「欠かすことのできない存在だし、個人的には同じファミリアみたいな」──『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 深章 厄災篇』リュー・リオン役 早見沙織さん・シリーズ音楽 井内啓二さん対談インタビュー 後編
シリーズ累計発行部数1200万部を突破する人気小説『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(原作:大森藤ノ イラスト:ヤスダスズヒト GA文庫/SBクリエイティブ刊/通称ダンまち)を原作とした本作。
2015年に放送されたテレビアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』から8年。リュー・リオンの過去が明かされた『ダンまちⅣ 深章 厄災篇』第20話「散華ルビ:アストレア・ファミリア」が配信・放送されました。
「厄災篇」では、これまでの頼れる冒険者としてではなく、ベル・クラネルと互いに助け合うことで絶望的状況を進んできたリュー・リオン。どういった過去を経て“元”冒険者となったのか、衝撃的なエピソードがついにアニメで描かれました。
そして、第20話では早見沙織さん演じるリューによる挿入歌「No meet doubt」が使用されています。本楽曲の作曲・編曲は『ダンまち』シリーズの音楽を支える劇伴作家・井内啓二さん。
お二人は「No meet doubt」をどのような想いで紡いだのか。前編に続き、早見さんと井内さんにお話を伺いました。お二人の思う、アニメにおける“声と音楽”の関係性とは?
インタビュー前編はこちら
第20話の展開は抉られるような……
──20話はリューさんの過去が明かされる衝撃的なシーンから始まりますが、お二人ともこの20話の展開を知った時の率直なご感想はいかがでしたか?
リュー・リオン役 早見沙織さん(以下、早見):最初に展開を知ったのは原作を読ませていただいた時なんですが、心臓が苦しくなりました。リューさんとしてずっと携わっているからというのも、もちろんあると思うんですけど。
原作を読んでいる段階で涙が出てくるシーンが本当にたくさんあって、この20話もまさにそのシーンのひとつです。リューさんの過去ってどんな感じだったんだろう? っていうのはちょっとずつ物語でも出てきていましたし、気づかれていたという方もいたと思います。
ただ、改めて映像で描かれると、原作を読んだ時に感じた苦しさが増すというか、こんなに過酷だったんだと抉られるような思いでしたね。
また、原作の時系列の描かれ方とまたちょっと異なるというか、この20話は本当にぎゅぎゅっと映像でわかりやすく描かれているので、すごく抉ってきますよね。
──私も一足先にアニメを拝見させていただきましたが、原作を読んでいた時はどこかで想像力にストッパーをかけていたのかなというぐらいに……こんなにショッキングな過去だったんだと改めて感じました。
早見・音楽 井内啓二さん(以下、井内):(頷く2人)
井内:お二人の感想と全く同じなんですけれど、やっぱり『ダンまち』を見る視聴者さんって、どうしてもベルの視点で物語を追っていってしまうところが構成上あると思うんです。
ここまでのシリーズを通して描かれる人物像というものは、例えばリリの過去を掘り下げることはあったにせよ、やっぱりベルを通して見たリリの過去というような見方になる。でも、今回は一時的に主人公がリューになるような構成を丁寧に積み上げていった上での20話という構成になっていて。
20話の冒頭からは、リューの気持ちに入り込んだ上で物語を追体験できる構成になっているな、と思います。あと、大森先生も20話は「自分が想像していたよりも橘監督は酷いことをしてくれた」とおっしゃっていたので「そうだよなー」と。
仕事として当然20話用にも楽曲を書かせていただいたんですけれど、毎朝起きてそのシーンを見ないといけないから、すごく重いんですよ。朝のそのスタート(笑)。
早見:(笑)。
井内:僕は結構早起きで朝5時とか6時から作曲を始めるんです。朝起きてコーヒーを淹れたら、とりあえず20話を見るという事がしばらく続きました。ファーストインプレッションと繰り返し見た時の温度差っていうのは、作曲をしている間ずっと変わらなかったので辛い仕事だなあと思いながら、お仕事してましたね。
挿入歌「Not meet doubt」に込められた想い
──あのシーンを朝から見るってなると大変ですね……。音楽という面でいうと第20話は早見さん演じるリューによる楽曲「Not meet doubt」が使用されています。この楽曲に初めて触れた際に早見さんはどういった印象を受けましたか?
早見:デモをいただいた時にすごく引き込まれて、なんて素敵な楽曲なんだろうと強く感じました。リューさんが感情の濁流に呑まれているようなシーンで流れるということで、これはレコーディングの方も、気合を入れて臨まねばなるまいと背筋が伸びました。
──レコーディングの際に印象的だったエピソードなどありますか?
早見:色々あるんですけど……。リューさんの内側の部分をすごく大事にしながらレコーディングしていただいたとか。歌声もそうだし、出てくる表情とかも、どれを取っても繊細なレコーディングが進んでいくというか。
感情がどういう風に声にのっていくんだろうとか、絶妙なニュアンスをディレクションによってどんどん扉を開いていただいたような感覚になって。
井内:いやいや(笑)。最初から完成していたと思います。
早見:いやいや(笑)。歌えば歌う程、自分もリューさんの感覚と波長が合っていくというか。どんどん苦しさも襲ってきましたし。それでも折れない、リューさん自身が持つ本質的な芯みたいなものも(楽曲の中に)あるのかなと思いました。
あと、これは本当に余談ではあるんですけれど。レコーディングの時、ブースがコントロールブースと結構離れていたんですよ。小部屋みたいなところで歌っていたんですけど、隔離されている感じが……(笑)。
井内:(笑)。
早見:自分としては、すごく孤独感を感じて。いい意味で。
井内:良かった(笑)。
早見:視線がない感じというか。リューさんの心も、そういう風になっていたと思いますし。環境も印象的だったなというのがありますね。
──ある種、20話の詠唱をしている時のリューさんみたいな状況ですよね(笑)。
早見:そうです、そうです(笑)。
井内:そっかそっか(笑)。
早見:タイトルの「Not meet doubt」をネイティブな発音をした時に“ナミダ”という言葉とかかっていることや、こういうシーンで流れますという説明を最初にいただいていたので、そういう心積もりをしてレコーディングに臨めたというのは大きかったなと。
──ありがとうございます。本楽曲のレコーディングに至るまでの、制作に関するエピソードを井内さんにお伺いできればと思います。
井内:『ダンまちⅣ』のヒロインが早見さんであることを伺って、プロデューサーさんに「挿入歌を書きたい!」と直談判したのが事の起こりなんじゃないかなと。僕、普段歌モノの依頼っていうのは4年に1回ぐらいしか来ないんです。だから今回は珍しく、多分作家人生で初めて歌を書きたいと言った気がします。
ただ、当時絵コンテも何もあがってない段階でプロデューサーさんと話をしていた時には「ざっくり90秒ぐらいですかねー」なんて話で、じゃあコンテ出来たら打ち合わせしましょっかぐらいの話だったんです。
そうしたらしばらくして「コンテがあがりました……」みたいな物言いをされていたので「ど、どうしたんですか?」て言ったら「いや、なんか(該当のシーンが)6分半あります」みたいな話になって。
早見:(笑)。
井内:ミュージカルでも3曲分ぐらいの尺だから結構大ごとになると思うと話をしたんです。ただ、人間追い詰められるとやっぱり変なエンジンがかかるというか。
挿入歌でも劇伴でも表現できない何かが、アニメ史上で初めての試みとして出来るんじゃないかと。劇伴、挿入歌に求められる役目を超えた音楽の演出ができる稀有なチャンスかもしれないと思いました。
そうしたら、作曲はもう本当にほぼ一筆書きで終わっちゃったんですよね、30分かかってないくらいなんです。編曲と作詞との調整は数週間かけて仕上げましたが。
20話では、凄惨な場面を視聴者さんにこれでもかってぐらい見せつけるんですけれど、先にもお伝えした通りに、一時的に主役になっているリューの視点で物語が進んで過去を掘り下げているので、あの6分半の間で描かれている内容の情報量はとても膨大です。
アストレア・ファミリアの仲間とのかつての活動であったり、その仲間と共に貫いた正義に対する想いとか。でも、その後にリューを生かすべく仲間が散華する様子を目の当たりにし、そして今生の別れとなってしまう。
だから、この曲はリュー自身が仲間に対して安らかに眠ってほしいという意味での子守歌でもあるし、道半ばで散っていった仲間の魂を鎮めるための鎮魂歌でもあって。その両方の側面を持ちながらも、リューとしては仲間への手向けの歌を心の中で反芻していたんだけれど、多分いつしかそれはリュー自身のためのものになったのかなと。
そうしないとやっぱり闇落ちしてしまうので。仲間のために歌っていた歌がいつの間にか自分自身を静めるための歌に転化していったんだと思うんです。あとは、いつの日か近い将来、仲間の元に逝くからねってことも込めつつ。
タイトルに関しては先程早見さんがおっしゃっていたように、“ナミダ”とも読むけれども「Not meet doubt」の中には主語が無いんです。実は“I will not meet doubt”というのが正式で、意味合いとしては「私(リュー)は疑いには出会わない。」つまり「私はもう疑わない。」という意味で、アストレア・ファミリアの団員と貫いた正義を疑わず真実を突き止める、という意味になり、逆に日本語で”ナミダ”と読むと「戦いの果てに散った仲間を想い涙を流す」という意味になります。
歌詞の言葉は少ないんですけれど、要所要所に二重の意味を持つ言葉というのをダブルミーニングで散りばめています。多分、音だけを聞いていると何を歌っているのかが分からないかもしれません。
「疾風(かぜ)の中でまっている」という“まっている”という言葉も音として聞くとwaitingの待つに思えるかもしれないけれど、二番の方の“まっている”は舞う、舞踊るの方の舞うという字をあてていたりだとか。
それはリューの戦闘スタイルというか、力技じゃなくて華麗に舞うような姿を連想していて。だから、愛しいあなたたちが眠るこの場所で私を待っているという意味と、あなたたちのところに行くまで私は、その真実に向き合うまで剣を手に取り戦い舞い続けるわ、という意味の舞うもかかっていたりとかして。
……これ、歌詞だけでも1時間半ぐらいお話できるんじゃないかと思うんですけど(笑)。
──すごく気になります(笑)。
井内:その辺りをどこかで解説できたらいいなあ、なんて思うんですけれども。そういうことを細かく作詞家の方と詰めながら、リューさんってどういう人格なのだろうかとか。「豊穣の女主人」に流れ着いたリューさんが、何を想って過ごしていたのか、とか。そんなことを考えながら丁寧に丁寧に歌詞を紡いだうえで、アレンジをしています。
楽曲自体も多分、今のアニメで使われる歌曲としては異例中の異例だらけで。まず先にもお伝えした通り、尺が物凄く長くて、加えてテンポが(BPM)54ぐらいという、恐らく聞いたことがないようなゆったりとしたもので。
あと、『ダンまち』の劇伴を書く時に心掛けているんですけれど、オラリオの世界における文化に現存しているであろう楽器しか使わないというのを決めているんですよね。エレキギターとかドラムなどの、恐らくこの世界には存在しないであろう楽器を敢えて使わないことによって『ダンまち』の世界を作りたいというのは、1期の音楽を書く時から思っていたことなんです。
今回の挿入歌も急にアコギが鳴り始めて、みたいなのは嫌だったので、アイリッシュハープやヴィオラ・ダ・ガンバというチェロの前身となったヨーロッパの古楽器を使っていて。
そういう歌曲では中々使われないような楽器をチョイスして、基本ベース以外はアコースティックの楽器だけで構成したんです。それが良い感じに早見さんの歌声と相まって、すごく親和性のあるものができたかなと思います。