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『僕ヤバ』牛尾憲輔(音楽)インタビュー【連載第4回】

『僕の心のヤバイやつ』連載インタビュー第4回:音楽担当・牛尾憲輔さん|「ふたりの歩くテンポを意識して曲を作っています。ふたりの歩くテンポはおおよそ0.5秒。0.5秒って音楽的には扱いやすい数字なんです」

赤城監督から「市川が殺人大百科を持っている場面は…」

――最初に「僕があまりやったことのないテイスト」といったお話がありましたが、『僕ヤバ』のようなラブコメのアニメの劇伴を手がけられるのは初になるんですよね?

牛尾:ラブコメをどこまでの範疇にするかと言う問題はありますが、劇場版ではない各話放送のアニメでは初めてになるかもしれません。あと、人が死なないアニメが久しぶりでした(笑)。『僕ヤバ』の劇伴は去年の夏くらいに作っていたのですが、その時期は人が死ぬ作品が多かったんです。その残り香を消すのが大変でしたね。

あと、これはいずれどこかで言わなきゃいけないなと思っていたのですが、同じ時期に放送しているアニメでも、劇伴の製作期間はそれぞれずれているんです。でもズレてるとは言え同じ人が作っているので、人が死んでしまうような曲になりがちなんですよね。そのギスギスさやシリアスさは『僕ヤバ』にはいらんだろうと(笑)。だからそれは気にしていました。

――個人的な興味なのですが、なぜ牛尾さんにはそういったシリアスな作品からオファーを受けることが多いんですかね……?

牛尾:う〜ん。なんでですかね? そこは自分でも分からないんですけど、そういう匂いでもあるのかな。今までオファーをいただいた作品で、2回くらい人類絶滅してそうな感じはします。それくらい人が死んでいくので、今回は人が死ななくて良かったなぁと(笑)。もちろんそういう作品も好きなんですけどね。

――そういう意味では、市川くんは最初は同級生を殺す妄想をしていたり、殺人大百科を持っていたりと、少し危うい一面もありますが……。

牛尾:赤城監督から「市川くんが殺人大百科を持っている場面の劇伴は、牛尾さんがこれまで劇伴を作ってきた人類絶滅系のような、悪魔人間みたいなやつにしてください」と言われました(笑)。だからあそこは、人類絶滅系の劇伴になっていますので、そこも改めて楽しんでいただけたらなと。また、第6話は繊細な部分、コミカルな部分の行き来が音楽的に面白いお話だと思います。キラキラして可愛い部分から、ふたりにフォーカスが寄ったときに、音楽も寄れるように作れたんじゃないかなと。

象徴的なのはさきほども話した1話のラストの場面だとは思うんです。最初は山田の観察日記のような感じだったところから、自分の気持ちにフォーカスしたときに音楽も絞ることができた。赤城監督の手腕によって、それがとてもスムーズに描かれています。このトランジションが面白いので、今後もぜひ楽しみにしていてほしいです。ふたりの邪魔をしないように音楽を作ったつもりです。

『僕ヤバ』ってあのふたりにフォーカスが当たった瞬間、ドキドキするじゃないですか。あのときに「感動作品です!」という音楽より、ふたりの……そっとしておきたいと思うような、心の機微に寄りたいなと。

――ああ、なるほど。牛尾さんからフォーカスという言葉がありました。音楽を作る上で、視覚的なものも意識されているのでしょうか。

牛尾:ああ、そうですね。ただそこまで(意識に)変わりはないというか。

僕はものすごく小さな音を録音することが多いんです。例えばピアノの中の機構が動く音や、小枝が土に落ちる音なども録音して使っています。小さい音って、なんとなく聴くと分かるものじゃないですか。「これは小さい音を拡大しているな」と。

そうすると、自分の意識としても顕微鏡を覗き込んでいるような気持ちになるんです。つまりクローズアップは音楽でもできる。

だから視覚的要素というよりかは、顕微鏡的に覗き込むといったことを意識しているような感じですね。もちろん視覚的要素から引用できる作曲の方法もありますし、僕はもともとそうやって音楽を作ってきましたけど、フォーカスという点でいうと、そういう意識。

で、そうした小さい音を録音すると技術の限界で「さー」という少し音が入るんですよ。いわゆる機器のノイズですね。そういう音を聞いていると、ここでもし大きな音が鳴ったら、ものすごい爆音が鳴るはず、という意識を現代の人たちは持つんですよね。それによってドキドキするんです。

――いわゆる吊り橋効果ということですか?

牛尾:そう。今の人たちはボリューム上げてヘッドフォンで音楽を聴いているときに突然ドンと鳴って「うわっ!」となった経験があると思うんです。

サウンドとノイズの比率のことをSN比というのですが、SN比のバランスによって、吊橋的な降下でドキドキさせられるんですよね。それを音楽的なフォーカスと言えるのかなと。そんなことを考えながら音楽を作っています。

――小枝が落ちる音はどのような媒体で録音されているんですか?

牛尾:一般的なフィールドレコーダーです。例えばさきほど言った小枝が落ちる音を音量を上げた状態で録ると、さーっと音と同時に「(小枝の落ちる)ポトッ」という音が響く。なんだかそれって、人の記憶さえも呼び起こすんですよね。自分が慣れ親しんだ公園などを不思議と思い出します。そういうことを意識的に取り入れていますね。

――繊細な音の粒にまで大切にされる音作りはエレクトロニカにもつながるものがありますね。

牛尾:そうですね。僕はそこが出自なので、そういう思想がナチュラルなのかなと思っています。

――私個人としては、牛尾さんと言うと、ダンス・ミュージックシーンでのご活躍や、 agraphでのソロプロジェクトの印象が強くあるのですが、当初から劇伴を作りたいとは考えられていたんですか?

牛尾:やりたかったんですよ。さすがに『僕ヤバ』のような作品ができるようになるとは思っていませんでしたけど、agraphのファースト(2008年『a day, phases』)を出したときに、まわりの人から「映像が浮かぶね」と言ってもらうことが多かったんです。

というのも、agraphという名前の由来のひとつに「a graphic」があるんです。「視覚的要素から音楽を作ろう」という考えのもとスタートしたプロジェクトでした。だから絵に合わせた音楽は作れるんじゃないかなと思っていたので、今のこの状況はうれしいです。逆にこの状態がいつまで続くのかは不安もありますけどね。オファーをいただける限り、今後も精力的に続けていきたいなと思っています。そして、これまで手掛けてきた劇伴の中でも、『僕ヤバ』は挑戦的な作品でした。お声を掛けていただき感謝しています。

――連載インタビューで皆さんにおうかがいしているのですが「僕の心のヤバイ部分」を教えて下さい。

牛尾:なんだろうな(笑)。油断するとジェルを使いそうになる、かな。

――今も!?

牛尾:たぶん(笑)あと英字新聞がプリントされているシャツを買いそうになったり、長袖の上に半袖をきそうになったり……。大人になった今、理性で押し込めています。それがちょっと自分のヤバイところかな。

――(笑)『僕ヤバ』によって当時の思い出が想起させられたのでしょうか。

牛尾:そうです。市川くんのファッションもカッコいいって思ってしまうんですよ。男子はそういうものを、心の中に飼ってますから。すごく共感できる作品なんですよね。女性が市川くんを見て笑ってくれたらあのころの僕も救われますね。

『僕の心のヤバイやつ』インタビュー連載バックナンバー

神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。

この記事をかいた人

逆井マリ
神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。

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TVアニメ『僕の心のヤバイやつ』作品情報

放送情報

4月1日(土)よりTVアニメ放送開始!!
【テレビ朝日系全国24局ネット“NUMAnimation”枠】4月1日より毎週土曜深夜1時30分~
【BS朝日】4月8日より毎週土曜深夜1時00分~
【CSテレ朝チャンネル1】4月1日より毎週土曜深夜2時30分~

配信情報

4月1日より毎週土曜深夜2時00分~PrimeVideoにて見放題独占配信!!
各配信サービスにて順次配信開始!!
詳細はこちら

※放送・配信日時は予告なく変更になる場合がございます

イントロダクション

“尊死“続出で大反響!今一番応援したくなる、青春初恋ラブコメ!!

コミックス累計発行部数は300万部を突破。

「このマンガがすごい!オトコ編」に2年連続ランクイン、「次にくるマンガ大賞 2020 Web マンガ部門」では1位を獲得し、注目を集めている『僕の心のヤバイやつ』。

大人にも刺さる甘く切ないストーリーながら、くすりと笑える展開に中毒者が続出し大きな話題を呼んでいる。

そしてついに、2023年4月にTVアニメが放送決定。

監督を務めるのは叙情的な演出に定評のある赤城博昭(『からかい上手の高木さん』)。シリーズ構成・脚本は細やかな人物描写を得意とする花田十輝(『ラブライブ!』『響け!ユーフォニアム』)、キャラクターデザインは勝又聖人(『五等分の花嫁∬』)、音楽は牛尾憲輔(『映画「聲の形」』『チェンソーマン』)が担当。アニメーション制作は色彩の美しさに定評のあるシンエイ動画が務める。

さらに市川京太郎役に堀江瞬、山田杏奈役に羊宮妃那を迎え、市川と山田が織り成す初恋模様をリアルに表現。

原作の紡ぐ世界観、そしてもどかしいほどゆっくりと近づいていくふたりの心を丁寧に描いていく。

ストーリー

市川京太郎は殺人にまつわる猟奇本を愛読する、重度の中二病男子。

同じクラスの美少女・山田杏奈をチラチラと見ては、ヤバめな妄想を繰り返していた。

そんなある日、山田が市川の聖域・図書室にやってくる。

一人だと思い込み、大口でおにぎりを頬張ったり、機嫌よく鼻歌を歌ったりと、思うままに振る舞う山田。

予測不能な行動を繰り出す姿に、市川は徐々に目が離せなくなっていき……。

スタッフ

原作:桜井のりお(秋田書店「マンガクロス」連載)
監督:赤城博昭
シリーズ構成・脚本:花田十輝
キャラクターデザイン:勝又聖人
色彩設計:柳澤久美子
美術監督:黛昌樹
撮影監督:峰岸健太郎 竹沢裕一
編集:肥田文
音響監督:小沼則義
音響制作:マジックカプセル
音楽:牛尾憲輔
制作:シンエイ動画
オープニングテーマ:ヨルシカ「斜陽」
エンディングテーマ:こはならむ「数センチメンタル」

キャスト

市川京太郎:堀江瞬
山田杏奈:羊宮妃那
小林ちひろ:朝井彩加
関根萌子:潘めぐみ
吉田芹那:種﨑敦美
足立翔:岡本信彦
神崎健太:佐藤元
太田力:福島潤
原穂乃香:豊崎愛生
市川香菜:田村ゆかり
南条ハルヤ:島﨑信長

公式サイト
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