「このアルバムでいろいろな私を感じてもらえたらいいですね」──アニソンシンガー・奥井雅美さんソロデビュー30周年! ベストアルバム『Mas“ami Okui”terpiece』発売記念インタビュー
ソロやJAM Projectの一員として活躍中のアニソンシンガー、奥井雅美さんがデビュー30周年を記念したベストアルバム『Mas“ami Okui”terpiece』を2023年3月8日に発売!
今作はデビュー曲「誰よりもずっと…」から現在に至るまでの楽曲を、レーベルを垣根を超えて収録。3枚組48曲という大ボリュームで、声優・林原めぐみさんとのデュエット曲で『スレイヤーズ』のOP曲の「Get along」、記念すべき『アニサマ』第1回のテーマソングとなった『ONENESS』を今回セルフカバーで新録。
そして誕生日の前日となる3月12日には、東京・日本橋三井ホールにて封印していた『Birth Live』が7年ぶりに復活!
女性アニソンシンガーのトップランナーとして今なお活躍する奥井雅美さんの魅力と素晴らしさを、ぜひこのアルバムとライブで体感してください。
林原めぐみさんの仮歌やコーラスがきっかけでアニソンシンガーの道へ
――デビュー30周年を迎えた感想をお聞かせください。
奥井雅美さん(以下、奥井):「もう30周年になっちゃいました?」という感じです(笑)。アニソンを初めて歌った「誰よりもずっと…」は、声優さんの仮歌などをやらせていただいていた縁で、お話をいただいて。そんな私がここまでアニソンを歌わせていただけるなんて、本当にありがたいことです。
――奥井さんはアニソンを歌う前は松任谷由実さんや斉藤由貴さんや原田知世さんなどのコーラスを担当されていて、ご自身もアニソンを歌うことになるとはたぶん想像されていなかったのでは?
奥井:当時はアニソンという言葉も浸透していなかったし、専門で歌うアニソンシンガーという存在も知りませんでした。
もちろん水木一郎さんや堀江美都子さんは存じあげていて、アニメの歌を歌っているお兄さん、お姉さんみたいな認識で。アニソンシンガーという肩書では呼ばれていなかった気がするし、そういうお仕事があることにも驚きました。
でも声優の林原めぐみさんの仮歌やレコーディングのコーラスをやっていたため、「奥井さんも1曲歌ってみる? 記念になるから」と当時キングレコードのプロデューサーだった大月俊倫さんから声をかけていただいて、「やります!」と。その記念が2枚、3枚と続いた感じです。
――デビューシングル「誰よりもずっと…」はOVA『ふぁんたじあ』の主題歌で、オフボーカルとラジオドラマが収録されていたという珍しいケースですよね。
奥井:そうですね。当時はドラマCDも流行っていたので(笑)。
――ひとくちに30周年といっても、ほぼ全期間、第一線で活躍されていることもすごいです。
奥井:堀江さんと私たちの世代の間ではあまりいなくて、同世代ではちっひー(米倉千尋さん)、あと石田燿子さんは年下だけど30周年になったし、仲良しがみんな今でもこうやってアニソンに関わってることがとても嬉しいですね。
――奥井さんは歌うだけではなく、ソングライティングやプロデュースまで手掛けられていて。音楽に関わる全般まで関わるアニソンシンガーが増えてきたのも奥井さんからで、奥井さんの影響も大きかったと思います。
奥井:そういうタイプの女性のアニソンシンガーと言われる人たちが出始めたのは私たちの世代からかもしれませんね。
――奥井さんはアニソンシンガーになる前にJ-POPなどいろいろな音楽に触れたり、関わってきたことで、アニソン界になかった新たな曲調やテイストをもたらしてくれました。
奥井:ありがとうございます。でもそれは私だけではなく、最初一緒に楽曲制作してくださった矢吹俊郎さんや大平 勉さんとのチームで作れたことと、大月さんから好きに作っていいよと言ってくださったことで、自分たちが好きでやりたいと思う方向のサウンドにできたのがきっかけでした。
「REINCARNATION」では歌謡ロックなどの要素が入り、その後もJ-POPやダンスミュージックなどの要素をアニソンに取り入れて作っていました。
――そして今のアニソン界は世界の音楽トレンドをいち早く取り入れているジャンルになりました。
奥井:アニソンでやっちゃいけないという制限はほとんどありませんからね。もちろん作品の世界観を体現したり、広げるという役割がありますが、今は作品自体も多種多様ということで、自由に作りやすい、挑戦しやすくなったことも大きいと思います。
――30年の活動の中で印象深かった出来事やターニングポイントを挙げるとすれば?
奥井:「REINCARNATION」(OVA『テッカマンブレードII』主題歌)で自分たちがやりたい音楽にアレンジしましたが、作品に出演されていた林原さんがご自身のラジオ番組でこの曲を「カッコいい!」とすごく褒めてくださって。
――林原さんご自身もアルバム『Enfleurage』でカバーされていましたね。
奥井:そうです。当時、めぐちゃんの人気がすごくて、そんな彼女が本気でカッコいいと褒めてくださったことで、たくさんの方が私の音楽を聴いてくださるようになって。そこがターニングポイントだったと思うので、めぐちゃんには足を向けて寝れません(笑)。
――あと「輪舞-revolution」が2019年に「平成アニソン大賞」の作詞賞を受賞しています。
奥井:1997年にリリースされた曲だったので、自分でもピンと来ていなくて(笑)。作った時は自分の代表曲になるなんて思ってもみなくて、その後たくさんの女性アニソンシンガーの方がカバーしてくださったり、たくさんの方に愛されていて嬉しいです。
――ほとんどの曲をご自身で作詞、作曲されていますが、この30年の中でソングライティングについて変化はありましたか?
奥井:自分で作っているとそこまで変えられないですよね。そして頭の中で作りたいイメージはあっても、私はアレンジができなくて。
このアルバムのDisc2を私は「evolution期」と呼んでいて、私が所属レーベルから独立して新レーベルを立ち上げた頃の楽曲を収録していますが、Montaくんや鈴木Daichiくん、MACARONI☆くんの作詞、編曲が増えてきて、今まで自分ができなかったサウンドやアレンジをしてくれました。
そのおかげで、私も「こんな感じの曲はやったことがないけど、作ってみたい」という考え方に変わっていったのかなと思います。例えばギターから作る曲はギターを弾けないと作れないけど、このDisc2ではギターから作る曲が増えました。
――そのDisc2に収録されている「-w-」は本格的なダンスチューンで、ファンの方も驚いたり、反響も大きかったのでは?
奥井:この曲もアレンジができないと作れない曲で、カッコいい曲だと思うので、どうしても入れたくて。余談ですが、『アニサマ2007』でダンサーを引き連れてパフォーマンスしましたが、衣装を宝野アリカさん(ALI PROJECT)に褒められたことを覚えています(笑)。
またキングレコードに所属していた頃はライブで歌いながら踊っていましたが、段々お姉さんになってくると「しんどいな」と思って、踊ることをやめていました。この「-w-」で久々に踊りました(笑)。
――MVで歌い踊る奥井さんもカッコよかったです。
奥井:銀座のパセラさんで撮影しました。当時、『アニサマ』関連の番組の司会をやっていて、その収録スタジオです。
大きかったJAMへの加入。声量などの変化も
――JAM Projectへの加入もターニングポイントの1つですよね。JAMへの加入によってご自身にどんな影響や変化がありましたか?
奥井:確かに大きく変わりましたね。『アニサマ』が始まった時期とも重なりますが、まず歌い方が確実に変わりました。男の子たちの中で歌うので、その中で自分の歌声が聴こえないといけないですから。
あとソロワークでは自分たちのチームの中でやっていましたが、JAMに入ってから他のアーティストやクリエイターとの交流も増えてました。でも一番は、私は中高と女子校出身だったので、男女共学の学校みたいだなって(笑)。あと笑うことも増えました。
――シンガーとしてのベースやキャリアがしっかりある奥井さんでもJAMの中ではそれまで以上のパワーを求められたと?
奥井:私の声はちょっと細かったし、やっている音楽も全然違って。JAMに入った最初の頃はイヤモニ(イヤーモニター)もなくて、自分の声をちゃんと聴けないといけなかったので。みんな、声がデカいから(笑)。
だから、今はソロでフェスなどに出演すると、女性シンガーの中でも声量が大きいほうになるので、そこはJAMで鍛え上げられたおかげかもしれません。
――30年という月日と経験を重ねた今は自由に音楽をやれているのでは?
奥井:ソロでデビューした頃からそうだったかもしれません。このアルバムのDisc1とDisc2の頃は自由で、自分が嫌だなと思う音楽はやってこなかったですし。
Disc3の頃になると、アニメの制作サイドや音楽プロデューサーから「こんな音楽にしてほしい」という細かいオーダーをいただくようになった気がします。それも時代の変化だと思うし、ネガティブには捉えてはいません。
――今回の30周年記念アルバムは3枚組48曲を収録していますが、それでも収録しきれないほどの楽曲があるため、選ぶのが難しかったのでは?
奥井:一生懸命考えて選びました(笑)。基本的にはタイアップ曲がいいかなと。あとライブで人気がある曲や、私がevolutionというレーベルを立ち上げた時のシングル「Olive」など自分にとって印象深い曲や意味のある曲を収録しているDisc1と2は“宝箱”みたいな感じです。
Disc3では、いろいろなメーカーさんの曲を単発で歌ったり、ゲームの曲を歌わせていただくことも増えたし、あと『牙狼
――奥井さんはデビュー当初から安定したプロシンガーらしい歌い方をされていますが、デビュー曲の「誰よりもずっと…」は初々しさがあり、今とのギャップに驚きました(笑)。
奥井:そうでしたか?(笑) ユーミン(松任谷由実さん)のコーラスをやっていた時で、私の中で「アニソンってこんな感じかな?」と想像して歌いました。堀江(美都子)さんはきっちりと丁寧に歌っていらっしゃったので、私もハッキリと歌詞を聞き取りやすく歌おうと。
また渡辺俊幸さんが生のオーケストラで録音されています。また今回収録されていませんが、セカンドシングルの「夢にこんにちは~ウイロータウン物語~」も結構すごくて、一番正統派な歌い方をしています(笑)。
――あとボーナストラックとして「Get along」と「ONENESS」をカバーしようと思われた理由は?
奥井:この2曲はあまり悩まずに決まりました。デュエット曲は「Get along」の他に「MASK」(松村香澄さんとのデュエット曲で、アニメ『爆れつハンター』ED曲)もありますが、その曲は過去にアルバム『V-sit』で1人で歌っています。
でも「Get along」はライブでたまに1人で歌ったことがありますが、ソロバージョンはまだ音源化したことがなかったので、当時この曲が好きだった皆さんに喜んでもらえるかなと思って。
「ONENESS」はevolutionを立ち上げた頃(2005年)に『アニメロサマーライブ』が始まって。1年目のテーマはアニメとアニソンの架け橋になろうという「THE BRIDGE」であり、「ONENESS」もコンセプトでした。
すごく大変な時期でもあり、私のソロアーティストとしての30年ですごく頑張っていた時期だったので歌わせていただくことになりました。
――「Get along」は当時、アニメ『スレイヤーズ』と、主人公を演じていた林原さんが大人気で、アニメファンがカラオケに行ったら必ず歌う曲というくらいの大ヒットでした。
奥井:めぐちゃんとは「売れたらいいね。10万枚売れたら焼肉に行こう」と言っていたのを覚えています。まだ行ってないけど(笑)。
――当時は女性のデュエットソングかつ、ああいうワイルドでカッコいい曲は珍しかった気がします。
奥井:二人で一緒にブースに入って、レコーディングしたのでおもしろかったです。古いキングレコードさんのすごく怖いスタジオでPVを撮影して、しかもかなりダサイ映像だったことを今回歌いながら思い出しました(笑)。
――「ONENESS」は『アニサマ』のテーマ曲で、たくさんのアーティストが歌う、まさに「We are the world」的な曲で、6分超のバラード曲です。歌詞の内容も壮大ですし、アルバム全体を締めくくるのにもピッタリですね。
奥井:たくさんの人が歌うことを想定して作っているので、1人で歌うのが大変で。更にこの曲が好きでよく聴いていたため、「ここで(水樹)奈々ちゃんが歌う」とかわかっているので、いざ一人でレコーディングするとちょっとモノマネが入っちゃって。
自分なりにソロで「こう歌おう」とつかむのに苦労したし、時間がかかりました。
――奥井さんはアニサマシンガーの方のレコーディングでディレクションをされていたので、なおさらイメージが残っていますよね。
奥井:みんな、個性が強いから(笑)。あと自分の担当していたパートは当時よりもうまく歌いたいので、そこも気にしながらレコーディングしました。