスタジオ・NUTが手掛ける。

そして主人公・宮本大の声には、原作を読みひたむきに夢を追う大の姿に自身もシンパシーを感じていたという山田裕貴。大が東京で出会うピアニスト・沢辺雪祈に間宮祥太朗、そして大に感化されドラムを始める玉田俊二を岡山天音と、数々の話題作に出演し、目覚ましい活躍をみせる豪華俳優陣がキャラクターに命を吹き込む。

また、“音”の面でも最高のスタッフが集結。音楽は、世界的ピアニストの上原ひろみが担当。

上原は、主人公たちのオリジナル楽曲の書き下ろしをはじめ、劇中曲含めた作品全体の音楽も制作する。また、主人公たちのバンド・JASSの演奏を支えるアーティスト陣も豪華なメンバーが揃った。サックス(宮本大)は、国内外のトップアーティストが集まるオーディションを経て選ばれた馬場智章。ピアノ(沢辺雪祈)は、音楽の上原ひろみ自身が演奏し、ドラム(玉田俊二)の演奏はmillennium parade等、多数のアーティストから支持を集める石若駿が担当。最高のジャズトリオの演奏が作品を彩る。

ストーリー

「オレは世界一のジャズプレーヤーになる。」

ジャズに魅了され、テナーサックスを始めた仙台の高校生・宮本大(ミヤモトダイ)。

雨の日も風の日も、毎日たったひとりで何年も、河原でテナーサックスを吹き続けてきた。

卒業を機にジャズのため、上京。高校の同級生・玉田俊二(タマダシュンジ)のアパートに転がり込んだ大は、ある日訪れたライブハウスで同世代の凄腕ピアニスト・沢辺雪祈(サワベユキノリ)と出会う。

「組もう。」大は雪祈をバンドに誘う。はじめは本気で取り合わない雪祈だったが、聴く者を圧倒する大のサックスに胸を打たれ、二人はバンドを組むことに。そこへ大の熱さに感化されドラムを始めた玉田が加わり、三人は“JASS”を結成する。

楽譜も読めず、ジャズの知識もなかったが、ひたすらに、全力で吹いてきた大。幼い頃からジャズに全てを捧げてきた雪祈。初心者の玉田。

トリオの目標は、日本最高のジャズクラブ「So Blue」に出演し、日本のジャズシーンを変えること。

無謀と思われる目標に、必死に挑みながら成長していく “JASS”は、次第に注目を集めるようになる。「So Blue」でのライブ出演にも可能性が見え始め、目まぐるしい躍進がこのまま続いていくかに思えたが、ある思いもよらない出来事が起こり……。

情熱の限りを音楽に注いだ青春。その果てに見える景色とはーーー。

スタッフ

原作:石塚真一「BLUE GIANT」(小学館「ビッグコミック」連載)
監督:立川譲 脚本:NUMBER 8
音楽:上原ひろみ
キャラクターデザイン・総作画監督:高橋裕一
メインアニメーター:小丸敏之 牧孝雄
ライブディレクション:シュウ浩嵩 木村智 廣瀬清志 立川譲
プロップデザイン:牧孝雄 横山なつき
美術監督:平栁悟
色彩設計:堀川佳典
撮影監督:東郷香澄
3DCGIディレクター:高橋将人
編集:廣瀬清志
アニメーション制作:NUT
製作:映画「BLUE GIANT」製作委員会
配給:東宝映像事業部

声の出演/演奏

宮本大:山田裕貴/馬場智章(サックス)
沢辺雪祈:間宮祥太朗/上原ひろみ(ピアノ)
玉田俊二:岡山天音/石若駿(ドラム)

公式サイト
公式ツイッター(@bluegiant_movie)

 

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真⼀/小学館
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