実は『呪術廻戦』が初めての劇伴制作で……!?|Cing3rdシングル『beyond the world』リリース記念・照井順政さん連続インタビュー第2回
※この記事はCingスタッフと大正大学 表現学部 表現文化学科 中島ゼミのゼミ生による寄稿です
アニメ『呪術廻戦』の劇伴をはじめ、最近では上田麗奈のアルバム「Nebula」や東山奈央のアルバム「Welcome to MY WONDERLAND」への楽曲提供など活躍の幅を広げる照井順政さん。今回、照井順政さんが楽曲制作を手がけるCingの3rdシングル『beyond the world』のリリースを記念して、音楽に目覚めた頃の話から未来の展望までを語る1.5時間のインタビューを実施。
Cingスタッフが大正大学表現学部表現文化学科 中島ゼミ アート&エンターテインメントワークコースのゼミ生と共に、約20,000字のインタビューで照井順政さんの新たな一面を掘り下げます。
第2回は『呪術廻戦』からアニメ主題歌、アイドルや声優への楽曲提供など、様々な作品にこめた思いなどを伺います。
(全3回の2回目)
劇伴作家だとなかなか出てこないバンドマンのスパイスを期待されていると思った
──ちょうど取材の直前に、『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」キャラクター紹介ムービーの音楽を製作されたという照井さんのTwitterを拝見しました(注:取材は12月下旬に実施)。
照井順政さん(以下、照井):ありがとうございます。
先日発表された、TVアニメ『#呪術廻戦』第2期
— 照井順政 (@YoshimasaTerui) December 22, 2022
「#懐玉・玉折」キャラムービーの音楽を制作しました。
よろしくお願いします!#呪術2期 #JujutsuKaisen https://t.co/4e9Q88By19
──呪術廻戦のバトルの激しい感じと緊迫感が上手くマッチしていてとても素敵でした。この音楽の制作にあたって、どういったイメージを持って制作され他のでしょうか?
照井:キャラクター紹介ムービーの後半では伏黒甚爾など重要なキャラクターが登場するのですが、後半は敢えて抑えを効かせることによって前半との対比を強調して、より凄みを感じられる演出をしたいと考えました。
──なるほど、ありがとうございます。続いて『呪術廻戦』第1期の劇伴について深掘りしてお伺いさせてください。まず、劇伴のオファーをいただいた時、もともと『呪術廻戦』はご存じでしたか?
照井:知ってはいたんですけど、しっかり読み込んではいない感じでしたね。制作するにあたって全部買って読みました。
──読んでいて好きなキャラクターやシーンはありましたか?
照井:第1期だとナナミン(七海建人)かなぁ。劇伴を作ることもできたので思い出深いというのもあります。
──他にも好きなキャラクターがいて、実はこのシーン担当したかったなというのはありますか?
照井:キャラが好きというのだと、第2期に出てくるパパ黒(伏黒甚爾)ですね。担当したかったシーンは、強いていうなら五条先生の虚式「茈(むらさき)」という強力な技を発動するシーンですかね。
ただ、キャラクターを作家で振り分けるというのは最初に決まっていて、自分は伏黒恵とナナミンを担当することになっていたのでそこは無理だったんですけど。
──第1期の劇伴を作曲するにあたって、制作側からの要望などはありましたか?
照井:基本的には劇伴ってクライアントワークという側面が先に立つと思っています。監督や音響監督、音楽プロデューサーがいて、その人たちのビジョンを形にするというのがまず最初に考えるところです。
自分たちのエゴみたいなものも全くなくなってしまったら面白くない曲になっちゃうと思うんですけど。まずはみなさんのイメージを再現するということが基本だと思っています。だから、要望はたくさん頂きますね。
──その中で照井さんがここはこだわりたいという部分や、逆に照井さん側から提案したことはありますか?
照井:そういうのもいっぱいありますね。三人の作家の中で自分以外のお二人は元々劇伴が専門分野の作家さんで、自分だけ門外感というか、バンド野郎が紛れ込んでいるという感じなんです。これは何かというと、要は「劇伴作家さんだけだとなかなか出てこないような変な感じをスパイスとして入れてくれよ」ということだろうと思っていました。
なので、自分はメニューとかしっかり決まっている中でも、結構変なことをやっちゃおうみたいな感じがあったんです。さっきの話と矛盾しちゃうかもしれないんですけど、言葉で提案するというよりもこんな曲作ってみましたみたいな感じで提案して。みなさんがイメージしていた場面ではなく別の場所で使うなど、そういうこともありましたね。
──ちなみに劇伴は結構な曲数を作られているのですか?
照井:テレビ版の劇伴では、僕が制作した楽曲は3人の内で1番少ないのですが、それでもサントラに入っていない曲とかもあるので、3人で作った楽曲を合計したら多分70~80曲くらいあったと思います。
──照井さんは『劇場版 呪術廻戦 0』にも携わられています。テレビ版と劇場版とで劇伴の作り方に違いがあれば教えてください。
照井:ここまで分かったようなことをベラベラと喋っているんですけど、そもそも僕は劇伴を作らせていただくのが初めてで…。右も左も分からない状態でしたし、まずは周りの作家さんにどういう風にやっているのかを聞いて色々参考にしながら考えていきました。
劇場版とテレビ版の違いは、まずオーケストレーションを増やすこと、劇場感のある壮大なイメージを作り出すことですかね。密室的で緻密な音というよりかは、有機的でオーケストラが壮大に鳴っているような、より映画的なイメージをしました。テレビ版から基本的な路線は変えずに、大きいスクリーンで見たときの迫力や広がりを意識してほしいというオファーは制作側からもありましたね。
──劇伴制作は初めて経験されたということですが、その中で難しさを感じた部分はありましたか?
照井:自分はバンド出身で、専門学校にも通っていたけど楽曲制作はほぼ独学で、音楽的にもポップなものとは逆を行くような独自の路線でした。オーケストレーションのアレンジなどはもちろん自分なりに勉強はしていましたが、基本的には自分の感性重視で制作をしてきたところがあるので、アカデミックな演奏者の方々にイメージをうまく伝えられるか、伝えるためにどうすればいいかなど苦心したところは多いです。
あとは、レコーディングをするときに大量の譜面を作ること、それも初めて触る譜面制作ソフトを使う形だったので大変でした。
歌の時は歌唱者を活かすことに全面に振り切っている感じです
──以前にはsora tob sakanaというアイドルの音楽プロデュースもされていました。原作があるものとオリジナルとで楽曲制作に違いがあれば教えて頂きたいです。
照井:自分の中ではかなり違うものだと思っています。繰り返しになりますが、自分がやってきたことは音楽をきれいに上手く作るというより、むしろ壊していく感じをやってきた人間でした。だから、今までになかったような面白いコンセプトや組み合わせだったり、自分なりのイメージを作り出すことが一番の得意分野だと思っているんですよね。オリジナルだとそれを存分に出せるうえ、それが強みやアーティストの個性として活かせます。
ただ、劇伴では根本のイメージを担っているのは原作の先生だったり監督だったり音響監督だったりするので、そういったすでにあるイメージに対して上手く作るのが劇伴で、かなり根本が違うという感じですね。
──照井さんはアニメのOPテーマなどもいくつか担当されています。歌唱者がいるのと、劇伴とでは作り方も違ってくると思うのですが、人が歌う場合にはどこから曲作りの発想がくるのでしょうか?
照井:基本的には歌い手の歌唱を活かせる曲、メロディーにしたいというのがあります。過去にそこそこの数の曲を作っているから「こういう曲も作ったし、ああいう曲も作ったし……」みたいに、自分がその曲のどこにモチベを見出すのか難しい時もあって。
そんな時、どこにモチベを持っていくかというと、原作があれば原作のイメージをどうやったら押し上げられるのだろうというところに見出すし、歌唱する人がいればその方が活きるためにはどうするかっていうところと、今まで自分がやってきたことと良いミックスが出来るのはどこなのか探すことにモチベを見出しています。だから、歌の時は歌唱者を活かすことをまずは考える感じですね。
──照井さんが過去に手掛けられた『宝石の国』と『ハイスコアガール』という2つのアニメのOPは別々の方が歌われていらっしゃいますが、それぞれどういったことを意識して制作されたのでしょうか?
照井:『宝石の国』のOPの「鏡面の波」という楽曲は、アニソンシンガーのYURiKAさんという、すごく元気一杯で力強い歌を歌う方が歌唱されています。『リトルウィッチアカデミア』という作品でも歌っていて、めちゃめちゃハマっていてぴったりだと思っていました。
『宝石の国』に関しては最初オファーを頂いた時に、YURiKAさんサイドは「元気一辺倒じゃなくて違ったカラーも出していきたいから、あまり気にせず作品のイメージの方に寄せて下さい」ということだったので、じゃあそこは遠慮なく、という感じで作品の世界観を重視する形で進めました。ただYURiKAさんは技術的な面も素晴らしいので、難しい楽曲ではありますがしっかりと表現していただけました。
『ハイスコアガール』は作品の内容自体がsora tob sakanaのメンバーたちにハマっていましたね。作品の主人公たちとメンバーの年齢も近いし、彼女らはアイドルの中でも凄くアイドルアイドルしていて野心があってという感じが全くない、本当にその辺にいる素朴な子供たちという雰囲気で、それが『ハイスコアガール』の世界観とも合うし、その部分を伸ばしていければ良いかなと思っていました。
ただ、アニメのタイアップということもありなるべくキャッチ―にしたいとか、ゲームが題材だからピコピコしたゲーム音っぽいものを入れつつ、sora tob sakana 独自の音楽にしたいとか、そういったことも考えて作っていきましたね。
──ゲーム音だったり、「鏡面の波」で使われていたモールス信号のようなギミックは、他の楽曲にも頻繁に使用されるのでしょうか?
照井:自分は音楽と音の境目のようなことを結構やってきていたので、サウンドインスタレーション(室内や屋外に音響を設置することでその空間や場所・環境を体験させる表現形態をとる作品)みたいなものに近いというか。そういうのは入れることが多いですね。
頑張っている過程が一番充実していて、生きているってことだと思う
──ここまで、照井さんの作曲家としての活動についてお話を伺ってきました。現在、ご自身のバンド活動(siraph)と音楽作家としての活動を並行されています。これからの方針としてどちらをメインに活動していくのかイメージなどはありますか?
照井:どうなっていくかがまだ正直分からないですね。sora tob sakanaというグループを5年くらいプロデュースさせてもらって、それが終わった後はありがたいことにオサカナ(sora tob sakanaの愛称)の曲が好きだという各方面の方々や、提供楽曲やバンドの楽曲を聴いて下さった方々などにお仕事を頂いて、休みなく働かせてもらいました。
ただここ2年間くらいは少しアウトプット過多だった気がしています。10代・20代で自分が主に鍛えてきたのはビジョンとかコンセプトを作るという方で、格好つけて言うとアートっぽいものをやっていた感じなんですが、ここ最近はクライアントワークが多いので例えるとデザイナーのような部分もあって。そういったお仕事をたくさんやらせていただく中で、楽しさややりがいを感じると同時に、元々自分が鍛えていて最初にやりたかったことを思いっきりやりたい気持ちは強くなっていて。今後は、自分のアーティスト活動みたいなものを増やしていけたらなと思っていますね。
──これからはインプットも増やしていくという感じでしょうか?
照井:そうですね。そういう時間もとらないと、自分を使い捨ててしまうというか、ダメにしてしまう感じがするので。
──それでは最後に、作曲家を目指している読者の方にメッセージを一言お願いします。
照井:そうですね……。「やりたいようにやってくれ」と(笑)。一つ前の取材の中でもお話ししたんですが、作曲家のなり方みたいなものはなくて、色々な作家さんにお話を聞いても再現性のない話ばっかりなんですよ。たまたまこの人に出会ってこうなったとか、別の仕事をやっている時にたまたま作っていた曲が他のところでウケてこうなったとか。なり方の方程式がないので、自分の生き方を尖らせていくというか、貫いていった突き抜けた先にそういう道が開けてくるのではないかなと思いますね。
周りを見てあの人こういうことやっているからこうしようとか、もちろんそういう風に賢く立ち回ることも大事だけれど、自分の根本のモチベとかやりたいものを見失わないように頑張っていけば良いことがあるのではないでしょうか。
──あくまでも、作曲家はゴールではなくて、自分がやってきた過程で形になっていく感じなのでしょうか。
照井:そうですね、人によってゴールって違うじゃないですか。音楽で食べていきたいのか、好きな作品と関われれば良い、別に食えなくても別の仕事やりながらやれれば良いとか、それぞれあると思うんです。何が正解かは僕が言えることではないですが、一応おすすめなのは「楽しいことをやる」ってことですね。
僕の主観で言えば、目標とか結果というのは行動を起こすためのガソリンのようなもので、それ自体ではなく、そこに向かって頑張っている過程というのが重要だと感じます。道中苦しいこともあると思いますが、それ含めて楽しんでもらえたら良いのではないかと思います。
・インタビュー&文字起こし
大正大学表現学部表現文化学科 中島ゼミ アート&エンターテインメントワークコース
出良直也、金子涼、水島新、山中玲奈
・原稿制作
岩崎航太(ビーイング)
・編集
二城利月
楽曲情報
3rd Digital Single「beyond the world」
作詞・作曲・編曲:照井順政
▼ダウンロード&ストリーミング
https://cing.lnk.to/beyondtheworld
照井さん関連情報
●DJ出演
・GOTO Festival after party
2023年3月23日
at club asia
https://cultureofasia.zaiko.io/item/354659
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